雷命の造娘

第一幕

ともだち Chapter.2

　ダルムシュタット周域は、豊かな自然に囲われた穏やかな情景に在あった。
　天空は慢性的な闇に支配された魔空と化し、地上の生態系は既すでに破綻しているこの時代・・・・に……だ。
　生ける屍しかばねが害敵と徘徊はいかいし、顕現けんげんした〈怪物〉逹が覇権争いの戦火を繰り広げるこの時代・・・・に……である。
　それは稀まれな奇跡とも言える。
　その恩恵を授けているのは、領主〝ウォルフガング・ゲルハルト〟率いる〈完璧なる軍隊フォルコメン・アルメーコーア〉であった。


　町外れをぐるりと囲かこう有刺鉄線の柵さく。
　その外界には雑木林が拓ひらけ、旧暦時代の名残である舗装車道が続いている──闇暦あんれき現在では何処に続いているかは定さだかでないが。情景を呑む深い闇へと吸い込まれる道は、宛さながら地獄への一本道にすら感じられる。
　そうした開放的な空間は、旧暦時代ならば豊かな自然との協和を営いとなめる羨うらやむべき環境だ。
　さりながら、闇暦あんれきに於おいては、決して恵まれた環境と機能するとは限らない。
　世界中に徘徊はいかいしている〈動く屍デッド〉のせいだ。
　開放的な空間故ゆえに、何処からともなく迷い混んで来る。
　或あるいは、街に漂う生者せいじゃの気配が呼び寄せるのか……。
　いずれにせよ、日々〈屍デッド〉は群がる。
　今日も今日とて、数体が押し寄せていた。
「くあぁっ！」「があぁぁ！」
　しなり・・・に破れぬ金網を鷲掴わしづかみにし、威嚇いかくとも飢餓きがとも取れる獣けものの唸うなりを猛たけり続ける！
　有刺鉄線ゆうしてっせんが掌てのひらの肉を抉えぐろうと、痛覚が欠落した彼等は御構い無しだ。
　生気無く青冷めた顔からは普段の虚うつろな表情が消え失せ、鬼気きき迫る執念であるかのような本能・・だけが支配していた。
　そんな群獣ぐんじゅうを前に立ちはだかる一団──〈完璧なる軍隊フォルコメン・アルメーコーア〉の科学武装兵士ウィッセンチャフト・ソルダット部隊であった。
　彼等は金網の柵越しに対峙するも、まるで微動だにしない。直立姿勢で横並びに整列し、バリケード然と待機していた。
　上官からの命令待ちだ。
　その無機質無感情な様は、ある意味〈デッド〉とは異なる不気味さを感受させる。
「フン……毎日毎日、飽きもせずに」
　兵士達に紛まぎれるウォルフガングが、辟易へきえきとした蔑視べっしに毒突どくづく。
「排除しろ」
　右手を挙げて命じると、科学武装兵士ウィッセンチャフト・ソルダット達の後ろへと下がった。
　どうせ定番ていばんの流れ作業だ。見届ける価値すら無い。
　一斉に点る科学武装兵士ウィッセンチャフト・ソルダット達の赤眼せきがん！
　ゴーグル越しの目が標的デッドを定め、右腕の甲に仕込まれた内蔵型小銃を敵へと向ける！
　発砲──乱射──一斉射撃──！
　銃弾の雨が狂ったように乱れ飛び、死体の血肉を貫つらぬき削そぐ！
　そして、僅わずか数十秒で死体は沈黙した……。
　夥おびただしい血の池と肉片が散乱し、その中で肉塊にくかいが転がり沈む。
「フン……いつものように後始末もしておけよ。街の付近で腐敗されては衛生的に迷惑だからな」
　残骸への蔑さげすみを含んだ事後処理を指示すると、ウォルフガングは後方待機中の指揮車へと踵きびすを返す。
　こうした惨殺光景が、ダルムシュタッドでは日常的に繰り返されていた。
　いずれにしても、一時凌しのぎだ。
