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第一章 謎の少女
第05話 反則呪術の一覧を見てみよう
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楽しい宴が終わった。
夜も少し更けていたけど、僕が連れてきた少女が目を覚ましたので話をする。
「名前は? なんて呼んだらいいかな?」
「グリッチ=コード?」
「うん、それは僕のスキルの名だよね……でも、一旦コードと呼ぼうか」
「コード……はいです」
結局彼女は何も覚えておらず、詳しいことは分からなかった。
ただ、少女を探しているような両親や親族はいないようだ。
だとすると、やはり孤児院に預かって貰うのが良いのだろうか?
「あたしは……リィトと一緒にいる。邪魔しないから、役に立つから……お願い」
少女がこんなお願いをしてくることに強い違和感を抱く。
僕の頭に「奴隷」のことが頭をよぎる。
あるいは記憶を封じられていたとしたら。
少し彼女と一緒に過ごしてみて、生活が難しそうなら改めて孤児院に相談してみよう。
「それで、スキルのことだけど?」
「はい。それなら大丈夫なのです。【反則呪術一覧】と念じてみて」
急に饒舌になった少女が嬉しそうに言った。
念じると頭の中に少女と同じ声が響く。
『
自呪術強化:
(火属性)【発火】:強化レベル1
(水属性)(ありません)
』
「あのね。リィトは今、火と水属性の魔法の強化が出来るのです」
「今日の昼間に【発火】の魔法にしたやつ?」
「はい。一度初期化されたけど、経験を積めば『他呪術無効化』など、できることが増えるのです」
「他呪術無効化……か」
相手のスキルを、起動失敗させるものなのだろうか。
「あたしがリィトの力になるから。一緒にいさせて、ください」
一緒にいさせて、か。
そう言われると、断る理由なんて無いな。
「ああ。わかった。よろしくな」
「うん!」
僕がそっと頭を撫でてあげると、少女は目を細めにっこりとして僕に抱きついてきたのだった。
——
僕と少女で、宿屋の部屋を借りた。
また孤児院に泊まるのは気が引けたし、お金を使うことでこの街——僕の育った街——に貢献したかった。
孤児院には明日顔を出そう。
——翌朝。
別々のベッドに寝たはずだけど、少女が布団に侵入していた。
ふわっと温かいのはこの子のせいか。
この子はどうして僕なんかに?
いや、特に深い意味はないだろう。
一緒だと温かいとか寂しくないとか、そんな子供らしい理由だと思う。
僕は少女を起こし、二人で食事をとり孤児院に向かう。
孤児院は、精霊教の教会跡を利用している。
「あら、いらっしゃい……ううん、おかえりリィト。昨日は宴に顔を出せると良かったんだけど。アリナを助けてくれたこと、お礼を言うわ」
「いやいや、忙しいだろうし大丈夫。お母さ——じゃなくてクリスタ」
孤児院の代表、クリスタ。
栗色の瞳と、長い髪が特徴の女性だ。
とても可愛らしくて王国の貴族から求婚もあるらしい。でも、この孤児院を守りたいと断り続けているようだ。
今でも声がかかり続けているらしい。
神官職で、確か歳は二十五歳で僕のお母さん的存在だ。
もっとも、いつの頃からかお母さんって呼ぶの禁止、クリスタと呼べと言われてるのだけど。
孤児の僕を育ててくれたのはクリスタなので、やはりお母さんとしか思えない。
「大丈夫だなんて……しくしく、つれないなぁ。せっかく帰ってきたんだからもっと甘えてもいいのよ?」
クリスタは泣きマネをしながらそう言って、僕を抱き締める。
柔らかい感触とふわっと花のような良い香りがした。
「リィト、王都に行ってからも毎月、寄付してくれてありがとう。本当に感謝しているわ」
集まってきた子供たちも「お兄ちゃんありがとう!」と口々に言う。
クリスタはさらにぎゅっと背中に回した腕に力を入れてきて、頬を寄せてきた。
彼女の髪の毛が、僕の鼻をくすぐる。
僕は慌ててクリスタを押しのけた。
「クリスタ、ちょ、ちょっと。子供たちも見てるんだし」
