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新たな仲間

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 場所は再び談話室。

 先ほどの戦闘をお互いに労いながら、ゆっくりとメアリーの入れてくれた紅茶とクッキーを楽しんでいる。

「流石だったな。あそこでフェイントを入れてくるとは思わなかったぞ」
「あの一撃の為にそれまで全力でぶつかっていたからね」
「なるほど。勉強になるな。ならその前の二回の攻撃は布石だったというわけか」
「一応ね。これくらいしないとレイにはかてないからさ」
「ふふっ。嬉しい言葉だな」

 お互い全力を出しぶつかり合った仲であり、認め合った仲だ。

 場の空気はかなりいいといえる。

 この空気を作るために中々無茶したなと自分で感じ苦笑する。

「??どうした?」
「何でもないよ。さすがにあんなにスキルの重ね掛けをして少し疲れただけさ」
「ウィルはスキルは一体いくつまで使うことが出来るのだ?」
「今は4つか5つが限界かな?それでも使うだけで自分に大きなダメージが入るし、ここぞというときしか使わないよ。かなり体にも堪えるしね」
「そうなのか。さすがだな。俺はまだ3つが限界だ」
「それでもすごいよ。今のLvはいくつ?」
「46だ」
「ならすごいよ。僕が3つ以上自在に扱えるようになったのは50過ぎてからだからね」
「そうなのか?」
「うん。まぁ使えることは使っていたけどね。体がかなり痛かったよ」
「あははは!!そうだったのか。確かに使いすぎると体が痛いよな!!」
「あはは。だね。しかし運動神経いいよね。何かスポーツでもやっていたの?」
「スポーツはやっていないな。だが小さいころから喧嘩が得意でな。男どもに舐められないようによく喧嘩したものだ!!俺は喧嘩では負けたことないんだぜ?あっはっは!!」
「そ、そうなんだ」

 笑えないよ。

 やっぱりこの人ヤンキーなんだ。

「じゃあそろそろ賭けの答えでも聞こうかな。なんでAOLを始めたの?」
「そうだったな。ウィルたちなら話してもいいかもしれないな」

 レイはゆっくりと紅茶をすする。その顔は先ほどまでの楽しそうなものではなく、どこか暗かった。

「S&Cという言葉を知っているか?」

 僕は驚き思わず言葉を失う。隣では息をのむ声が聞こえ、エリザベス達も驚いてしまっているようだ。

「SEXY&CRAZY」通称S&C。

 以前は話したヘッドギアのセーフティを外した、闇ルートのみで販売されたゲームだ。

 ゲームという言葉は適切ではないかもしれない。

 そのソフトは全世界を震撼させ、この仮想世界に携わる者なら誰でも知っているソフトだ。世界一多くの死者を出したソフトS&C。

 それはひたすらに快楽だけを求め、仮想世界での性行為を実現させたソフト。そして多くのプレイヤーはそれにのめり込み、帰ってこれなかったもの、俳人になったもの、ゲームに入り込みすぎてリアルの肉体が気が付けば死んでしまっていた者、様々だった。

 今では警察、ICO、山下グループ、世界各国が協力し全て回収、処分されている。

 まさかレイの口からそれが出るとは思わなった。

「その反応は知っているんだな。若いのに勤勉なんだな。実はそのソフトを俺の両親が使っていたんだ」

 僕らは言葉も出なかった。

 そのソフトは日本ではほとんど見つからなかった。一部の闇の仕事をしている権力者のみが所持していたはずだったからだ。

「ってことは」
「ああ。両親とも仮想世界から帰ってはこなかったよ。全くふざけた話だ。俺は当時5歳だったのに」

 帰ってこれなかった。それは言葉通り仮想世界から帰ってこなかったのだろう。精神死と言われる奴だ。

「それから俺は孤児院をたらいまわしにされてな。両親を恨んだよ。孤児院も。すべてを恨んだ。恨みすぎて何を恨んでいるのかわからないほどに」
「「「「「「……」」」」」」

