ファウスト−FAUST-

藤田吾郎

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第1話 始まり−全てはアノ日−

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何かが追い掛けてくる。

それが何なのか俺や俺の彼女である高橋 優梨(たかはし ゆり)にも解らない。

明らかに人間じゃない事は分かる。
例えで言うとどこぞのファンタジーやSFに出てくる怪物と言った所だろう。

怪物の存在はファンタジーやSFには通用するだろうがこの現実の世界には存在するのだろうか?

だが現実に今は俺達は人間ではない怪物に追われている。

頭に二つの角を生やしその魔物の様な形相に手には長い爪おまけにその長い爪には血が滴り落ちている。

何で俺達が狙われてるかって?

そりゃ見ちまったんだよ偶然……
あの怪物が楽しそうに人を何回も何回も刺してそりゃ生々しく刺さる音が聞こえて
人が死んだかと思えば人を喰いはじめて

肉のちぎれる音
骨が噛み砕かれる音
地面には大量の血
鼻を突き刺す様な生臭い鉄の匂い……

そんなのを目の前で見て普通の人間が正常でいられるだろうか?

イヤ……絶対に無理だ。

そんなの目の前で見たら頭が狂う。
絶対に夢の中に現れるよ。
下手すればトラウマになる。


その光景を俺の隣で見ていた優梨は嘔吐した。それに気付いた怪物がゆっくり口元からニヤケ出した。俺は体が勝手にイヤ人間の本能で察した

゛逃げないと殺される゛

そして、怪物はゆっくりと少しずつ俺達に近付いてきた。まるでその目は新しい玩具を見付けた無邪気な子供の様に……

そして俺は優梨の手を取り走り出した。走っても走っても怪物は追い掛けてくる。

しばらくして何処かのビルの路地裏に身を潜める事にした。もうどれくらい走ったのだろうか……

極度の緊張で俺もかなり疲労していし、優梨もかなり息が上がっている。優梨の意識は恐怖感でいっぱいの為か顔色も悪いから俺はそっと包み込む様に優梨を抱きしめた。

「優梨、大丈夫だよ。俺がいるから絶対に優梨だけは死んでも守るよ。約束する。」

少し安心したのか優梨はゆっくり口を開いた。

「ありがとう大翔。いつもあたし大翔に守られてばかりだね」

少し微笑みながら優梨に言う。

「当たり前だろ。彼女を守るのが彼氏の役割だろ」

ちょっと照れ臭そうに優梨は返す。

「相変わらず私の為に無理して……」


どうやらもう追い掛けて来ない様なので立ち上がった瞬間に見つかってしまった。

「見ツケタ……随分ト探シタゾ……グフフ……」

無邪気に笑う怪物。

俺と優梨は再び恐怖と不安が襲い、身体全体に緊張が走る。


絶対に優梨だけは死んでも守る!

