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~第三幕~
呪后再生 Chapter.7
しおりを挟む「無様だな、ペルセウス?」
「ハァ……ハァ……グッ!」
邪悪な仮面呪術師は嘲りを注ぐ。
満身創痍と地を這う勇者……その背中へと叩き込まれる巨拳の追い撃ち!
虫ケラを無作為に潰すが如く!
「ぐあっ!」
忌ま忌ましさを肩越しに睨み据えれば、醜怪な巨影は〈冥界巨人〉のように威圧と聳た。
無数の体によって集合構築された怪物。
各体は部位構成によって、不自然に折られ、裂かれ、融合していた──残酷極まりない部品素材である。
それが何かは語るまでもない。
あの〈ミイラもどき〉だ。
二大勇者によって駆逐された肉塊は、仮面呪術師によって再利用されたのだ。
だがしかし、ペルセウスの嫌悪はそこに無い。
「……ぁぁぁ……」「……ぉぉぉ……」「……ぅぅぅ……」
掠かな声が苦悶の重奏を絞り出さす。
生きていた!
その〈霊〉は!
「スメンクカーラー……どこまでも下劣な!」
「下劣? ああ、コレの事か? プロセス的には同様だ。内に囚われし〈霊〉は同梱された〈死霊〉により恐怖を無間地獄と味わい、その負念が活動源と転化される。そして、その集合体であればこそ、これだけの巨体に相応しい爆発力が供給可能なのだよ。いや、むしろ還元効率は上がったか? 何せ今回は果てぬ苦痛が加味されるからな……クックックッ」
「貴様は!」
「憤る意味が判らんな? 所詮は有象無象の凡百……生きていても歴史に影響を遺すほどの存在価値には在るまい? なれば未来を築く礎石となれれば本望であろう? そう、歴史に〈未来〉を築けるこの〈真王〉に!」
「驕るな! 私利私欲の独善者風情が! 歴史は、そうした者達の幸福によって紡がれ──ぐあっ!」
「そうした者達によって潰されろ」
抵抗の術すら発揮出来ぬ死に体へ、容赦無き巨拳の滝が殴りつける!
殴りつける!
殴りつける!
殴りつける殴りつける殴りつける殴りつける殴りつける殴り殴り殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴!
「グ……ッ……ア!」
辛うじて死なずに済んでいるのは〈女神アテナ〉から授かった黄金盾による守護だ!
それでも桁外れの圧は押し潰す!
果てる兆しも無い鉄槌の豪雨!
如何に神具の加護とはいえ、はたしてどこまで保つ?
「……ぁぁぁ……」「……ぉぉぉ……」
乱打の轟音に紛れる苦悶が懇願にも聞こえる。
それが勇者には痛々しく、心苦しく、そして、腹立たしかった──救えはしない。
「クックックッ……ハハハハハハ……アーハッハッハッ!」
すっかり勝ちを確信したスメンクカーラーが高笑いに酔った直後!
「……何っ?」
一転、驚愕!
黒い雷が醜怪なる巨体に降り注いだ!
貫いた!
室内にも拘わらず!
有り得ぬ裁き!
「……ぁぁぁあああ……」
燃え崩れる巨怪が発した断末魔は、はたして消滅の悲鳴か……或いは解放への感謝か……いや、おそらく後者であろう──ペルセウスは、そう願うのであった。
(それにしても、一体何が?)
回復させた冷静な判断力が出所を視認に追う──「なっ?」──慄然!
同時に、それはスメンクカーラーも体験していた!
女であった!
中空に浮かび立つ女の姿であった!
「……まさか?」
仮面に隠された目力が驚愕に捉えたのは、間違いなく見覚えのある異端!
「まさか」
疑念。
「まさか!」
焦躁。
「まさかまさかまさかまさか!」
腹底からの否定!
「ヤツは……ヤツは!」
気圧されたかの如く後退るスメンクカーラー!
「……呪后!」
戦慄に血の気が引く!
甦らせてはならない災厄!
何故、此処に?
目は語る──久しいな謀反者よ。
瞳は語る──浅知恵による姦計、実に愚かしい。
眼差しは語る──だが、そのおかげで我の再生は叶った。貴様の手柄だ。
意思は語る──褒美だ。今度こそ消滅させてやろう。
「何故だ! 何故、自己再生できた! 肉体も無しに! 如何に貴様とて、肉体という物質無くして現世復活など……ッ!」
自らの言葉で思い当たった。
「ま……まさか?」
心当たりがある!