　正直、排斥してもキリがない。
　と、ウォルフガングは足を止めた。
　ふと感じた違和感に呼ばれたかの如く。
　科学武装兵士ウィッセンチャフト・ソルダット達が、次なる行動を起こさない。
　まるで警戒を継続しているかのように、前方を見据えたまま直立していた。
　敵は排斥したにも関わらず……だ。
　訝いぶかしみに振り返り、肩越しに目線を追った。
　地面には無数の肉塊にくかいが赤の極彩に散らばるだけ。免まぬがれたデッドはいない。
　しかし、警戒が解かれぬ理由は一目瞭然と解った。
　死体が転がる大地を黙々と歩あゆみ来る一人ひとりの女──。
　科学武装兵士ウィッセンチャフト・ソルダット達は、彼女の存在を〝新たな警戒対象〟として認識したのだ。
　線の細い美女である。
　肌は白雪のような透明感を宿し、薄く通った鼻筋は凛然とした美貌を刻んだ。こちらを見据える眼差まなざしは、好戦的な意志と物悲しい愁うれいを等しく宿している。
　白銀の甲冑が露出した上腕と腿ももの白さを色香と映えさせ、左右に大きな羽根飾りを据えた兜からは銀色の長髪が鮮やかに零れ流れる。
　左腕に構えた小型円盤盾バックラー──右手に握り締めているのは円錐槍ランスだ。
　翼と広がる赤きビロードマントは、彼女が〝戦いの子〟たる宿命の証あかしか……。
　その特徴的な出で立ちを視認するなり、ウォルフガングは正体を看破した。
「……〈戦乙女ヴァルキューレ〉か」
　北欧神界アースガルズは北欧神館ヴァルハラの聖戦士〈戦乙女ヴァルキューレ〉──主神〈オーディン〉に従したがえる清廉なる魂。
　珍しい来訪客らいほうきゃくである。
　強烈な魔気に閉ざされた闇暦あんれき世界に於おいて、神界しんかいの力ちからは遮蔽しゃへいされているのだから。
　況ましてや此処〝ドイツ〟は、神話圏では北欧に属しながらも『北欧神話』は求心力を失っている。旧暦中期には『キリスト教』の布教が浸透した為ためだ。
　そうした排斥はいせき的な環境にて、何故〈戦乙女ヴァルキューレ〉などが現れたのか……実に興味深い。
　さりながら、それ以上にウォルフガングの好奇心を強く誘さそうのは『研究材料としての価値・・・・・・・・・・』に間違いないが。
　迎撃指示を待つ兵士達を左手上げに制し、ウォルフガングは前へと進み出た。
　進み来る〈戦乙女ヴァルキューレ〉もまた、刻む歩ほを終える。
　有刺鉄線ゆうしてっせんの金網越しに対峙する値踏みと美貌びぼう。
「貴公きこうが、この街の領主か？」
「如何いかにも」
　疎うとむかのような眼差まなざしで〈戦乙女ヴァルキューレ〉は周囲の惨状へと一顧いっこを投げた。
「……酷むごい」
　零れた呟きを拾い、ウォルフガングは鼻で笑う。
「ハッ、何がだ？　奴等〈デッド〉は、所詮〝再活動した死体〟に過ぎん。我々われわれ生者せいじゃの害敵を駆除して、何が悪い？」
「仮にそうであったとしても、ここまで容赦無き必用があるのですか？」
「貴様達のように剣を交まじえて〝誇り〟を重んじろ……とでも？　クックックッ……とんだ時代錯誤だな。非効率極まりない。現代では引き金だけで充分。無数の弾幕が、敵を蜂の巣・・・にしてくれる時代なのだよ」
　内なる怒りと憐あわれみを無感情に押し殺した〈戦乙女ヴァルキューレ〉は、背後に居並ぶ兵士達へと関心を推移すいいした。
「あの者達は貴公きこうの兵団か？」
「そうだ！　我わが〈完璧なる軍隊フォルコメン・アルメーコーア〉の誇る科学武装兵士ウィッセンチャフト・ソルダット達だ！」
