カイジン王の娘リミカ

藤田吾郎

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第1話 銀髪少女の名前はリミカ

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サウザンド・デイ戦争が終結して8年。

この8年間の間にマギ・ワールドの住人達は種族や文化、そして価値観を超えて、お互いに手を取り合い平和で誰もが笑顔で生きていける世界を目指していた。

だが、しかしカイジン達による恐怖は消えぬまま。聞けば、あちらこちらでカイジン軍の残党が居るという噂も流れている。

あくまで噂だから信じるか信じないかは貴方次第ってやつであろうが、火のないところには煙は立たないと言う、ことわざがあるのでカイジンの存在は一種の都市伝説的な扱いであろう。

また8年の歳月が流れると世論も変わり文明の進歩もあるであろう。特に皮肉な事に医療の進歩は戦争により進歩すると言われている。

世論というのは戦争の時は誰しもが平和を願っていたが人間というのは慣れてしまうと、その有り難みを忘れてしまう事。

つまり国家同士での手柄の取り合いである。カイジン王の遺産と言われる仕分けであった。

金貨や銀貨。それに宝石。その分配に国家同士で話し合うも譲らず今も、その状況で国家同士での緊張状態。

その遺産の中でもカイジン王が扱ったとされる七宝具(ななほうぐ)とされている。

カイジン王の扱ったとされる王冠、マント、剣、杖、盾、ネックレス、指輪と読んで字の如く7つの宝具である。

その一つ一つには強大な魔力と破壊力を有するため、S級クラス危険物扱いとされ、もし使おうとすれば強大な魔力に全身を焼かれ跡形も無く肉体が消し去ると言われるほど。

その分配に関しては其々の国で誰も立ち入らない様にダンジョンとして封印する事で合致した。

次に文明の進化。戦争で瞬く間に進歩したのが通信機器の発達であった。

実はと言うとセブン・ギアーズの1人タイガの開発によるもので電波をキャッチすることでお互いの状況確認やら連絡を取り会えるという無線が出来上がったのである。

その事によってモンスターを狩る際、ギルド同士の連携を取りやすくなり、ハンターの生存率やクエストの成功率を格段に向上されたのである。


最後は医療の発達である。

戦争の終結後に戦争の帰りを待つ兵士の家族の元に生きて帰ってきた兵士がいたが、五体満足のまんまで帰ってきた者は決して多くはなかった。

戦争の功労者として其々の国から恩給は与えられたが1人で生活する分には困らない金額だが家庭を持ち幼い我が子を持つ兵士からすれば雀の涙ほど。

一家の大黒柱が戦後の世界で働けないとなると、その家族の生活は困窮を極めるのは目に見えていた。
そこで立ち上がったのが医者と義手や義足を作る職人達であった。

医者の研究のもと、兵士達の義手や義足を神経で繋ぎ機械で駆動する筋伝義肢の1つであるオートメイルの開発であった。

オートメイルの開発によって片腕または片足の兵士達が戦後の世の中でも以前のように五体満足で生活が出来てまた別の働き口を見つけられる事で家族を養えるようになれたのである。

このようにサウザンド・デイ戦争が終わった8年の間に文明は進歩しマギ・ワールドの住人達は以前よりも高い水準の生活を得て今を生きているのである。

俺はと言うとだな。

サウザンド・デイ戦争の終結直後にズーパーク国のパンサー王から国家直属のハンターとして雇われ、戦争の恩給を貰いながらクエストをこなし、衣食住には困らない生活をしている。

戦争が終わって8年。あれからセブン・ギアーズの仲間達とは会っておらず、多分だけど元気で達者に暮らしているんだろうなぁって思ってる。

仮に何かあれば風の噂があるだろうから特には気にしていないって所かな?
元気で暮らして居るなら、それで良いと思いながらハンターの仲間達で賑わうクラシカルな雰囲気が漂う酒場でマスターのランチを食っている俺。