だが! よもや?
いや、物語っているではないか!
あの手にした錫杖が!
折ったはずの……突き立てたはずの錫杖が!
何故、アレが事も無げに復元している?
スメンクカーラーよ……オマエは誰に突き立てた?
「ヴァレリア……アルターナ!」
不覚であった!
しかし、誰が予測できようか?
己の身を差し出すなどと!
それも怨敵に!
「クッ! またも蘇ったか……呪后よ!」
「…………」
不意に明後日の方から邪魔立てる雑音に物言わぬ瞳が醒めて返す。
まるで路傍の石コロでも見るかの如く……。
「相変わらずの無感情だな。下手をすれば、紀元前に交えた事さえも忘れたか!」
──嗚呼、成程。
──あの時の〈ギリシア英雄〉であったか。
──確か〝ペルセウス〟とか名乗っていたか。
──別段、貴様に興味は無い。
──我の関心は、コイツだ。
再び見据え直すは業腹なる策謀者〈仮面呪術師〉。
反目ややあって地表へと降り立った呪后は、醒めた戦意に状況を見渡す。
ふと傍らに意識を逃せば、死に体の西洋娘。
それに寄り添う赤髪の魔女は自らも地に這いながら懸命に治癒魔力を注ぎ込んでいた……眼前の脅威に敵意の警戒を睨めつけて。
「クッ……呪后!」
興味は無い。
再び関心を金髪の小娘へと滑らせる。
甘く熟れた唇から溢れ零れるは大量の赤──その痛ましい姿に心が激しき波紋を狂わせた!
──荒れるな。
沈着の理性が魂を諌める。
そして、ゆるりと輝掌を贄に向けた。
「呪后!」
戦慄を咬むメディア!
為す術無し!
満身創痍に加えて、呪文詠唱の隙も無い!
詰みだ!
思わず身を呈してエレンを抱き庇っていたのは〝人間〟としての片鱗──超常異能者とはいえ〈勇者〉の根は〝人間〟だ。コイツら〈バケモノ〉とは違う。
尤も、それが何になろうか?
どうせ消される……共々に。
が、死刑執行の瞬間は訪れなかった。
消滅の破光に呑まれると覚悟を決めていたものの呪后の輝掌から放たれるは春風のように穏やかな波動……。
その温光は死の淵に彷徨う少女の身体を包み込み、次第に安らかな眠りへと誘うかのような弛緩に落ち着かせた。
「嘘……でしょ」
密着に灯るエレンの容態を見て、思わず魔女は声を漏らす。
驚愕に呑まれるのも無理はない。
消えたのだ!
瞬時にして!
エレン・アルターナを蝕んでいた致命傷が!
ひとつ残らず!
横たわるは血糊ひとつ残らずの麗らかな肢体。
まるで寝ていただけかの如く……。
「……ぅ……ぁ……」
微かに唇から洩れる声……ピクつき始めた瞼……目覚めも近い。
(治癒魔法ではない! 仮に治癒魔法であれば、回復行程に大なり小なり時間を要する。瞬時にして全快などは有り得ない! こんな治癒魔法は知らない!)
警戒と分析を乗せた視線が改めて怪異を睨み据える。
心理を読んだかのように呪后は回答を思考に巡らせた。
魔女ではなく、復活に内在した〈魂〉へと向けて……。
──治癒ではない……転移だ。
──物質的な傷だけではなく〝傷を負った〟という因果律そのものを転移させた。
──傷はおろか痛みひとつ残らぬ。
──何せ〝無かった事〟となったからな。
──そして、転移の先は……。
メディアの背後に鮮血の破裂が噴いた!
「え?」
唐突な違和感に呼ばれるまま振り向けば……そこには致命傷に喰われて沈むアンドリューの姿!
「なっ!」
寸分違わぬエレンの傷が、アンドリューに刻まれていた!
──少しは背負ってやれ。
──娘達の痛みを。
弾劾の眼差しが冷徹を注ぐ。
内なる魂は新たな揺らぎに燃え猛ったが、それは知った事ではない。
小用を済ませたりとばかりに改めて室内を展望する。
──……狭いな。
それだけを拾うと錫杖を高々と翳した!