　物々しく猛るウォルフガングを一瞥いちべつに捨て〈戦乙女ヴァルキューレ〉は観察に意識を集中する。
　コバルトブルーの澄んだ瞳が、微々びびと霊力の光を灯ともす。
　微弱ながら〝生命いのちの波動〟は感じるが〝魂の波動〟は感じられない──即すなわち〝感情こころ〟だ。
「……人間ひとではないのですか？」
「素材もとは人間ひとだ」
「何をしたのです？」
「貴様のような化石頭に理解できるとは思わんが……『ロボトミー』というのを知っているか？　脳の不要部分を切除する外科技術だ。着目すべきは〝偏桃体へんとうたい〟と呼ばれる部位だ。コイツを弄いじる事によって、人間の感情や心すら排斥できる──『クリューバー・ビューシー症候群』や『ウルバッハ・ヴィーテ病』が好例だ。それは即すなわち〝恐怖〟や〝痛み〟すら克服こくふくできるという事。まさに〈兵士〉としては理想的だと思わんか？」
「ですが〝喜び〟や〝悲しみ〟も失う」
「不要だ」
「……そうですか」
　これだけの抗弁こうべんで〈戦乙女ヴァルキューレ〉は悟った──「この男の価値観とは平行線。永遠に折り合わぬ」と。
　失望とも憤いきどおりとも取れる一息ひといきを吐くと、彼女は臨戦意思に武装を身構える！
「我わが名は〝ブリュンヒルド〟！　主神しゅしん〈オーディン〉に仕つかえる〈戦乙女ヴァルキューレ〉の名に於おいて、貴公きこうの悪行を裁く！」
　凛々しくも気高き名乗り！
　そして、彼女は地を蹴った！
　超人的な跳躍に高々と舞い、境界線とする金網柵かなあみさくさえ無意味と飛び越える！
「撃てぇぇぇーーっ！」
　上官が右手を上げるのを合図に、科学武装兵士ウィッセンチャフト・ソルダット達が新たなる標的ターゲットを捕捉ほそくした！
　上空へと翳かざした拳こぶしが火花を狂想曲と奏かなで、無数の銃弾を乱射する！
　さりながら、ブリュンヒルドの回避は超人的であった！
　まるで四方が足場と云いわんばかりに、軽やかな体捌たいさばきで宙を踊る！
　それを撃ち抜くのは、大気に浮かぶ羽根を矢で射抜くかのような難行であった！
　運良く捕らえた弾丸も、小型円盤盾バックラーによって弾かれてしまう！
　悠然と敵陣の中へと着地する戦乙女ブリュンヒルド！
　然されば、一呼吸ひとこきゅうの間すら置かずに駆け屠ほふる！
「おおおぉぉぉーーっ！」



「お姉ちゃん、寄ればいいのに」
　家の庭先までマリーを届けた〈娘・〉は、そこで別れる事とした。
　名残なごり惜おしむ幼女は、不服そうに唇くちびるを尖とがらせる。
「わたし、お母さんにも紹介したいのよ？　だって、もうずっと〝ひみつのおともだち〟なんだもん」
「うん、ありがとう。でも、ダメ……」
「どうして？」
「怖がる」
「顔のこと？」
「うん。体も……」
　上腕の接つぎ痕あとを眺めた。
　無感情ながらも、眼差まなざしは悲しげに愁うれう。
「平気よ。こわいのは、最初だけだもん。わたしが、お母さんに言ってあげる。お姉ちゃんは、やさしいんだって」
「ありがとう」
「ね？　だから一緒に行こう？　あ、そうだわ！　今日はお泊まりしましょう？　そうすれば、お母さんだって、お姉ちゃんの事が分かるもの。うん、いい考えだわ！　ね？」
「ありがとう。でも、ダメ」
「え～？」
「また今度……」
　愚図ぐずる少女を納得させるために〈娘・〉は、また嘘・をついた。
　いつまでも「今度」など無い。
　訪おとずれる気は無い。
　自分は訪おとずれてはいけない・・・・。