「やっぱりマスターの飯はいつも美味いよなぁ。」

「おぉ。それはいつもありがとう。こんなに美味しそうに食べていると僕も作り甲斐があるってもんさ。」

「これは草食モンスターのジビエ料理ってやつ?」

「お!さすが舌が肥えてるショウ君だ。」

「まぁねぇ。伊達に8年もマスターの料理を食ってる訳じゃないさ。」

酒場で個人で営む髭を蓄えメガネを掛けた気の優しさが滲み出た表情をしているマスターとの出会いは戦争が終わってズーパークでハンターとして活動し始めた頃。

当時はまだ戦争の爪痕が残り荒廃していた街で、ひっそりと佇む酒場で俺は飯を食おうと店に入った時にゴロツキ共がマスターに何かしらの因縁を付けていた。

ゴロツキ共の言い分としては料理に虫が入っていたので飯代をタダにして迷惑料として金銭を要求するという事だった。

どこからどう見てもタカリと言われる下衆な悪行。

困り果てたマスターに俺はゴロツキ共に席を退かして席に座るとゴロツキ共が胸倉を掴んできたので手首の関節を極めて睨みつけると蜘蛛の子を散らす様に逃げていった。

それからマスターは俺を気に掛けてくれたり飯のサービスなど良くしてくれている。

「ショウ君。話は聞いたよ。」

「ん?どうしたの?」

「なんでも、この前1人であの【轟竜】を討伐したらしいじゃないか。」

「あー……アレはたまたまですよ。」

「またまた謙遜しちゃって~。」

マスターの言った轟竜とはモンスターの中では絶対強者の異名を取り口を大きく開けて突進攻撃をしてきて、怒りが強くなると攻撃力とスピードが格段に上がり、咆哮で近くにいるハンターを吹き飛ばすと言われる。

その轟竜を討伐したのは本当にたまたま。あの時はジビエ料理に使う草食モンスターを他のハンターと一緒に狩っている途中の出来事。

捕まえたモンスターにトドメを刺すためバイタルと呼ばれる急所(首元や心臓付近)を突き刺した際に血の匂いに誘われて突如として現れたのが轟竜。

他のハンター仲間達は轟竜を見るなり腰を抜かしてしまって立ち上がれなくなり、仲間のハンターに容赦なく襲い掛かろうとする轟竜に俺はエボル・ギアを発動させてグラリスに変身。

得意の高速勝負で一瞬にして轟竜を簡単に討伐に成功してしまい、ハンター仲間達からも賞賛の嵐で、そのハンター達から街の人へと感謝を送られたって話だ。

取り敢えず昼飯も食った事だし俺はマスターに支払いをしてから酒場をあとにして、ちょっくらハンターの仕事を探しに行こうとクエスト依頼管理所へと足を運ぶ。

クエスト依頼管理所。通称:クエ管と呼ばれモンスター被害に遭ってる個人、農業者や林業者に漁業者と酪農者の組合。そして街や村の長達。更には国からの依頼。

時たまモンスターの牙や爪、鱗や皮膚や毛皮を加工して商売する武具店、モンスターの肉を取り扱う飲食店。更には固有のモンスターの内臓を使って他の薬草と調合する薬局店。モンスターの毛や皮を使って服や小物を作る洋品店からの依頼もある。

依頼は、その日、その日で変わる為、ハンターの仕事が盛りだくさんの時もあれば全く依頼のない日もある。

ハンターの仕事は不安定な仕事であり、リスクも非常に高い職種である。

その為、ハンターの仕事のみで生活出来るのは、僅かに一握り程度でだいたいが他の仕事と兼用しながらハンターをやったり、草食モンスターを狩る事でジビエ料理を作って食うのが楽しんだり、モンスターの角や牙を加工してアクセサリーを作ったりするのが趣味でハンターやる人もいる。

言ってしまえばハンターにもランクがあり、クエストのこなした回数や持っている武器、鎧。クエ管スタッフのもとで体力測定および健康診断をもとにクエ管のスタッフの評定会議によってハンターのランクが決まる。

ハンターのランクにより依頼の仕事の幅が決まってくる為、仕事の依頼が危険が増せば増すほど、その分、報酬が高くなるという仕組み。

その為、ハンターの仕事のみで衣食住が困らず生活するには身体が丈夫で健康である事、野生モンスターの特徴や性格を見極める頭脳、リスクを恐れないメンタル、自分の武器や鎧、モンスターに効く薬を買える投資力、そして生き残るための運。

