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第3話 王子殿下
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「面倒だわ。お祈りも、あんたがやっといてよ。これしきのことで聖女であるワタシが動くこともないでしょう」
「は、はあ」
遂に毎日のお祈りすら私に任せてくるようになった。
お祈りとは、国境外の穴から湧く魔物達が国境に近づけないように結界を張るための儀式。
祈りを精霊神に捧げることで、結界の強度を高め維持することができる。
本物の聖女にとっては朝飯前のことだろうけど、私には荷が重かった。
日が経つにつれ、魔力が次第に尽きていく。
「あの、私はいつまで……?」
「そんなのずっとに決まっているでしょ! うるさいわね。私は美しさを保って……ミカル殿下と婚約し結婚すべき女なの」
第一王子ミカル殿下。
私と同じ十六歳。彼とは時々言葉を交わすことがあった。
言うまでもなく美男で、鍛えているのか体格も悪くない。
しかし、その一方でミカル殿下は気が弱く、思ったことを強く言えない様子が印象的だった。
私に何度か視線を向けられたこともあったけど、しょせん次点の聖女だ。
次点でなく、最高位にある聖女マヌエラ様と仲良くされるのは当然のこと。
しばらくして聖女マヌエラ様の行動力と関係者への工作、強い結界を張ることができる者を国につなぎ止めるべきという圧力が働き、ミカル王子殿下と聖女マヌエラ様との婚約が決まった。
一方、私はできるだけお祈りを持続できるように努力をしていた。
いつかは報われるという希望もあったのだけど、単純に聖女マヌエラ様に屈するのがイヤだったからだ。
しかし根性だけでなんとかなるわけもなく。
次第に私は心身共に消耗し、髪も肌もボロボロになっていった。
対する聖女マヌエラ様は私と比較にならないほどの美貌を保っている。
そうなると、ますます負けるものかという気持ちになってくる。
しかし、どうやら聖女としての能力は全く成長しなかったようで、遂に限界が見えてくる。
「聖女マヌエラ様。お願いです。そろそろ魔力が尽きかけていて……祈りが困難になってきました」
「ふん。そうやって怠けようとしても無駄よ。文句を言うなら、すぐ城を追い出してやってもいいのよ?」
私はその言葉に反論する言葉を持ち合わせていなかった。
「あーもう! ムカつく。あの聖女。ちょっと私より力があるからって」
こうなったら……意地だ。
私が倒れるのが先か、何か間違いが起きて能力が伸びるのが先か。
無謀だと思いつつも私は祈りを続ける。
そんなある日のこと。
ぼーっとしながら祈りの間に向かう私を呼び止める方がいた。
ミカル王子殿下その人だ。
「あの、リージアさん。具合悪そうだけど大丈夫ですか?」
「はい……」
「最近はずっと祈っているようだけど、それはリージアさんの仕事なのでしょうか? それに、とても顔色が悪く見えます」
「は、はい、大丈夫です」
魔力が底をつきかけた状態が続き、私は食事も喉を通らず、ふらふらになっていた。
そんな様子を見かねたのか、ミカル王子殿下は恐る恐るといった感じで、私に声をかけて下さった。
「あ、あの……リージアさん。もしよかったら、祈りの間まで貴女を連れて行こうと思いますが、触れても……よろしいですか?」
「そんな……ご迷惑をおかけするわけには……」
「あの、嫌かどうかでいえば?」
「い……いいえ、光栄に思います」
その答えに、彼は満足げに頷いた。
遠慮がちに私に触れると、彼は軽々と私の身体を抱える。
きゃっと声を上げ、私はあわてて彼に抱きついた。
堂々としているその姿になのか、抱えられて宙に浮いている状況になのか。
胸が高鳴る。
「は、はあ」
遂に毎日のお祈りすら私に任せてくるようになった。
お祈りとは、国境外の穴から湧く魔物達が国境に近づけないように結界を張るための儀式。
祈りを精霊神に捧げることで、結界の強度を高め維持することができる。
本物の聖女にとっては朝飯前のことだろうけど、私には荷が重かった。
日が経つにつれ、魔力が次第に尽きていく。
「あの、私はいつまで……?」
「そんなのずっとに決まっているでしょ! うるさいわね。私は美しさを保って……ミカル殿下と婚約し結婚すべき女なの」
第一王子ミカル殿下。
私と同じ十六歳。彼とは時々言葉を交わすことがあった。
言うまでもなく美男で、鍛えているのか体格も悪くない。
しかし、その一方でミカル殿下は気が弱く、思ったことを強く言えない様子が印象的だった。
私に何度か視線を向けられたこともあったけど、しょせん次点の聖女だ。
次点でなく、最高位にある聖女マヌエラ様と仲良くされるのは当然のこと。
しばらくして聖女マヌエラ様の行動力と関係者への工作、強い結界を張ることができる者を国につなぎ止めるべきという圧力が働き、ミカル王子殿下と聖女マヌエラ様との婚約が決まった。
一方、私はできるだけお祈りを持続できるように努力をしていた。
いつかは報われるという希望もあったのだけど、単純に聖女マヌエラ様に屈するのがイヤだったからだ。
しかし根性だけでなんとかなるわけもなく。
次第に私は心身共に消耗し、髪も肌もボロボロになっていった。
対する聖女マヌエラ様は私と比較にならないほどの美貌を保っている。
そうなると、ますます負けるものかという気持ちになってくる。
しかし、どうやら聖女としての能力は全く成長しなかったようで、遂に限界が見えてくる。
「聖女マヌエラ様。お願いです。そろそろ魔力が尽きかけていて……祈りが困難になってきました」
「ふん。そうやって怠けようとしても無駄よ。文句を言うなら、すぐ城を追い出してやってもいいのよ?」
私はその言葉に反論する言葉を持ち合わせていなかった。
「あーもう! ムカつく。あの聖女。ちょっと私より力があるからって」
こうなったら……意地だ。
私が倒れるのが先か、何か間違いが起きて能力が伸びるのが先か。
無謀だと思いつつも私は祈りを続ける。
そんなある日のこと。
ぼーっとしながら祈りの間に向かう私を呼び止める方がいた。
ミカル王子殿下その人だ。
「あの、リージアさん。具合悪そうだけど大丈夫ですか?」
「はい……」
「最近はずっと祈っているようだけど、それはリージアさんの仕事なのでしょうか? それに、とても顔色が悪く見えます」
「は、はい、大丈夫です」
魔力が底をつきかけた状態が続き、私は食事も喉を通らず、ふらふらになっていた。
そんな様子を見かねたのか、ミカル王子殿下は恐る恐るといった感じで、私に声をかけて下さった。
「あ、あの……リージアさん。もしよかったら、祈りの間まで貴女を連れて行こうと思いますが、触れても……よろしいですか?」
「そんな……ご迷惑をおかけするわけには……」
「あの、嫌かどうかでいえば?」
「い……いいえ、光栄に思います」
その答えに、彼は満足げに頷いた。
遠慮がちに私に触れると、彼は軽々と私の身体を抱える。
きゃっと声を上げ、私はあわてて彼に抱きついた。
堂々としているその姿になのか、抱えられて宙に浮いている状況になのか。
胸が高鳴る。
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