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港町カプリ
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まだ少し冷たい早朝の風を肌で感じ、少し身震いしながらテツは目覚めた。そう言えば今日の朝食は6人分だな、とメニューを考えながらテントを出る。
山の中腹に位置するこの場所からは、朝日に照らされた運河がキラキラと輝いて見えた。新緑が優しく照らされ、風に乗ってほのかにヤシの実の甘い香りが漂ってくる。
そんな穏やかな光景に見とれ、素敵な朝を見渡していると、何故か近くの気にパンツ一丁で縛られ吊るされているアドルフが目に入る。
「おはよう……って何してんだお前」
「お、おう、気にすんな。いい朝だなテツ」
「ああ、朝からおっさんがロープで吊るされている光景を見るまではな」
「ああ、それは失礼した。とりあえず下ろしてくれないか?まだこの季節、この格好は寒い」
近くのテーブルには、昨晩アドルフと共に見張りをしていた護衛の女性が座り、テーブルの上には酒が置いてあった。
こいつ、初対面の相手の前で、酒を呑んで服を脱いだのか、と呆れながらロープを切り下ろしてやる。
「あー、すみません。うちのアホが迷惑をかけたみたいで……」
「全くだ。見張り中に酒を呑むどころか、服まで脱ぎだすとは。恩人でなければ斬り殺していたところだ」
護衛の女性は、テツと視線を合わせることなく冷たく答える。相当怒っているようだ。アドルフにしっかりと謝らせ、何とか許しを貰いテツは朝食の準備に取り掛かる。
許しを得たとは言え、まだ彼女は怒っているだろう。
その事からテツはメニューを変え、調理に取り掛かる。
パンを一口大にカットし、卵、牛乳、ココナツミルク(本来はバニラエッセンス)、砂糖をよく混ぜた液体に漬ける。
30分ほど浸したら、フライパンにバターをいれ、弱火でそれらを焼いていく。少し焼き目が付いたら蓋をして蒸し焼きにする。
その間に、鍋に水と砂糖を入れ火にかけ、カラメルを作る。さらにそこにココナツミルクを入れ延ばせば、香ばしいココナツミルクのソースの完成だ。
あとは焼いたパンにココナツミルクソースをかければ、フレンチトーストの完成だ。
本来ホテルなどではパンは12時間ほど液体に浸すが、今回は時間がないのと、女性が居るので、一口大にカットし、しみ込ませる時間を短縮させる。
ホテルなどではバプール(蒸し焼き)のみで調理を行うが、これはこれで外がカリっと仕上がるので良しとする。
辺りを漂う甘く香ばしい香りに、皆テントから飛び出し、尻尾をぶんぶん振りこちらを見ていた。
まるでペットを飼っている気分だ、とテツは苦笑し、ご飯にしましょうか、と席へ促す。
「甘く、香ばしい。美味しい、美味しい……」
「それに私達が好きなヤシの実がこんなに沢山使われていて贅沢……」
彼女等は顔を蕩けさせながら、フレンチトーストを頬張る。双子に限っては何も話さず、頬をリスのように膨らませてそれを頬張っている。
まだまだお替りありますから、と落ち着いて食べる様に促すテツを見ずに頷き、それでも手を止めない彼女達を微笑みながら見て、テツも食事を開始した。
「ふう、満足……」
「まさかこんな美味しい料理があったんて。流れ人の料理人恐るべし……」
皆満足したようだ。特に先ほどまで怒っていた女性は、もうその事を忘れているかのように、頬を緩ませながら腹をさすっている。
やはり怒っている女性には甘い物だな、とテツは再確認をした瞬間だった。
その後道具をアイテムボックスにしまい、先日訪れた町を目指す。
「しかしメルとミルがこうも懐くとは思いませんでした」
「そうね。普段は私以外には近寄ろうともしないのに……」