「そして15歳の時に孤児院を飛び出してな。実は俺はその頃は男性恐怖症でな。男が気持ち悪くて気持ち悪くて仕方がなかった。小さいころ両親がはまっていたS&Cに興味をもって外部から見れるようにPCにつないだことがあるんだ。そしたら驚いたよ。母親が知らない男共のに囲まれて楽しんでいやがった。幼かった俺はそれの意味は意味は分からなかった。ただただ気持ち悪かったのを覚えている。それからかな。俺の一人称が「俺」になったのは」

「15歳で家を出て今はアパートで暮らしながらバイトをしている。その時もらったチケットが商店街の福引券でな。なんの因果か世界一仮想世界を嫌っている俺に、今世界で有名なソフト「AOL」が当たっちまったんだ。初めは捨ててやろうと思ったよ。でも俺はAOLを始めた。なんでだろうな」

 そこまで言うとレイはゆっくりと震えた手で紅茶を飲み干した。

「ただ、両親がのめり込んだ世界が知りたかったのかもしれない。まぁS&Cは絶対に嫌だがな。あんなのは狂ったやつがやるものだ。まさにCRAZYな奴がな。それでまぁAOLを始めたわけだ。だがどいつもこいつも幸せそうな顔して腹がたったよ。仮想世界の本当の恐ろしさをわかってないやつばかりで。だから俺はこの世界でも強くなってそんな幸せそうな頭の中が生クリームでいっぱいな奴らを片っ端から叩き潰してやろうと思ったのさ」

 レイは紅茶を飲もうとしたが中身が入ってないことに気が付きカップを受け皿に戻す。横からそっとエリザベスが紅茶を注いであげる。

「ありがとう。」

 そう言うとレイは紅茶を一気に飲み干す。

「でも前回戦った時「楽しい」って言ってなかった?それに戦っている時のレイは本当に楽しそうだったよ」

 僕の言葉にレイは苦笑する。

「そうだな。確かに楽しかった。前回も今回も。なんでだろうな。初めは憎んでいたこの世界を最近だんだん憎めなくなってきてしまったんだ」

 困った顔をしたレイにエリザベスがゆっくりと口を開く。

「この世界が美しかったからじゃない?」
「美しい?」
「ええ。この世界は美しいわ。誰もが必死に生き、そしてやりたいことをやり、皆楽しそうだわ。確かに危険な世界ではあるけれど、人々は助け合い、繋がりを大事に生きている。そんな人たちを見て憎める人なんてそういないわ。」
「確かにな。この世界は美しいか」

 レイはゆっくりと手を顎につけ考える。そして僕らはレイの次の言葉を待つことにした。

 確かにこの世界は美しい。

 戦争や、殺し合いもあるけれど、それは世界のほんの一握りでしかない。人々は楽しく、必死に生きている。
 必死に生きて仲間たちと楽しく飲んで、食べて、そして毎日を過ごしている。世界はそれだけで幸せな事なのかもしれない。

 風景も美しい。

 科学のないこの世界は自然に溢れている。少し不便に感じるかもしれないが、そこがまたいい。

「すまないな。ウィル」

レイはゆっくりと僕に頭を下げる。

「何が?」
「賭けでおれが何故AOLを始めたか言うという話だったが、答えがわからなくなってしまった。俺は何のために始めたのだろうな」
「ん。全てを今すぐ知ろうとするのは無理な事。雪が解ければ見えてくる」
「雪?」
「ふふっ。エリーゼはいいこと言いうわね」
「むふ。ゲーテのセリフ」
「そうね。やっぱりレイは「カンパニー」に入りなさい。それが貴方の為になるわ」
「どういうことだ?」