　何故だろう……これだけで胸がチクチクと痛い。
　その時、家の玄関が開いた。
「マリー？　帰って来たの？」
　母親だ。
　病床びょうしょうに患わずらわされるが故ゆえに、常時着ている寝間着ねまきの上からガウンだけを羽織っていた。
「あ、お母さん！」
　マリーの顔が明るくなる。
　絶好の機会だ。
　鉢合わせた以上、もう〝お姉ちゃん〟は逃げられない。
「勝手に出て行って、こんな時間まで……心配したんだよ？」
「は～い、ごめんなさい。ね、ね、それよりも──あれ？」嬉々ききと振り返るも、そこには誰も居なかった。「……お姉ちゃん？」
　キョロキョロと周囲を見渡すマリーは、やがて母親に連れられて家の中へと入っていった。
　その様子を屋根から見届けた〈娘・〉は、温かな灯りに優しく微笑ほほえみを捧ささげる。
「おやすみなさい」
　そして、跳とんだ！
　超人的な脚力で！
　闇空あんくうの巨眼きょがんに届かんばかりに、高々とした跳躍を繋つなぐ巨躯きょく！
　屋根や高木を足場に、向かい風を裂き続ける！
　と、不意に〈娘・〉は足を止とめた。
「……銃声」
　常人には捕らえられない微弱びじゃくな喧騒けんそうを聞き取る。
　更に意識を集中し、その方角を特定した。
「南方……町外れ……戦っている……」
　風に運ばれる音が〈娘・〉に哀しさを抱いだかせる。
　また誰か・・が傷付く──自分と同じように────。
　そう思うだけで、胸が苦しくなった。
　さりとも、そんな想いを愁うれいたところで、何の救すくいにもなりはしない。
　闇暦あんれきとは、そんな世界だ。
　どこまでも不毛な時代である。



「ハアッ！」
　華麗且かつ勇猛に、戦乙女ブリュンヒルドは戦舞せんぶを踊る！
　奮ふるう円錐槍ランスが凪なげば数体の敵が弾き飛ばされ、渾身こんしんに突けば風穴が開いた！
　一時いっときといえども、一ヶ所には留とどまらない！
　駆けて、駆けて、駆け抜けて──刹那せつなの瞬間に貫つらぬく！
　その戦いぶりは、まさに疾風迅雷しっぷうじんらいの如ごとし！
　次々と機能停止へと陥おちいる科学武装兵士ウィッセンチャフト・ソルダット達！
　実戦に培つちかわれた技量の前には、定石情報処理プログラミングに基もとづいた戦闘対応論法マニュアルなど無意味！
　だが──「フン……さすがに〈神の戦士〉という肩書は伊達だてではないか」──ウォルフガングは冷静然と分析した。
「コードＶブイへ移行しろ」
　軍服の襟へと仕込んだマイクロマイクに改めて指令を下す。
　点ともる赤眼せきがん──大破した者を除のぞいて、全兵士が再起動リブートした。
　その違和感は〈戦乙女ヴァルキューレ〉にも伝わる。
「……何だ？」
　敵が間合いを取り始めた。
　先刻までの密集戦とは明らかに陣形が異なる。
　気付けば彼女一人ひとりを取り囲むように再構成されていた。
　そして──！
「うあぁぁぁーーーーっ！」
　四方八方から踊り迫る電撃！
　科学武装兵士ウィッセンチャフト・ソルダットは銃弾攻撃を止やめ、前腕部コイルからの放電攻撃プラン『コードＶブイ』へと推移したのだ！
　青く迸ほとばしる光舌こうぜつが、毒蛇と化して全身へと噛み付く！
「ああっ！　うああっ！　あああぁぁぁーーっ！」
「対電極──即すなわち、標的に収束されるとはいえ、その間に於おいて電撃は網形状に拡散する。如何いかに貴様が素早かろうと、広範囲の射程からは逃のがれられまい……クックックッ」
