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第53話 昔取ったラグタイム 7
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真っ直ぐ立ってることもままならない文哉は、道路の端に移動してガードレールに腰かけた。
商店街の裏側に当たる一方通行の狭い道。
古い民家が並ぶ、商店街に向かう道になるので、只でさえ車幅で限られるのに人通りは少々あり車で通り抜けるには不便な道。
民家の入り口前に何故かある錆びだらけのガードレールは、車道と歩道を区切るというよりは車と通行人の邪魔をする位置に設置されていた。
文哉が腰かけるとガードレールはギギギっと軋む音を立てる。
座り心地は良くない、お尻が痛いが今はそれ以外の場所が激しく痛むので些細なことだった。
地面に倒れる英雄、そして見知らぬ人とかいう名前のチームメンツ。
それらが起き上がる前に自警団のメンバーを起こしてやらないといけない。
そうはわかっているが、文哉はそれを素直に実行できるほど体力を残していなかった。
真面目に働きだして、数年。
自警団に所属していた喧嘩の日々から離れて、数年。
卒業だと決心するために日頃の筋トレなども自ら禁じていた。
体力作りはあくまで仕事の一環としての範疇まで。
軋む脇腹を押さえ、文哉は自分で作った制限に後悔していた。
「オイ、自警団。テメェ、こんなんでオレを倒した気になってんじゃねぇぞ」
何事も無かったかのように、英雄が起き上がる。
文哉の足跡がついた頬を払うこともなく、鼻から垂れる血を拭くこともなく、立ち上がると前傾姿勢で大きく一歩左足を踏み込んだ。
驚愕に判断と反応が遅れる文哉。
ガードレールから離れ立ちあがり、半歩踏み込んで右足を振り上げる。
「遅ぇっ!!」
文哉の中段蹴り、それが英雄の腹部を叩くための軌道に動ききる前に、英雄の右手が文哉の顔面を叩く。
ちぃっ、と舌打ちするのは英雄。
僅かに半歩踏み込みが足りず、英雄の伸ばしたジャブは芯を捉えきれなかった。
鼻頭を殴る程度の一撃。
顔面を叩かれて文哉は中段蹴りを止める。
振り上げた足はすぐに降ろして、ふらつく身体が倒れないように踏ん張った。
この距離で殴れるのかよっ!、と英雄の異常なリーチの長さに驚くばかりだった。
狭い道路と言えど車と人がすれ違える距離、そして文哉と英雄は端と端で対峙していた。
二メートル以上のリーチ。
しっかり踏み込んだ文哉の蹴りより長いリーチ。
鞭のようにしなやかに揺れる英雄の右ジャブが引き、踏み込んだ左足を軸に今度は横凪ぎの右足。
長身を支える鍛えられた脚は太く、空気の壁を音をたてて薙ぐ。
文哉は小さく息を吸い込み、蹴りへと左肘を合わせて落とす。
肘鉄による迎撃。
蹴りを叩き落とし、反動に乗せて右裏拳で英雄の顔を叩く。
流れたままの鼻血が宙に舞う。
足を叩かれ顔を殴られた英雄は体勢を崩す。
元より前傾姿勢で構えていたので、文哉側に倒れる形で転げそうになるが、引き下げた右手を再び伸ばし文哉の左肩を掴んだ。
文哉は降ろした左手を振り上げ英雄の掴みを剥がそうとするが、それより早く英雄の左手が文哉の腹部を突き上げた。
低い位置から来るアッパー軌道のボディブロー。
重い衝撃は文哉の身体をクの字に曲げる。
「もう一発っ!」
肩を掴む英雄の右手。
グッと文哉を引き寄せて、英雄は頭を振りかぶった。
文哉は右足を上げて、英雄の左足の膝、その内側側面を踏みつけ、後ろに倒れるように飛び上がる。
体重を乗せて、肩を掴まれてることを利用して英雄の身体を引っ張り返す。
振りきれない頭、英雄の顔が近づいてきて、逆に文哉は頭頂部をぶつけた。
「ぐぶっ、」
鼻血が詰まり、英雄は溺れたような錯覚を覚える。
手が離れ、後ろに倒れそうになる身体を文哉に両手で押される。
仰け反る身体、ふらつき二歩三歩と後退する。
二、三歩の距離、間合いが生まれる。
それは、文哉の間合い。
文哉は鋭く息を吐く。
痛む腹部に崩れた姿勢。
左足を半歩踏み込むと腰を捻り、右足を素早く振り上げた。
上段回し蹴り。
渾身の一撃は、英雄の顔面、芯を捉えバシィンと大きく音を立てた。
英雄は歯を食い縛り、全身に力を込めた。
腹筋に力を入れて、鼻から詰まった血を噴き出した。
渾身の一撃、確かな切れ味を顔面に感じていたが、英雄はニヤリと笑ってみせた。
「踏み込み切れなかったのは、お互い様だな自警団」
ボディブローが文哉の蹴りの威力を削いだのは明白。
確かな威力はあれど、軽々と蹴り飛ばされるほどではない。
英雄は文哉の右足を掴む。
右手で脛を掴み、左手で持ち上げるように抱える。