 レイはエリザベス達の言葉に困惑しているようだ。因みに僕も困惑している。天才たちの会話はちゃんと説明してもらわないとわからない。

「レイは今アパート暮らしなのよね?」
「あぁ。そうだ。最近になってやっとお金がたまってきて少しはこうやってAOLの世界で遊べて入るが基本はバイト暮らしだ」
「そう。家はどこなの?」
「練馬区だ」
「あら、都内なの。それは都合がいいわ。あなた明日からうちに住みなさい」
「「は?」」

 僕とレイの言葉がかぶる。

「迎えは明日送るわ。明日何時に家にいる?」
「いやいやいや。ちょっと待ってくれ!!話が飛び過ぎてわからない!!」
「エリザベス話が飛び過ぎだ。僕にもわからないぞ?」
「レイ。実はね。私とエリーゼは本名山下香織と、山下千沙っていうのよ。このAOLを作った山下哲二の孫で現社長の娘よ」
「ん。千沙です。よろしく。」

 突然の告白にレイは固まる。そりゃそうだ。世界一の会社の娘たちが目の前に現れば誰だってそうなる。

「山下グループはS&Cに関わったすべての人たちのその後のケアを行っているの。貴方はすぐに孤児になってしまった為気づかれなかったのね。だから私たちがあなたを保護します」
「ん。レイは学校に行った?」
「中学までしか行ってない」
「ならうちに住んで通信でいいから学びなさい。費用は全てうちが出すわ」
「ん。住む部屋もある。使ってない部屋があるから」
「あらそれいいじゃない」
「なんか楽しくなりそうだね!!」
「「……」」

 クリスとアイリスも賛同し、一方で僕とレイは開いた口が塞がらなかった。

「あなたはもう生活の為に、家賃の為に働かなくていいの。もちろん将来的には働いてもらうけどね」
「ん。うちで働けばいい」
「そう言うことよ。これは決定事項ね」
「決定事項?」
「そう。決定事項。いい?貴方はこれまで沢山の苦労をしてきたのだと思う。だけどもういいのよ。必要のない苦労はもう終わったの。あとはあなたがどうしたいかによるけど」
「ん。まだ苦労したい?それともうちに来て明るい未来を掴みたい?」
「でも俺なんかが。あんな腐った親の子供だぞ?」
「親なんか関係ないわ。子供にとって害にしかならない親なんて沢山いるわ。害にしかならない大人も沢山いる。でもそれはあなたには関係のない事。もう関係ないのよ。いい?今まで親のことで色々言われてきたのかもしれないけど、人間は遺伝子よりも育った環境で決まるわ。これらのか環境でいくらでも変われるの」
「ん。貴方の目の前には未来がある。助けてくれる人がいる。あとはあなたがその手を差し伸べられるかによる」
「あなたの目の前にいる人たちはトッププレイヤーよ?強くなりたいなら私たちと入ればいくらでも強くなれるわ。始めた理由がわからないのなら、わからないことが分かっているじゃない。これから見つければいいのよ。でもあなたは今まで一人でそれを見つけられなかった。ウィルと戦ったことによってわからないことがたかった。なら誰かといるべきだわ。一人で見つけられないのなら誰かと見つければいいのよ」
「でも」
「ん。頑固よくない。障害にぶつかった時、頑固なものほど邪魔な物はない」

 エリザベス達の話にレイは再度固まってしまった。が、すぐに動き出し。

「お。お願いします?」
「ふふっ。なら決定ね。貴方は今日から「カンパニー」の一員。そして明日からは一緒に住む家族よ」
「ん。よろしく」
「よろしくねー!!」
「よろしく!!」
「あ。僕も?あー。なんかいきなりの話で困惑してるけど、これからよろしくね?」

 なんだか無茶苦茶な話し合いになってしまったがこうして新たな僕らに新たな仲間が加わったのだった。

「なぁウィル。この人たちはいつもこんなに強引なのか?」
「うん。おかげでいつも苦労してます」
「だろうな」


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