「どうして? 久々の親子の再会なんだし、抱き合うくらいいいじゃない? まあまあ、赤くなって」
「もう。お母さんて呼ぶなって言ったり親子って言ったり、都合良いんだから。子供扱いしないで……くださいよ」
この人の前だと、途端に自分が子供だと思い知らされる。
でも、帰ってきたと言う感じがして落ち着くのは気のせいだろうか。
興味津々に僕らのことを見る数人の子供たち。
僕がここを離れたときと顔ぶれは変わらない。
彼らの明るい顔を見ていると、ピンハネされながらも、報酬を送り続けて良かったと思った。
「で、その子が噂のリィトとマエリスの子供ね。可愛いし、やっぱり似てるわね?」
「だからさぁー!」
いや、年齢を考えれば……うん、この人分かって言ってるよな。
少女の周りにはいつの間にか孤児院の子たちが集まり、恐る恐る話しかけている。
僕は彼女を紹介した。
すると、なかなか快活そうな少年が、頬を染めて少女に話しかけようとしていた。
「あ、あの俺と友達になってくれませんか?」
「えっと……えと、リィト?」
少女は許可を求めるように僕の方を見た。
もちろん自由にすればいいと、僕は頷く。
「じゃあ、お友達!」
「いいの? やったー!」
「はい。ともだち——!」
コードは、男の子の手を取って握手をしていて……くるくる回り出した。
男の子が、頬を赤く染めながら振り回されている様子は微笑ましい。
「目が、目が回るよぉ! ぐるぐるぐる!」
この光景どこかで見たような……?
他の子も、その輪に入りたそうにしている。
「ねえ……リィト。せっかくならもっと可愛い名前がいいと思うんだけど? お父さん」
「お、お父さんはやめてください。でも、考えておきます」
「そうね。期待してるし、いつか……ここで私と一緒に……」
「えっ?」
「ふふっ、ううん、なんでもない」
クリスタが笑うと、子供たち皆が笑う。
心安まるってこういうことなんだな。
夜も少し更けていたけど、僕が連れてきた少女が目を覚ましたので話をする。
「名前は? なんて呼んだらいいかな?」
「グリッチ=コード?」
「うん、それは僕のスキルの名だよね……でも、一旦コードと呼ぼうか」
「コード……はいです」
結局彼女は何も覚えておらず、詳しいことは分からなかった。
ただ、少女を探しているような両親や親族はいないようだ。
だとすると、やはり孤児院に預かって貰うのが良いのだろうか?
「あたしは……リィトと一緒にいる。邪魔しないから、役に立つから……お願い」
少女がこんなお願いをしてくることに強い違和感を抱く。
僕の頭に「奴隷」のことが頭をよぎる。
あるいは記憶を封じられていたとしたら。
少し彼女と一緒に過ごしてみて、生活が難しそうなら改めて孤児院に相談してみよう。
「それで、スキルのことだけど?」
「はい。それなら大丈夫なのです。【反則呪術一覧】と念じてみて」
急に饒舌になった少女が嬉しそうに言った。
念じると頭の中に少女と同じ声が響く。
『
自呪術強化:
(火属性)【発火】:強化レベル1
(水属性)(ありません)
』
「あのね。リィトは今、火と水属性の魔法の強化が出来るのです」
「今日の昼間に【発火】の魔法にしたやつ?」
「はい。一度初期化されたけど、経験を積めば『他呪術無効化』など、できることが増えるのです」
「他呪術無効化……か」
相手のスキルを、起動失敗させるものなのだろうか。
「あたしがリィトの力になるから。一緒にいさせて、ください」
一緒にいさせて、か。
そう言われると、断る理由なんて無いな。
「ああ。わかった。よろしくな」
「うん!」
僕がそっと頭を撫でてあげると、少女は目を細めにっこりとして僕に抱きついてきたのだった。
——
僕と少女で、宿屋の部屋を借りた。
また孤児院に泊まるのは気が引けたし、お金を使うことでこの街——僕の育った街——に貢献したかった。
孤児院には明日顔を出そう。
——翌朝。
別々のベッドに寝たはずだけど、少女が布団に侵入していた。
ふわっと温かいのはこの子のせいか。
この子はどうして僕なんかに?