「優梨!お前だけでも逃げろ!」

「大翔は?」

「この怪物は俺が足止めするから!お前だけでも逃げろ!」

「絶対に死なないでね!大翔っ!」

そう言った後に優梨は駆け足で走り出した。

「ソウハサセナイ……」

怪物は優梨を追い掛けようとしたが、俺が思いっきり力いっぱい飛び蹴りをいれた。

「させるかよ!クソ野郎!」

「フン……煩イ奴ダ」

そう言った瞬間に俺は腹に違和感を感じた。

俺の口から血が出てきた。
ゆっくり腹を見てみると俺の腹に怪物の爪が刺さっていた。
そして怪物はゆっくりと爪を引き抜いた。

瞬間に俺の腹に激痛が走り倒れ込んだ。偶然それを見てしまった優梨。

「大翔ー!」

咄嗟に俺の元へ戻ってきた。

「馬鹿……戻っ……て……くんじゃねぇ……よ……」

「大翔を放って逃げられないよ……私……」

俺は弱々しくも悪態つくが優梨の言葉が凄く嬉しかった。

あぁ、俺って愛されてるんだな…

「ツイデニ女モ殺シテヤロウ……」

その言葉を聞いた俺はゆっくり立ち上がる。

「させるかよ……優梨だけは……俺が……俺が守るんだよ!」

俺は優梨を守るため怪物の前に立ちはだかった。

「邪魔ダ。」

その一言で怪物は俺は一蹴された。

壁にぶつかり倒れ込んだ。もう立ち上がる力もない。俺は最後の力を振り絞る。

「優梨!……逃げろ!……」

優梨は怪物を目の前に腰が抜けて逃げれない。

そして、怪物は優梨の首を掴んだ。

「グフフ…今日ハ久々ニコンナニ人間ヲ殺シタ」

「ひ……ろ……と……」

優梨は俺の名前を呼ぶ。俺は立ち上がろうとするが身体に力が全く入らない。そして怪物は長い爪をゆっくり優梨に近付けた。

「止めろー!!」


その瞬間に優梨は刺され俺は意識を失った……

俺は気が付き、周りを見渡すけど辺りの景色は真っ暗だ。辺りを見回しても真っ暗だ。まるで自分が闇に呑まれたようだ。

「ここは何処だ?それに俺は……そうだ優梨は?!」

俺は真っ暗な景色から優梨を探し始めた。
だが探しても探しても優梨は見付からない。

ただひたすら走り回り優梨を探し出す。
だが優梨は何処にもいない。

「クソッ!……」
自分以外に誰もいない空間にただ独り言の様に悪態をつく。

優梨を守ると自分の心に誓ったはずなのに……何なんだよ……あのザマは……

自分の弱さに後悔と憎しみが込み上げてくる……


守レル力ガ欲シイ……

俺の本心だ。この世で大事な人を守ると誓ったのに守れなかった自分にそうイラつく。

そして、真っ暗な闇の景色から一筋の光が見えくる。それは目を手で覆い隠したくなるような眩しい光だ。しばらくして目が慣れ俺は光を見上げてきて、そしてその光は俺に語りかけた。

『お前は力が欲しいか?』

俺は訳が解らなかった。そして、怪訝そうに光に聞く。

「お前は……誰だ?」

光はしばらく沈黙して質問に答えた。

『私か?私は全能の神ゼウスだ。』

光はあの全能の神ゼウスと答えた。

「神?ゼウス?そんなもんいるわけねぇだろ。」

『信じるも信じないも貴様の自由だが……今、貴様に夢の中とはいえ話し掛けている私は神だ。』

夢の中って……あの出来事はやっぱり本当だった。悪夢で冷める夢なら笑い話にでもなったんだけどな。そして、神に対して怒りが込み上げときた。

「じゃあ……じゃあ何で神ならあん時に助けてくれなかった!神なんだろアンタは!神ならせめてアイツを助けてくれなかった!優梨を!何で……」

俺の心の叫びを聞いたゼウス。そして俺にそっと語り掛ける。

『そうか……貴様はこの世で1番大事何で人を失ったか……』

「……くっ」


ゼウスの言葉に何も言い返せない。更にゼウスは続ける。


『奴らに復讐したいか?』

「は?」

俺はゼウスの問いに首を傾げるしかない。
どういう事だ?

そして、ゼウスは続けた。

『貴様のこの世で1番大事な人を殺したのは人間じゃない。』

「一体どういう事だ?」


俺はあの怪物は人間じゃないとは思っていた。
だが、その怪物はいったいなんなのかを知りたいのだけどな。

『知りたければ起き上がれ。ついでに力もくれてやる。』

すぐにでも教えて欲しい俺だが、神様は神様なりの考えがあるんだろうと思いつつも、やはりその力というのはどんなものかも気になる。やはり今の俺にはすぐには答えは出ない。

「そうか、わかった。だが少し考えさせろ。」

そして何かを悟ったゼウスは言った。

『良いだろう。私は待っている。いつでも来い。もし力が欲しければとあるオフィスビルの駐車場の地下に来い。道標は貴様の頭の中に焼き付ける』

そしてゼウスは俺の頭の中に待ち合わせ場所を焼き付けた。

「そうか。だいたい分かった。」

『そこに私の使者がいる』

ゼウスはそう言い残し光は消え去り、俺は再び暗闇の中に目を閉じた。



そして、俺は目を開き、見上げると白い天井、消毒液の匂いの部屋。

そして、起き上がると少し腹部が痛む。更に柔らかい枕に優しく包み込む様に乗せられた布団。

俺の目の前で座っている女の子がいる。
その姿の女の子は俺にとってはもの凄く見慣れた女の子……


それは優梨だ……


俺は重い体を歩み寄り思いっきり抱き寄せた。

「優梨……無事だったのか!良かった……本当に無事で……」

そして優梨は答えた。

「大翔……私……私……お姉ちゃんじゃないよ……」

「え?……」

俺は耳を疑った。何を言ってるんだよ?冗談なら今の俺には笑えないぜ?


