ファンキー・ロンリー・ベイビーズ

清泪─せいな

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第11話 案ずるよりパンクが易し 5

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 グゾ、っと何度も呟きながら園村は立ち上がった。
 鼻血が出るのが止まらないのを諦めたのか、手で押さえるのを止めて先ほどと同じ構えをとる。

「デメェぜっでぇごろずがらな」

 勢いよく流れる血が顎から垂れる。
 殴った勝も思っていた以上のダメージに申し訳なく思ってしまった。
 よくもまぁこんなにやわでこの街で商売できるな、と呆れ混じりではあったが。

 園村が踏み込んで距離を縮め、最早ボクシングの真似ともつかない大振りで右拳を振るう。
 まるでボールを投げる様だ。
 勝はそれを左に避けて、園村の腹部に右拳を下から突き上げる。
 ドン、と重い音が鳴り、クの字に曲がり僅かに浮く園村の身体。
 園村の口から胃液が吐き出される。
 園村はそのまま膝から崩れ、地面に顔面から落ちた。

「ああ、気絶はしないでくれよ。まだ事務所の場所とか聞いてないんだから」

 勝は園村の側に寄り、しゃがんで園村の髪を掴み引っ張りあげた。
 鼻血と胃液で顔がぐしゃぐしゃになった園村はそれでも、グゾ、と吐き捨てていた。

 勝は掴んだ園村の頭を地面に叩きつけた。
 硬いアスファルトに園村の鼻血が散る。
 
「悪態つくとかもういいからさ、ちゃちゃっと事務所の場所教えちゃってよ」

 勝は園村の頭をもう一度引っ張りあげた。
 園村は鼻血が口の中にたまり、ごぼごぼと音を立てながら苦しんでいた。

「鼻血でもさ、あんまり出過ぎても危ないんじゃねぇの。早く教えてくれないとさ、もう一回行っちゃうよ?」

「……じんでも、いうが」

「あ、そ……じゃあ――」

 ドガァ、と強く叩く音が広場に響いた。
 手に力を込めた瞬間に勝の側頭部を何かが強く叩いた。
 強い衝撃に勝はふっ飛ばされる。

「よく言った、園村。役立たずだったけどその意地は褒めてやる」

 もう一人の売人、色白の男――須藤すどう清司せいじはぼこぼこの金属バットを片手に園村を見下ろし、フルスイングしたままのポーズで立っていた。

「ずどう……おぜぇよ……」

「嗚呼うるせぇ。役立たずが喋んな、そのまま死ね」

 そう言って須藤は園村の顔面に前蹴りを入れた。
 蹴られた園村は転がって、呻き声をあげてやがて気を失った。

 右側頭部がじんじんと熱く痛い。
 それでいて右側頭部辺りの感覚がぼんやりしている。
 頭がくらくらとする中、勝はゆっくりと起きあがる。

「何だ、石頭かテメェ」

 須藤の声がぼんやりと聞こえた。
 勝が受けたダメージは思ったより大きく、頭に受けた衝撃が足に来ていて上手く立ち上がれずにいた。

「あ、あのな、バットってのは人を叩く為にあるんじゃないんだぞ」

「へぇー知らなかったわ、それ。オレ、生まれてからずっとバットなんて人叩く時にしか使ったことねぇしっ!」

 言いながら須藤は勝に歩み寄り、バットを上段に構えて振り下ろす。
 勝は慌てて転がってそれを回避した。
 ガキン、とアスファルトを金属バットが叩く音が響いた。
 転がった勝は世界が回るような感覚に陥っていた。
 酒に酔った様な気持ち悪さに襲われる。
 そこに側頭部の痛みが合わさる。
 視界の隅に横たわる園村が見えた。
 自分も気絶してしまった方が楽なのかもしれない、と一瞬勝の頭に過った。

 その考えは、須藤の二撃目に欠き消された。
 再度転がって避ける勝の視界は天地が定かではないほど回転していた。
 ふいに右目に何かが入ってきて痛みを感じ、右目を瞑った。
 生温いそれが何であるのか勝はすぐに理解した。
 右目をうっすら開けると赤だけが見えた。
 左目にはバットを上段に構える須藤の姿が見える。

「モグラ叩きか、テメェは!?」

 須藤の苛立ちが大きな振りでよくわかる。
 片目の視界が遮られてもこれだけ大振りなら避けるのは簡単だ。
 勝はまた右に転がり須藤の一撃を免れた。

「ところがドッコイッ!!」

 須藤は大きく振り下ろした金属バットがアスファルトを叩く前に、水平に軌道を変えた。
 振り下ろす勢いを強引にしかし勢いを殺さず変えたので、須藤の腕の筋肉と背中の筋肉が軋む。
 右目に血が入り視界を遮られた勝が須藤を右側に立たせるようには動かないと読んでいたのだ。

 ブォン、金属バットは勢いのまま空を切った。
 勝は地面に前に倒れる様に伏してバットを避けた。
 須藤の大振りがわざとだと勝も読んでいたのだ。
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