そのどれか1つでも欠けていたら、衣食住を満足に生活できるハンターには慣れないという事をハンターを始めて8年の俺が実感した事だ。

暫く歩いているとクエ管に着いた俺は入り口のドアを開ける。見た目はその辺の宿屋の様に見えるのがクエ管の外装。

そこに猫耳でメガネを掛けた獣人の受付のお姉ちゃんが受付として立っている。

「ハンターライセンスのご提示をお願いします。」

「ユリアちゃん。俺もう常連なんだから顔パスで良いやん?」

「規則は規則なので。ハンターライセンスのご提示を。」

「はいはい。」

クエストを受けるには受付嬢にハンターライセンスを提示してからハンターランクに合ったクエストの依頼を受ける事が出来る。

またハンターランクは5段階あり、DランクからSランク。そのランク付けはクエ管のスタッフによる評価によって決まる。

更に言えば定期的に行うハンターの評定会議によってランクが上がる事もあればランクが下がる事もあるのでハンターの仕事はシビアな職種であると言える。

「Sランクハンターのショウ君ですね。ハンターライセンス有難うございます。」

「どーも。そんでユリアちゃん。今日の仕事はある?」

「Sランクハンターのショウ君の仕事は今の所はないね。」

「マジかよ……」

「マジかよって言われてもねぇ。この前、ショウ君が轟竜を仕留めた事で特にこれと言ってモンスター被害の依頼がないのよ。」

「そうかもしれないけどさ。もう1週間以上も仕事がないんだぜ?なんか仕事頂戴よ。ユリアちゃ~ん。」

さっきも言った通り俺は轟竜を討伐して以来、ハンターの仕事は1週間もやっていない。

ここ最近のモンスター被害は轟竜による生態系のバランスが崩れてしまった事で、下位モンスターの数が減少傾向になっていたのが1番の問題だった。

その問題が解決した事で平和になったが、俺達の仕事の依頼がなくなってしまったという訳だ。

だから、ここ1週間は朝は昼までグーグー寝て起きては酒場でマスターのランチを食って、買い物して部屋の掃除をして1人で家で軽く晩酌して寝るの生活だよ。

正直言って金には困ってないけど何もしなさ過ぎると退屈なんだよね。

「あ、そうだ。ショウ君にぴったりな仕事があるから!」

「本当に?!助かるわユリアちゃん!」

「これがクエスト内容の書類。」

久しぶりのハンターの仕事に俺は胸を躍らせながらユリアちゃんから渡されたクエスト内容の書類をパラパラとページをめくる。

「なにこれ?」

「なにこれ?って国王様直々のクエストよ。」

「そう言われてもなぁ……」

国王直々のクエスト。つまりズーパーク国の国王であるパンサー王からのクエスト。その内容はSランクハンターでしかこなせないクエスト内容。

その殆どは凶暴モンスター討伐だが、今回の国王直々のクエスト内容は【新米ハンターの養成】である。

戦争が終わって8年。ハンター不足のズーパーク国で何とか数をこなしながらクエスト依頼をやってきたが、8年という時間でハンターの高齢化問題も浮き彫りになってきた。

やはり健康第一の仕事であるため年齢を重ねるとスタミナも減ってきたり、何かしらの病気にかかりやすくなる等で難易度の高いクエストが出来なくなってしまってるハンターがいるのが現状。

そうなるとハンター不足の深刻化が目に見えてくるので、最近は若い人達にハンターの仕事に興味を持ってもらい、一緒にクエストをする事で今の若い人達に自然との共存や命の大切さを学んでもらいたいという業界の考え方。