「私……お姉ちゃんじゃないよ……大翔……私は妹の優菜だよ……大翔……」

俺は手を解いて答えた。

「おいおい嘘だろ?優梨?こんな時に、こんな時に冗談は辞めろよ優梨……」
優菜は涙を流しながら答えた。

「嘘じゃないよ大翔。確かに私はお姉ちゃんと似てるけど……よく見て大翔私の目の下に涙ボクロがあるでしょ?」

優菜は右の目の下の涙ボクロを人差し指で差した。俺は優菜の目の下をよく見て涙ボクロを確認した。

確かに優梨の双子の妹の優菜だ。

俺には分かる。優梨と優菜とは昔からの幼馴染みだ。

優梨と優菜は一卵性の双子の姉妹だ。
優梨と優菜はかなり似ている。そして唯一見分けがつくのが右目の下にある涙ボクロだ。

姉の優梨には無くて、妹の優菜にはある。


昔からの幼馴染みの俺と優梨は成長していくにつれてお互いに意識するようになり、そして、最初に恋心に目覚めたのは優梨の方。俺は少し後になってから恋心に目覚めた。それを優菜はその二人の恋を応援した。

そして、俺が優梨の気持ちに気付き晴れて付き合う事に……


幸せの絶頂だった。

まさかこんな事になるなんて、知るよしもなかった。俺は今、目の前にいるのが優梨じゃなく優菜なら優梨は何処に?

「優菜……優梨は今、何処に……?」

沈黙が続く…
それは重くて息が詰まりそうな息苦しい雰囲気だ。
優菜の口から開いた。

「……ちゃ……しん……たの……う……いの……」

「え?」

俺は優菜の言葉が聞き取れず聞き返した。


「お姉……ちゃ……んは……死んじゃ……って……もう……いないの……」

俺は耳を疑った。

゛お姉ちゃんは死んじゃって、もういない…゛

優梨が死んだ……
あの出来事は現実だったのか……
俺は優梨を守れなかった……
俺が弱いせいで……


そう下を俯き落胆していると優菜がまた話し始める。


「大翔……お姉ちゃんはね……打ち所も悪いし出血も多いって……お医者さんが言ってたの……」


俺が守れなかったせいで優梨が死んだ……俺が弱いから優梨が死んだ……



そして、病室のドアの外からノックが聞こえた。入ってきたのは優梨と優菜のお父さんとお母さんだ。

「大翔君!気が付いたかね!」

「ひろ君!大丈夫?」


おじさんとおばさんは俺の事を気にかけてくれた。だが今の俺には申し訳なさでいっぱいだ。

「おじさん、おばさん……優梨を守れなくて本当に、本当にすいませんでした……」

俺は深々と頭を下げた。


「何を言うんだ大翔君……君はこんな怪我をしてまで優梨の事を守ってくれたんだろ?」

「でも、俺が……俺が弱いせいで……俺が弱いせいで優梨が死んじまって……」

俺は涙を流しながら言った。そして、おばさんは俺の手を優しく包み込む様に手を握ってきた。

「ひろ君!自分ばっかり責めちゃダメよ。ひろ君も本当に死にかける程重傷だったのよ。だってひろ君は10日間も目を覚めなかったのよ。だから自分ばかり責めちゃダメ!」

おばさんの言葉は嬉しいだけど……
今の俺には素直には喜べない。そして、おばさんは優しく話し掛ける。

「ひろ君。退院したらおじさんとおばさんのお家においで。ひろ君には辛いかもしれないけど……」

「おばさん悪いですよ。だって俺……」

「ひろ君……だって今は一人暮らしだけどちゃんとご飯と食べてないでしょ。ねぇお父さんも良いでしょ?」

「あぁ、僕も大歓迎だ。」

「私もよ大翔。退院したらウチに住もうよ。」

こんなにも俺は優しい人が周りにいる事を実感した。

俺には両親がもういない小さい頃に両親を交通事故で亡くした。高校を卒業するまで施設で育ち小学の頃は学校が終わればおじさんとおばさんのやっているレストランでご飯やおやつを作ってもらい食べていて、高校卒業と同時に一人暮らしも始めた。