いや、特に深い意味はないだろう。
一緒だと温かいとか寂しくないとか、そんな子供らしい理由だと思う。
僕は少女を起こし、二人で食事をとり孤児院に向かう。
孤児院は、精霊教の教会跡を利用している。
「あら、いらっしゃい……ううん、おかえりリィト。昨日は宴に顔を出せると良かったんだけど。アリナを助けてくれたこと、お礼を言うわ」
「いやいや、忙しいだろうし大丈夫。お母さ——じゃなくてクリスタ」
孤児院の代表、クリスタ。
栗色の瞳と、長い髪が特徴の女性だ。
とても可愛らしくて王国の貴族から求婚もあるらしい。でも、この孤児院を守りたいと断り続けているようだ。
今でも声がかかり続けているらしい。
神官職で、確か歳は二十五歳で僕のお母さん的存在だ。
もっとも、いつの頃からかお母さんって呼ぶの禁止、クリスタと呼べと言われてるのだけど。
孤児の僕を育ててくれたのはクリスタなので、やはりお母さんとしか思えない。
「大丈夫だなんて……しくしく、つれないなぁ。せっかく帰ってきたんだからもっと甘えてもいいのよ?」
クリスタは泣きマネをしながらそう言って、僕を抱き締める。
柔らかい感触とふわっと花のような良い香りがした。
「リィト、王都に行ってからも毎月、寄付してくれてありがとう。本当に感謝しているわ」
集まってきた子供たちも「お兄ちゃんありがとう!」と口々に言う。
クリスタはさらにぎゅっと背中に回した腕に力を入れてきて、頬を寄せてきた。
彼女の髪の毛が、僕の鼻をくすぐる。
僕は慌ててクリスタを押しのけた。
「クリスタ、ちょ、ちょっと。子供たちも見てるんだし」
「どうして? 久々の親子の再会なんだし、抱き合うくらいいいじゃない? まあまあ、赤くなって」
「もう。お母さんて呼ぶなって言ったり親子って言ったり、都合良いんだから。子供扱いしないで……くださいよ」
この人の前だと、途端に自分が子供だと思い知らされる。
でも、帰ってきたと言う感じがして落ち着くのは気のせいだろうか。
興味津々に僕らのことを見る数人の子供たち。
僕がここを離れたときと顔ぶれは変わらない。
彼らの明るい顔を見ていると、ピンハネされながらも、報酬を送り続けて良かったと思った。
「で、その子が噂のリィトとマエリスの子供ね。可愛いし、やっぱり似てるわね?」
「だからさぁー!」
いや、年齢を考えれば……うん、この人分かって言ってるよな。
少女の周りにはいつの間にか孤児院の子たちが集まり、恐る恐る話しかけている。
僕は彼女を紹介した。
すると、なかなか快活そうな少年が、頬を染めて少女に話しかけようとしていた。
「あ、あの俺と友達になってくれませんか?」
「えっと……えと、リィト?」
少女は許可を求めるように僕の方を見た。
もちろん自由にすればいいと、僕は頷く。
「じゃあ、お友達!」
「いいの? やったー!」
「はい。ともだち——!」
コードは、男の子の手を取って握手をしていて……くるくる回り出した。
男の子が、頬を赤く染めながら振り回されている様子は微笑ましい。
「目が、目が回るよぉ! ぐるぐるぐる!」
この光景どこかで見たような……?
他の子も、その輪に入りたそうにしている。
「ねえ……リィト。せっかくならもっと可愛い名前がいいと思うんだけど? お父さん」
「お、お父さんはやめてください。でも、考えておきます」
「そうね。期待してるし、いつか……ここで私と一緒に……」
「えっ?」
「ふふっ、ううん、なんでもない」
クリスタが笑うと、子供たち皆が笑う。
心安まるってこういうことなんだな。
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