31 / 120
第31話 百聞はボサノバにしかず 7
しおりを挟む
女性に手を引っ張られて文哉はついていくと、ビルとビルの間に女性は駆け込んだ。
ここなら大丈夫、と息を切らしながら女性は言った。
「あんなことあったばかりで、男とこんな人目のつかないとこで大丈夫?」
「貴方は変なことしない人でしょ?」
掴まれた震えた手に文哉は気を遣ったつもりだったが、妙な信頼を寄せられて逆に困ってしまった。
確かに文哉は女性に対して変な気を起こしたりはしないが、人助けをするやつが必ずしも良い人というわけでもないし、下手すればさっきのヤクザたちと裏では繋がってるなんてこともありえるかもしれない。
ということを、説明しようかと思ったが女性の手の震えが止まらないので文哉は口に出さなかった。
「それで・・・・・・あー、良かったらなんだけど、なんでああいうことになったのか教えてくれる? 強引なナンパってわけじゃなさそうだったけど?」
女性の手が文哉の手から離れる。
その手は女性の胸の辺りを押え、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。
あの、と声をかける文哉に女性はもう片方の手を伸ばしそれを制止するように遮った。
「順を追って説明するね。とりあえず、名前。私は村山愛依。さっきは助けてくれてありがとう」
「あ、えっと、俺は平田文哉。あんま気にしないでいいよ、たまたま通りすがっただけだから」
「何それ、イケメン過ぎない? 平田さんはいつもこんなことやってんの?」
愛依が笑う。
まだ恐さが残っているのか、ぎこちなく、それでも少し安堵を滲ませて笑った。
「いつも、はやってないよ。面倒ごとに巻き込まれるのは嫌いなんだよ、今日はたまたま」
「じゃあ、私はラッキーだったんだね」
「あんなのに絡まれてラッキーだったなんて、ポジティブ過ぎるでしょ」
「ははは、確かに。ポジティブっていうか能天気っていうか」
「・・・・・・それで?」
「あ、ごめん、話進んでないね」
話の進みを催促する文哉に、愛依は手の平を重ねて合わせ謝るポーズをとった。
「あの引かないで聞いてほしいんだけど、私ね、前にクスリ買ったことがあって」
「は?」
「いやだから、引かないでって、話進まなくなっちゃうから」
「んじゃあ、自業自得的な話? 因果応報的な事?」
「いや、違うんだって、そういうトラブルじゃなくて。クスリも興味本意で買った一回だけだし、その時に友達の女の子にめちゃくちゃ怒られたからやってないし買ってないの」
文哉は想像してた以上の面倒ごとに首を突っ込んでしまったなと、少し後悔した。
「トラブルじゃなかったら、なんでヤクザに絡まれてたんだ?」
「その・・・・・・その、友達がさ、誘拐されたらしくて」
「誘拐? ヤクザに?」
文哉はそう問いを口にして、しかしそれがおかしい話だと気がついた。
あの二人組のヤクザこそ、その誘拐犯というのを探していると主張していたはずだ。
「違うの。えっと、あの二人が言うには若い男の人だって。確か赤いジャケット着てるとか言ってたけど」
赤いジャケット、というと休憩時間に聞いた伊知郎の話の中に出てきた男を思い浮かべた。
どういう理由があるかわからないがクスリの売人狩りみたいなことをしてる物好き、もしくは酔狂なイカれ野郎。
五円玉のヒーローみたいに伊知郎は語っていたが、文哉には荒れた街に現れた頭のおかしな奴にしか思えなかった。
「それで、なんで、えっと、村山さんがあのヤクザに絡まれることになるんだ?」
「それは、そのヤクザの人たちが男の人のことをクスリ絡みの人だって考えてたらしくて、それで以前買ったことのある私を探して話を聞きに来たって」
「なんか、すげぇリサーチ力っていうか、購入者リストでも流れてんのか? 村山さんは名前名乗ってクスリ買ったの?」
もしくは興味本意で買ったクスリのことをSNSかなにかで自慢でもしてたか。
それでもヤクザのリサーチ力が妙に高いな、と文哉は訝しげに愛依の話を聞いていた。
「んー、そういうことじゃなくて、私がクスリ買ってたのはその拐われた友達からわかったっていうか」
「は? どういうこと?」
「その拐われた友達っていうのがね、千代田組の組長さんの娘なの。森川八重、って普段はお母さんの旧姓名乗ってるんだけど。その子が赤いジャケットの男の人に連れられていくのを組の人が見かけて、最近クスリ売買に街を荒らしてるって若い連中に拐われたって探し回ってるらしいの」
