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プロローグ、ペンは剣よりも強し編
飛躍。
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無事、昇級試験も終わり、美裸達が祝杯を挙げていると突然、数人の男女が宿屋の扉を乱暴に開けて入って来た。
男3人、女2人のそのグループは血走った眼で、周囲を睨みまわす。そして美裸達を見付けると、大きな声を上げた。
「…いたぞッ!?まさかこんな宿屋にいたとはな!!」
「お前ら、こんな良いトコに泊りやがって!!俺達から巻き上げた装備と金、諸々返して貰うぞッ!?」
男女5人は、エリス、コニーを無視して美裸を睨みつけていた。
「…はて?どちらでお会いした方々ですかね~(笑)?」
「アンタッ!!しらばっくれるんじゃないよッ!!わたしらの装備ぶっ壊した挙句に金まで巻き上げたくせにッ!!」
「…しかもその装備、直して売りやがってッ!!俺達に恥掻かせたお前は絶対許さねぇッ!!」
男女5人が隅のテーブル席に座る美裸、エリス、コニー、だいふく、ぺろすを一定距離を開けて囲む。
男女の怒号にも、肉をもしゃもしゃと食べながら呟く美裸。
「…あ~。ホント、思い出せない…。この人達、誰だったかな~…こんなザコっぽい人達なら覚えてそうだけど~(笑)」
美裸の挑発とも取れる言葉に、顔を紅潮させて烈火の如く怒りを見せる男女。
「…テメェッ!!マジで殺すぞッ!!あぁッ!?」
怒る男を慌てて制止するエリス。
「…ちょっと待って下さい!!ここは宿屋ですよ?他のお客さんもいますので物騒な物言いは控えた方が良いかと思いますけど…」
「…エリス、アンタは引っ込んでな!!それともアンタもそこのヤツと一緒に潰されたいのかい!?」
「…いや~、それは無理だと思いますけど(笑)。とにかくここは宿屋なのでもう少し静かに話して下さい!!」
強い言葉を浴びせ掛けてくる女に、冷静に言葉を返すエリス。
「…オイ、エリス!!アンタ、随分偉そうな事いうようになったじゃん!?アンタも一緒にそこのヤツと潰すの決定な!!」
いきなり入って来て、大きな声で騒ぎを起こす男女に、他の客も顔を顰めている。
そんな中でも、美裸と同じく肉を食べていたコニーが、ナイフとフォークをそっと置くと、ポケットからメリケンと雷轟を取り出す。
コニーの動きに反応したぺろすが、伏せの体勢から身体をゆっくり起こして男女を睨み付けた。
戦闘態勢に入るコニーを見たエリスはそれを手で制する。
「…コニー。ここは宿屋だからね?ボカンしたらダメよ?」
エリスに止められたコニーが美裸を見上げる。
「…みら、どうする?」
同じく、宿屋の受付カウンターに立っていたおじさんも、強い視線で何とかしろ!!と美裸に訴え掛けている。
そんな視線に気づいていた美裸だったが、相変わらず肉を齧り、もしゃもしゃ食べていた。
「…美裸、まさかアンタ…」
「…何ですかな?エリスさんや(笑)?」
「まさかとは思うけど…あの人達の事、ホントに忘れたとか…(笑)?」
エリスに問われ、肉を噛んで飲み込んだ美裸がニヤッと笑って答える。
「…いや、ちゃんと覚えてますよ~(笑)?出来立てダンジョンから裸で逃げて行った無様なCランクPTの人達ですよね~(笑)?」
「…クッ、テメェッ!!やっぱり覚えてんじゃねーかッ!!」
「ホント、コイツ気に入らないよね!!すぐにボコって金巻き上げて恥掻かせてやろうよッ!!」
息巻く男女の前で、フォークとナイフを置いた美裸がすっと立ち上がる。一気に放出される闇の思念波に、CランクPTは一瞬、たじろいだ。
「わたしを小馬鹿にしたヤツらをこの美裸さまが忘れるわけないでしょ?わたしをボコる?フフッ、笑わせてくれるよね~…」
そう言った美裸の顔は全然笑っていなかった。
「…ちょっと、美裸!!ここ、宿屋だからね?派手にやらないでよ?物は壊さない、他のお客さんにも迷惑掛けない。そこは守ってよ?良い?」
「うん、分かってるよ~。宿屋の中で他のお客さんがいる以上、エリスとコニーはここでは闘えない。何よりまだ食べ切ってない料理がある!!ここは性なる…いや、静なるスタ〇ド使い、美裸さまが相手をする!!」