文哉が反応する間も与えず、身体を捻り投げ飛ばした。
投げ飛ばされた文哉の身体は錆びついたガードレールにぶつかり、ガードレールは衝撃に耐えれずボロボロと崩れていった。
商店街の裏側に当たる一方通行の狭い道。
古い民家が並ぶ、商店街に向かう道になるので、只でさえ車幅で限られるのに人通りは少々あり車で通り抜けるには不便な道。
民家の入り口前に何故かある錆びだらけのガードレールは、車道と歩道を区切るというよりは車と通行人の邪魔をする位置に設置されていた。
文哉が腰かけるとガードレールはギギギっと軋む音を立てる。
座り心地は良くない、お尻が痛いが今はそれ以外の場所が激しく痛むので些細なことだった。
地面に倒れる英雄、そして見知らぬ人とかいう名前のチームメンツ。
それらが起き上がる前に自警団のメンバーを起こしてやらないといけない。
そうはわかっているが、文哉はそれを素直に実行できるほど体力を残していなかった。
真面目に働きだして、数年。
自警団に所属していた喧嘩の日々から離れて、数年。
卒業だと決心するために日頃の筋トレなども自ら禁じていた。
体力作りはあくまで仕事の一環としての範疇まで。
軋む脇腹を押さえ、文哉は自分で作った制限に後悔していた。
「オイ、自警団。テメェ、こんなんでオレを倒した気になってんじゃねぇぞ」
何事も無かったかのように、英雄が起き上がる。
文哉の足跡がついた頬を払うこともなく、鼻から垂れる血を拭くこともなく、立ち上がると前傾姿勢で大きく一歩左足を踏み込んだ。
驚愕に判断と反応が遅れる文哉。
ガードレールから離れ立ちあがり、半歩踏み込んで右足を振り上げる。
「遅ぇっ!!」
文哉の中段蹴り、それが英雄の腹部を叩くための軌道に動ききる前に、英雄の右手が文哉の顔面を叩く。
ちぃっ、と舌打ちするのは英雄。
僅かに半歩踏み込みが足りず、英雄の伸ばしたジャブは芯を捉えきれなかった。
鼻頭を殴る程度の一撃。
顔面を叩かれて文哉は中段蹴りを止める。
振り上げた足はすぐに降ろして、ふらつく身体が倒れないように踏ん張った。
この距離で殴れるのかよっ!、と英雄の異常なリーチの長さに驚くばかりだった。
狭い道路と言えど車と人がすれ違える距離、そして文哉と英雄は端と端で対峙していた。
二メートル以上のリーチ。
しっかり踏み込んだ文哉の蹴りより長いリーチ。
鞭のようにしなやかに揺れる英雄の右ジャブが引き、踏み込んだ左足を軸に今度は横凪ぎの右足。
長身を支える鍛えられた脚は太く、空気の壁を音をたてて薙ぐ。
文哉は小さく息を吸い込み、蹴りへと左肘を合わせて落とす。
肘鉄による迎撃。
蹴りを叩き落とし、反動に乗せて右裏拳で英雄の顔を叩く。
流れたままの鼻血が宙に舞う。
足を叩かれ顔を殴られた英雄は体勢を崩す。
元より前傾姿勢で構えていたので、文哉側に倒れる形で転げそうになるが、引き下げた右手を再び伸ばし文哉の左肩を掴んだ。
文哉は降ろした左手を振り上げ英雄の掴みを剥がそうとするが、それより早く英雄の左手が文哉の腹部を突き上げた。
低い位置から来るアッパー軌道のボディブロー。
重い衝撃は文哉の身体をクの字に曲げる。
「もう一発っ!」
肩を掴む英雄の右手。
グッと文哉を引き寄せて、英雄は頭を振りかぶった。
文哉は右足を上げて、英雄の左足の膝、その内側側面を踏みつけ、後ろに倒れるように飛び上がる。
体重を乗せて、肩を掴まれてることを利用して英雄の身体を引っ張り返す。
振りきれない頭、英雄の顔が近づいてきて、逆に文哉は頭頂部をぶつけた。
「ぐぶっ、」
鼻血が詰まり、英雄は溺れたような錯覚を覚える。
手が離れ、後ろに倒れそうになる身体を文哉に両手で押される。
仰け反る身体、ふらつき二歩三歩と後退する。
二、三歩の距離、間合いが生まれる。
それは、文哉の間合い。
文哉は鋭く息を吐く。
痛む腹部に崩れた姿勢。
左足を半歩踏み込むと腰を捻り、右足を素早く振り上げた。
上段回し蹴り。
渾身の一撃は、英雄の顔面、芯を捉えバシィンと大きく音を立てた。
英雄は歯を食い縛り、全身に力を込めた。
腹筋に力を入れて、鼻から詰まった血を噴き出した。
渾身の一撃、確かな切れ味を顔面に感じていたが、英雄はニヤリと笑ってみせた。
「踏み込み切れなかったのは、お互い様だな自警団」
ボディブローが文哉の蹴りの威力を削いだのは明白。
確かな威力はあれど、軽々と蹴り飛ばされるほどではない。
英雄は文哉の右足を掴む。
右手で脛を掴み、左手で持ち上げるように抱える。
文哉が反応する間も与えず、身体を捻り投げ飛ばした。
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