メアリーの護衛の双子の狐の獣人、メルとミルは胃袋を掴まれたのか、尻尾を左右にゆっさゆっさと振りながらテツの両サイドにピッタリと並び歩いていた。
テツからしたらどっちがどっちかは分からないが、ペットになつかれた気分で悪い気はしない。
「おいテツ。そこ代われよ」
わざとテツと場所を入れ替わろうとするアドルフにメルとミルは「フシャー」と猫のような威嚇をし追い払っていた。どうやら昨日の事件を聞いた二人が警戒しているらしい。
「お前のハーレムはまだまだ遠そうだな」
テツがくつくつ笑いながら言うと、アドルフは肩をすくめ離れて歩き、それを見てメアリー達は「ふふっ」と笑う。山道は来た時と変わらないはずなのに、少し華やかだなとテツは感じた。
道中偶に狼に似た魔物が出たが、彼女達によって一瞬で駆逐されていった。メルとミルは上手に連携を取り敵を倒し、もう一人の護衛レイは一人で一瞬のうちに複数の敵を倒して見せた。どうやら彼女たちの実力は相当のものらしい。
「ふふっ。どうです?獣人は強いでしょう?」
そんな光景に驚くテツとアドルフに対し、メアリーは誇らしげに言う。獣人は魔法を苦手とするが、唯一得意な「身体強化魔法」を使い、元々持つ潜在能力をフルに発揮できるようだ。その為それだけでとても強い。種族によってこれだけ戦闘方法が違うのか、とテツは感心した。
おかげで道中二人は先頭をせず町までたどり着く。そこで一泊し、港町に出発した(喫茶店のマスターにヤシの実を渡すついでに一杯やり、アドルフが服を脱ぎレイにぶっ飛ばされた)。
港町までは彼女たちの故郷の話などを聞き、とても楽しいものとなった。テツの料理の腕を見込んでメアリーが「是非我が国の王宮で働きませんか」と言われるほどに打ち解けあったと思う。
喧嘩ばかりしていたアドルフとレイも、喧嘩を重ねるごとに仲が良くなり、場の雰囲気もさらに良くなる(メルとミルは懐かなかったが)。
5日程歩くと、港町カプリに辿り着く。街は大きく、行きかう人の数もこれまでと比にならなかった。
「驚いたか?この町はある意味国境の街だ。貿易だけでなく、運河があるため漁業でも盛んで、娯楽も富んでる。その為この国でも有数の大都市なんだ」
そう語るアドルフはどこか自慢げだった。
運河は海から直接流れてくるため、磯の香りも漂い、テツの料理人心をくすぐった。並ぶ露店には沢山の魚料理が並び、香ばしい香りが漂う。今までの街より道路が舗装されていることから、それだけこの街の需要が高いと言うことだろう。街は全体的に綺麗で、人々は心から笑っているように見えた。
一同はまず宿を取り、彼女たちを待たせて二人はギルドにクエストの報告をする。その際、テツがアイテムボックスを持っている事と、持ってきたヤシの実の数にギルド職員が驚き二人はくつくつと笑った。
「お待たせ。まずは情報を整理しよう」
二人は宿で彼女達と合流し、ギルドで聞いてきた事を話す。
どうやらここ数日、こちらでも騎士が沢山集まり、船を何隻か借り海から出航していたらしい。他国のお姫様が自国領域で難破し行方不明ともなれば当然だろう。
だがギルドでもその原因は分からないという。彼女達の話によれば、彼女たちの来国は極秘に行われていたようだ。魔物の数が増えている、という不確定なもので一国の姫が動いたとなれば国民が動揺してしまう。それを防ぐための事らしい。
だが流石にこの街の領主である『カプリ伯爵』はその事を知っているだろう、という事でまずは街のはずれにある伯爵邸に向かう事で一同は同意した。
「その前に衣服を買おう。その格好じゃ、ね」
テツの言葉に、改めて自身の格好を見て彼女達は赤面する。漂流していた際、彼女たちは鎧を、衣服を可能な限り脱ぎ、肌着の身となっていた。その為二人は助けた際、自身たちの服を貸している。今の彼女たちの格好は男の冒険者の様で、どう見ても一国の姫のようには見えないからだ。