「…また良く解らないネタが出た…」
エリスは目を閉じて眉間を押さえる。叫ぶ美裸に、一気に戦闘態勢に入るCランクPT。
美裸がスキルを発動させようとしたその時、突然ぴょんぴょんと飛び跳ねて前に出るだいふく。
一瞬、全員の目が点になった。
「…何だ?弱小のちびスライムが俺達とヤル気…」
男の言葉はそこで止まった。だいふくの身体から飛び出した、ダークサイクロップスビームが男の腹に風穴を開ける。
「…そ、そんな…ち、ちびスライ…ムに…なんで、こんな力…」
その場に、一気に崩れ落ちる男。それを見た残りの男女が顔を蒼褪めさせてたじろいだ。その瞬間、美裸がスキルを発動させた。
◇
「あははっ、コイツらわたしらを舐め過ぎだよね~(笑)。もうとっくにアンタらのレベルなんか突き放してるってばよぉっ(笑)!!」
完全停止させた範囲は宿屋全体に及んでいた。その中でだいふくがぴょんぴょん跳ねている。
「アレっ(笑)?だいふく、わたしの範囲内で動いてる(笑)?」
特に意識はしていなかったが今、考えてみれば最初からだいふくは美裸の範囲で動いていた気がする。
「従魔だからかな~。まぁ、いいか(笑)。だいふく、よくやったよ~」
美裸に褒められて嬉しそうに跳ねるだいふく。そんな中、コニーもグググッっと首を動かす。
「…みらのすきる、だんだんつよくなってる…」
「おぉっ、コニー、わたしの範囲で動けるのは、さすがだね~。さて、コイツらどうしてやろうかな~(笑)」
だいふくとコニー以外、エリスとその場にいる全員が固まった様に強制停止されていた。目の前で、驚いて後退りを始めたままのCランクPTを見て考える美裸。
こんな弱いヤツら倒しても全然得にはならないだろう。取り敢えず身ぐるみ剥がして、その後どうするかを考える。
だいふくに吸収させても良いがこんな性根の腐ったようなヤツらを吸収しても力になるどころかだいふくの育ちが悪くなるかもしれない。
そう考えた美裸は『育ち』という言葉である事を思い付いた。CランクPTをペンタブを使って範囲指定する。そして美裸はエディットモードの中に付随する効果を発動させた。
◇
宿屋のおじさんも、おばさんも、従業員も他のお客さん達もその光景に驚く。皆が囲んで見守る中に、5人の赤ちゃんが大きな声を上げて泣いていた。
「…えぇぇッ!!美裸、コレどう言う事よ…!?」
エリスに問われた美裸が答える。
「コイツら見逃すとまた被害者出るし、こんなの倒してもわたしらの特にはならないからね~。もう一度、人生やり直しをさせてあげようかなってね~(笑)」
美裸は範囲内でPT全員を指定した後、ひたすら巻き戻しをした。
「赤ちゃんなら装備もお金もいらないよね~(笑)」
そう言いつつ、美裸は周囲の人達に問い掛ける。
「さて、この赤ちゃん達、誰か預かってくれるかな~(笑)?」
暫く状況を見守っていたお客さん達の中から、壮年と思われる夫婦がおそるおそる出て来た。
「…うちは子供がいないので…一人なら預かります…」
「男の子と女の子、どちらが良いですか~?」
美裸に問われてそっと女の子を抱き上げる夫婦。抱き上げると赤ちゃんは自然に泣き止んだ。
ここの宿屋は王都内でもランキング5に入る宿屋である。貴族籍の人や、比較的裕福な商人などが出入りしていたので、すぐに赤ちゃんの引き取り先が決まった。
「じゃあ皆さん、赤ちゃんを良い子に育てて上げて下さいな~(笑)」
美裸の言葉に赤ちゃんを預かった者達がしっかりと頷く。そしてそれぞれのテーブルに戻ると、夕食を再開する。
美裸達も、改めて席に戻ると肉に嚙り付いていた。
◇
翌日から、美裸達は順調に依頼を熟していく。個人レベルとPTレベルが上がった事により受けられる依頼が増えた。
すぐに退治依頼を受ける。
まずは王都北にある鉱山の上にハーピーが住み着いたとの情報があり、エリスのレベル上げには丁度良い相手だ。
一行は鉱山の裏側にある山に上がっていく。尾根伝いにかなりの数のハーピーが飛んでいた。
「ハーピーの群れ、レベル30か。エリス、やっちゃって(笑)!!」
「はいはーい(笑)!!」