文哉が介入する前、愛依が声をあげる前にそんなやり取りがあったのかと文哉は感心する。
ヤクザがベラベラとよく喋ったもんだなとも思う。
察するに愛依がクスリを購入した際に怒ったという八重という組のお嬢さんが組員に話を通したりしたことがあったのだろう。
それで、あの二人組は愛依にたどり着いたのだろう。
売人狩りのイカれ野郎が今度は千代田組のお嬢さんを誘拐。
そんな話に首を突っ込んでしまったというわけか。
「あーあ、やっちまった」
文哉はため息を吐いて首を振り天を仰いだ。
ここなら大丈夫、と息を切らしながら女性は言った。
「あんなことあったばかりで、男とこんな人目のつかないとこで大丈夫?」
「貴方は変なことしない人でしょ?」
掴まれた震えた手に文哉は気を遣ったつもりだったが、妙な信頼を寄せられて逆に困ってしまった。
確かに文哉は女性に対して変な気を起こしたりはしないが、人助けをするやつが必ずしも良い人というわけでもないし、下手すればさっきのヤクザたちと裏では繋がってるなんてこともありえるかもしれない。
ということを、説明しようかと思ったが女性の手の震えが止まらないので文哉は口に出さなかった。
「それで・・・・・・あー、良かったらなんだけど、なんでああいうことになったのか教えてくれる? 強引なナンパってわけじゃなさそうだったけど?」
女性の手が文哉の手から離れる。
その手は女性の胸の辺りを押え、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。
あの、と声をかける文哉に女性はもう片方の手を伸ばしそれを制止するように遮った。
「順を追って説明するね。とりあえず、名前。私は村山愛依。さっきは助けてくれてありがとう」
「あ、えっと、俺は平田文哉。あんま気にしないでいいよ、たまたま通りすがっただけだから」
「何それ、イケメン過ぎない? 平田さんはいつもこんなことやってんの?」
愛依が笑う。
まだ恐さが残っているのか、ぎこちなく、それでも少し安堵を滲ませて笑った。
「いつも、はやってないよ。面倒ごとに巻き込まれるのは嫌いなんだよ、今日はたまたま」
「じゃあ、私はラッキーだったんだね」
「あんなのに絡まれてラッキーだったなんて、ポジティブ過ぎるでしょ」
「ははは、確かに。ポジティブっていうか能天気っていうか」
「・・・・・・それで?」
「あ、ごめん、話進んでないね」
話の進みを催促する文哉に、愛依は手の平を重ねて合わせ謝るポーズをとった。
「あの引かないで聞いてほしいんだけど、私ね、前にクスリ買ったことがあって」
「は?」
「いやだから、引かないでって、話進まなくなっちゃうから」
「んじゃあ、自業自得的な話? 因果応報的な事?」
「いや、違うんだって、そういうトラブルじゃなくて。クスリも興味本意で買った一回だけだし、その時に友達の女の子にめちゃくちゃ怒られたからやってないし買ってないの」
文哉は想像してた以上の面倒ごとに首を突っ込んでしまったなと、少し後悔した。
「トラブルじゃなかったら、なんでヤクザに絡まれてたんだ?」
「その・・・・・・その、友達がさ、誘拐されたらしくて」
「誘拐? ヤクザに?」
文哉はそう問いを口にして、しかしそれがおかしい話だと気がついた。
あの二人組のヤクザこそ、その誘拐犯というのを探していると主張していたはずだ。
「違うの。えっと、あの二人が言うには若い男の人だって。確か赤いジャケット着てるとか言ってたけど」
赤いジャケット、というと休憩時間に聞いた伊知郎の話の中に出てきた男を思い浮かべた。
どういう理由があるかわからないがクスリの売人狩りみたいなことをしてる物好き、もしくは酔狂なイカれ野郎。
五円玉のヒーローみたいに伊知郎は語っていたが、文哉には荒れた街に現れた頭のおかしな奴にしか思えなかった。
「それで、なんで、えっと、村山さんがあのヤクザに絡まれることになるんだ?」
「それは、そのヤクザの人たちが男の人のことをクスリ絡みの人だって考えてたらしくて、それで以前買ったことのある私を探して話を聞きに来たって」
「なんか、すげぇリサーチ力っていうか、購入者リストでも流れてんのか? 村山さんは名前名乗ってクスリ買ったの?」
もしくは興味本意で買ったクスリのことをSNSかなにかで自慢でもしてたか。
