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地下の攻防と

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「……ガハッ!?」
「ったくクソガキが。余計なことをしてくれやがる」

 突然腹部に痛みが走り目が覚めると目の前には黒い眼帯をした体格のいい男が片足を上げて立っていた。恐らく俺はこいつに蹴られたのだろう。

「ズズ!!テメェがいながらなんてざまだ!!」
「あらぁ。ごめんなさい。ついついその子達が可愛くって油断しちゃったわぁ」
「ちっ。まぁいい。アジトを移動するぞ。さっきの魔法でこの辺りに衛兵が集まってくるだろう」
「兄貴。このガキ二人はどうしますか?」
「ああ?決まってんだろ。売るんだよ。一人は伯爵様の大事な一人娘。そしてもう一人はこの年で詠唱なしで魔法を使うときたもんだ。こりゃ高く売れるぜ?」

 隣を見ると俺と同様エマはロープで体を縛られて、猿轡でしゃべれなくなっていた。魔法は声に出して詠唱しなければ使えないため普通の魔導士相手では有効な手段だ。だが俺は無詠唱で使える。問題はいつこのロープを切り逃げ出すかだ。

 見ればここは建物の一階で酒場のような作りになっており、武器を持った男たちが30人はいる。俺一人なら何とかなるかもしれないがエマを連れては逃げきれないだろう。

「地下のガキどもはどうします?」
「ち、出来るだけ連れてけ。動けなそうなやつはもったいねえが処分しちまっていい。できるだけ連れて北のアジトに移動だ。いぞげ!!」

 兄貴と呼ばれたこの男がここのボスなんだろう。彼の一言で半分は階段を下りていき半分は残り次の指示を待っているようだ。中々統率の取れた動きをする。これは厄介だな……。

「ちゃ、チャールフ……。おねふぁい。こふぉもたちをたふけて……」

 俺に聞こえるギリギリの小さな声でエマは子供たちを助けてと涙を流しお願いしてくる。確かにもうすぐ数人の子供たちが殺されてしまうだろう。いや、数十人かも。だが俺にはエマを守るので精いっぱいだ。

 わかってる。

 こんな事考えるなんて馬鹿げてる。

 俺には関係のない事だ。

 俺の目的はあくまで伯爵の持っている書類で、ここの子供達なんてどうでもいい。アニの街でも子供がたくさん死んでいるのを見たじゃないか。全ては助けられないんだ。もう誰かが死ぬのには慣れたはずだ。俺には関係ないんだ……。

「ちゃーるふ……」

 再びエマがお願いをしてくる。俺には関係ない。

「おいおい!みろよ!!このガキの持ってたこの剣ミスリルだぜ!?少し小さいがこりゃ高く売れるぜ?」

 だが体は俺の思考と正反対の行動をしてる事には気づいている。そしてそれを止められないことを後悔しながら、俺はロープを後ろで魔法で切り、エマのロープも切る。

「ファイアーボール」
「ああ?」

 俺の声に兄貴と呼ばれた男が振り返るが、同時に俺の後ろの壁が壊れエマが走り去っていく。エマにはロープを切る時「邪魔だから逃げろ」とだけ言った。

「な!?」
「俺の剣に触るなよ。殺すぞ?」

 俺たちの行動に驚き固まった瞬間を狙って中級氷魔法の「アイスニードル」を放つ。いくつもの鋭く尖った氷の塊が敵に向かって飛んでいき男たちに刺さっていく。

「アイスウォール」

 ジジと呼ばれたオカマが魔法で氷の壁を作り俺の攻撃を防ぐ。だがすでに半分は仕留めた。俺は一気に駆けだすと倒れた男から剣を奪い返し再び「アイスニードル」を飛ばしながら地下の階段を下りていく。

 自分でも馬鹿だと思う。こんなことをすれば殺されるのは明白だ。最終目的はアニの街にスタンピートを起こさせたこの国の貴族たちの悪を暴き国王を殺す事。その為にはこんな所で死ぬわけにはいかないのに……。

