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第4話 終戦記念日と新たな存在
しおりを挟む数時間後に俺はコウタの作ってくれた解毒のお陰で身体はピンピン動けるまで回復し、クエ管のスタッフも到着。
クエ管のスタッフに大まかな事情と状況を説明するとクエ管スタッフは驚きながらも苦々しい表情をする。
それもそうだろう。8年の月日で長らく聞かなかった恐怖のドン底とも言える存在を間近で聞いてしまったのだから。
そんな感じで行方不明になっていたハンターの遺体と毒俊竜の回収と眠っている女性ハンターに関してはズーパーク国で眼が覚めるまで保護という形になった。
俺達はパンサー王に報告するため、荷車に乗り王宮へと向かうがなんだか辛辣な雰囲気で誰も話そうとしない。
聞こえてくるのはトコトコと走る有蹄獣の足音と荷車が地面を滑走する音だけ。
俺、リミカ、アスカ、コウタの4人は何か話したい事があるんだけど今は中々、口を開けない状況。俺としては迷惑を掛けてゴメンって言いたい。
みんなに心配を掛けて不甲斐ないばかりに、こんな事になってしまった。自分の弱さばかりに、みんなを心配掛けてしまった。
8年前の戦争でも自分の力が足りないばっかりに多くの犠牲と悲しみを生んだ事は分かっているのに、数え切れない悔しさと涙を知っているのに俺はまた同じ事の繰り返しだ。
戦争に参加した日にそう決めたはずなんだがな。
そうしている内にシビレを切らしたようにコウタが話し掛ける。
「それにしても本当に久しぶりですね。ショウ君にアスカ君も。ショウ君は相変わらずですけど、アスカ君なんか身長も伸びて垢抜けましたね。」
「そういや自分、ショウさんとコウタさんより身長抜かしてましたね。」
「ってか、知らない間にナンパとか覚えてやがるぜ?」
「いや~可愛いお姉ちゃんを見るとついですね。」
「あらあら。アスカ君もスッカリ大人になってしまったようですね。それにしてもリミカさん。」
「はい、なんでしょうか?」
「ショウ君の何処が好きなんですか?」
「な!なに聞いてんだ?!」
コウタの奴はリミカになんて事を聞いてんだよ?!
「え……あ、あ、あのですね……」
リミカはドギマギと顔を真っ赤にしながら髪を弄りながら少々、って言うよりだいぶコウタの質問に困っている様子。
「どうしたんですか?何か困ってるようですけど?」
困らせてるのはお前だよ。コウタ。ってか口を抑えて笑ってるのバレバレなんだよアスカ。
「ショウさんは1番に私の身の安全を考えてくれる所です。ショウさんはどんなに危険な状況でも私の安全を考えてくれる所なのです。そういう所を尊敬しているのです。」
『好き』じゃなくて『尊敬』か。
まぁ、嫌われてないよりマシかもな。嫌われてたら師匠失格だしな。
「でも、今回の事があって思ったのは私も誰かに守られたり、逃げてばかりではなく、私自身も戦いたいのです。アスカさんにコウタさん。そしてショウさんとも一緒に肩を並べて戦いたいのです。」
何か悩みや迷いを振り切った晴々としたその瞳には固い意志を感じる。リミカの言葉にコウタは優しく微笑み、アスカは何か納得した感じで俺も何か安心したような表情で張り詰めていた雰囲気から柔らかくなっていくのが分かる。
「って言うよりコウタ。」
「なんです?」
「なんでモンスター地区の森林区域に居たんだ?」
「え?それは戦争が終わった後、僕はズーパーク国とモンスター地区の境目で診療所を開きましてね。今日はたまたま、薬草を取りに行っていたらリミカさんと出会って、困っているリミカさんを尋ねたら、ショウ君とアスカ君がカイジンと戦ってたわけですよ。」
「つまり偶然って事?」