「優菜……おじさん……おばさん……本当に有難うございます。」

「良いのだよ大翔君。」

「良いのよひろ君。」

「退院したらおいで大翔。」


最後に俺は頭を下げた。

「おじさん、おばさん。退院したらおじさんとおばさんのお店を手伝わせてくれませんか?住まわしてくれるんですから……」


おばさんは嬉しそうに言う。

「あら良いの?ひろ君。ひろ君なら安心出来るわ」

「そうだな。ちょうど人手が足りないから募集する所だったんだ大翔君なら店は大丈夫だ。」


「おじさん、おばさん。有難うございます。」

俺はお礼を言った。


「じゃあ私達はそろそろ失礼するね。ひろ君。」

「また明日もお見舞いにくるね大翔君。」

「じゃあ明日ね大翔。」


そして優菜、おじさん、おばさんの3人は病室を後にして帰っていった。

みんなが帰った後、俺は重い体に鞭を打ち病院の屋上へと向かった。

階段を一段、また一段と上がりながら行った。まだ腹の傷が痛む。俺は腹を手で抑えながら階段を一段、また一段と上りやっと屋上に着いた。


屋上の外を見たると辺りはマンションやら住宅街。所々に森林があるし、全てを包み込む様な茜色をした夕焼けの空。空にはちらほらと星も出てきた。


その景色を優梨と一緒に見たかったな……
でも、もう優梨はいないんだよ……
もうこの手で優梨を抱く事も出来ない。一緒に笑い合ったりも出来ない。ずっとこのまま二人でいる事も出来ない。

突然過ぎる……優梨は何も悪い事はしていない。むしろ生きているのは俺じゃなくて優梨のはずだ……優梨……もし俺が死んで優梨が生きてたなら、優梨ならすぐに良い彼氏が見付かるさ。きっと……でも……でも俺は…俺は優梨じゃなきゃ……優梨じゃなきゃダメなんだよ……



「優梨っーーー!!!…うっ……うわああぁぁーー!!……うぅっ……優梨……俺が……優梨を死なせたんだーー!……優梨……」

俺はこの日……初めて大事なものを失う辛さを知った。


大事な人を守れなかった自分の弱さ……
失ってしまった悲しみ……
1人になってしまった孤独……


全ての感情に溢れてくる涙。そして決心した。

゛絶対二復讐シテヤル゛

それが俺の人生を大きく変わる瞬間だった。



それから連日に渡って警察署の刑事さんが、あの事件について聞いてきた。

でも俺の答えは決まっていた。

「暗かったのでよく見えませんでした。」


別に嘘はついてない。それに人間でもないあの怪物の話しをしたところで警察は信じないと思ったので、あえて話さなかった。


刑事さんも困った様な顔をしつつも立ち上がり踵を返す。

「わかった。また何か思い出したら私に言って下さい。」

そう言うしかなかった刑事さん。



しばらくして俺は退院し、自宅から優菜の家に移るために引っ越しの準備始めた。途中からおじさんとおばさんも来てくれたので元々荷物が少ないのですぐに終わった。

そして、日が暮れすっかり暗くなり俺はある所へ行く為に外へ出た。夜になり気温が下がり少し肌寒くなっている。夏から秋へと季節の変わり目、日中もまだ少し汗ばむ時もある。残暑も終わりに近づいてきている証拠だ。


俺の向かう所はと言うと、ゼウスが夢の中で脳に焼き付けてくれたゼウスの使者がいる。というオフィスビルの地下の駐車場に向かっている。

俺の気持ちはと言うと正直楽しいとは言えない。やはり、自分の大事な物を奪った怪物に復讐したい憎悪。自分と優梨を襲った怪物の正体の興味。その復讐の力で自分は本当の自分ではいれなくなる不安。


