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ウサギの冒険

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「ブクブク……ですって?」

 思わずエミリアが声を荒げ、僕らも彼の存在がこれからの僕らの未来を大きく変えてくれる存在な気がしてならなかった。

 彼は何か知っている。今回の事件の首謀者と直接やり取りをしていたのだから。

「お前達ブクブクを知っているのか?と言うより我の本を読んでいたのか。ありがとう」
「いえ、それよりも貴方はここで何をしていたんですか?」
「我か。我はここで死を待っていたのだ」
「死を……?」
「そうだ……。それよりも立ち話もなんだ。君たちは何か食べ物を持っていないか?何か食べながら話したい」

 僕らははやる気持ちを抑え、料理やテーブル、椅子などを取り出し円になって座る。

「ほう、これは驚いた…‥最後にこんなものが食べられるとは。我幸運」
「あの、最後とは?」
「うむ。我はもうすぐ死ぬ。寿命が近いのだ」
「そう、ですか」
「そんな顔をするでない。我はもう十分に生きた。それこそ「1万年以上」な」
「……は?」

 聞き違い、ではなさそうだ。うさぎさんは確かに一万年と言った。僕らは顔を見合わせるが皆困惑していた。

「ふむ……。我が死ぬと言ったら皆悲しい顔をしてくれた。お前たちは優しいのだろう。我こんな感覚は久しぶりだ。お前達になら話してもいいか」
「話を?」
「うむ。我は世にいう大魔道時代の生き残りだ」
「馬鹿な!?」

 思わずアレクサンドラは立ち上がりエミリアは持っていたスプーンを落としてしまう。確かに一万年以上となると大魔道時代を生きていたことになる。

 それから彼は自分の過去についてゆっくりと語りだした。

 彼は本当に一万年以上生きていたらしい。大魔道時代に起きた魔力爆発により一部の人間は中々死ねない体になったらしい。魔力を多く保有している人間は寿命が長い。それは以前話したが彼らは魔力爆発をもろに受け体内の魔力量が以上に増えてしまった人達らしい。

 彼は仲間たちと何千年も生き続けた。だがそれでも寿命は来るものだ。彼はその生き残りの最後の一人らしい。

 そして一万年生きた記録を残そうと「ウサギの本」を書いていたそうだ。

「……信じられないけど、確かに「ウサギの本」は何千年も前からあるわね」
「ええ、それに全て筆跡が同じという不思議な物でした。それが彼だったのか」
「お?我意外と有名人?我感動。」

 それから僕らは色々なことを彼から聞き出した。と言うか何も聞かずとも色々話してくれた。1万年も経つと話し相手がだんだんいなくなり寂しかったみたいだ。

 因みに魔力爆発が起きた原因は知らず、その場所ももう覚えていないらしい。地形も大分変ってしまったし1万年も経つと色々思い出せなくなってしまうみたいだ。まぁジィジなんて100年も生きてないで毎日ばあちゃんを怒らせて学ばないくらいだからな。1万年も経つと仕方ないのだろう。

 それから彼は色々な所を旅してまわったそうだ。その都度作品を書き上げながら。

 そして話しはだんだんと本題に差し掛かっていった。

「そして我はいつしか人間に恨みを抱くようになっていった。仲間と共に、家族と共に死ねる人間が羨ましくて、妬ましくてたまらなかった。もちろん自殺しようと何度も思った。だが自殺と言うのは想像以上に勇気のいるものだ。我にはできなかった。」
「その話とブクブクがどう関係してるの?」
「まぁ待て、ブクブクと出会ったのはそんな時だ。大体20年前くらいだったかな?奴は我にこう言った。「人間を滅ぼしたいなば協力してやる」と。そして我はその話に乗った」

 彼の話ではブクブクからの依頼は3つ。

 1つはノアと言う男に「闇魔法」で幻覚を見せ書類にサインさせる事。2つ目は山に穴を空けて魔物が通れるようにすること。そして三つめがすることスタンピートを起こさせるだけの「魔引き草」を用意すること。

「そして我は言われた通りにやった。だがブクブクは裏切ったのだ」
「どういう事?」
「奴の話ではこの国全体にスタンピートを起こさせるという話だった。しかし実際には一部にしか起こさせず、そしていくつかの街を壊すだけでそれを見事に対処してみせた。我はもう疲れた。寿命も残り少ない。だから余生をこの眺めのいい所で過ごそうと思ったのだ」

 僕らは顔を合わせて頷きあう。「闇魔法」、それが今回の一番の謎の答えだった。ノアはこのウサギに闇魔法で幻覚をせられて書類にサインをしたんだ。

 ノアは僕たちを、この国を裏切ってはいなかったんだ……。それがとても嬉しくやっと安心することが出来た。

「ねぇウサギ。その事を王都に行って証明してほしいんだけどできる?」
「馬鹿言うな。我もう寿命だと言っただろ。王都までは持たん。だが確かに祭儀に裏切ったブクブクには一泡吹かせてやりたいと思うな」
「あら、ならいい方法があるわ」

 エリザベスは一枚の書類を取り出す。

「それは……。「誓いの契約書」か?」
「そうよ。昨日伯爵邸に行った時に余ってるのを貰ってきちゃった」

 エリザベスはこちらにウィンクしてみせる。全くほんとにできる女だよエリザベスは。

 その後エリザベスは書類に色々書き込みウサギにサインさせる。内容はブクブクの指令によってウサギが「闇魔法」を使ってノアに幻覚を見せ書類にサインさせた、と言う内容のものだ。「誓いの契約書」では嘘がつけない。これにサインしたという事はこの話しは嘘偽りない事実という事になる。