「流石にあの時は状況が状況だったから、じっくり見れなかったのが残念だ」
と心の声を漏らし、レイに殴られたアドルフを放っておき、一同は宿を後にした。
山の中腹に位置するこの場所からは、朝日に照らされた運河がキラキラと輝いて見えた。新緑が優しく照らされ、風に乗ってほのかにヤシの実の甘い香りが漂ってくる。
そんな穏やかな光景に見とれ、素敵な朝を見渡していると、何故か近くの気にパンツ一丁で縛られ吊るされているアドルフが目に入る。
「おはよう……って何してんだお前」
「お、おう、気にすんな。いい朝だなテツ」
「ああ、朝からおっさんがロープで吊るされている光景を見るまではな」
「ああ、それは失礼した。とりあえず下ろしてくれないか?まだこの季節、この格好は寒い」
近くのテーブルには、昨晩アドルフと共に見張りをしていた護衛の女性が座り、テーブルの上には酒が置いてあった。
こいつ、初対面の相手の前で、酒を呑んで服を脱いだのか、と呆れながらロープを切り下ろしてやる。
「あー、すみません。うちのアホが迷惑をかけたみたいで……」
「全くだ。見張り中に酒を呑むどころか、服まで脱ぎだすとは。恩人でなければ斬り殺していたところだ」
護衛の女性は、テツと視線を合わせることなく冷たく答える。相当怒っているようだ。アドルフにしっかりと謝らせ、何とか許しを貰いテツは朝食の準備に取り掛かる。
許しを得たとは言え、まだ彼女は怒っているだろう。
その事からテツはメニューを変え、調理に取り掛かる。
パンを一口大にカットし、卵、牛乳、ココナツミルク(本来はバニラエッセンス)、砂糖をよく混ぜた液体に漬ける。
30分ほど浸したら、フライパンにバターをいれ、弱火でそれらを焼いていく。少し焼き目が付いたら蓋をして蒸し焼きにする。
その間に、鍋に水と砂糖を入れ火にかけ、カラメルを作る。さらにそこにココナツミルクを入れ延ばせば、香ばしいココナツミルクのソースの完成だ。
あとは焼いたパンにココナツミルクソースをかければ、フレンチトーストの完成だ。
本来ホテルなどではパンは12時間ほど液体に浸すが、今回は時間がないのと、女性が居るので、一口大にカットし、しみ込ませる時間を短縮させる。
ホテルなどではバプール(蒸し焼き)のみで調理を行うが、これはこれで外がカリっと仕上がるので良しとする。
辺りを漂う甘く香ばしい香りに、皆テントから飛び出し、尻尾をぶんぶん振りこちらを見ていた。
まるでペットを飼っている気分だ、とテツは苦笑し、ご飯にしましょうか、と席へ促す。
「甘く、香ばしい。美味しい、美味しい……」
「それに私達が好きなヤシの実がこんなに沢山使われていて贅沢……」
彼女等は顔を蕩けさせながら、フレンチトーストを頬張る。双子に限っては何も話さず、頬をリスのように膨らませてそれを頬張っている。
まだまだお替りありますから、と落ち着いて食べる様に促すテツを見ずに頷き、それでも手を止めない彼女達を微笑みながら見て、テツも食事を開始した。
「ふう、満足……」
「まさかこんな美味しい料理があったんて。流れ人の料理人恐るべし……」
皆満足したようだ。特に先ほどまで怒っていた女性は、もうその事を忘れているかのように、頬を緩ませながら腹をさすっている。
やはり怒っている女性には甘い物だな、とテツは再確認をした瞬間だった。
その後道具をアイテムボックスにしまい、先日訪れた町を目指す。
「しかしメルとミルがこうも懐くとは思いませんでした」
「そうね。普段は私以外には近寄ろうともしないのに……」
メアリーの護衛の双子の狐の獣人、メルとミルは胃袋を掴まれたのか、尻尾を左右にゆっさゆっさと振りながらテツの両サイドにピッタリと並び歩いていた。
テツからしたらどっちがどっちかは分からないが、ペットになつかれた気分で悪い気はしない。
「おいテツ。そこ代われよ」