様々な気持ちや感情が渦巻きながら目的地へと淡々と進んだ。

目的地に着き俺は辺りを見回した。そして、俺の目に白いローブを被った中年の男がいた。そして、俺に話し掛けた。

『貴方が飯島大翔さんですね?』

中年の男の声は思っていたより低い声で俺に話し掛けた。

「あぁそうだ。」

『聞きましたよ。貴方、力が欲しいそうですね?』

「あぁ、でもあの怪物の正体も知りたい。」

『あぁ良いですよ。でも奴らの正体を聞いたら貴方は強制的に奴らと戦う事になりますよ。それでも良いですか?』

「あぁ、それで構わない。俺はあの怪物を一人残らず殺すと決めた。だってアンタらが復讐する力をくれるんだろ?」

俺の目には迷いはない。

『良い目をしていますよ。個人的にそんな人間は好きです。おっと、名前を言うのを忘れていました。私は全能の神ゼウス様の使者のヨハネって言います。普通にヨハネって呼んで下さい。』

少し遅い自己紹介をしたヨハネ。


「それじゃ、ヨハネ。あの怪物の正体ってなんなんだ?」

ヨハネは口を少しニヤッとしながら話し始めた。

『奴らは私と一緒で全能神ゼウス様の直属のしもべの使者です。』

俺はヨハネからの口からとんでもない事実を知った。俺は唖然とし、下を向いてしまった。コイツらが優梨の敵ダト……胸糞悪い怒りが込み上げてくる。

そして、ヨハネは話しを続けた。

『まぁ、使者は使者でも、ゼウス様に反逆した使者ですね。』

ヨハネの言葉を聞き怒りが収まりつつも俺は疑問を抱く。

「いったいどういう事だ?」

『私を含め私達は使者つまり天使はゼウス様の力で生みだされました。』

「あぁ、それで?」

『大翔さん貴方は堕天使って知っていますか?』

「あぁ知っている簡単に言うと悪魔だろ?」

『えぇ。大翔さんと大翔さんの彼女を襲ったあの怪物こそ堕天使なんです。』

「そうなのか……?」

俺は顔には驚きを隠せないでいた。

『大変驚いているようですね。』

「当たり前だろ。俺は元々は無論信者だからな。」

『ふふふ、でも今は信じざる得ませんよね?』

「あぁ、現に目の前に起きたしな……」

小馬鹿にした様なヨハネの言葉にはカンに障るが今は納得せざるおえない。

『堕天使とは主なる神の被造物でありながら、傲慢や嫉妬がために神に反逆し、天界を追放された天使。自由意志をもって、堕落し神から離反した天使の事です。』

「成るほど。」

『あと堕天使になった理由は3つあります。1つ目は傲慢によるもの。天界において゛自分は神を凌ぐ力を持っているのではないか゛という驕りが出てしまい、味方となる天使を集め神に対して、反旗を翻したが、結果的に敗北に終わり堕天使となってしまったもの。次に2つ目は嫉妬によるもの。神は人間に天使以上の愛情を注いでいました。当然の如くそれに反発しました。天使は炎から生みだされ、人間は土塊から、権威も無ければ力も無いのだ。そのため神に挑んだが結局は敗北し堕天使となる。最後の3つ目は自由な意志によるもの。神はもともと、天使を自分自身を尊重させるために創造したとされるが、中には神の指針に反する自由な意志を持つものがいました。実はそれを神自身が考案したもので、反する天使たちに自発的に自分を拝めさせる試みがありました。なぜなら、神は無の心中から自分自身への愛情を芽生えさせる事で、真価を見いだせたからであります。だが自由な意志を持つ天使たちに自分から服従心などなかったので、結果として堕天使になりました。以上があの怪物の正体です。分かっていただけましたか?』

そしてヨハネからの堕天使についての一通りの説明を聞きしばらく黙りながら考え込んだ。

しばらくして俺は口が開いた。

「つまり簡単に言うと主人である神に反逆し神のお気に入りの俺達人間を腹いせで殺しているって所か?ヨハネ。」

ヨハネは笑顔でニッコリと笑う。

『正にその通りです。大翔さんが飲み込みが早くて幸いでした。付け加えますと堕天使達は全部を引っくるめて゛ベリアル゛と呼んでいます。そうそう次は大翔さんが何故ゼウス様から力を与える理由を……』