 地下に降りると10数人の子供達は一カ所に集められて誰を連れていくか選定をしている最中だった。まだ死者はいないようだ。この部屋は机も椅子もないただの正方形の空間だった。こんなところに子供達を……。

「それからこのガキは……あ?、ぐは!!」
「なんだ!?」

 俺は勢いに乗ったまま「ウィンドカッター」で数人の男を切り捨て、そのまま他の男に斬りかかる。男たちは反応して武器を抜くが遅い。俺はまず二人を切った後開いた左手で子供達に当たらないように「アイスニードル」を放ち次々に男たちを殺していく。

 足から「ウィンドボール」を出しながら(今後は「ブースト」という)素早く移動し敵を縫うように進み全員斬り伏せる。恐らく一分もかかっていないだろう。

「あ~あ~あ~。全員殺しちまってよ~。どうすんだれ?ああ?」

 最後の一人の首を跳ねた時、階段から降りてきた男達と兄貴達がすでに武器を抜いて立っていた。

「なぁジジ。お前切り落とした腕とかはやすことできるか?」
「何言ってるのよ。あたしは「殺し」専門よ?そんなことできるわけないじゃい」
「ちっ。じゃあ殺すしかねぇな。もったいねぇが」

 俺は敵がしゃべっている間に「アイスニードル」を放つが今度は兄貴に全て切り落とされてしまう。これを見ればはっきりとわかる。この男は俺より強い。恐らく剣の腕は「上級」はあるだろう。俺にはあんな芸当はできない。

「無詠唱か。ますますもったいねぇな。なぁガキ。お前家族以内くちだろ?どうだ?俺達の仲間にならねぇか?金、女、酒。なんだって手に入るし不自由ない生活を送れるぜ?」

 振り返れば子供たちが怯えた顔でこちらを見ている。というか俺よりも年上っぽい子もいるじゃないか。全く自分でどうにかしてほしいものだ。

「俺は本当に馬鹿だな……」

 自分でも笑ってしまう。こんな状況になることは分かっていたのに。だがなってしまったものは仕方ない。

 大きな魔法放てば建物が崩れてしまい子供たちが死んでしまうだろう。もって数分か……。

 俺は再び「アイスニードル」を放ち駆け出す。兄貴は再びその全てを叩き落すがその時には俺は相手の懐に入り込んでいる。

「フッ!!」

 一呼吸で剣を振ると相手は余裕で受け止めてくる。

「なんだよ。交渉決裂か。なら死ね」

 剣を受け止められたまま思い切り腹部を蹴り飛ばされる。一瞬息が止まり壁に叩きつけられるがすぐに立ち上がり「ブースト」を使いながら壁を走り「ウィンドカッター」を放ち兄貴がそれを受けている間にジジに斬りかかる。

「あらぁ?「アイスウォール」。あたしにかまってていいのかしら?」

 ジジはギリギリのところで氷の壁を作り剣を受け止める。

「全く舐めたガキだ」

 その瞬間背後から声がしてとっさに体を捻り剣を突き出す。が、腕が熱く感じたと思いみると俺の左腕が切り落とされ地面に落ちるのが見えた。

「が!?あつっ……くそ!!」

 着地と同時に腕を拾い距離を取りながら腕をくっつける。綺麗に斬られていたため腕はすぐにくっつき治る。だがかなりの血と魔力を消費してしまった。状況は最悪だ。

「あら?光魔法まで使えるのね……」
「ああ、こりゃ驚いた。なぁお前、本当に俺たちの仲間にならねぇか?」
「うるせぇよ……」
「そうか。だがわかんねぇな。お前は俺たちと同じ目をしてるぜ?すべてを恨んでいる目だ。なのにそんな見ず知らずのガキどもを助けて何になるんだ?お前はそんな奴じゃないだろ?
「うるせぇって言ってんだろ……」

 俺自身その答えを見つけてられてはいなかった。別に俺はヒーローになりたいわけではない。と言うか前世でもヒーローは嫌いだった。見ず知らずの他人の為に命を懸けて死ぬ思いして何になるんだ。そのうえ必ず裏切られたり辛い思いをしている。

