退廃の未来に飛ばされたおっさん、ロボ乗り傭兵になる

冴吹稔

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episode2:R.A.T.s期待の新人リガー、その名は!

第13話 戦い済んで、日が暮れて

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「よくやった、直撃よ!」

「お褒めにあずうぇボごプ」

 昼飯のハンバーガーだったものが喉元に勢いよくこみ上げかけた。

「ちょっと! 後ろで吐かないでよ……!?」

 そんな風に釘を刺されたら、その穴から噴き出しそうなこの辛さ。どうにかこらえて眩暈めまいと吐き気が治まるのを待つ。

 最後に残った一機はこれまでに墜としたタタラよりも動きがよかったが、三対一の劣勢を覆せるほどではなかった。
 僚機の撃破を目の当たりにして吞まれたそいつは、こちらのジャンプ機動に対していとも簡単に盾を上げたのだ。

「任せた!」

〈いただき!〉

 市長とアレジの、一瞬のやり取りが交わされてすぐ。背後に忍び寄ったセンチネルの最後の連射で、タタラは文字通り膝を屈した。
 だがなおも抵抗の意志を見せ、横倒しに地に伏せつつ右腕の無反動砲を掲げる。

 ――くそっ! くそっ!! 俺に近づくなぁ!!

「無駄な真似はやめなさい。その弾倉はもう空のはずよ」

 ――くっ……

「市長。敵の残弾まで把握を?」

「そりゃね。だいたい、あの砲はあんなに動きながらポンポン撃つもんじゃないのよ……」

 なるほど。つまり敵はどちらかというと素人ということか。逆に言えば、退いたとはいえ元はプロだったこの市長、ジェルソミナの戦術眼の高さが際立つ。

「予定外の戦闘、ご苦労様……少し破損はあるけど、みな無事でよかったわ。そのパイロットは拘束して、連れて帰りましょう」

 R.A.T.sの分隊全機から銃口を突きつけられて、タタラのパイロットはしぶしぶといった様子でコクピットハッチを開放し、降りて来て両手を上げた。


        * * *


 デブリーフィングと夜間組への引継ぎを済ませて宿舎に戻ったのは、そろそろ二一時に差し掛かる頃合いだった。ドアのロックを解除して中に入ると、ニコルがどたばたと走り出てきて俺の腰のあたりにむしゃぶりついた。子供とは思えないくらい強い力でしがみつかれて、ちょっと焦る。

「おい、おい! 何だってんだ……そりゃあ、連絡も入れなくて悪かったが……!」

「だって……」

 口ごもってこちらを見上げる顔は、まぶたが少し赤く腫れて頬には涙の垂れた跡があった。よほど心細かったに違いない。

「昨日みたいなことがまたあったのかも、って……今度は死んじゃったかも、って……」

 参ったな、とつぶやいて天井を見上げた。

「大丈夫だ、大丈夫……今日はここの市長さんが一緒で、いろいろ手取り足取り教えてもらったからな、楽なもんだったさ。信じられるか? 無茶苦茶強ぇえんだぞ、ここのトップは」

「そうなんだ……」

 きょとんとした顔になって俺の腰から手を放すと、彼女はほうっとため息をついてようやく体の力を抜いた。

「メシ、食ったか?」

「ううん。待ってた」

 首を振って答えるニコルの頭を、くしゃくしゃに撫でまわしながら俺はため息をついた。本当に俺が殉職したら、この子はどうするつもりだったのだ――

「じゃあ、一緒に食うか」

「うん!」

 目元がべたつくのに今さら気づいたのか、顔をごしごしと拳で拭うと、彼女は白い歯を見せてようやく笑った。


 夕飯の食事パックはもったりしたシチュー風の何かと、丸いパンにマーガリンもどきの食用油脂がついていた。これで牛乳があったら昭和の学校給食だ。

 宿舎にはささやかながらキッチンがついていて、食事パックの保温や再加熱ができる。俺はニコルと向かい合わせで、温め直したシチューを食った。やはりなにかこう味が足りないのだが、温かいものが食えるだけでもほっとする――

「どうしたの、おじさん。食べかけて止まっちゃったけど」

「……ああ」

 気が付くと、俺はスプーンを握ったまま口を半開きにしてぼんやりしていた。

「その、少し疲れた……かな」

 本当に疲れた。昨日といい今日といい、いくら何でも激動過ぎたのだ。そして今日でカタがついたわけでもない。

 あの四機のタタラは結局のところ、都市ヴィラからはみ出した犯罪者が集まったよくある野盗がスクラップを寄せ集めて再生したものらしかったが――生き残ったパイロットの証言が事実なら、何者かによってメンテナンスや武装の供与を受け、その代わりに依頼を受けていたらしいのだ。

 曰く、「ギムナンの周辺で領域侵犯などを行って、自警団を挑発、揺さぶりを掛けろ」というもの。つまりは、この街は依然として、所有する資産をよその管理複合体から狙われているわけだ。

「お仕事、大変なんですよね……私に、何かできることある?」

 ニコルが心配そうに上目遣いで俺を見る。優しいのか、それとも自分の庇護者として重要だと思っているのかはいまひとつ測れないが、遠からずこちらがほだされてしまう気がした。

「大丈夫だ。子供はそんな心配しなくていい。留守番をしっかり頼む、あと、出来れば勉強の機会があるといいんだが……」

 ああ、それなら――と言いながら、彼女は部屋の隅にある机を指さした。

「あそこの大型ターミナルで、街のライブラリにアクセスできるみたいです」

 それは良かった。俺が楽しめるような読み物もあるといいな――

 そんなことを思案していると、その机の上に置いてあった支給品の携帯端末がブゥンと振動して、外装の円周部を囲むリングが緑色に発光した。着信らしいが、どこからなのか。

 歩み寄って応答ボタンに手を触れ「サルワタリです」と発声すると、端末の上の空中に、B5サイズくらいのスクリーンが立体映像となって投射された。そこにレダの顔が現れる。

〈や、こんばんはー。おっさん、仕事初日どうだった?〉

 いきなりずかずかと距離感詰めて来られた。まあ、よそよそしくされるよりはましだ。

「……また戦闘に巻き込まれた。あと、あんたの姉さんにはえらい目にあわされたな」

〈あー。実は姉貴から聞いてる。素人のあんたに砲手やらせて、フォックストロット必殺技ぶちかましたって? 笑った笑った!〉

「くそ……最後の方な、すっかりあんたと乗ってるつもりでやってたみたいだぞ。俺に『レダ!』とか呼び掛けてなぁ」

 レダの軽いノリに引っ張られて、つい要らんことまで喋ってしまう。

〈はは、それはいい事聞いちゃった。今度からかってやろうっと……それはそうとさ。ニコルちゃんの件、少し調べてみたんだけど――〉

 話が思いがけず不穏な方向へ走り出す。動揺した俺は、弾かれたようにニコルの方を振り返ってしまった。
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