「理由?ただの気まぐれじゃねえの?」

俺は少し怪訝そうに聞く。

『まぁ確かにあの方は結構な気分屋と言いますか自由人と言いますか……まぁ今回は理由がありまして、その理由と言うのは2つ程あります。まず1つ目は大翔さんは゛賢者の石゛と言うのを聞いた事ありますか?』

「聞いた事があるけど……それが?」

『賢者の石は神が造った代物。その石は神かそれか私達、天使にしか造れません。まず賢者の石の材料となるのは、人間の生き血なのです。更に賢者の石を造るには、その賢者の石の造り方を記した゛精製書゛と人間の生き血を流し込み型を造る゛精製器具゛という二つ神器が必要です。それは本来はゼウス様以外の天使達は所持をしていません。』

「悪用されない様に神だけが所持しているわけか……」

『しかし最近になってわかった事でその賢者の石を造る精製書と精製器具がベリアル達の手にあると……』

「おいおい、一体どうなってやがる本来は門外不出のはずだろ?」

『そのはずでしたが……多分ですがベリアル達が天界に追放される直前に賢者の石を造る精製書と精製器具を持ち去ったんだと……』

「そして俺にどうしろと?」

『多分、ベリアルの幹部辺りが所持しているので取り返して下さい。』

ニッコリ笑顔で言うヨハネ。


「わかった。確かにそいつを悪用されたら面倒だ。取り返してやる」

『ありがとうございます。』

なんか少しムカつくが、最後にハートが付く様にいった。

続けて俺はヨハネに問い掛けた。

「それで?ヨハネ。俺が選ばれたもう1つの理由はなんだ?」

『ズバリ大翔さん。貴方の魔力の量です』

「魔力だと?」

『えぇ。』

「いったいどういう事だ?」

『人間というのは全員が全員じゃないですがこの地球上の人間のほとんどが魔力を持っています。でも人間が魔力を発動する事はあまりありません。

だが、何かの拍子で魔力が発動されるのは、約400人に一人は魔力を持っています。でも、魔力を持っているほとんどの人間は、自分が魔力を持っているのに気付かないまま一生を終えます。

そして、魔力を持っている人で、自分が魔力を持っていると気付くのは、魔力を発動出来る人達に対して約4分の1。

更にその約4分1の人達に対して魔力が膨大な人は更に5分の1しかいません。その5分の1に入っているのが大翔さんです。』

「俺が?」

俺はヨハネの話がにわかに信じられていない。

『自分で、もあまんまり信じきれてませんね大翔さん。まあ、無理もありませんよ。今まで、普通の人間として生きてきたのですから』

「ヨハネ。お前の言いたい事はわかる。でも、正直まだ自分がこんなに魔力を持っている事がわからないんだ……」

『では、大翔さんの事で例を上げてみましょう。』

「俺の事でか?俺は今までそんな魔力を使う様な事は……」

俺が言う前にヨハネが口を挟んだ。

『では、大翔さん。何故あなたはあの怪物に重傷を負わされながら生きているのですか?』

「それはたまたま運が良かったからじゃないのか?」

『確かに運が良かったです。魔力が運よく発動したからね……』


俺は耳を疑った。運よく発動した?何故?

「なんであの時に発動した……はっ……?」

俺はヨハネの言ってた事を思い出した。


『さっきも言った様に人は何かの拍子で、魔力を発動する事があると言いました。
大翔さんで、言うと死ぬ事に対する゙危機察知゙という拍子で発動しました。本来の人間なら、致命傷になるはずの傷が魔力によって、大翔さんの身体にある全部の細胞を、刺激し修復した事により大翔さんは生きているのです。それもかなりの魔力を使ってね。例え魔力がある人でも、相当な量が無ければ回復するのにもっと時間が掛かるでしょう。』

『えぇ、私達が見た所。大翔さんの魔力は過去の人達と比べてもトップクラスの魔力の量です。』


皮肉なものだな。死にかけて魔力が開花するなんて……それは元々持っている力なのか?それとも与えられた力なのか?もっと早く魔力に目覚めていれば優梨を死なせなくてすんだのに…