それでもヤクザのリサーチ力が妙に高いな、と文哉は訝しげに愛依の話を聞いていた。
「んー、そういうことじゃなくて、私がクスリ買ってたのはその拐われた友達からわかったっていうか」
「は? どういうこと?」
「その拐われた友達っていうのがね、千代田組の組長さんの娘なの。森川八重、って普段はお母さんの旧姓名乗ってるんだけど。その子が赤いジャケットの男の人に連れられていくのを組の人が見かけて、最近クスリ売買に街を荒らしてるって若い連中に拐われたって探し回ってるらしいの」
文哉が介入する前、愛依が声をあげる前にそんなやり取りがあったのかと文哉は感心する。
ヤクザがベラベラとよく喋ったもんだなとも思う。
察するに愛依がクスリを購入した際に怒ったという八重という組のお嬢さんが組員に話を通したりしたことがあったのだろう。
それで、あの二人組は愛依にたどり着いたのだろう。
売人狩りのイカれ野郎が今度は千代田組のお嬢さんを誘拐。
そんな話に首を突っ込んでしまったというわけか。
「あーあ、やっちまった」
文哉はため息を吐いて首を振り天を仰いだ。
7
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説


異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
王様の恥かきっ娘
青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。
本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。
孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます
物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります
これもショートショートで書く予定です。
蒼穹(そうきゅう)の約束
星 陽月
ライト文芸
会社の上司と不倫をつづける紀子は、田嶋正吉という太平洋戦争に従軍した経験を持つ老人と公園で出会う。
その正吉とベンチで会話を交わす紀子。
そして、その正吉とまた公園で会うことを約束をして別れた。
だが、別れてすぐに、正吉は胸を抑えて倒れてしまった。
紀子も同乗した救急車の中で息をひきとってしまった正吉。
その正吉は、何故か紀子に憑依してしまったのだった。
正吉が紀子に憑依した理由とはいったい何なのか。
遠き日の約束とは……。
紀子のことが好きな谷口と、オカマのカオルを巻き込んで巻き起こるハートフル・ヒューマン・ドラマ!
この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR
ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。
だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。
無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。
人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。
だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。
自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。
殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中

自警団を辞めて義賊になったら、元相棒の美少女に追いかけられる羽目になった
齋歳 うたかた
ファンタジー
自警団を辞めて義賊になった青年リアム。自警団の元同僚達から逃げながら、彼は悪人の悪事を白日の下に晒していく。
そんな彼を捕まえようとするのは、彼のかつての相棒である女副団長。リアムの義賊行為を認めるわけもなく、彼女は容赦なく刀を振るってくる。
追われる義賊、追う副団長。
果たして義賊は元相棒に捕まってしまうのだろうか?
※『カクヨム』『小説家になろう』でも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる