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第99話 グライムに教えられる 19
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腕を折った、これで五分か。
いや、そんなわけはない。
目の前に相手が立っている以上、タイも優位も無い。
勝はニアンの攻撃を間一髪避けながら、勝機となる一点を探し続けていた。
右腕を折った、しかしそれは攻撃の一手を減らしただけに過ぎず、ニアンはお構いなく残る手足を武器に攻撃を繰り返す。
右足へ与えたダメージは、ニアンの踏み込みを甘くしたが、それで出来たのは間一髪の隙間であって、それを勝機へと手繰り寄せれるほど勝も五体満足ではなかった。
ニアンが繰り出す突き刺すような左手の手刀を、勝は顔を横に逸らし間一髪避ける。
警戒すべきはこの一手ではない、下手に避けた後の追撃の二手、三手だ。
カウンターを狙いにいこうともニアンの動きは、勝の虚を衝くリズムで、後の先を取ったつもりがそこを更に半拍ずらされて反撃を食らってしまう。
腕を折った事でニアンは、強烈な一撃を狙いに来なくなった。
大振りも深い踏み込みも無い、コンパクトな一撃を的確に狙い続けている。
その一撃さえ入れば、続く追撃で仕留めれる。
それが狙いなのだろうと、攻められ続ける勝にもわかっていた。
防戦一方で掴める勝機はここには無い。
それがわかっていて、勝に焦りが出てくる。
避ける行動が雑になると、すぐさまニアンの攻撃は勝の身体を捉えてくる。
何度目かの繰り出された手刀は勝の顔を斬りつけて、頬に浅い切り傷が付いた。
焦りを押しとどめるひと傷、勝が避けることに専念し直す。
掠めただけ、それだけで頬を斬りつける程の手刀だが、それはつまり捉えきれなかったということだ。
ニアンも焦りを感じてはいた。
あと一撃、もう一撃で倒せるだろう男は、しぶとく避け続けまだ目の前に立っている。
満身創痍と判断したその身体で、無限にも思える体力で立ち続けている。
無限などありえない、と突き出す手刀は間一髪、芯を捉えきれずに避けられていく。
無限に思える乱打。
意地と意地のぶつかり合い。
このまま決着がつかぬまま、互いが互いの命を奪って終わるのかとそう錯覚すら覚える英雄と井上。
しかし、一撃の差が英雄に軍配を上げる。
両手共に――両蛇共に、傷だらけとなり感覚ももう無くなっていたが、壊したという感触だけはしっかりと感じ取っていた。
英雄が伸ばした右腕、その先の拳が井上の顔面を歪ませていく。
互いの血が飛び散り、真っ赤に染める拳。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
壊した、その感触は健やかな感触では無い。
鈍く泥水のように濁った感触。
その淀みに吐き気すら覚える。
だが、英雄はその感触を飲み込むことを覚悟してきたのだ。
やっと一つ掴んだ、そう感触を噛み締める英雄の拳から井上の頬が離れていく。
膝から崩れゆく井上の身体、目から光が失われ意識が飛んでいることがわかる。
「オレは、もう、止まらねぇ」
壊した者への誓い、壊すモノへの誓い。
英雄はそう呟くと、ゆっくりと突き出した拳を引いた。
覚悟はしていたはずなのに、更なる覚悟が拳に乗っかっていく。
もう身体は悲鳴をあげ疲れているように、何も感じなくなりつつある。
その身体でこの先、更なる破壊を続ける覚悟。
奥へと向かった遊川、下には千代田組の組員も集まってきてるだろう。
隣で戦っているニアンが勝つか負けるかは、英雄にはわからなかった。
中国系の組織から抜け出して、今日まで裏の世界で生き残ってるというだけで充分やるのは承知しているが、それがニアンの勝因とはならないだろう。
結局裏の世界は、意地の張り合いだ。
英雄はボロボロになったこの拳でそれを強く実感していた。
いや、そんなわけはない。
目の前に相手が立っている以上、タイも優位も無い。
勝はニアンの攻撃を間一髪避けながら、勝機となる一点を探し続けていた。
右腕を折った、しかしそれは攻撃の一手を減らしただけに過ぎず、ニアンはお構いなく残る手足を武器に攻撃を繰り返す。
右足へ与えたダメージは、ニアンの踏み込みを甘くしたが、それで出来たのは間一髪の隙間であって、それを勝機へと手繰り寄せれるほど勝も五体満足ではなかった。
ニアンが繰り出す突き刺すような左手の手刀を、勝は顔を横に逸らし間一髪避ける。
警戒すべきはこの一手ではない、下手に避けた後の追撃の二手、三手だ。
カウンターを狙いにいこうともニアンの動きは、勝の虚を衝くリズムで、後の先を取ったつもりがそこを更に半拍ずらされて反撃を食らってしまう。
腕を折った事でニアンは、強烈な一撃を狙いに来なくなった。
大振りも深い踏み込みも無い、コンパクトな一撃を的確に狙い続けている。
その一撃さえ入れば、続く追撃で仕留めれる。
それが狙いなのだろうと、攻められ続ける勝にもわかっていた。
防戦一方で掴める勝機はここには無い。
それがわかっていて、勝に焦りが出てくる。
避ける行動が雑になると、すぐさまニアンの攻撃は勝の身体を捉えてくる。
何度目かの繰り出された手刀は勝の顔を斬りつけて、頬に浅い切り傷が付いた。
焦りを押しとどめるひと傷、勝が避けることに専念し直す。
掠めただけ、それだけで頬を斬りつける程の手刀だが、それはつまり捉えきれなかったということだ。
ニアンも焦りを感じてはいた。
あと一撃、もう一撃で倒せるだろう男は、しぶとく避け続けまだ目の前に立っている。
満身創痍と判断したその身体で、無限にも思える体力で立ち続けている。
無限などありえない、と突き出す手刀は間一髪、芯を捉えきれずに避けられていく。
無限に思える乱打。
意地と意地のぶつかり合い。
このまま決着がつかぬまま、互いが互いの命を奪って終わるのかとそう錯覚すら覚える英雄と井上。
しかし、一撃の差が英雄に軍配を上げる。
両手共に――両蛇共に、傷だらけとなり感覚ももう無くなっていたが、壊したという感触だけはしっかりと感じ取っていた。
英雄が伸ばした右腕、その先の拳が井上の顔面を歪ませていく。
互いの血が飛び散り、真っ赤に染める拳。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
壊した、その感触は健やかな感触では無い。
鈍く泥水のように濁った感触。
その淀みに吐き気すら覚える。
だが、英雄はその感触を飲み込むことを覚悟してきたのだ。
やっと一つ掴んだ、そう感触を噛み締める英雄の拳から井上の頬が離れていく。
膝から崩れゆく井上の身体、目から光が失われ意識が飛んでいることがわかる。
「オレは、もう、止まらねぇ」
壊した者への誓い、壊すモノへの誓い。
英雄はそう呟くと、ゆっくりと突き出した拳を引いた。
覚悟はしていたはずなのに、更なる覚悟が拳に乗っかっていく。
もう身体は悲鳴をあげ疲れているように、何も感じなくなりつつある。
その身体でこの先、更なる破壊を続ける覚悟。
奥へと向かった遊川、下には千代田組の組員も集まってきてるだろう。
隣で戦っているニアンが勝つか負けるかは、英雄にはわからなかった。
中国系の組織から抜け出して、今日まで裏の世界で生き残ってるというだけで充分やるのは承知しているが、それがニアンの勝因とはならないだろう。
結局裏の世界は、意地の張り合いだ。
英雄はボロボロになったこの拳でそれを強く実感していた。
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