『さて、大翔さん。』

「あぁ、なんだ?」

『ボッーとしていましたが大丈夫ですか?
まあ、1度に全部話しましたから考えてしまいましたね。』

「あぁ大丈夫だ。何にもない。」

『そうですか。では、最後にこれを渡しますね。』

そしてヨハネは次元を歪ませた。

そこからバイク、ベルト、手袋、携帯電話が出てきた。

「これは?」

『これが貴方の力です。まあ後は彼に任せますね。』

そう言い残してヨハネは次元の中へと去っていった。


「彼って誰だよ?」

と、俺が言った瞬間に声が聞こえた。

「ここからは私が説明します。」

「えっ!携帯が喋った!」

なんと携帯電話に手足がはえてきて話し始めた。

「初めまして、私の名前はダビデと言います。マスター。」

男性の機械音の声で深々と頭を下げた。

「マスターって俺か?」

「はい。飯島大翔様。今日から私のご主人は貴方です。」


「あぁ、そうか。ところでよダビデ。」

「何でしょうかマスター。」

なんかマスターって言われるの違和感あるなぁ……

「このベルトと手袋にバイクあとダビデの4つがヨハネの言う力なんだけど…」

「わかりました。まずこのベルトを巻いて下さい。」

俺はベルトを巻き始めた。その瞬間にベルトが体内に吸収される様に消えた。

「えっ消えた……?」

「安心してくださいマスター。ベルトは常にマスターの体内に内蔵されました。次はこの手袋を嵌めて下さい。その後に、両手を腹の部分に構えて下さい。」


「あぁ、こうか?」

両手を腹に構えた瞬間にベルトが出現した。

「おぉ!出てきた。」

「最後に私をこのベルトに入れれば完了です。」

ダビデの一通りの説明を終えた。そして俺はベルトを体内にしまい込んだ。

「ところでよダビデ。」

「何でしょうか?マスター。」

「このバイクは?」

「このバイクはマスターのです。ゼウス様からの支給品です。」

「まぁちょうどバイクも欲しいと思ったけど」

「結構現金な性格ですねマスター。後マスターはベリアル達と戦う際は゛ファウスト゛と名乗って下さい。」

「最初の前半は聞き捨てならないけど聞かなかった事にするが何でファウストなんだ?」

「ファウストというのは私の力はマスターの魔力により錬金術と黒魔術を使う力です。かつて悪魔と契約し悪魔と契約をしつつも錬金術と黒魔術を扱うファウストから名前を取りました。」

「悪魔と契約か……まるで俺みたいだな……」

「ファウストの力は魔物を錬金術で砕き全てを葬り去る力です。」

「錬金術の力……」

「はい。最後にマスター。マスターは今、ベリアルが現れたら探知するようになっています。」

「えっ!いつの間に……どうやって?」

「私がマスターと主従関係になった時からです。ベリアルが現れたら耳なりの様な音が頭の中に響く様になっています。」


「へぇー。それは便利だな。」

そう話し終えた瞬間に大翔は耳なりの様な音が頭の中に響いてきた。


「こんな感じか。どうやらベリアルが出てきたみたいだな。ダビデ!行くぞ!」

「了解です。マスター。」

俺はバイクに跨がりエンジンを掛け走り始めた。


ベリアルが白昼堂々と人間達を襲っていた。

「グフフ……人間ダ。人間ノ血ハ、トテモ味ワイ深クテ少シ甘イ。病ミ付キニナル。」

周りの人達は怪物の姿に怯えている。ベリアルの通る道にはたくさん血が流れている。まるで血の海を見ている赤く黒い血首筋からは噴水の如く血が吹き出している。まるで地獄絵図と言っていい。