 俺にはそんなヒーローの気持ちが分からなかった。

 だが今一つだけ俺の心の中にあるものはきっと意地なんだと思う。

「ここでこいつらを見捨てたら、俺は本当の意味で人間じゃなくなる気がする。だから戦うんだよ」

 俺は再び駆け出す。俺は一階でも、盗賊と出会ったときも人を殺した。この世界じゃ当たり前の音かもしれないが地球で育った俺には「人殺し」にいいも悪いもない。等しく悪だと感じる。そんな俺が今度は子供達まで見捨てたら本当に折れは悪魔だと思う。その一線だけは越えたくない。

「そうかよ。よく分からねぇが、なら死ねよ」

 俺は必死に剣を振るうが全て止められて腹を、腕を、足を、何度も斬られる。だがだんだん相手の剣速に目が慣れてきれ致命傷だけは何とか避けられている。

 体中がいたい。だが俺の頭の中にはアニの街の子供たちの姿がある。もうあんな光景は見たくない。

「オラオラ!!どうした!?そんなもんかよクソガキ!!」
「く!?「ファイアーボール」!!」
「な!?」

 俺は剣を交じらせながら足元に「ファイアーボール」を放ち爆散させる。炎は地面で弾け両者を巻き込む。

 お互いに後ろに吹き飛び倒れるが俺は瞬時に足の怪我を直す。見れば兄貴は片足が焼けて肉が見えている。

「このクソガキ!!」
「そこまでよ!!全員武器を捨てなさい!!」

 俺の粘り勝ちだ。階段からエマが叫び次々に衛兵が下りてくる。そこからは衛兵と敵の乱戦となった。だが衛兵は際限なく降りてきて次第に敵は捕まっていった。

「チャールズ!!」

 エマはこちらに駆け寄ってきて出し閉めてくれる。その衝撃で意識が飛びそうになるが何とか堪えてエマを受けえ止める。

「ありがとう。本当にありがとう」

 エマは泣きながらお礼を言ってくれる。俺はエマの頭をポンポンと軽くたたき「疲れたから休む」とだけ言い上に上がっていく。エマは心配そうについてきたが「子供たちについててあげて」と言うと頷き従ってくれた。

 今がチャンスかもしれない。

 これだけの衛兵がここに来ているんだ。伯爵邸は手薄になっているかもしれない。

 俺は走り伯爵邸に向かう。

「止まれ!!ん?チャールズか。生きていたのか。どうした?」
「事件は無事解決しました。お嬢様の代わりに伯爵様にご報告を」

 門番にそう告げ通してもらい、伯爵の書斎に向かう。

「おお!チャールズ!!生きていたか!!どうなった?」
「はい。お嬢様は無事です。そして衛兵たちにより無事事件は解決しました」
「そうか。それにしても酷い怪我だ。本当によくやってくれた。ありがとう」

 伯爵はそう言うと安心したように椅子に座り込む。俺はもう信用されているようだ。だがそれもこれまで。俺は剣を抜くと伯爵の喉元にそれを突き付ける。

「……何の真似だ?」
「「誓いの契約書」はもっているか?」
「ああ、あるぞ?」
「ならそれに今から俺が話す事を黙っている事。そして俺の事を追わないことを誓い書くんだ」

 伯爵は一瞬悩んだがすぐに机からそれを出し書き出す。

「そうか……。やはり君がアニの街の生き残りか……」
「!? 気づいていたのか?」
「ああ。半信半疑だったがね。君がこの屋敷に訪れた初夜、本当はそこで襲ってくるかと思って兵を配備していたんだが君は襲ってこなかった。それにエマは心から君を信頼していた。だから違うと信じたかったが……」
「そうか……。なら俺が聞きたいこと。欲しいものはもうわかるだろう?」
「ああ、これの事か?」

 そう言うと伯爵は机から「スタンピート計画」について書いてある一枚の書類を取り出す。そこには確かに伯爵のサインが書いてあった。

「本当にすまない……」

 伯爵はそれを取り出した後俺に深々と頭を下げた……。
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