先端部の黄金円盤に刻印された巨大な単眼が意向汲んだりとばかりに破壊を顕現させる!
黒い電光!
無数の雷蛇が盲目に暴れ狂い、周囲の石壁や天井を嘗め走った!
破壊の舌!
そして、戦場は吹き晒しと拓いた。
仰げば闇天、外気は妨げる障壁も無く撫で過ぎる……残ったのは床面のみ!
僅か数秒にして、これだけの大破壊を発現させたのである!
それは開戦の下準備のみに非ず!
圧倒的な力量差の誇示でもあった!
──さて、始めようか……裏切り者?
「クッ! 嘗めるな! 呪后よ! 現状の私は脆弱な〈スメンクカーラー〉ではない! 真理を超越せし〈ジャジャ・エム・アンク〉なのだ!」
──能書きはいい。
──どちらでも同じだ。
ふわりとした浮遊は、ややあって矢と化し高空へと射抜いた!
後を追う〈スメンクカーラー〉……否〈ジャジャ・エム・アンク〉!
紀元前の持ち越しが此処に雌雄を決する時!
エレン・アルターナは、もう心配ない……そう判断した魔女はアンドリューの治癒に集中した。
(重傷ね……そりゃそのまま移植されたんだから、そうか)
虫の息──過呼吸のような荒げにアンドリューは虚空を喘いでいた。
(なまじい意識が果てていないだけに、エレン・アルターナよりも苦しみは増している)
とにかく治癒魔法を注ぎ続けるしかない。
現状は、それしか無かった。
と、背後へ二大勇者が歩み来た。
満身創痍を共に肩預けに支え合いつつ……。
「どう思う?」
ペルセウスが魔女の見解を求める。
肩越しに簡潔を回答した。
「全快させる事自体は容易だけど時間は要する……それまでは、この死罰めいた苦しみには晒され続けるしかないわね」
「そうではない」と、憐れな男へと一瞥──すぐに関心薄く返ったが。「呪后だ。最も怖れていた存在が復活した」
「追わないのかよ? 爺さん?」
肩越しの指摘には苦笑いに首を振るしかない。
「如何に〈飛翔靴〉とはいえ高空過ぎる」
「白天馬でも連れて来れば良かったわね?」
一転、引き締まったペルセウスは再び闇を仰いだ。
「だが、どうやって? スメンクカーラーの話では『復活計画』とやらは失敗に終わったはずだ」
「さて……ね。だけど、スメンクカーラーは驚愕に漏らしていた──『ヴァレリア・アルターナ』と。だとすれば、アレは〝ヴァレリア・アルターナ〟を依代として復活した……と考えるべきでしょうね」
聞き捨てならない顛末にヘラクレスが怒声を吐く。
「ちょっと待て! 呪后が〝ヴァレリア〟だと? じゃあ、ヴァレリアは乗っ取られたって事か?」
「おそらくね」
「問題なのは、そこではない」渋い顔で闇天を睨み据え続けるペルセウス。「我々が相手取るのは、どちらだ?」
その懸念にギリシア勇者全員が視線を追った。
古の禁忌〈呪后〉に、もはや超越者となった〈スメンクカーラー〉……どちらが相手でも苦戦は免れまい。
「アレが……姉さん?」
不意に聞こえた鈴音に一同はハッと注視を向ける。
目覚めに仰ぐエレン・アルターナであった。
そして、その〝事実〟を噛む者が、もうひとり……。
(……ヴァレ……リア……)
アンドリューの巡らす思いは、誰にも気付かれなかった。
遥か高空の超常戦は誰にも邪魔立てされぬまま展開していた!
唯一の傍観者は、背景と演出する巨大単眼……。
宛ら〈魔王の御前死合〉の如く…………。
「輝身星射!」
全身発光を帯びたスメンクカーラーが仰々しく両腕を広げれば、解放を急いていた息吹は幾多もの光矢と化して呪后へと掃射された!
まるで『地表の流星群』と呼ぶに相応しいまばゆさながらも、反して授けるは無慈悲なる破壊と根絶!
四方八方逃げ場無しとばかりに迫る煌めきに、しかし呪后は動揺も焦躁も無縁とばかりに涼しい。
──喰らえ。
彼女の周囲に生まれる無数の闇球。
それは恰も〈使い魔〉の如く迎撃に飛び散り、確実に光撃へと喰らいついた!