その新米ハンターの養成を担うのが隠居寸前のハンターが受け持つって言うのは聞いていたんだが何故か俺に回ってくるという。

「そんな面倒くさそうな顔をしないで新米ハンターの教育をお願いね。」

「いや、そんな事を言われても……」

「どんな仕事でも良いって言ったよね?」

「はい。」

俺はユリアちゃんの鋭い眼光と正論を前にグウの音もないまんま何も言い返せなかった。

「じゃあ、出ておいで。」

受付の奥にある扉がガチャって開くと銀色の髪にターコイズの瞳。身長は俺の 肩ぐらいの身長で比較的小柄で銀髪でロリータファッションに腰には刀を携えている少女。

「初めてまして、リミカと申します。宜しくお願いしますのです。」

「ショウだ。宜しくなリミカ。」

リミカは抑揚のない声で深々と頭を下げて顔を上げると俺をジィーっと見つめる。

「ん?俺の顔になんか付いているのか?」

なんか、何かに吸い込まれる様な宝石の様な瞳。綺麗な目だな。

「ショウさん。年は幾つなのです?」

「……じゅ、じゅうはちダヨ。」

「その割には肌にキメがなく、髪もヘタリ混んでいて数本の白髪と頭皮が薄く……」

「やめろぉぉぉ!!」

ここ最近の悩みを細やかかつ的確に指摘された事により心が折れかけた俺はつい叫んでしまった。

 そりゃ戦争が終わって8年も経てば老けるよ!三十路だよ!三十路!戦争が終わった直後は肌もツヤツヤだったし、髪も細くはなかったし、白髪なんて一本もなかったし、道行く女の子なんか目がハートになってたし!

「つまり、ショウさんは今さっき、私に年齢を詐称していてた事を認めるという事ですか?ショウさんの本当の年齢はいくつなのですか?」

「ぐっ……」

「これ以上サバを読むとセブン・ギアーズと神速のハンターの2つ名が廃れてしまうのです。」

「さ、30歳だ。」

なんか、初対面なのに心が折れそうだぜ。

「じゃあ、ショウ君。リミカちゃんのハンターの育成をちゃんとやってね!」

「はーい。」

取り敢えず、クエ管の出入り口を出て新米ハンターの養成内容をリミカと歩きながら確認する。

1。クエスト中は基本的に一緒に行動する事。

2。モンスター討伐の際、モンスターに合わせた武器、鎧、薬品。モンスターの習性や性格、バイタルなどを的確にアドバイスする事。

3。モンスターと出くわした場合はまずはお手本を見せる事。その後に新米ハンターに狩りをさせる事。

4。狩りの途中、新米ハンターの危険を察知した場合は速やかにクエストを中止し撤退またはモンスターを討伐する事。

もっと細かく書いてあるけど、ざっくり言えば、こんな感じの内容。

まずは新米ハンターにはDランククエストをやってもらう事になる。
Dランクのクエストは主に草食モンスターと言われるモンスターの討伐。

草食モンスターはマギ・ワールドの住人を襲う事はないが、このズーパークではハンター不足のため、モンスター地帯から人里に現れては田畑の作物を荒らすという深刻な問題がある。

農業を生業とする人達にとっては作物が荒らされるというのは自分の生活を脅かす存在。

そう言う人達からのクエスト依頼は結構ある。取り敢えず内容としては、ここ近年、繁殖が高くなってる草食モンスターの中では被害の大きい【暴食獣】と呼ばれるモンスター。

1匹の暴食獣でこの辺の農家の作物がほぼ食い散らかされるという事態。暴食獣は複数の群れで行動するため、群れで田畑を食い尽くされるとなると甚大な被害と額が出てくる。

今回のクエストは暴食獣の群れの討伐をした後にジビエ料理を扱う飲食店への受け渡しって言うのがクエスト内容。

暴食獣の肉は鍋にして食うと歯応えがあり、ヘルシーな脂身が女子ウケすると言われているので飲食店からの依頼も多いとされている。

「リミカ。取り敢えず早速、今からクエストに向かうけど良いよな?」

「いつでも大丈夫なのです。」

リミカは変わらず抑揚のない声と表情を何一つ変わらない顔で言うのであった。

「てか、装備は刀だけで大丈夫なのか?鎧とか盾とか要らないのか?」

「大丈夫なのです。私の武器はこの愛刀ムラサメだけと複数の薬だけで大丈夫なのです。」

「そうか。今日のクエストなら、それだけの装備で大丈夫だから良いんだけどな。」

俺とリミカは歩く事、数十分。

街から離れて林と草原が広がるズーパーク国とモンスター地帯の境目に辿り着いた。

そこで依頼主の農業を生業とする男性の老人が現れた。

「ようこそ。ハンター様。こんな荒地まで遥々と有難うございます。」

「ハンターのショウです。」

「リミカです。」

「ところで作物の被害の方は?」

「はい……今、ここに立っている所を含めて、ほぼ全滅でございます。暴食獣の夫婦なのでしょう。ちょうど繁殖の時期でもありますので餌を求めてやってきたのでしょう。」

「なるほど。」

依頼主の男性老人が言う通り所々に作物を掘り返した後があり、暴食獣が食い散らかした後も残っている。

これは酷いな。農作業で生計を立てている人にとっては生活が掛かっているから死活問題。

「分かりました。この足跡を辿りながら暴食獣を追い2体を討伐して1体は自分らで回収して、もう1体はこちらで売り捌いたお金を渡そうと思います。」

「おぉ!なんと助かる。これで何とかワシも食いつなぐ事が出来ます。」

この状況でとてもじゃないが明日の飯もままならないだろうな。俺はハンターで稼いだ金は全部自分の物にするんじゃなくてモンスターで被害に遭って金に困った人々に渡すというスタンスを8年間やっている。