「はい、偶然なんですよ?ショウ君とアスカ君はどうやって再会したんですか?」
「自分は戦争が終わった後に大道芸人やりながら放浪してて、たまたま一昨日、道端でショーをやっていたらショウさんとリミカちゃんが一緒に居たので会って、リミカちゃんの話を聞いた上で今回の事態に遭遇したっす。」
「どうやら、皆さんはここ数日で何かの因果に動いて巡り会っている様子ですね。」
コウタの言う通り、ここ数日で8年前、かつてのサウザンド・デイ戦争で一緒に戦ったセブン・ギアーズの仲間、カイジン王の娘のリミカ。そして虎視眈々と何か狙ってた様に現れたカイジン軍の残党。
全て何か因果の様に俺の周りに起きているという話。
「王宮に到着しました。」
荷車を引いていた有蹄獣が足を止めて運転手がそう言うと、いつの間にか王宮の出入り口まで着いていた。さて、パンサー王にクエストの報告だな。
「では、ここからは私がご案内させて頂きます。」
荷車に降りる俺、リミカ、アスカ、コウタは王宮の中に入っていき、パンサー王の家来の1人を先頭に王宮の中へ案内されていく。それにしても、この前、来たばっかりだけど広いし、天井が吹き抜けてるよな。
「ショウ!!」
「ん?って!お前?!」
「久々じゃの?」
俺の後ろから勢いよく飛び付いてきた、じゃじゃ馬娘は【ルカ】だ。パンサー王の1人娘でパンサー王に似た顔立ちだけど明るい八重歯の見える可愛らしさでズーパーク国ではアイドル的存在だ。
「なんじゃ?妾と久々に会えるのに嬉しくないのか?」
「てか、その前に降りろ。知らない間に重くなってるじゃねぇかよ。」
「なに?!失礼なやつだな!レディに向かって重いとはなんだ?!」
「いて!いててて!爪を立たせるな馬鹿!」
「馬鹿とはなんだ?!馬鹿とは!」
「今度は噛み付くな!!」
久々にルカに乗っかられると重いのもあるけど色々と成長しているから背中に2つの自己主張の強い胸が当たって軽く困るんだよな……
身体は成長したとはいえ、性格は昔から変わらない様子。小さい頃からお姫様らしくないって言うか、わんぱく小僧って言った方がしっくりくるって言うか。
俺がズーパーク国でハンターになりたての頃は王宮に用事があって来ればいきなり抱きついて、やれオンブに肩車しろだのとせがまれて、クッソ広い王宮を何周したやら……
おまけに俺のクエストに着いて行くだの危険だって言っても着いてくる始末。それで危うく嫁入り前の娘にカスリ傷を付けそうになったりとか……
王族の娘に傷一つ付けたら俺の首が跳ねられるところだったんだよな。おぉ、怖い怖い。
「それで今日は何用じゃ?」
「ん?あぁ。パンサー王に任務の報告で来たんでね。あんまり構ってられないだけど?」
「ほぉ、相変わらずキリキリ働くのぉ。」
「そうでもしないと生活が成り立たないんでね。」
「なるほどのぉ。まぁ!明日は終戦記念日だから、緩りと羽根を休めたまえ。妾は明日の催しの練習があるからまたの。」
ルカは俺の背中から飛び降りてスタスタと歩き出して何処かへと向かう。そういや明日、終戦記念日なのか。ここ最近、色んな事があり過ぎてスッカリ忘れてたわ。
終戦記念日。サウザンド・デイ戦争の勝利と世界の平和を祝う祭りだ。この国では、その日だけ全部の仕事を休みお祭り騒ぎとなる。
飲食店、工芸品、装飾品、洋品店、日常雑貨店は屋台といった出店、ギャンブルに催し物と1日中はお祭り騒ぎとなる日。
「なんだ?お前ら。さっきから俺を見て。」
「いや~、まさかショウさんがあんな可愛いらしいお姫様と仲が良いとは。」
「あんなに抱きつかれてショウ君。鼻の下が伸びてましたよ。」
「ショウさんのバカ……」
アスカはニッタニッタニッタ笑い、コウタは変わらないスマイルで茶化し、リミカはムスッとして機嫌悪そうにバカの一言。何だよこれ?