接触すれば相殺に消滅し、何事も生じていなかったかのような平静が場に甦る。
一輝残らず闇が喰らった。
だが、それで終わりではない。
直後、スメンクカーラーを包囲するかのような陣形に闇が出現した!
先程の闇が!
そして、喰らったものを吐き出し返す!
自らが放った無数の光矢は、一転、スメンクカーラー自身を殺傷する集中掃射と浴びせられた!
「チィ!」
即座に呪印詠唱!
理への解放に輝撃を拡散させた!
役割を終えた闇球も魔界への帰還とばかりに霧散する。
──貫け。
意思に呪后がクンッと二指を突き立てれば、眼下の砂漠は大瀑布逆流の如き勢いに噴き上がる!
「何っ? ガハッ!」
気付くも遅し!
高密度に固まった砂槍は岩同等の硬度で突尖を貫く!
串刺し刑!
股ぐらから脳天までをブチ抜かれ肉塊と爆散する仮面呪術師!
眼界に散り漂うは汚らわしき血肉。
さりとも死んではおるまい──そう看破するからこそ呪后にも油断は無い。
はたして的中!
中空の肉片は滞空に留まり、その総てに口が膿んだ!
「「「「「燃える血」」」」」
異口同音に耳障りな火刑宣告!
微かに付着した返り血が種火と咲き、みるみると経帷子引火の勢いに育つ!
──ッ!
灼熱の炎柱に芯と呑まれ、しなやかな肢体は断末魔の影を踊った……。
「クックックッ……経帷子が仇となったな呪后よ? 我が血とは相性がいい」
見届ける目を核として肉片が集合し、在るべき人型へと繋がっていく──復活。
悲願たる異能力〈ジャジャ・エム・アンク〉との憑霊融合を果たしたスメンクカーラーは、やはり、かつての存在とは根本から異なっていた。
人外──そう呼ぶに相応しい!
否、そうとしか形容できない!
それが証拠に、見よ!
遂に呪后すら下したではないか!
仇敵である呪后さえも!
……下した?
なれば、アレは何だ!
確かに呪后は消し炭と燃え朽ちている。
火勢の鎮まりと共にボロボロと黒は崩れ落ち、地表へと呑まれている。
なれば、アレは何だという!
あの錫杖は!
何故、朽ちぬ!
何故、落ちぬ!
そして何故、毅然と立っている!
黄金盤の単眼がギョロリと照った。
それを皮切りとして高速に飛翔する!
「何? グッ! ど……何処から……ガッ!」
右から! 左から! 上から! 下から!
そして、背後から!
金色の奇錫は縦横無尽に闇空を駆け、変幻自在な殴打にスメンクカーラーを玩んだ!
「クッ……調子に乗るな!」
反撃の呪術に転じようと試みるも標的捕捉が叶わない!
速過ぎる!
細過ぎる!
焦りを嘲笑うかのように乱打は奇襲した!
一撃に離脱し、また見失っては殴り掛かる!
「こ……この……グハァ?」
さては飽きたりとばかりに痛恨の一撃を腹に叩き込むと、錫杖は円盤回転に間合いを離脱した。
ピタリと止まれば、次第にそれを掴む人影が浮かび上がる。
呪后だ。
再生された姿は何等傷を負ってもいない。
燃やされる以前のまま……。
経帷子も含めて……。
──所詮、貴様は肉片から再生する程度。
──だが、我は〝消し炭〟からも再生する。
「ぬぅぅ……じゅごぉぉぉおおぅ!」
憤怒の睨めつけは、同時に焦燥への憤りでもあった。
内からの観察に、ヴァレリアは理解した。
(成程な……道理で自信に満ちあふれていたワケだ)
想起するのは呪后の言葉──あの程度だ──到底、我の敵ではあるまい──もっとも〈完全体〉でも同じだがな──。
(何故、そこまで過信できたのか……確かに無比な呪力も大きいだろうさ。だが、真に驚愕すべきはそこじゃねえ)
浮かべる苦笑に微かな皮肉を含ませる。
(そりゃ無敵なワケだぜ……息をする事や手足動かすのと同じだもんなぁ?)
誰しもが見落としがちな決定的差異を、若き探求者は見つけ出していた。
(コイツは……呪后は……呪文詠唱すらも必要としていない!)