「では、暴食獣の討伐へ行きたいと思います。行くぞリミカ。」

「はいなのです。」

俺とリミカは暴食獣の足跡を辿り森の中へと入っていく。

まず、モンスターを追うには足取り、つまり足跡を辿る事。そして、食い散らかした作物の欠片。更に言えばモンスターの糞を辿れば確実に見つける事が出来る。

「リミカ。これが暴食獣の足跡だ。モンスターを追うにはまずはコレを辿ること。それに所々に食い物の欠片。作物の乾燥具合を見るとまだ水々しい感じだと近くにいるという事だ。」

「暴食獣の足跡……メモメモ。食い物のカケラの乾燥具合……」

リミカはメモ用紙に暴食獣の足跡をスケッチをサラサラとメモをした後に周りを見てからどう考えて動いていくか細かくメモを取る。

「更に言えば今の時期の暴食獣は繁殖期なため、普段は温厚だが気が立っているから下手に近付くと襲われる事もあるんだ。」

「暴食獣は繁殖期には気が立っているため、襲う事もある。繁殖期は今の時期っと……」


暴食獣の足跡と食い散らかした作物を辿って行くと1体の暴食獣を発見する俺とリミカ。

暴食獣は草木をボリボリと食事に夢中になっており、草むらに隠れている俺達には一切気付いていない様子。

「これから俺がお手本として暴食獣を仕留めるからリミカはまず見て覚えてから、もう1体を見つけた時には俺と一緒に狩りをする。良いな?」

「了解なのです。ショウさん。」

俺はエボル・ギアを取り出してから手に持ちエボル・ギアを発動させる。

「変身。」

【Evolve gear start GURARISU】

俺の声帯反応によりエボル・ギアを発動させたと同時に全身を灰色の炎に身を包まれ、その炎を振り払うと黒をベース複眼に黄色の複眼にシルバーのラインが入り右手には短剣を逆手に持つ鎧の戦士である【グラリス】に変身。

「これがショウさんの鎧なのですか?」

「あぁ。何か変か?」

「いえ。とてもカッコいいのです。」

「そうか。まぁ、これから、お手本を見せるからな。」

俺は気配を消しながら暴食獣にそっと近付き、短剣が届く射程距離まで近付いた瞬間、ノーモーションで踏み込みを入れて暴食獣の首元であるバイタルに短剣を突き刺すと暴食獣は苦しみながら唸り声を上げて倒れ込む。

「おぉ~。さすがなのです。」

リミカはパチパチと拍手をしながら暴食獣の目の前に近寄る。

普通だったら『きゃー』とか『グロイ』とか言われるんだがリミカは至って普通。むしろ興味深々に暴食獣に突き刺した短剣を眺めてバイタルの位置をメモしてる。

俺はその後、無線でクエ管のスタッフを呼び出し暴食獣の回収をお願いし、リミカともう1回、暴食獣の特徴と注意点と狩る時の動作をおさらいする。

「仕留める時は1発で仕留める事。モンスターをじわじわと仕留めるのは一種の命に対する冒涜であり、傷が多いと食品としての価値が下がってしまうってのがあるから仕留める時は1発で仕留める事。」

「つまり、勝負は一瞬であると言う事ですか?」

「そういう事になる。勝負時のタイミングを見計らうのもハンターとしての腕の見せ所でもある。」

「だが、ハンターランクを上げるたびに1発で仕留められないモンスターもいるわけだが、そういう時は罠を仕掛けたりすれば簡単に倒す事も出来ると言える。」

「つまり簡単な話。モンスターと言えど1つの生命。人に害を及ぼすとしても必要最低限で苦しまずに仕留めると言う事が大事なのですね。」

「その通りだ。」

どうやらリミカは理解力がある。ハンターギルドにするなら参謀役とかが良いかもしれないな。参謀役になれば、無線を通じて司令を出したり、モンスターの習性を覚えれば罠を仕掛ける役にも良いだろう。