「あのなぁ。ルカとは昔からの顔馴染みって言うかよ、あっちは昔から、あぁ言う性格でだな。」
「ショウさん照れちゃって~。本当は嬉しいんでしょ?このこの~。」
「まぁ、男女の仲に関しては僕からあんまり干渉しませんので、仲良くした方が良いですよ?」
「ショウさんのスケベ……」
さらにニッタニッタニッタとゲスい笑いを見せるアスカ、変わらない優しいスマイルのコウタ、プイっと後ろを振り向いて拗ねた様子のリミカ。なんだ?このカオスな現象。
「それよりもパンサー王にクエスト報告だろ!さっさと行くぞ。」
このカオスな現象から逃げ出したくて話を切り替えるとスタスタとパンサー王の居る王室へと向かう俺達。色々とあり過ぎて、何処から話せば良いのやら。
俺達はパンサー王の居る王室へ着き、天井まで高さのある扉を衛兵達に開けられると、パンサー王は堂々と王座に腰を添えているのが分かる。
「よく無事に戻ってきた。話の内容は概ね聞いておる。それと、また久しい顔が出てきたようだ。」
「お久しぶりですパンサー王。先の大戦以来ですが変わらずのお姿で何よりです。」
「そんなに畏まらなくても良い。かつて一緒に戦った同士ではないか。」
コウタはいつも以上に丁寧な口調で頭を下げるとパンサー王は照れ臭そうに言った後にパンサー王は続けて話を切り出す。
「亡くなったハンター達はそれぞれの出身国に返し遺族達で身元を確認してから埋葬する予定。意識不明だった者達も数人ほど目を覚まし体調が回復次第で帰国してもらう予定だ。」
「それなら良かったです。しかし問題はカイジン軍の残党。それに奴等の目的はカイジン王の娘であるリミカを新たなカイジン王に祀り上げて再び戦争を起こす事だ。」
その俺が発した発言の瞬間に王室の雰囲気が凍りつく様な緊張が生まれた。
「リミカ自身はそれを拒否した瞬間に奴等は俺達に戦闘を仕掛けて俺とアスカは応戦し、途中からコウタとリミカも応戦した後に奴等は一時的ですが撤退しました。」
「なるほど、何故にリミカ嬢はカイジン軍に戻る事を拒んだのだ?本来なら血縁者であり仲間であるリミカ嬢の居場所ではないかと思うが。」
パンサー王の言う通りだ。本当ならリミカはカイジン王の娘、つまりカイジン軍の王位継承者になるはずなのにリミカはカイジン軍に戻る事に強く拒んだ。その理由はなんなんだ?
「私は確かに父上であるカイジン王の娘なのです。しかし母上は人間でありますのです。私はカイジンの血が流れていながら、この世界の住人が優しく温かい心が好きなのです。その人達を恐怖のドン底に突き落とし、弄び、嘲笑う姿に私は嫌悪を表しますのです。だから拒んだのです。何よりもショウさん達と一緒に居たかったのです。この世界の住人として。」
リミカは恐らくだがカイジンの血筋よりも住人としての血筋が強く表れていて、この世界の住人が優しく温かい事を知っている。何よりも俺達と一緒に居たいっていう想いが強い。
「そうか。ならば余は、これ以上は止めん。何事にも捕らわれず、あるがままに生きよ、リミカ嬢。」
「はいなのです。」
何事にも捕らわれず、あるがままに生きよ。その言葉は、かつて、俺達セブン・ギアーズが戦争に参戦する前に大事にしていた言葉。
その言葉は俺達には親が居なかった。俺達はかつて小さな村の修道院で育てられ、そこでは決して裕福とは言えないけど温かく優しい幸せな家庭みたいなのを感じていた。
とある事件がキッカケで俺達は一緒に道楽芸人まがいで旅をするようになる。それぞれのスキルを活かして各地に周りながら放浪の旅をする内に自由気ままに過ごす。