それは自尊を傷つけられた激昂か。
或いは、埋まらぬ力量差を直視した事による慄然か。
ともかくスメンクカーラーの胸中は嵐と荒れた。
(ありえん! ありえんありえんありえんありえん! 我こそは〈ジャジャ・エム・アンク〉なるぞ!)
頑なな現実拒絶。
その様は哀れなほどに……。
(憑霊術が不完全であったか。そもそも献上せし贄は屑ばかりの寄せ集め……無理もない)
なれば、どうする?
このままでは勝機に足りぬ。
ふと眼下に視線を落とした。
視認は叶わぬが、遥か下界……起点となった遺跡にはいる。
それを思い起こせばこそ、策謀はしたりと含んだ。
(……足すか)
呟きに呪文を紡ぐ。
眼前の敵に覚られぬように。
小声に綴る早口に、指先だけの所作。
こじんまりと縮こまり顔を伏せていれば、屈辱を噛み締めて失望に堕ちているとも映ろう。聞き取れぬ詠唱は失望の呪詛と聞こえるだろう。
それでいい。
せいぜい油断していろ。
一時の優越感などくれてやる。
そして、発動の時!
最後の仕上げとして、地表へ向けて呪掌を開放した!
「魂贄!」
膨大な思念圧が降り注ぐ!
途端、王墓に残る者達はガクンとした吸引感に襲われた!
ペルセウスも──ヘラクレスも──メディアも──アンドリューも──そして、エレンも────。
「な……何だ? 何が生じているというのだ! この不快な違和感は?」
「吸われているのよ! 私達の〈魂〉を! 搾取されている! あの信徒達と同じように!」
「あぁ? どっちだよ! 〈スメンクカーラー〉か! それとも呪后か!」
「知らないわよ!」
慄然に狼狽つつも、メディアは死に体のアンドリューを庇った!
「ぅ……ぅぅ……姉さ……ん……!」
「チィ! エレン!」
駆け寄るヘラクレス!
非力に虐められる小鳥を保護するかのように、隆々たる逞しさが籠と被った。
「あ?」
「気にすんな……クッ……俺はタフだけが取り柄だ」
上空からの異質は身を以て鎖す!
神力をも結界と絞り出す!
小匙一杯もくれてはやらねぇ!
この娘の……エレン・アルターナの命は!
ジワリとした恐怖を帯びて脱力感が齧りつく!
蝕む!
そして、宙に貪る仮面は口角を吊り上げるのであった。
(嵩増し……しかも、今度の搾取対象は総じて上質だ)
だが……。
──断て。
呪后は虚空を確固とした地面に錫杖尻を叩いた。
奏でに生じた振動は湖面の波紋のように広がり、不可視の遮蔽床を敷き広げる。
「なっ!」
そして、閉ざされた!
邪念の管糸が!
呪后の意思のままに!
改めて慄然を咬むスメンクカーラー!
またも起死回生を潰され、ようやく自覚する。
(……勝てない! 今生に於いて、この差は埋まらぬ!)
──身に染みて解ったか?
──格の差を……。
嫌が応にも認めざる得ない。
現在は!
(なれば……なれば、まただ! また次の転生にて賭ける! リセットだ! ここまで育成した〝イムリス〟を破棄するには口惜しくもあるが……総てを無に帰す! あの時と同じように! 無論、貴様もだ! 呪后!)
相討ち覚悟に腹を決めると、スメンクカーラーは天空を仰いだ!
黒月の領域と閉ざされた遥か先を!
仰々しく両腕を広げ、自らを道標と示す!
「天よ嘆け! 地を抉れ! 川よ枯れよ! 我が障害を燃やし尽くせ! 大流星雨!」
黒雲が火照りを孕む!
裂いて顔を出すは宇宙よりの鉄槌!
隕石!
──また、それか。
あわてふためく事も無く呪后は錫杖を回す。
黄金盤の単眼は軌道に呪光を刻み残し、それはそのまま単眼魔方陣と形成された。
突き出した掌が念に掴み、頭上水平へと運ぶ。
広がる!
遅々と落下して来る威圧を呑み込まんと、天空に単眼陣が拡張する!
これもまた紀元前の再現宜しくだ!
だがしかし──「子散爆裂!」──高々と翳した呪掌を握り潰せば、追加呪術に隕石は砕け散った!
灼炎の破片が降り注ぐ!
広範囲に落下せんと!