そんな風に考えながら暴食獣を探しながら俺とリミカは茂みを歩いていると、もう1体の暴食獣を発見する。

「リミカ。おさらいした事を思い出しながら暴食獣を狩ってみろ。」

「はい。やってみるのです。」

リミカは初めての狩りに緊張しているのか無表情ながらも少し顔が強張っているようにも見える。

「大丈夫だ。危なくなったら俺が助けてやる。約束する。」

「約束なのです。」

「あぁ、約束。」

俺とリミカは、お互いに小指を出し合い指切りをしてからリミカは刀を構えながら、ゆっくり一歩。また一歩と気配を殺しながら暴食獣に近づく。

リミカは刀の間合いである射程距離まで接近した瞬間に目にも止まらぬ速さで刀を抜いた。一撃必殺の抜刀術である。

だが、しかし暴食獣のバイタルである首元は何にも起こらなかった。

失敗したか?

そう思いリミカに駆け寄った瞬間に暴食獣の首が静かに地面に落ちると首元から血しぶきが飛び散る。

おいおい。これはたまげたぜ……

コイツ。理解力が早いだけじゃなくてハンターとしてのセンスも抜群じゃねぇかよ……

「ショウさん。やったのです!私、狩りに成功したのです!」

刀を納めたリミカはさっきの緊張した顔とは異なり喜んだ顔で無邪気にピョンピョン飛びながらはしゃいでいる。

「お、おう!見事だ。俺でも剣先が見えなかった。上出来だよ。」

「有難うなのです。ショウさんがお手本を見せてくれたからなのです。」

あの剣先と言い眼力と言いリミカは本当に少女と呼ばれる年齢にしては動きが違う。

身体の身のこなし、重心の使い方、気配の殺し方と言いあの動きは熟練した奴の動き。

確かに8年前の戦争を経験した奴なら女と言えど、ある程度の動きは出来る。それにしてもだ。8年前って言うとリミカの年齢にすれば、まだ幼い年齢のはず。

それに、あの動きは自己流だけでは完成されない動き。毎日稽古を積み。実戦慣れしてる動きだ。

だいたいの新米ハンターは緊張のあまり身体が強張って上手く仕留められなかったり、目測を誤って逃げられてしまう事がおおよそなんだけどな。

「ショウさん。今日のクエストはこれで終わりなのですか?」

「そうだな。今日はこれでクエストはクリアしたからクエ管のスタッフに無線で入れて暴食獣を引き渡して報酬を受け取れば終わりだ。」

「分かりましたなのです。」

するとリミカはギュルギュル~と元気いっぱいの腹の虫を鳴らしてしまうと、モジモジしながら顔を紅葉のように真っ赤にした。

「まぁ、そろそろ腹の減り時だから晩飯にするか?」

「はいなのです!」

俺はリミカのサラサラの指通りが滑らかな頭を撫でると和んだ表情でムフフと笑顔を見せてくる。

結構、可愛い顔してるじゃねぇかよ。これだと大人になると美人になりそうな予感がするな。

「懐かしいのです。」

「なにがだ?」

「こんな風に頭をナデナデされるのは8年ぶりなのです。お父様が亡くなる8年前が最後なのです。」

「そ、そうか……」

恐らく8年前の戦争でリミカの親父さんは戦死してしまったのだろう。愛する家族を残して死んだ兵士は幾万人と居て、それと同時に残された家族も同じ数いた。

歴史に“もしも”は存在しないが、もしも俺達がもっと早くにサウザンド・デイ戦争に参加していたら戦死した兵隊も今よりも少なく、残された家族達の悲しみも少なかったんじゃないか?って思う時が今でもある。

「キェェエエエッ!!」

「「?!」」

俺とリミカは鼓膜が破れそうな甲高い鳴声に驚きながらも声の方向に身体を向ける。

おいおいマジかよ。こんな時に別のモンスターかよ。

「キェェエエエエアッ!!」

再び、あの甲高い鳴き声が聞こえたと同時に森林の茂みの陰から森林がバチバチとへし折られ地鳴りのような足音と同時に人型に似ているその物体。

「リミカ。お前は下がってろ?」

「ど、どうしたのですか?それにあの甲高い鳴き声は何なのですか?」

「悪いが新米ハンターお前には到底、手に負えないモンスターだ。」

Bランクのモンスターで草食モンスター、肉食モンスターに次ぐ凶暴モンスターと呼ばれる種族。鋭い目付きに前のめりの姿勢に手と足を地面に着いて歩き、その甲高い咆哮に似たような鳴き声。