その中で見つけていたのは何事にも捕らわれず、縛られず、あるがままの己を生きるって言うことだ。人はそれぞれの生き方や価値観があり、その生き方が外道じゃない限りその生き方を尊重するという考えだ。
リミカも1人の住人として何事にも縛られず、捕らわれず、あるがままに生きてほしい。ただそれだけだ。
「今回のクエストにおいて余はカイジン軍の残党を本格的に各国の王と世界政府に報告しようと思っている。ただし秘密裏にだ。」
「秘密裏です?」
「うむ。先の戦争でまだ精神的に傷が癒えていない住人もおる。大々的に報告すれば世界は混乱と恐怖に染まる。余はそう考えている。」
確かにやっと平和を取り戻した世界に再び恐怖のドン底に突き落とすような報道は今は避けるべきだ。カイジン軍の存在は秘密裏に警戒という形で処理していくべきだろう。
だとすれば……
「つまり俺達が影でカイジン軍の残党を処理していく形って事ですか?」
「心苦しいがそうなる。」
「分かりました。こっちとしても他の仲間達とも合流しながらリミカの求めるカイジン王の遺産を集めたいって思っていた所です。」
「うむ。頼んだぞ。」
「承知しました。」
今後の活動としては各地を周りながらダンジョンを攻略しながらも、カイジン軍の残党と出くわした時には秘密裏に抹殺って言う所だな。
その為には残りのメンバーも召集をかけないとだからヤマト、リュウジ、ケンジ、タイガの4人を見つけないとだな。
リュウジはウォーリア国でコロシアムでの戦士、ケンジはウィザー国で修道院をやっていて、タイガはスカイバード国で科学者としてやっている。
問題はヤマトだ。ヤマトもアスカと同じ様に放浪の旅をしながらストリートミュージシャンとしてやるって言っていたから、イマイチ所在が掴めない。まぁ、ヤマトに関しては何処かで出くわすだろうな。
まずはズーパーク国でのダンジョンを攻略してから後の事を考えるか。
「リミカ、アスカ、コウタ。そう言う事で動いて行く予定だが良いか?」
「はいなのです。カイジン軍は野放しに出来ないのです。」
「まぁ、ショウさんの決めた事なんで自分は異議はないっす!」
「リーダーが決断した事なので僕はそれに着いて行くだけですよ。」
「ありがとう。みんな。助かる。」
リミカ、アスカ、コウタの3人が満場一致で俺達はカイジン王の遺産が封印されたダンジョンを攻略し、各世界を周りながらセブン・ギアーズの仲間を見つけ集めて、カイジン軍の残党と戦う事を決意する。
「それでだ。余の意見としては今は先を急ぐのは良くないと思うので旅立ちは3日後からの方が良いだろう。明日は終戦記念日になるから少し楽しんだらどうだ?」
「終戦記念日ですか。」
「うむ。ここの所、慌しいかったから少し休んでから行った方が良いだろう。」
「了解しました。3日後に旅立とうと思います。」
「しっかり養生してくれ。」
「はい。」
俺はそう言った後、踵を返して王座の部屋から出て行き後からリミカ、アスカ、コウタと並んで王座の部屋から出て王宮の敷地外に行き自分の家へと向かう。
俺の家に向かう中、みんな終始無言のまんま。俺が考えているのはカイジン軍の目的、奴らはカイジン軍の復活を目的としているが、復活させた後は何をする気だ?
だいたいの予想はつくが再び動乱と混乱による平和の破壊と恐怖に陥れるのが目的だろう。だけど、それだけが目的か?
カイジン王は8年前の戦争で死に統率する者が居なくなってから8年。この空白の8年の間に何故に行方をくらましていたのか疑問だ。
そして行方をくらますのにも何故、今の今まで見つからなかった?どうやって生き延びていたんだ?