頭上に広がる赤炎の絵画は惨劇の豪雨!
対象は無差別!
総てだ!
己自身も含めて!
総てを道連れにする!
我が意にそぐわぬものは!
我を侮辱したものは!
今度こそ思い知るがいい! 世界よ! 歴史よ!
我こそが〈王〉なり!
紅蓮の絶望は地上の者達も見定めていた。
「メディア!」
即座にペルセウスが指示を出すも、頼み綱は冷めた諦めに首を振るだけ。
さすがに規模が違い過ぎる。
受け入れるしかない……もはや抵抗は無意味と。
……たった一人を除いて。
そう、たった一人を!
──逃すな。
またも錫杖に虚空を叩くと単眼魔方陣が分裂した!
災厄と同じ数だけ!
そして、宙を滑り走れば各々が確実に降下座標へと待ち構える!
一欠片も残さぬ捕食!
斯くして地上は事無きままに……。
何事も生じぬままに……。
「バ……バカな!」
──呪力の底上げが貴様だけと思うたか?
──フフフ……愚かしい。
──そもそも貴様が授けたのだぞ。
──どうやら格段に相性が善い。
──我が〈魂〉と……。
──その意志力は…………。
ワナワナと驚愕に打ち震えつつも、紅玉石の獣瞳は見た!
呪后の内に燃え盛る新たなる〈魂〉を!
(やらせねぇ……)
(絶対にやらせねぇ……)
(妹には手出しさせねぇぇぇーーーーっ!)
「ヴァ……ヴァレリア・アルターナ!」
気迫呑まれに後退る!
──加えて〝血〟だ。
──貴様は突き立てたな?
──この者に……。
──我が〈呪具〉を……。
──おかげで、それを交える事が叶った。
──我が血潮として……。
──結果、より強固となったのだ。
──我等の繋がりは。
──これ以上の依代はあるまい。
「まさか……吸血に取り込んだというのか! ヴァレリア・アルターナを! その存在そのものを……因果を!」
不覚!
しかし、誰が予想できよう?
処刑杭とヘシ折った錫杖が贄の血を吸い上げるなどと!
──さて、満足いったか?
──アイよ?
流舞一閃とばかりに凪ぐ錫杖!
その柄尻が仮面を弾き剥いだ!
獣神仮面は高く放物線を描き、砂漠へと落ち呑まれる。
素顔晒しとなったイムリス……否〝アイ〟は、信じられぬとばかりに呪后を凝視に据えた。
「ヌゥゥ……キ……キサマ?」
──気付かぬとでも思うたか?
──つくづく見くびられたものよ。
──素性隠しの〈仮面〉と〈偽名〉……。
──アクエンアテンもネフェルティティも、裏から意のままに操る傀儡……。
──そして、ツタンクアテンも……な。
──同じ手口を繰り返し、貴様は実質的に王権を行使していたワケだ。
──だが、誤算が生じた。
──我だ。
──薄々は気付いていた。
──アイ失踪直後に貴様が腹心を名乗り出た時点でな。
──タイミングが良すぎる。
「クッ?」
──手口を変えるべきだったのだ……貴様は。
──慢心に見くびり過ぎだ……我を……他者を!
そして、決着の一打!
渾身に振り下ろす錫杖を延髄へと叩き込む!
「ガッ!」
二重の苦悶!
息が死ぬと同時に、重い痛打が意識断裁に飛ばす!
布切れと落下していく祖父を冷蔑に見下し、呪后は単眼魔方陣を展開した。
その軌道上へと……。
──二度と踏ませぬ。
──世界は……。
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男は洋館を買い取り、娯楽目的で洋館内にいる幽霊の調査に対し100億円の謝礼を払うと宣言して挑戦者を募る……。
仕事をやめて生きる上での目標もない平凡な青年のナオキが100億円の魅力に踊らされて挑戦者に応募して……。
SHAGGAI〜シャッガイ〜
顎(あご)
ホラー
◆super higherdimension aggression adaptability intelligence(超高次元侵略的適応性知性体)……通称:SHAGGAI(シャッガイ)人間に憑依し、その肉体と記憶を自分のものにする事が出来る。
普通のサラリーマンである桑畑耕一は、少女が謎の男に襲われている場面に出くわす。人間離れした身体能力を見せる男に桑畑自身も窮地に立たされるが、桑畑の肉体にも異変が生じ始め……
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