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第29話 百聞はボサノバにしかず 5
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「よぉ、ニイチャン。正義のヒーローづらすんのはいいがよ、俺らが探してんのは誘拐犯なんだ。それを邪魔するってのかい?」
濃緑の背広服の男が周りの通行人を睨みつけながらそう言う。
男の睨みつけに周りの通行人は怯えながらも今度は携帯電話をしまうことは無かった。
「誘拐犯だって? だったら警察に協力を頼んだらいいじゃないか。待ってたらすぐ来るぜ」
文哉は男の注目を促すように電話で通報をしてくれてる通行人の一人に視線を向ける。
男も視線を向けて、舌打ちをした。
「俺らはサツにへーこら願い出るわけにはいかないんだよ。ちょっとそこのネェチャンに話聞くだけで終わんだ、わかれよニイチャンもよぉ。そのネェチャンの為にもよぉ、大通りで聞くような話じゃねぇんだよ」
ネェチャンと呼ばれた女性は文哉の背中にすがるようにしがみついていた。
いや、盾にしてるよう、が正しいだろうか。
「いてててててててててて、も、もう、いい、もういいよ、平家。べ、別、当たるからよ、いててててててててぇ、ニイチャン、は、離してくれ、頼む」
紺の背広服の男が文哉に掴まれていない方の手で自分の肩を繰り返しタップしている。
タップ、要するにギブアップを宣言している。
文哉の顔を見ようと首を動かせば決められた関節がさらに音をならし痛みを増すので、濃緑の背広服の男の顔を見ていた。
濃緑の背広服の男──平家北斗は渋々頷くと、手を出さないと言わんばかりに両手をあげてみせた。
拳銃を突きつけられて降伏してるようであった。
「ちょっと離れててくれるか? あ、でも走り出したりはしないように。逆に追いかけられたりするから」
文哉は背中にしがみつく女性にそう言うと女性が頷いたのを確認して、紺の背広服の男の腕の関節を解いて平家に向かって背中を押した。
「ダセェーことやってんじゃねぇよ、馬宮。カタギに関節決められてすぐ泣き言だなんて、上になんて説明するつもりだ?」
痛みの残る肩を気にする紺の背広服の男──馬宮幹雄のその肩を小突く平家。
「ったく、これだから千代田組は舐められっぱなしなんだよ、最近の若いヤツらによ。ニイチャンも実際のとこ俺らが何モンってわかってそんな正義のヒーローづらしてんだろ?」
「アンタらがヤクザかどうかなんて知るかよ。女が絡まれて怖がってんだ、それを助けるってのはアンタら風に言う筋ってもんだろ?」
「ああったく、筋まで語られて立つ瀬無いったらありゃしねぇ。なぁ、ニイチャン、サツが来るまでまだ時間もあるし、ここは一発殴りあわねぇか?」
平家が握り拳を作り両腕を顔の前で構えた。
ボクシングの構えのようにも見えたが、それにしては上半身だけの構えだ。
「はぁ? なんでそうなるんだよ。時間があるって言っても警察はすぐ来るし通行人の目もあるんだぞ、アンタ正気か?」
「正気も正気。わりぃな、意地と面子と、あと言い訳だ。筋は、ねぇな」
そう言うと平家は一歩踏み込み上半身を軽く斜めに沈める。
「了承無しかよ!」
平家の動きに反応して文哉は上体を後ろに反らした。
追いかけるように平家の拳が飛んでくる。
放物線を描く大きく振りかぶった右拳が空を切る。
「別を当たるっていった俺の立場はどうなるんだよ、平家!」
「このニイチャンをブッ飛ばせば、立場もクソもねぇよ!」
馬宮に応対しながら平家は二撃目を振り上げる。
一撃目の振りとは真逆の、下から突き上げアッパー気味の左ボディブロー。
無理やりな身体の捻りにスピードは乗らないものの、上体を反らしたままの文哉の腹部を捉えた。
どすっ、と音がして舌打ちをしたのは平家の方だった。
「硬ぇ良い腹筋してんじゃねぇか」
「そいつはどうも!」
文哉は反らしていた身体を元に戻す──よりも早く振りかぶるように起こしそのまま平家の頭に頭突きをぶつける。
ごち、と硬く鈍い音がなり平家が弾け飛ぶように上半身を反らす。
そのまま背面に倒れそうになる平家の頭に文哉の右の上段蹴りが叩き込まれて、アスファルトに突っ伏した。
馬宮はその瞬時の出来事に驚くも、体勢を低くして文哉に突っ込んだ。
低空タックルが、上段蹴りの姿勢から戻す文哉の軸足を狙う。
文哉は軸足となる左足を後ろに僅かに滑らして身体を前に倒した。
馬宮のタックルがぶつかってきて、それに合わせて文哉も前に倒れた。
タックルの衝撃と無理な姿勢が下半身に痛みを走らせたが、前倒れになる文哉は体重を馬宮の背中に乗せてタックルの勢いを殺した。
股を前後に大きく開く姿勢になった文哉は、力が入りづらい姿勢のまま馬宮の背中を両手を組んで殴りつけた。