エリスは笑いながら余裕でハーピーの群れを弓で撃ち落とす。主に頭を狙いを付けて射貫いていった。ハーピー20体撃破。エリスのレベルが38まで上がる。続けて弓スキル『連射』で30体撃破。
エリス、レベル40到達。更に50体撃墜して一気にレベル45まで上げた。弓スキル『瞬動射撃』が付いた。
『瞬動射撃』は高速移動しながらの射撃である。
ハーピーの群れを100体程倒してようやく尾根の上で羽ばたくものがいなくなった。
「いや~さすがに疲れた(笑)!!」
「退治ご苦労様ナリ~(笑)。でも暫くはエリスに頑張って貰うからね~。早くレベル上げてSランクまで上がらないとね~(笑)」
「エリス、よくやった。コニーたちにはやくおいつく」
暫くの間は余程の事がない限り、美裸とコニーは手を出さないつもりだった。全てはエリスのレベルを上げる為である。まずはSランクに上がる為の最低ラインであるレベル60が目標だ。
3人が話していると尾根の向こう側から、一際大きいハーピーが現れた。美裸がすぐにステータスを確認する。
「…ハーピークィーン、レベル42か…。エリスは暫く休んで良いよ。コイツはわたしがやる…」
美裸がそう言うと、水を飲み干したエリスが前に出る。
「いや、まだ行けるよ。わたしにやらせて!!」
「良いけど危険になったら止めるからね?」
「…うん。じゃ、やってみる!!」
そう言うと弓に矢を番えたまま、走ってクィーンに接近するエリス。ハーピークィーンは翼を羽ばたかせると上空から無数のカマイタチを起こし、エリスを攻撃する。
すぐに側転で避けたエリスは瞬動射撃を発動させる。クィーンの正面を避けて側面に周り込み、一気に矢を10数本、打込んでいく。そしてクィーンがこっちを向く前にすぐに背後に周り、射撃を続ける。常に側面から背後への射撃にクィーンが苛立ちを見せる。
クィーンは一度上昇すると、上空から鋭い足の爪でエリスに急降下攻撃を仕掛ける。エリスはすぐに腰に下げていたタガーをいつでも抜けるように掴んだ。
そしてクィーンの足の爪がエリスの頭を掴むその瞬間、瞬動で躱したエリスがタガーを抜く。タガーの『連斬』スキルで複数回斬り付けたエリスはすぐにクィーンから距離を取った。
身体を翼を斬り付けられ、怒るハーピークィーンが叫び声を上げる。
「ギイィィィィィッ!!」
しかしクィーンに威嚇されても、エリスは落ち着いていた。もう既に勝負は付いていたからだ。
怒り叫ぶクィーンは再び上空からの攻撃をしようと羽ばたく。しかし突然、クィーンの右の翼がドス黒い色に変わる。そして腐った様に機能しなくなった。
エリスは『ベノムスティンガー』を使っていた。すぐに斬り付けた傷から猛毒がクィーンを浸食する。
片方の翼を無力化されたクィーンは地上に降りて、バタバタと藻掻く。そこへエリスが弓で追撃を始めた。両脚、右眼を一気に撃ち抜いたエリスは一瞬でハーピーに接近する。
クィーンは接近してくるエリスを左翼の爪で攻撃する。その攻撃をジャンプで避けると飛び越しざま、抜いていたタガーをクィーンの首に当てる。
そしてそのまま、タガーを一気に引き切った。瞬間、クィーンの首から鮮血が噴き出し、ハーピークィーンは絶命した。
「おお~、流石ですな~、エリスさんや(笑)!!」
「自分でも信じられない位、身体が動いたよ(笑)!!」
ぺろすの上で、念の為に戦闘準備して待機していたコニーも笑っていた。
「エリスさんや~、やりますな~(笑)」
その傍でだいふくも嬉しそうにぴょんぴょん跳ねていた。
◇
翌日。王都南西にある海岸洞窟ダンジョンを完全踏破。美裸、レベル118まで上昇。スキルの強制停止範囲が前方から全方位に強化された。
エリスはダンジョンボスであるデビルキャンサー(巨大蟹)を単独討伐して一気にレベルを55まで上げた。タガースキル『瞬動連斬』が付いた。
コニーのレベル68、力、バイタル、オーラスキルが強化された。だいふくレベル40『無限悪食』獲得。ぺろすはレベル57、バイタル、火炎機能が強化された。
更に数日後、王都北にワイバーンが現れる。パニックに陥る王都。ギルドに緊急で撃退要請が入る。ギルド内のハンターがざわつく中、話を聞いた美裸達が喜び勇んでその緊急要請を受けた。
すぐにだいふくがダークサイクロップスビームを乱射してワイバーンを撃墜。
