ファンキー・ロンリー・ベイビーズ

清泪─せいな

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第24話 ジャズ・ロックを叩いて渡る 7

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 「次の使い道が決まるまで、この店立ち入り禁止だとか言ってなかったっけか? 誰かアニキのうちで使うって言ってたか、ヤス?」

 飲み終えた缶コーヒーを、エントランスの端に設置されている煙草の自動販売機の横に置いてあるゴミ箱に投げ入れると、沼田ぬまたねいはエレベーターの呼び出しボタンを押した。
 金色のパンチパーマに紫のスーツ姿。
 先のとがった靴で壁を叩いて、妙なリズムを取っていた。
 ヤス、と呼ばれた赤いパーカー姿の若者は床に倒れていた見張りを蹴って起こしているところだった。
 野上のがみ花康はなやすは首もとまで伸びた茶色の長髪をかきあげると、目覚めた見張りの若者に、よぉ、と一言言って顔面を蹴った。

「おい、ヤス、遊んでんじゃねぇよ」

「すいません、沼田のアニキ。しつけ、ってヤツですよ。見かけねぇガキなんで多分うちの組の店、勝手に使ってますね、こりゃ」

 ぐえっ、と蹴られた若者が呻いたので野上はもう一度顔面に蹴りを入れる。

「あ? んじゃあ、しつけなんて甘いこと言ってんじゃねぇよ、ちゃんと制裁しとけよ」

「りょーかいーっす」

 野上はそう返事すると床に倒れていた若者が何も反応しなくなるまで、顔面を蹴り続けた。
 エレベーターが訪れて、沼田が奥に入ると野上は靴についた血を若者に擦り付けてからエレベーターの中に入った。

「見かけねぇガキか。また他所の街から来たガキどもが好き勝手やってやがるのか」

「沼田のアニキもちゃんと朝礼出てくださいよー。連絡事項、聞き逃しちゃってるじゃないっすか」

「ああ? ヤクザになってまで朝礼だなんて、サラリーマンみたいなことやってられっかよ」

 沼田は胸ポケットからタバコを取り出して口に咥えた。
 野上は沼田に背を向けて上部の階層表示を見ていたが、瞬時にジーパンのポケットからライターを取り出すとそのタバコに火をつけた。

「火災報知器とかなりませんよね?」

「入れてねぇよ、このビルのエレベーターには。うちの組、ヘビースモーカーが多いからな」

 煙を吐きながら沼田は笑う。
 何処かの階で出火したら終わりだな、と野上は煙を避けるようにまた階層表示に目を向けた。

 甲高い音を鳴らしてエレベーターが三階に到達する。
 エレベーターの扉が開いて、沼田と野上が中に入るとキャバクラ店内は明かりが付けっぱなしなっていた。

「誰かが殴り込みかけてる、ってタレコミ、本当みたいだな」

 荒れた店内を見て沼田が言う。
 砕けたガラステーブルの前で屈み込んで、破片を摘まんでまじまじと見る。

「誰かが勝手に店使ってた、ってだけじゃないんっすか?」

「これ、結構頑丈なヤツ入れてたはずなんだがな。ちょっとした暴力沙汰も起こるだろうって備えてよ」

「んじゃ、誰かがそれを割ったってことっすか? えらく怪力っすね、そいつ」

 野上は店内を見渡した。
 店内には争った痕跡はあれど、人がいる気配は無かった。
 とっとと逃げたか、と床に敷かれた赤絨毯のいくつかある足跡を見て呟いた。

「ああ、金属バットでぶっ叩いても割れねぇ代物だ。よっぽどの大男がいやがるな」

「なんか探偵みたいな推理しますね、沼田のアニキ」

「へっ、最近海外ドラマのミステリーにハマっててよ。シーズンが10もあるもんだから、今朝も五話ぶっ続けで観てきたとこよ」

「だから、そんなことやってんなら朝礼出てくださいよ。若頭、そろそろぶちギレますよ」

「だからこそ、余計に行きにくいんだろうが。それより、ヤス、組に連絡してサガシ
に人回してもらえ。怪しい大男なんて数いりゃすぐ見つかるだろ」

「わかりました、点数稼ぎですね」

 うるせぇ、と沼田は言って立ち上がった。
 奥のバックヤードなども一応調べておくかと捜索に動き出した。
 野上はその姿を目で追って、ジーパンの後ろポケットから携帯電話を取り出した。
 液晶にヒビが入っている携帯電話を耳に当てて──

「あ、───」


 米倉ビル。
 四丁目にある六階建ての細長い貸ビルから銃声が二発轟いた。
 昼間には人通りの少ない場所だったが、銃声を聞いた誰かが通報したらしく、数十分後にはパトカーが駆けつけた。
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