そして、巨大の割には動きがトリッキーですばしっこいのに怪力という中々のタチが悪い。

縄張り意識が高く少しでも自分のテリトリーに踏み込まれたと思えば容赦なく襲う凶暴モンスターその名は【強獣(きょうじゅう)】と呼ばれる。

俺はすぐに短剣を逆手に取り先手を取り強獣のバイタルは胸になるので俺は強獣の胸を狙い、間合いを詰めて強獣の胸に突き刺す。

しかし、強獣と呼ばれている為、分厚い筋肉で覆われていて、更に体毛で覆われている為、強獣には致命傷とならなかった。

「やっべ!ぐあっ……」

俺は強獣にワシ掴みにされて、そのまま真っ逆さまに地面に叩きつけられる。

「っ?!まずい……逃げろ!リミカっ!!」

しかし、リミカは俺の言う通りにせず刀を抜いて構えてしまう。リミカは強獣と戦うつもりである。

「バカ!逃げろ!!」

しかし強獣は俺の声など聞くはずもなく、強獣は容赦なくリミカに突進する。

「マギア・スペル・ラリステル・マギ。現れろ!我がシモベ。ミシェル!」

リミカその呪文を唱えた瞬間にリミカの愛刀は水色に輝き出したと同時に白鳥の精霊が目の前に現れ始め、リミカは白鳥の精霊に飛び乗り、白鳥の精霊は翼を広げて飛び立つ事によって強獣の強襲を回避した。

これは……精霊術じゃねぇか?!

「ショウさん!乗ってくださいのです!」

「お、おう!」

リミカは俺が呆気に取られている間を与えず、瞬く間にリミカを乗せた精霊の白鳥が近付いたと同時に飛び乗り強獣とある一定の距離を置く。

「リミカ……コレは?」

「ショウさんは少し休んでてくださいのです。後は私に任せてくださいのです。」

「お、おい!」

俺の静止を他所にリミカは笑顔を見せながら、精霊の白鳥から飛び降りると同時にリミカは刀を抜き、着地した瞬間に強獣に向けて刀を構える。

「さぁ、掛かってくるのです。モンスター。」

「キェェエエアアアッ!!」

リミカがそう言った瞬間に強獣はリミカに怒りに満ちた表情と殺意に近い怒号を上げて、リミカに容赦ない突進を仕掛けてくる。


「マギア・スペル・ラリステル・マギ。豪雨の刃(ごううのやいば)。」

そう呪文を唱えた瞬間にリミカの愛刀は水色に輝き、刀身には清らかに透き通った水を纏った様な魔力を帯びたと同時にリミカは踏み込み、一瞬にして強獣に横殴りの豪雨の如く鋭い剣線を切り込む。