ぐえっ、と馬宮が唸って文哉の左足にしがみついていた手の力を緩める。
文哉は両手で馬宮の肩を掴んで、馬宮の身体をアスファルトへ押しつけて馬宮の掴みから逃れた。
濃緑の背広服の男が周りの通行人を睨みつけながらそう言う。
男の睨みつけに周りの通行人は怯えながらも今度は携帯電話をしまうことは無かった。
「誘拐犯だって? だったら警察に協力を頼んだらいいじゃないか。待ってたらすぐ来るぜ」
文哉は男の注目を促すように電話で通報をしてくれてる通行人の一人に視線を向ける。
男も視線を向けて、舌打ちをした。
「俺らはサツにへーこら願い出るわけにはいかないんだよ。ちょっとそこのネェチャンに話聞くだけで終わんだ、わかれよニイチャンもよぉ。そのネェチャンの為にもよぉ、大通りで聞くような話じゃねぇんだよ」
ネェチャンと呼ばれた女性は文哉の背中にすがるようにしがみついていた。
いや、盾にしてるよう、が正しいだろうか。
「いてててててててててて、も、もう、いい、もういいよ、平家。べ、別、当たるからよ、いててててててててぇ、ニイチャン、は、離してくれ、頼む」
紺の背広服の男が文哉に掴まれていない方の手で自分の肩を繰り返しタップしている。
タップ、要するにギブアップを宣言している。
文哉の顔を見ようと首を動かせば決められた関節がさらに音をならし痛みを増すので、濃緑の背広服の男の顔を見ていた。
濃緑の背広服の男──平家北斗は渋々頷くと、手を出さないと言わんばかりに両手をあげてみせた。
拳銃を突きつけられて降伏してるようであった。
「ちょっと離れててくれるか? あ、でも走り出したりはしないように。逆に追いかけられたりするから」
文哉は背中にしがみつく女性にそう言うと女性が頷いたのを確認して、紺の背広服の男の腕の関節を解いて平家に向かって背中を押した。
「ダセェーことやってんじゃねぇよ、馬宮。カタギに関節決められてすぐ泣き言だなんて、上になんて説明するつもりだ?」
痛みの残る肩を気にする紺の背広服の男──馬宮幹雄のその肩を小突く平家。
「ったく、これだから千代田組は舐められっぱなしなんだよ、最近の若いヤツらによ。ニイチャンも実際のとこ俺らが何モンってわかってそんな正義のヒーローづらしてんだろ?」
「アンタらがヤクザかどうかなんて知るかよ。女が絡まれて怖がってんだ、それを助けるってのはアンタら風に言う筋ってもんだろ?」
「ああったく、筋まで語られて立つ瀬無いったらありゃしねぇ。なぁ、ニイチャン、サツが来るまでまだ時間もあるし、ここは一発殴りあわねぇか?」
平家が握り拳を作り両腕を顔の前で構えた。
ボクシングの構えのようにも見えたが、それにしては上半身だけの構えだ。
「はぁ? なんでそうなるんだよ。時間があるって言っても警察はすぐ来るし通行人の目もあるんだぞ、アンタ正気か?」
「正気も正気。わりぃな、意地と面子と、あと言い訳だ。筋は、ねぇな」
そう言うと平家は一歩踏み込み上半身を軽く斜めに沈める。
「了承無しかよ!」
平家の動きに反応して文哉は上体を後ろに反らした。
追いかけるように平家の拳が飛んでくる。
放物線を描く大きく振りかぶった右拳が空を切る。
「別を当たるっていった俺の立場はどうなるんだよ、平家!」
「このニイチャンをブッ飛ばせば、立場もクソもねぇよ!」
馬宮に応対しながら平家は二撃目を振り上げる。
一撃目の振りとは真逆の、下から突き上げアッパー気味の左ボディブロー。
無理やりな身体の捻りにスピードは乗らないものの、上体を反らしたままの文哉の腹部を捉えた。
どすっ、と音がして舌打ちをしたのは平家の方だった。
「硬ぇ良い腹筋してんじゃねぇか」
「そいつはどうも!」
文哉は反らしていた身体を元に戻す──よりも早く振りかぶるように起こしそのまま平家の頭に頭突きをぶつける。
ごち、と硬く鈍い音がなり平家が弾け飛ぶように上半身を反らす。
そのまま背面に倒れそうになる平家の頭に文哉の右の上段蹴りが叩き込まれて、アスファルトに突っ伏した。
馬宮はその瞬時の出来事に驚くも、体勢を低くして文哉に突っ込んだ。
低空タックルが、上段蹴りの姿勢から戻す文哉の軸足を狙う。
文哉は軸足となる左足を後ろに僅かに滑らして身体を前に倒した。
馬宮のタックルがぶつかってきて、それに合わせて文哉も前に倒れた。
タックルの衝撃と無理な姿勢が下半身に痛みを走らせたが、前倒れになる文哉は体重を馬宮の背中に乗せてタックルの勢いを殺した。
股を前後に大きく開く姿勢になった文哉は、力が入りづらい姿勢のまま馬宮の背中を両手を組んで殴りつけた。
ぐえっ、と馬宮が唸って文哉の左足にしがみついていた手の力を緩める。
文哉は両手で馬宮の肩を掴んで、馬宮の身体をアスファルトへ押しつけて馬宮の掴みから逃れた。
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