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episode3:おっさんは不意にキャリアアップ的なことを考える
第18話 コントラ・デクストラ・アベニュー
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どう、と言われても、俺に選択の自由などあまりない。それはいやというほどわかっていた。
身を寄せた場所は外部からの悪意に取り巻かれた町で、手のうちには守るべき命をなし崩しに握ってしまっている。ここに来てから呆れたことにまだ三日目だが、目の前に開けた道があればしゃにむに突っ込んでいくしかない。
同時に、これが俺に与えられた、後にも先にも最大の選択肢であろうこともおおよそわかっていた。
生きるだけならここで足を止めて引き返せばいい。だがそれ以上の何かを掴むなら――正気に背を向けて進むしかない。
「答えは――イエスだ」
「……OK。あなたの意志に敬意を、サルワタリ。ならば私たちギムナン市民もあなたと一蓮托生です。最大限のサポートをすると誓いましょう」
可愛らしい顔と声の市長が右手を差し出す。俺はその手を、壊さない程度に力を込めて握った。市長の言葉はまだ続いていた。
「――この街が今後も生き残り、全市民が一歩でも幸福へと進むために」
……俺の動機はそんな大したことじゃない。生きたい、そして可能ならよりマシな暮らしをしたい。美味いものを食いたい。ラーメン。
「まあ、いろいろカッコつけても死んだらそこまで、莫迦のタワゴトだ……やらせてもらうが、命は極力ベットしない。いいですね?」
「それを要求するほどの権利も資格も、私にはないわ」
かくして話はまとまった。市長は双方の企業に渡りをつける段取りに入り、俺は――宿舎に引き取ってターミナルから、「傭兵ユニオン」のポータルにアクセスした。
* * *
氏名(コードネーム可)と所属もしくは公開可能な所在地。年齢、血液型、リグ操縦歴。そのほかにもこまごました事項の入力が求められ、俺はそれを逐一埋めていった。
ものの十分ほどで必要項目が埋まり、登録完了。俺は出来上がった自分のプロフィールを、画面をスクロールしながらざっと確かめた。
=================
■ ミキオ・サルワタリ(トンコツ) 48歳 O型 Rh+
・リグ操縦歴 一カ月以下
・所在地 ギムナン・シティ
・所属 ギムナン・シティ自警団R.A.T.s トレッド・リグ分隊
・所有機体 なし(未購入)
・戦績 (与撃墜記録)
モーターグリフ :1
トレッド・リグ :2(共同撃墜)
車輛 :0
航空機 :0
=================
「……こう、怪しいな」
明らかな不審人物のプロフィール。年齢と操縦歴が戦績と著しいミスマッチを起こしている。
操縦歴の入力は選択解答式で、一カ月以下が最短。それ未満は用意されていなかった。おまけに俺がこの時代に出現したのは正真正銘三日前。誰かが俺の過去を探ろうとしても、絶対に何のデータも出てこない。
「大丈夫かな……怪しまれて目をつけられたりとか、闇討ちされたりとか……」
ないとは言えない。普通に考えれば、こんな新人がいきなりリストに出てきたら、何かの目的で経歴を擬装された工作員とかそういうのを疑う。自警団所属になっているのがいくらか中和してくれそうだが、当面は目立たないようにしておくか。
――ピンポロリン
珍妙な感じのアラーム音が響いた。携帯端末からではない。
画面をよく見ると、今開いている俺のユーザープライベートなページに、ベルの形をしたシンボルが表示されてピクピク蠢いている。
何ごとかとタップすると、誰かが公共空間に公開された俺のプロフィールへリンクするアドレスを共有した、という内容だった。
「誰か」の部分をさらにタップして確認。“Gimnan_Admin”とある。
「市長じゃねーか!」
まあ納得はする。多分、テックカワサキやウォーリック・シェアードの担当者あてに俺のプロフィールを流したのだ。
――ピンポロリン
またアラーム。今度は誰かからのメッセージ――送信者は“Swan's Mrs.”。
「白鳥の……ええと『情婦』でいいのかな……?」
瞬間、ギリシャ神話の一挿話を思い出す。これはあれだ、レダだ。
「あの莫迦、ドギツいハンドル名のりやがって……」
まああれだ、「Crotch」とか「Hole」とか言い出さないだけましか。
眉根をもみながらメッセージを画面に表示する。そこにはこうあった――
=================
S.M :
いよっおっさん! 早くも傭兵デビューだって? 頑張っちゃってるねえ、良いねえ健気だねえ。
こりゃお姉さんも覚悟しとかないとかなー!
あ、ちなみに今度のギムナンの次期採用機種選定コンペ、あたしも警護に呼ばれてるからよろしく! 一仕事終ったら、三人で祝杯でも挙げよーね。んじゃまた当日!