「ふふ。これで私達にも運が向いてきたわね」
「ほんとだねー!!これさえあれば今の状況を打破できるよ!!」
「うむ!!よく分からんがよくやった皆!!」
「ん。なんでわからないの今ので……」
「でも本当にやりました。これでブクブクの証言が破綻していることになります」
「そうね……。これはすごいことだわ」

 皆が喜んでいる姿をウサギは嬉しそうに見つめる。だが僕はその表情に対して疑問が浮かぶ。

「ねぇウサギ。これでブクブクに復讐できるとして、本当にそれでいいの?この国に復讐したかったんじゃないの?」
「うむ。我は復讐と言うよりただの八つ当たりがしたかっただけだ」
「おいおい。貴様は八つ当たりがしたかっただけで国を滅ぼそうとしたのか?」
「うむ。一万年生きてればそんな気分になることもあるさ。だが我の気持ちは今変わった。やはり人はいい。久々にまともな、お前達のような真っ直ぐ生きてる人間に会った。最後に人の役に立ち喜ばれるのも存外悪くないものだ。」

 一万年も生きると気まぐれで国を滅ぼそうと思ってしまうものか?まぁ流石に規模がでかすぎて分からないが。

「我は長い事生きすぎた。故に、色々大切な物を……なくしてきた気、がする。最早我……は人ではない。ただの化け物だ。だがら……」
「う、ウサギ!?」

 ウサギはゆっくりと目を閉じ、そのまま息を引き取って……。

「……ハッ!?我寝てた。お早う諸君」

 ウサギは生きていた。ただ寝落ちしそうになっただけのようだ。正直イラっとした事は黙っておこう。

「うむ。どこまで話したかな?ああ、そうだ。この中で魔法の得意なものはいるか?最後にこいつを渡したい」

 満場一致でエリザベスが受け取ることになり、本を開くとエリザベスの周りに黒い靄が広がり始める。

「エリザベス!!ウサギ!!この本は……・!?」
「うむ。成功したようだな。これは我が書いた「闇魔法の書」だ……。どうだ?体は大丈夫か?」

 今にも死にそうなウサギがエリザベスを心配するが、エリザベスの周りの靄はすでに晴れてステータス画面を確認しているところだった。

 「ええ、ふふ。これは素敵なプレゼントを貰ってしまったわね。何かお礼が出来ればいいのだけれも」
「礼か。まぁ強いて言えば我の墓を作ってくれないか?我は先日の山に穴を掘る作業ですでに魔力はそこを尽きそうなんだ」

 確かこの世界では魔力がなくなると死に至ると聞いたことある。ウサギは相当無理をしたのだろう。

「分かったわ。皆で立派な墓を造らせてもらうわ」
「ああ、そうして、くれ。我は、もう、時間が……、ない。だがもう、満足、だ」
「「「「う、ウサギ!!」」」」

 ウサギはそう言い切るとゆっくりと目を閉じ、その生涯に幕を下ろし……。

「んが!!我また眠ってしまったようだ。ん?今は何時だ??夕飯はまだか?」
「「紛らわしいな!!」」

 心配して損した。彼はまだまだ死にそうにないな……。

 僕らは皆で協力して立派な洋式の墓を作りウサギの名前を刻み込む。

「ふぅ……。できたよウサギ。こんなもんで……」

 僕らが声をかけるとウサギはすでに息をしていなかった。体は冷たく座り俯いたままその生涯に幕を閉じていた。

「こんなに冷たい。一体いつから……」
「もしかしたら限界はとっくに過ぎていたのかもしれないわね」
「ん。最後に誰かと話したかったのかも」
「そうかもねー。それに「闇魔法の書」を誰かに渡したかったのかな?」
「うむ。一万年生きた男か。ゆっくり休むがよい」
「そうね。お疲れさまでした。うさぎさん」

 ウサギを皆で抱え墓に埋めてあげる。簡単ではあるが祈りを捧げ近くに咲いてあった花を添える。

 アレクサンドラ達を洞窟で休んでもらって僕らはここでダイブアウトすることにした。

 先に皆に帰っててもらい、僕はノアから貰った「ウサギの冒険記」を読むことにした。

 そこにはウサギの様々な旅の記録が記されていた。彼は僕らのまだ行ったことのないこのAOLの世界を渡り歩いていたようだ。

 そしてその節々から「寂しい」と言う単語を見つけることが出来た。彼は故郷をなくし、友人を、家族を亡くし安息の地を探していたのかもしれない。

 そして少しでも大魔道時代の魔法を、文化を伝えるために本を書いていたようだ。

 エリザベスに「闇魔法の書」を渡したのはその為だろう。

 ウサギは死んだが本に記すことによって、何かを誰かに伝えることによってその人は誰かの中で生き続けるのかもしれないな……。

「さ、帰るか……」

 僕はウサギの事を決して忘れない。

 確かに彼の行動には色々思う所があるが、それでも彼は彼なりに戦って生きたのだ。

 もう一度ウサギの墓に手を合わせた後、僕はダイブアウトした。
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