「よう。無事だったか?」
俺の頭の中でモンモンとしていると先日、酒場で会ったビレッジのパーティがクエストの帰りなのか俺に話し掛けてくる。
「ようビレッジ。何とか無事だったよ。」
「この調子だと俺の嫌な予感が当たっちまったようだな……」
「気にすることはないさ。どちらにせよ、コレは俺のカタをつけなくちゃイケナイんだからな。」
「そうか、その調子だと少し家を空けるのか?」
「全く、お前の勘の良さには嘘も誤魔化しも効かないな。」
「気を付けろよ。」
「大丈夫だ。コイツらも居るしな。」
俺はビレッジに後ろに居るリミカとアスカ、コウタを親指で指差す。
「ショウさんの弟子のリミカなのです。」
「かつての仲間のアスカっす。」
「同じくコウタです。宜しくお願いします。」
3人はそれぞれ軽く会釈しながら自己紹介するとビレッジは軽く微笑みながら一言『宜しくな』って言うと、その場を立ち去って行く。
街並みを歩いていると、何処の店も風景も明日の終戦記念日の準備に慌ただしく動いているのが分かる。屋台骨を組み立てテントを張り、看板にはペンキを塗り、お祭りらしい装飾も飾られている。
終戦直後はまだ街並みが荒廃していてだけど、ここの住人達は前を向いて平和への道のりを一歩ずつ着実に進んで行ってから8年。やっとの思いで今の平和を築き上げてきた。
だけど、まだ小さい地域の村は荒廃したまんまの所もあるのも事実。それでも、いつか時間をかけて戦争前の平穏で誰もが笑顔で暮らせる世の中になる事を信じている。
俺達が何処にも属さない各地を放浪する名も無き旅芸人から戦争を勝利から導き出した平和の象徴である英雄になるまでは色々と経緯があった。
気に食わない野盗や盗賊、人々を困らせるゴロツキ、過激派組織のテロリスト、麻薬組織のギャング、人身売買のオカルト集団、密猟ハンター組織と言った奴等を壊滅して行くウチにサウザンド・デイ戦争を目の当たりにした。
この世界の住人達が嘆き、苦しみ、泣き叫び、恐怖に怯えて、大切な人を失う悲しみ、カイジンに対する怒りを目の前で見た俺達は平和を取り戻す為だけに決意し参加した。
結果的に戦争は勝利し平和を取り戻しだが、本当の平和っていうのは、その後にいかに1人でも多くの住人を救済するかだ。俺達はその後に活動を休止したが、その中で1人でも多くの住人を助けられたか?って言うと助けられなかった。
エボル・ギアの力は武力で何とか出来ても精神的なケアまでが出来ないという力不足をこの8年で痛感する。
英雄と言われても俺達は果たして本当の英雄なのか?って言う疑問だけが残る。
なんとも言えないのが現状だ。
そうこう、考えている内にいつの間にか俺の家に着いてしまい俺は家の出入り口のドアを開ける。
「へぇ~、ここがショウ君のお家ですか?結構、広いじゃないですか?」
「まぁ将来、家族を出迎えてられるくらいの広さは欲しかったんだけど、全く予定はねぇんだ。」
「そんな気を落とさないで下さい。ご縁はいつかありますから。」
「お、おう……」
そうは言われても中々、ハンターの仕事と家とマスターの酒場の往復だと縁も何もないよなぁ。それにイマイチ女心って言うのは分からないし。
「とりあえず、飯の準備でもするか……アレ?」
「ショウ君。解毒をしたとはいえ、まだ無理しちゃダメですよ?」
俺が飯を作ろうと台所に向かった際、急に疲れが出てきたのか目眩がして、ヨロケそうになった所をコウタに支えられる。どうやら毒俊竜とザビーに受けた毒による解毒剤の副作用みたいだな。
「ショウさんはソファーで休んでるのです。」
「そうそう。ご飯なら自分らが作るっすから、ここは任せてゆっくりしてるっす。」
「あとはアルコールも今日は控えましょう。」
マジかよ。俺の晩酌が……
リミカ、アスカ、コウタの3人で残りの在庫で晩飯が作られてミルク粥と薄味の野菜スープが作られた。もちろん葡萄酒は無しだけどな。