わざとテツと場所を入れ替わろうとするアドルフにメルとミルは「フシャー」と猫のような威嚇をし追い払っていた。どうやら昨日の事件を聞いた二人が警戒しているらしい。
「お前のハーレムはまだまだ遠そうだな」
テツがくつくつ笑いながら言うと、アドルフは肩をすくめ離れて歩き、それを見てメアリー達は「ふふっ」と笑う。山道は来た時と変わらないはずなのに、少し華やかだなとテツは感じた。
道中偶に狼に似た魔物が出たが、彼女達によって一瞬で駆逐されていった。メルとミルは上手に連携を取り敵を倒し、もう一人の護衛レイは一人で一瞬のうちに複数の敵を倒して見せた。どうやら彼女たちの実力は相当のものらしい。
「ふふっ。どうです?獣人は強いでしょう?」
そんな光景に驚くテツとアドルフに対し、メアリーは誇らしげに言う。獣人は魔法を苦手とするが、唯一得意な「身体強化魔法」を使い、元々持つ潜在能力をフルに発揮できるようだ。その為それだけでとても強い。種族によってこれだけ戦闘方法が違うのか、とテツは感心した。
おかげで道中二人は先頭をせず町までたどり着く。そこで一泊し、港町に出発した(喫茶店のマスターにヤシの実を渡すついでに一杯やり、アドルフが服を脱ぎレイにぶっ飛ばされた)。
港町までは彼女たちの故郷の話などを聞き、とても楽しいものとなった。テツの料理の腕を見込んでメアリーが「是非我が国の王宮で働きませんか」と言われるほどに打ち解けあったと思う。
喧嘩ばかりしていたアドルフとレイも、喧嘩を重ねるごとに仲が良くなり、場の雰囲気もさらに良くなる(メルとミルは懐かなかったが)。
5日程歩くと、港町カプリに辿り着く。街は大きく、行きかう人の数もこれまでと比にならなかった。
「驚いたか?この町はある意味国境の街だ。貿易だけでなく、運河があるため漁業でも盛んで、娯楽も富んでる。その為この国でも有数の大都市なんだ」
そう語るアドルフはどこか自慢げだった。
運河は海から直接流れてくるため、磯の香りも漂い、テツの料理人心をくすぐった。並ぶ露店には沢山の魚料理が並び、香ばしい香りが漂う。今までの街より道路が舗装されていることから、それだけこの街の需要が高いと言うことだろう。街は全体的に綺麗で、人々は心から笑っているように見えた。
一同はまず宿を取り、彼女たちを待たせて二人はギルドにクエストの報告をする。その際、テツがアイテムボックスを持っている事と、持ってきたヤシの実の数にギルド職員が驚き二人はくつくつと笑った。
「お待たせ。まずは情報を整理しよう」
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どうやらここ数日、こちらでも騎士が沢山集まり、船を何隻か借り海から出航していたらしい。他国のお姫様が自国領域で難破し行方不明ともなれば当然だろう。
だがギルドでもその原因は分からないという。彼女達の話によれば、彼女たちの来国は極秘に行われていたようだ。魔物の数が増えている、という不確定なもので一国の姫が動いたとなれば国民が動揺してしまう。それを防ぐための事らしい。
だが流石にこの街の領主である『カプリ伯爵』はその事を知っているだろう、という事でまずは街のはずれにある伯爵邸に向かう事で一同は同意した。
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テツの言葉に、改めて自身の格好を見て彼女達は赤面する。漂流していた際、彼女たちは鎧を、衣服を可能な限り脱ぎ、肌着の身となっていた。その為二人は助けた際、自身たちの服を貸している。今の彼女たちの格好は男の冒険者の様で、どう見ても一国の姫のようには見えないからだ。
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