ファンキー・ロンリー・ベイビーズ

清泪─せいな

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第84話 グライムに教えられる 4

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 満身創痍の身体を酷使し、いつもより早く切れる息を必死で吸い込み、勝と文哉はチンピラ達を倒していく。
 入り口広間で待ち構えていたチンピラ達が大体半数ほど床に這いつくばった頃、集団の中から一人の男が前に出てきて、熱くなっていたチンピラ達の動きが止まる。
 攻撃の意思を見せないゆったりとした歩みに、勝はその姿をハッキリと認識する。
 黒のニット帽、黒のアーミージャケット、カーゴパンツ。
 昨日出会ったその男は、顔面を包帯で覆っていて目のところだけ出しているという、不気味な状態で現れた。
 須藤すどう清司せいじ、昨日勝が戦った売人二人組の一人。
 長身の色白、という印象は今はすっかりミイラ男に変わってしまった。 

「テメェは、まったく大したもんだぜ」

 ぐっと静まった空気を、須藤が開口し発した言葉で壊した。
 予想外の言葉に勝と文哉は身構え、周りのチンピラの動揺が広間に波のように連なっていく。

「どこまでやるのか見てみたいと、昨日ビルの場所を教えてやったが、まさかこんなとこまで乗り込んで来るなんてな。想像以上だ。せいぜい逃げ出して生き延びれたなら合格点だと思ってたぜ」

 周りのざわめきなど気にもせず、須藤は言葉を続けていく。

「褒めてるのか、馬鹿だと思ってるのか、どっちだ?」

「両方」

 勝の問いに即答で返し須藤は口角を上げる。
 覆った包帯で見えないが、笑っているように見えるのだから不思議なものだ。

「オレは賭けてんだよ、お前によ。佐山、だったか? お前とはもっと面白ぇ喧嘩ができるとオレは思ってる。だから、オレは賭けたんだ」

 話を続ける須藤に注目が集まる。
 息切れ気味の勝と文哉には助かる時間ではあるが、何しろ不気味な見た目の相手である、警戒を解くわけにもいかない。

「なぁ、佐山。コイツ、何言ってんだ?」

「俺も、わからないけど。とりあえず聞いてやって考えよう、平田さん」

 勝と文哉だけじゃなく、周りのチンピラも、この状況、須藤の話がどう転ぶのかを窺っている。

「ああ、そんなに警戒してくれなくていい。オレは賭けたんだよ、野上の野郎とな。佐山、テメェらがこの入り口の人員の半数を倒せたらそこを合格点として、それ以上の邪魔は無しだ。オレが案内人になって、このまま上に連れてってやる。それが出来なきゃ皆で袋叩き、そのあとトラックに乗っけて海にドボンだ」

 オレも含めてな、と須藤は続けた。
 どうやらその賭けの賭け金として自分の首を差し出したらしい。

「野上、ってのが親玉の名前か?」

「思わぬ収穫が来たな」

 勝と文哉の確認に、周りのチンピラがクスクスと笑い出す。
 そんな名前も知らずにここまで来たのかと嘲る。

「んで、もう合格点到達か?」

 勝は周りを見回すよう手を広げジェスチャーする。
 それは、須藤への確認と他のチンピラへの威嚇。
 笑ってんじゃねぇ、殴り倒されたいか!?

「ああ、そうだ、合格点だっ──」

 須藤はそう言うや、言い切る前に身を捻り真横に立つチンピラの一人を殴る。
 会話を聞くことに集中していた間抜けな面を、ストレートで吹っ飛ばす。

 何が起こったか、何をやってんだ、という疑問がチンピラ達の反応を鈍らせる。
 須藤は間髪入れず殴った逆方向に立つチンピラを、後ろ蹴りで押し飛ばす。
 壁にぶつけられたチンピラが顔を上げると、眼前に飛び膝蹴りが迫っていた。

「──落第したヤツは潰させてもらうぜ」

 ぶつかる膝と顔面、飛び散る唾液と鼻血。

「何だ、アイツ仲間なのか、佐山?」

「いや、昨日りあった相手ってだけで、その、何をやりたいのかサッパリ」

 警戒態勢は解かぬまま、須藤の暴れっぷりを見続ける勝と文哉。
 須藤は流れるように次々とチンピラを仕留めていく。
 包帯に邪魔された狭い視界の中で、軽々と攻撃を避けていき、パンチキックに金属バットも取り入れて、容赦なく潰していく。

 ものの五分も必要としない一方的な狩り。
 残っていたチンピラを全て須藤一人でのしてしまった。

「お見事、って拍手した方がいいか? 狙いはなんだよ、すどう、だっけか?」

「あ? 説明聞いてなかったのか? お前らが合格点だからな、邪魔の排除をしてやったんだ。これも賭けによるもんでな、野上の飲んだ条件は使えないやつの排除・・・・・・・・もあってな」

 首を横に振りゴキゴキと音を鳴らす須藤。
 まるで準備運動が終わったと言ってるようだ。

「それで、アンタは組織の幹部にでもなる寸法か?」

 チンピラは全て倒れたものの、須藤への警戒は解くことは出来ず、文哉は間合いに入ればいつでも蹴れるよう構え続ける。

「そんなもんになる気はねぇよ。むしろオレが望んだのは見知らぬ人ストレンジャーからの脱退だ。面白ぇ喧嘩が出来そうなのはここじゃないと思ったんでな。テメェらを上へ連れてった後、オレは組織を抜けて売人なんて下っ端稼業ともおさらばだ」

 ほら行くぞ、と須藤は顎で奥のカードリーダーのある方を差す。
 包帯でぐるぐると巻かれてようとそういうのはわかるものなんだなと、勝は思った。

 勝と文哉は互いに視線を送ると頷き合い、須藤の指示に従い、作業場へと続く通路へ進み出した。
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