「ショウさん。あーん。」
「リミカ、俺は自分で食えるぞ。」
「バカ……」
「にししし。」
「あらあら。」
リミカがミルク粥をスプーンですくってフーフーしながら俺に食べさせようとするが、俺は普通に食えるぞ?ってか、アスカとコウタもニヤニヤしてるんじゃねぇよ。
不機嫌になるリミカはブーと頬を風船のように膨らませプイってそっぽを向くと、やれやれって感じで一口食べる。
「美味しいですか?」
「美味しいよ。」
「良かったのです。」
そう言う感じで食事も終わり寝床なんだが……
「リミカ?これは?」
「添い寝なのです。」
「いや、はいそうですか。って流せない状況だろ?」
「とにかく添い寝なのです。」
「あのなぁ。お前も年頃の女だろ?こんなアラサーオヤジと添い寝なんてしたら嫌だろ?」
「私は構わないのです。」
さっきから、こんな感じで平行線のまま話は一向に進まない。リミカの奴は一度言ったら聞かない性格のようだな。ここは素直に俺が折れるしかなさそうだな。
「わかったよ。一緒に寝るよ。」
「はいなのです。」
リミカは不貞腐れた顔から細く微笑んだような笑顔になる事で機嫌を取り戻し、俺の布団の中へモゾモゾと入っていき、顔が向かい合う形になる。
顔が近いな……
「ねぇ、ショウさん。」
「ん?」
「私、嬉しかったのです。」
「何が?」
「ショウさんが私の事を受け入れてくれて。」
「普通じゃないか?」
「私は人間の血が流れているのですが、カイジンという化け物の血も流れているんですよ?普通なら拒絶するんじゃないですか?」
「まぁ、そうかもな。普通なら。」
「ならどうしてなのです?」
「俺も受け入れてもらえない存在だったからな。」
「え?」
「俺はこの世界では珍しい無個性なんだよ。」
「どういう事ですか?」
俺はリミカに自分の身の上話を話す事にする。
「俺は……いや、セブン・ギアーズは人に産まれながら魔法、装飾道具、精霊術、アート攻撃が使えなくてな。」
「え?それは……」
「普通の人間なのさ。俺達は。」
「なんでですか?」
「今の医学で言えば遺伝子による突然変異で何も持たない子供が産まれてくる事が僅かにあるらしいんだ。その僅かな数の内が俺達なんだよ。」
「……」
「俺達は何も持たない無個性な為に親に捨てられ修道院で育てられた。修道院のマザーだけが俺達を本当の家族のように迎え入れてもらって裕福ではないけど幸せな時間だった。だけど、そんな日にある事件が起きたんだ。」
「事件ですか?」
「俺達の住む修道院が火事で焼失して俺達を育ててくれたマザーはその火事の中で亡くなって、行く宛もない俺達はエボル・ギアの力で放浪の旅に出たのさ。」
「そんな事があったのですね……」
「だから家族も仲間も居ないお前がほっとけなくてな。」
「え?」
「俺達とは生き方も立場とか違うけど孤独にしているお前を見ると同情じゃないけど、突き放せなくてな。だからカイジンの元に行かせたくなかった俺のワガママでもあるんだけどな。」
「嬉しいです。私はショウさんの仲間になれて嬉しいです。」
「そっか。」
俺はリミカの頭を撫でていく内に意識が遠のいていき、俺は深い眠りにつく。
寝床の窓から差し込む眩しい朝日と小鳥のさえずりで眠気が覚めてゆっくりと起き上がると、リミカが可愛く寝息をたてながらまだ寝ているのが分かる。
「まだ寝かしておいてやるか。」
「ふみゅ……ショウさん……」
どうやらリミカの夢の中では俺が出てきているみたいだ。果たしてどんな夢を見てるのやら。
さて、俺は台所に行ってみんなの朝飯を用意しないとだな。
俺は寝床の扉を開けて、リミカが起きないように静かに扉をゆっくりと閉める。もちろん物音を立てないようにな。
台所に向かい食材の在庫を確認してみると野菜が数種類と卵とパンが人数分と厚切りベーコンとバジル入りのソーセージ。