「ツイデニ人間死体デステーキニシテ食ベヨウ……グフフ。凄ク美味シソウ。」

そして、ベリアルは人間の死体を手から炎を出し焼き始めた。

「俺トシテハ生焼ケノレアガイイナ……」

そう言った瞬間に一台のバイクが現れた。

そして、俺はベリアルのすぐ横を止めてバイクから降りヘルメットを取った。

「誰ダ、オ前ハ?」

「なに、魔物を葬る錬金術師だ。」

「マスター。コイツは精霊族のサラマンダーです。炎を扱う堕天使です。」

「わかった。行くぞタビデ。」

ダビデは携帯電話の姿ファウストフォンに戻り俺の右手に持たれた。

俺は両手にファウストグローブを嵌めて両手を腹部に当てるように構えファウストバックルを出現させた。

「マスター。私を開いてCLEARボタンを押しそして、ENTERボタンを押して携帯を閉じてバックルに私を入れて下さい。」

「わかった。」

俺はファウストフォンを開き、CLEARボタンを押し、さらにENTERボタンを押した。

【Standby OK Master】

ダビデの機械音が鳴った。

「変身!」

俺は掛け声と同時にファウストフォンをファウストバックルに入れて

【Wake Up Change】

ダビデの機械音と同時に白いボディーに赤い複眼、そして2本の強靭の角を生やしたファウストが誕生した。

「さぁ、裁きの時間だ。」

俺はそう言いサラマンダーに右のパンチを喰らわした。

「グッ……何ダコイツハ……?」

「オラ!もっと行くぜ!」

俺は右と左の蹴りをラッシュを入れてサラマンダーを膝を着かせた。

「フン、そんなもんか?」

「調子ニ乗ルナ!」

そして、サラマンダーは魔剣を取り出し俺に攻撃してきたので魔剣を紙一重でかわした。

「おっと!危ねえ!」

「マスター、両手の掌を合わせて、しゃがみながら地面に両手を着き、何かを出す様なイメージで手を挙げてみて下さい。」

「わかった。」

ダビデに言われた様に両手の掌を合わせ地面に両手を着きしゃがみながら、地面を着き、何かを出す様なイメージで手を挙げた。

地面から銀色の槍が出てきた。

「こ、これは…」

「マスターの魔力を使い、地面にある鉄分を錬金術で精製した槍です。お使い下さい。」

「なるほど!」

俺はサラマンダーに槍を振り回した。

「ッオラ!」

「ウッ…」

「まだまだ!」

「グヮァ…!」

俺は槍をサラマンダーの胸に突き刺した。


「コンナ奴ニ倒サレル俺デハナイ!」

サラマンダーは俺に突っ込んできた。


「マスター。また両手の掌を合わせて地面両手を着き、今度は地面から壁が出るイメージをして下さい。」

「わかった。」

俺は両手の掌を合わせ両手ん地面に着き壁をイメージした。


すると俺に突っ込もうとするサラマンダーの前に地面から壁のような障害物が出てきてサラマンダーは壁に突っ込みそのまま壁に埋もれた状態になった。

「ヌッ……抜ケナイ……」

「マスター。また両手の掌を合わせ次は右足に手を添える様に触れて下さい。」

「よし!」


俺は両手の掌を合わせ右足に添える様に触れた。

【Right Foot Clow】

とダビデの機械音と同時に右足に爪の様な物が出てきた。

「マスター。これで蹴りの威力が上がります。」

「行くぞ!」


壁に埋もれた状態のサラマンダーに蹴りをいれた。普通の蹴りの約2倍の威力だ。

「ウッ……サッキヨリ強イ」

「ッォオラッ!まだ行くぞハアアァ!」
俺は渾身の蹴りをいれて壁が崩れてサラマンダーは地面に倒れ込んだ。

「マスター。トドメを。」

「おう!」

「まず私の携帯を開きCLEARボタンを押して下さい。」

「こうか……」

俺はファウストフォンを開きCLEARボタンを押した。

【Right Foot Energy Charge】

ダビデの機械音と同時に右足にエネルギーが溜まり始めた。

「跳躍した後にENTERボタンを押して下さい。マスター。」

同時に跳躍し、ENTERボタンを押した。

【Crusher Open……】

とダビデの機械音と同時に仮面の口元から牙が出てきた。

【……Assault Strike】

アサルトストライクを発動しエネルギーを溜めた右足をサラマンダーに飛び蹴りを喰らわした。

アサルト・ストライクが直撃した。サラマンダーは爆発して跡形も無く砕け散った。

そして、俺は変身を解き元の姿に戻った。

「お疲れ様です。マスター。」

「あぁ。」

「大丈夫ですか?マスター。」

俺は自分の両手を見つめたままこう言った。
「これが……ファウストの力か……」

「そうです。」

「ダビデ。」

「何ですか?マスター。」

「俺はこの力で堕天使の連中を一人残らず倒す。」

「何処までも、ご一緒します。マスター。」


そう言い俺とダビデはこの場を去った。



だが、まだ俺はこれからの事は一切知らない。


これから待つ強敵の存在も……
一緒にベリアル達を倒す仲間の存在も……

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