=================
(もうやだ、おじさん頭痛い)
メッセージを「既読」にし、彼女には「よろしく」とだけ返信。
だが、なにやらあの姉妹との関係までもが「正気に背を向けた」方角へ踏み出してしまった気がした。
身を寄せた場所は外部からの悪意に取り巻かれた町で、手のうちには守るべき命をなし崩しに握ってしまっている。ここに来てから呆れたことにまだ三日目だが、目の前に開けた道があればしゃにむに突っ込んでいくしかない。
同時に、これが俺に与えられた、後にも先にも最大の選択肢であろうこともおおよそわかっていた。
生きるだけならここで足を止めて引き返せばいい。だがそれ以上の何かを掴むなら――正気に背を向けて進むしかない。
「答えは――イエスだ」
「……OK。あなたの意志に敬意を、サルワタリ。ならば私たちギムナン市民もあなたと一蓮托生です。最大限のサポートをすると誓いましょう」
可愛らしい顔と声の市長が右手を差し出す。俺はその手を、壊さない程度に力を込めて握った。市長の言葉はまだ続いていた。
「――この街が今後も生き残り、全市民が一歩でも幸福へと進むために」
……俺の動機はそんな大したことじゃない。生きたい、そして可能ならよりマシな暮らしをしたい。美味いものを食いたい。ラーメン。
「まあ、いろいろカッコつけても死んだらそこまで、莫迦のタワゴトだ……やらせてもらうが、命は極力ベットしない。いいですね?」
「それを要求するほどの権利も資格も、私にはないわ」
かくして話はまとまった。市長は双方の企業に渡りをつける段取りに入り、俺は――宿舎に引き取ってターミナルから、「傭兵ユニオン」のポータルにアクセスした。
* * *
氏名(コードネーム可)と所属もしくは公開可能な所在地。年齢、血液型、リグ操縦歴。そのほかにもこまごました事項の入力が求められ、俺はそれを逐一埋めていった。
ものの十分ほどで必要項目が埋まり、登録完了。俺は出来上がった自分のプロフィールを、画面をスクロールしながらざっと確かめた。
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■ ミキオ・サルワタリ(トンコツ) 48歳 O型 Rh+
・リグ操縦歴 一カ月以下
・所在地 ギムナン・シティ
・所属 ギムナン・シティ自警団R.A.T.s トレッド・リグ分隊
・所有機体 なし(未購入)
・戦績 (与撃墜記録)
モーターグリフ :1
トレッド・リグ :2(共同撃墜)
車輛 :0
航空機 :0
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「……こう、怪しいな」
明らかな不審人物のプロフィール。年齢と操縦歴が戦績と著しいミスマッチを起こしている。
操縦歴の入力は選択解答式で、一カ月以下が最短。それ未満は用意されていなかった。おまけに俺がこの時代に出現したのは正真正銘三日前。誰かが俺の過去を探ろうとしても、絶対に何のデータも出てこない。
「大丈夫かな……怪しまれて目をつけられたりとか、闇討ちされたりとか……」
ないとは言えない。普通に考えれば、こんな新人がいきなりリストに出てきたら、何かの目的で経歴を擬装された工作員とかそういうのを疑う。自警団所属になっているのがいくらか中和してくれそうだが、当面は目立たないようにしておくか。
――ピンポロリン
珍妙な感じのアラーム音が響いた。携帯端末からではない。
画面をよく見ると、今開いている俺のユーザープライベートなページに、ベルの形をしたシンボルが表示されてピクピク蠢いている。
何ごとかとタップすると、誰かが公共空間に公開された俺のプロフィールへリンクするアドレスを共有した、という内容だった。
「誰か」の部分をさらにタップして確認。“Gimnan_Admin”とある。
「市長じゃねーか!」
まあ納得はする。多分、テックカワサキやウォーリック・シェアードの担当者あてに俺のプロフィールを流したのだ。
――ピンポロリン
またアラーム。今度は誰かからのメッセージ――送信者は“Swan's Mrs.”。
「白鳥の……ええと『情婦』でいいのかな……?」
瞬間、ギリシャ神話の一挿話を思い出す。これはあれだ、レダだ。
「あの莫迦、ドギツいハンドル名のりやがって……」
まああれだ、「Crotch」とか「Hole」とか言い出さないだけましか。
眉根をもみながらメッセージを画面に表示する。そこにはこうあった――
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S.M :
いよっおっさん! 早くも傭兵デビューだって? 頑張っちゃってるねえ、良いねえ健気だねえ。
こりゃお姉さんも覚悟しとかないとかなー!
あ、ちなみに今度のギムナンの次期採用機種選定コンペ、あたしも警護に呼ばれてるからよろしく! 一仕事終ったら、三人で祝杯でも挙げよーね。んじゃまた当日!
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(もうやだ、おじさん頭痛い)
メッセージを「既読」にし、彼女には「よろしく」とだけ返信。
だが、なにやらあの姉妹との関係までもが「正気に背を向けた」方角へ踏み出してしまった気がした。
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