まぁ朝飯ならこれくらいで足りるな。俺は野菜を切り始め、火の魔法鉱石に衝撃を与えて、火を付けてから厚切りベーコンを一口サイズに切り焼き始める。外はカリカリで中はジューシーに仕上げて切り分けた野菜サラダの上に盛る。
卵は沸騰した鍋の中に入れてから水で冷やしながから殻を剥いていき、卵を切り分けてマヨネーズとマスタードで和えてからベーコンと同じように野菜サラダに盛り付ける。
最後にアボカドを切り分けてから同じように盛り付け、ドレッシングはオリーブオイル、ケチャップ、マヨネーズ、絞ったレモンを混ぜて完成。
パンは薄くスライスしたチーズを乗せてから軽く焦げ目がつくまでトースト。ソーセージはグリルで焼いて完成。
インスタントだけどコーヒーを注いで朝飯が出来上がったのでアイツらを起こそうと思ったらリビングのドアが開き、タイミングよく3人が起き出した。
その後、俺の作った朝飯は数十分と経たずにみんな残さず食べ終わり、俺はコーヒーをすすりながら話を切り出す。
「取り敢えず今日は旅支度するから色々と荷物をまとめなきゃだな。」
「だったら荷物は全部、自分のトランクにするっす!」
「あー懐かしいですね。確かコウタ君の作った四次元トランクですね。」
「四次元トランクですか?」
「そう。見た目はただの旅行用のトランクだけど、中はなんでも入る広さ。最悪、野宿の時もこれで寝泊まりできる代物さ。」
「おぉ!それなら便利なのです。」
「取り敢えず粗方の荷物はこの中に入れれば問題ないか。」
俺の家からは着替えの服やら調理器具、テントや寝袋、魔鉱石をあるだけアスカのトランクの中に詰めてから食料の買い出しに出掛ける。
街中を観ると何処も彼処も終戦記念祭だ。王宮には横断幕、市場は出店を出してはせっせと販売の準備。何よりもお祝い事だから住人達は仮装やら朝から酒のグラスを持って陽気な様子。
その陽気な様子からして、この世界は着実に本当の平和を歩んでいる事が分かる。みんな少しずつだけど笑顔を取り戻しつつある。
食料の買い出しをしながら何やら人混みが多くなり立ち止まると周りは何やら中央の舞台に注目しているみたいだ。俺達は少し立ち止まりながら見てみる事にする。
パンサー王が複数のボディーガードを従えながら中央の舞台の階段を上り一礼。マイクをの音声を確認してから周りの住人は黙々と演説を聞く。
「本日はお日柄も良くこのような記念式祭には絶好の天気となり心から嬉しい限りでございます。本日はかつての大戦の終戦記念日。今ある平和は先人達が平和の為に命を懸けて築いたもの。これより黙祷を行います。」
パンサー王の言葉と同時に周りの群衆が目を瞑り、俯きながら黙祷を行う。黙祷を行った後にパンサー王は演説を続ける。
「この大戦で多くの住人が血を流し傷付き、嘆き悲しんだ。しかし先人達は平和になる事だけを祈り続け戦い、また後世の子供達に全てを託しました。その平和の式典を祝い、今日を大いに喜び明るく先人達の魂を弔い向かい入れましょう。」
そして水が滴り落ちたような静けさから周りの群衆はゾロゾロと舞台の周りから離れ離れになっていき、住人達はそれぞれ行きたい場所へと向かう。
俺達も食料を買いに向かう途中アスカとコウタが人目を見ながらコッソリと話し出す。
「ショウさん。パンサー王の周りに居た白スーツに奇怪なお面って奴らですよね?」
「あぁ、奴らも世界政府から直々に寄越されたと踏んで良いな。」
「彼等が居るとリミカさんの存在を勘づかれると厄介ですよ。」
「確かに奴等は任務の為、活かせされてる謂わば正義の機関。C5だな。」
「皆さんC5って何なんのですか?」
俺とアスカとコウタの3人で聞こえないように話していたつもりだけど、リミカには丸聞こえの様子だった。仕方ない今後リミカにとっては脅威になる存在に間違いなくなる。