「グガァァアアアッ!!」

「まだまだ終わりじゃないのです。」

鋭くも乱れ切られ苦しむ強獣を他所にリミカは刀を鞘に納刀して構える。

「マギア・スペル・ラリステル・マギ。雫の一閃(しずくのいっせん)。」

リミカはその呪文を唱えた瞬間に周りの雰囲気は水を打った様に静まり返り。また大きな水の雫が落ちたと思える静かさでリミカは踏み込み、強獣に一撃の抜刀術を浴びせる。

「グシャァァアアッ!グォォオオっ!!」

鋭く強烈な乱れ切り、瞬きの許されない抜刀術を連続で受ける強獣。
しかしリミカの表情は眉をピクリとも動かせず無表情のまま再び構える。

「これで最後なのです。マギア・スペル・ラリステル・マギ……極大魔法。激流の大剣(げきりゅうのたいけん)。」

その呪文と共にリミカの愛刀は水色の魔力を帯びて、その魔力はリミカの体格とそぐわぬ大きさで見るからに破壊力のある刀身へと変貌。

そして、リミカは地面を蹴り上げ強獣の身長を超える高さまで飛び、その大剣を強獣の脳天を叩き潰すかの様に振り下ろす。

リミカが振り下ろした瞬間に強獣は顔を地面に叩き潰されて地面に倒れ込むとピクリとも動かなくなる。

本当にB級モンスターのランクになる強獣を新米ハンターのリミカが討伐なんて……

有り得ない事は有り得ない。それが俺の考えだが俺の目の前で起きている出来事は夢でも見ている気分だ。

「ショウさん!私やったのです!大きいモンスターを倒したのです!!」

リミカは無邪気にピョンピョン飛び跳ねながら大きな声で俺に倒した強獣を指差しながら自慢げに言う。

「っ?!危ないリミカ!!」

「……?」

「キェェエエエアアアッ!!!」

しかし討伐したかと思った強獣はまだ生きておりムクリと起き上がり怒号の如く咆哮を上げてリミカに向かって怒りの鉄拳を振り下ろそうとした瞬間。

俺は精霊の白鳥から飛び降り、ベルトのバックルを2回タッチする。

【Violet Kick the end】

ベルトから機械音が鳴った瞬間に俺の右足にエネルギーを纏い、落下しながら加速する重量を加えて俺は強獣の頭に踵落としをして脳天をカチ割り今度こそ強獣の息の根を止める事に成功する。

「大丈夫か?!ケガはないか?」

「はい。大丈夫なのです。」

「はぁ、良いか?最後に自分が仕留めたと思ったモンスターは最後は確認する事。仕留めきれずに手負いのモンスターに命を落とすハンターも少なくない。分かったか?」

【Evolve gear sleep】

俺は変身を解除してリミカに駆け寄って何処もケガをしてないか確認して、溜め息混じりでハンターとしての約束を言う。

「ハイなのです。それと、助けてくれて有難うなのです。ショウさん。」

「そりゃあな。俺はリミカの担当ハンターだからな。」

「それと……」

「それとなんだ?」

リミカは顔を少し赤くしながらモジモジと何か言いたげそうな顔をする。

「どうしたんだよ?」

「ショウさん……カッコよかったのです……」

「そうか。ありがとよ。」

カッコよかったか……久し振りに聞いたな。女の子からカッコいいと言われて嬉しくない男は居ないので、つい微笑んでしまう。

リミカは刀を鞘にゆっくりと納めると鍔の音が静かに鳴ると同時に白鳥の精霊は姿を消す。

そして俺はリミカについて気になることを聞くことにする。

「なぁ、リミカ。」

「なんです?」

「お前のその剣捌き、あの白鳥を従える精霊術。そして、あの魔法。お前は何処の出身の国なんだ?」

「……」

「装飾武器のウォーリア国か?それとも精霊を従わせるスピット国か?はたまた魔法を使うウィザー国なのか?」

「……」

「黙ってないでなにか答えてくれ。正直、困惑しているんだ。お前が10代半ばの普通の女の子には見えないんだ。確かにハンターとしての才能があるのは認める。だけど、いきなり新米のハンターが強獣を追い詰めるのは8年前の戦争を経験した奴じゃないと、あの動きは出来ないと俺は思ってる。」

「……」

リミカは何も答えず、ただ困り果てている俺を真顔でジィーっと見つめているだけ。

俺も正直言って今の自分の言動には大人げないと自覚している。だけど、何か俺の心に鋭く抉られるように引っ掛かるものがある。

「そうですね。ショウさんになら話しても良いかもしれないのです。」

今まで何も答えず口を閉ざしていたリミカが話し始める。更にリミカは話を続けるのである。

「剣術、精霊術、魔法。それは8年前に亡くなった私のお父様から教えてもらったのです。」

「リミカの父親がか?」

「はい。私のお父様は戦争で亡くなったのです。」

「それは聞いた。リミカの父親ってのは何者なんだ?」

「私のお父様は、かつて人々を恐怖のドン底に陥れ……」

「っ?!」

「8年前のサウザンド・デイ戦争を引き起こした張本人。」

「それって……まさか……」

「そうなのです。私のお父様はカイジン王。そして私はカイジン王の娘。リミカなのです。」

「カイジン王の娘……リミカが……」

カイジン王。俺はその名前を8年ぶりに聞き驚きを隠せず唖然としていた。

無理もない。8年前のサウザンド・デイ戦争で真正面から全面戦争をした総大将の娘が今、目の前に居るのだから。

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