　進み出たウォルフガングが、優越に嘲笑あざけわらった。
「こ……れは……〈雷神トール〉の力ちからか……クウッ！」
「科学・・だよ。古くは〝ベンジャミン・フランクリン〟が着目し、そして〝ニコル・テスラ〟が飛躍的に拡張させた──如何いかなる時代でも、科学に於おいて〈電気〉は絶対的な基盤だ」
「人……間が……クッ……〈神〉の領分を……侵そうなどと……思い上がりも……うあぁぁぁーーーーっ！」
　挙げた右手に電圧が上がる！
　生身であれば一瞬で黒焦くろこげとなっていたであろう。
　さりながら〈戦乙女ヴァルキューレ〉は、魂が具現化した戦士──半実体半霊体的な特異存在だ。
　故ゆえに、幸運にも死刑を免まぬがれていた。
　否いな、むしろ不運であるやもしれぬ。
　生きながらにして、悪意の拷問に晒さらされ続けるのだから……。
「さて……」ウォルフガングが冷徹な観察視を注いだ。「北欧神館ヴァルハラの聖戦士〈戦乙女ヴァルキューレ〉よ……私は、いま悩んでいる」
「な……に？」
「貴様は貴重な実験台・・・だ。その存在を解析して科学武装兵士ウィッセンチャフト・ソルダットへと還元フィードバックすれば、我わが〈完璧なる軍隊フォルコメン・アルメーコーア〉は更さらなる飛躍発展を遂とげる。しかしながら、貴様は独ひとり……故ゆえに悩んでいるのだ」
「何を……クゥ……言っている！」
「つまりだな？　貴様を脳改造ロボトミー化して私兵へと組み込むか──それとも、細切れにしてプロセス解析へと回すか──だ。貴様自身は、どちらがいい？」
「ふざける……ぅあああっ！」
　更さらに電圧を上げ、反抗心を黙らせる！
　悉ことごとく無力化させられる口惜くちおしさに、ブリュンヒルドは悔くやしさを噛んだ。
（汚けがらわしい！）
　清廉なる高潔が、己おのれの辱はずかしめを嘆なげく。
（汚けがらわしい！　汚けがらわしい！　汚けがらわしい！）
　彼女の心が忌避きひに拒絶するのは当然だ。
　普通の男ならば、無抵抗と化した彼女を前にして性的欲望リビドーすら抱いだくところであろう。
　それだけでもゾッとする汚けがらわしさだが、この男にはそれすら無い・・・・・・。
　有るのは、徹底して相手を実験台モルモットと蔑さげすむ狂気だ。
　だからこそ、汚けがらわしい！
　魂そのものが汚けがらわしい！
　真性の汚けがらわしさだ！
「まぁ、いい。連れ帰ってから、ゆっくり考えるさ」
　踵きびすを返して、右手を挙げた。
　これまで以上の電撃が狂い咬む！
「ぅあぁあぁあぁぁぁぁぁーーーーっ！」
「心配するな。殺しはせん。意識果てるまで浴びせるだけだ」
「いや……いやあぁぁぁーーっ！」
　聖女の悲鳴が闇空やみぞらを染めた瞬間──ズシャアアァァァ──突如として濛々もうもうたる土煙が噴ふき荒あれる！
　爆発力に拡散した土の粒子が、電撃を掻かき消した！
　その正体は、天空より降って来た影！
「何っ？」
　想定外の乱入者に狼狽うろたえるウォルフガング！
　女・であった！
　約二メートル弱の体躯たいくをした大きな女・であった！
　伸び荒れた黒髪で右顔を隠し、襤褸ボロの長外套ローブで裸身らしんを覆っている。
　そして、色白く覗のぞける肢体したいは、醜みにくくも継つぎ接はぎだらけだ。
　粗暴そぼうと美麗びれい──相反あいはんする印象が共存するのは、露出した左顔が繊細な美貌びぼうを刻むせいだろうか。


　これが〈娘・〉と〝ウォルフガング・ゲルハルト〟との初接触ファーストコンタクトであった。