「良いか。リミカ。C5って言うのはチェス5と言う名前でそれぞれキング、クイーン、ルーク、ビショップ、ナイトの5人から編成された世界政府直轄の正義の諜報機関。」
「それが厄介な存在なのですか?」
「少なくても、お前にとってはな。」
俺は少し間を置いてチェス5こと通称C5についてリミカに話す事にする。
「奴らはかつて、8年前の戦争でマギ連合側として一緒に戦ってきた連中だ。表側の戦場で戦ってきたのが俺達セブン・ギアーズだとしたら、裏側で秘密裏に夜襲やカイジンの暗殺をしてきたのがC5だ。いわばコインの表と裏の存在だ。」
「コインの表と裏なのですか?」
「そうだ。俺達は平和とみんなの笑顔の為に戦ってきたとしたら、奴等はカイジンを絶対悪として任務の為に戦ってきた連中。絶対的な正義の為なら周りに居る連中を殺す事さえ躊躇しない。」
「それって……」
「簡単に言えばカイジンの人質に取られた住人達を助けるのではなく殺す事さえあった……」
「な、何でなのです?!人質に取られたなら助けるべきなのです!」
「人質がいる以上、下手に手出し出来ないから人質が居なくなれば手を出せる。つまり人質を殺す事で居なくなれる。そういうのが奴らの考えだ。」
「そんな……」
「それに奴等は戦争終了後は世界政府直轄の諜報機関及び要人の警護とカイジン軍残党殲滅をやっているという話だ。その意味が分かるな?」
「私の存在なのですか?」
「そうだ。奴等がリミカの存在が見つかれば、すぐに殺しに来る。もちろん俺達がそんな事はさせないが、奴等も一筋縄には行かない。気をつけろよ。」
「はい……なのです……」
大まかに話したがアイツらも俺達と似たような鎧を持っている。似たようで似てない、似てないようで似てるのがセブン・ギアーズとC5。まさにコインの表と裏だ。
「まぁ、リミカの見た目は普通に住人の姿だから普段通りにしていれば奴等も気が付かないだろう。買い出しの続きしようぜ。」
「はいなのです!」
俺達は買い出しの続きをしていると何やら先程の中央舞台にスタンドマイクの前に立つ男がギターを片手に左右にはベースとキーボード、後ろにはドラムを従えて、どうやら観客達は熱狂しているようだ。
「ん?なんだ?」
「あぁ、どうやら最近流行りのロックバンドがこの国で終戦式典でのライブをやるみたいっすよ。」
「そのチラシあっちこっちで配られていましたよ。」
「どれどれ。」
コウタから渡された流行りのロックバンドを見てみると【タイタン】と書かれていたのだ。最近の流行りは分からないけどヴィジュアル系というか派手な見た目というか、最近の若者の流行りがイマイチ付いていけないのは年取った証拠か?
すると観客の熱狂のもとボーカルであろう男がステージから手を振りながらスタンドマイクに向かって叫ぶ。
「みんな!盛りあがってるかっぺ?!!」
「「「?!!」」」
この話し方に何か聞いた覚えのある声。俺とアスカとコウタは目をパチクリしながら3人で目を合わせる。
その話し方と言い、派手に魂から叫び上げるような歌声に胸を熱くさせるようなギターソロ。これは間違いないよな。
「なぁ、アスカにコウタ。」
「いやショウさん。最後まで言わなくても分かるっすよ。」
「またまた偶然ですよね。」
「?」
リミカは半分置いてけぼり状態で頭の上にハテナマークが思い浮かべる感じだが無理もない。それは身内にしか分からない奴だから。
しかしタイタンのヴォーカルである彼は俺達に気付くはずもなく、ライブの進行を進める。
「今日は終戦記念日をこの国で歌える事に感謝するっぺ!まだ、戦争の傷は完全には癒えてはないけど、オラが歌でみんなを笑顔にさせるっぺ!!」
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