ぺろすに乗ったコニーが突進しながら、ワイバーンの頭を殴りつけて脳震盪を起こさせた後、エリスが瞬動で接近してベノムスティンガーで首元を連斬で斬り付ける。
最後に、美裸がスキル範囲の中で、ワイバーンの全ての力を抜き取り、シワシワの搾りカスにした。
エリス、レベル62到達。コニーのレベル70、だいふくレベル48、スキル『触手棘』獲得。美裸のレベル127に上昇、スキルに付随する効果『絶対強制領域』獲得。
『絶対強制領域』は自分とPT以外の全てを広範囲に渡って強制停止させるスキルである。
撃退どころか、10分掛からずワイバーンを退治してしまった美裸達のPTは一気にランクを上げ、王都中にその名を知らしめた。
そしてついに、王宮から招聘される事になった。
ついに来た。
(…あの日の恨み晴らさでおくべきか~…)
美裸はこの日を待っていたのだ。
男3人、女2人のそのグループは血走った眼で、周囲を睨みまわす。そして美裸達を見付けると、大きな声を上げた。
「…いたぞッ!?まさかこんな宿屋にいたとはな!!」
「お前ら、こんな良いトコに泊りやがって!!俺達から巻き上げた装備と金、諸々返して貰うぞッ!?」
男女5人は、エリス、コニーを無視して美裸を睨みつけていた。
「…はて?どちらでお会いした方々ですかね~(笑)?」
「アンタッ!!しらばっくれるんじゃないよッ!!わたしらの装備ぶっ壊した挙句に金まで巻き上げたくせにッ!!」
「…しかもその装備、直して売りやがってッ!!俺達に恥掻かせたお前は絶対許さねぇッ!!」
男女5人が隅のテーブル席に座る美裸、エリス、コニー、だいふく、ぺろすを一定距離を開けて囲む。
男女の怒号にも、肉をもしゃもしゃと食べながら呟く美裸。
「…あ~。ホント、思い出せない…。この人達、誰だったかな~…こんなザコっぽい人達なら覚えてそうだけど~(笑)」
美裸の挑発とも取れる言葉に、顔を紅潮させて烈火の如く怒りを見せる男女。
「…テメェッ!!マジで殺すぞッ!!あぁッ!?」
怒る男を慌てて制止するエリス。
「…ちょっと待って下さい!!ここは宿屋ですよ?他のお客さんもいますので物騒な物言いは控えた方が良いかと思いますけど…」
「…エリス、アンタは引っ込んでな!!それともアンタもそこのヤツと一緒に潰されたいのかい!?」
「…いや~、それは無理だと思いますけど(笑)。とにかくここは宿屋なのでもう少し静かに話して下さい!!」
強い言葉を浴びせ掛けてくる女に、冷静に言葉を返すエリス。
「…オイ、エリス!!アンタ、随分偉そうな事いうようになったじゃん!?アンタも一緒にそこのヤツと潰すの決定な!!」
いきなり入って来て、大きな声で騒ぎを起こす男女に、他の客も顔を顰めている。
そんな中でも、美裸と同じく肉を食べていたコニーが、ナイフとフォークをそっと置くと、ポケットからメリケンと雷轟を取り出す。
コニーの動きに反応したぺろすが、伏せの体勢から身体をゆっくり起こして男女を睨み付けた。
戦闘態勢に入るコニーを見たエリスはそれを手で制する。
「…コニー。ここは宿屋だからね?ボカンしたらダメよ?」
エリスに止められたコニーが美裸を見上げる。
「…みら、どうする?」
同じく、宿屋の受付カウンターに立っていたおじさんも、強い視線で何とかしろ!!と美裸に訴え掛けている。
そんな視線に気づいていた美裸だったが、相変わらず肉を齧り、もしゃもしゃ食べていた。
「…美裸、まさかアンタ…」
「…何ですかな?エリスさんや(笑)?」
「まさかとは思うけど…あの人達の事、ホントに忘れたとか…(笑)?」
エリスに問われ、肉を噛んで飲み込んだ美裸がニヤッと笑って答える。
「…いや、ちゃんと覚えてますよ~(笑)?出来立てダンジョンから裸で逃げて行った無様なCランクPTの人達ですよね~(笑)?」
「…クッ、テメェッ!!やっぱり覚えてんじゃねーかッ!!」
「ホント、コイツ気に入らないよね!!すぐにボコって金巻き上げて恥掻かせてやろうよッ!!」
息巻く男女の前で、フォークとナイフを置いた美裸がすっと立ち上がる。一気に放出される闇の思念波に、CランクPTは一瞬、たじろいだ。
「わたしを小馬鹿にしたヤツらをこの美裸さまが忘れるわけないでしょ?わたしをボコる?フフッ、笑わせてくれるよね~…」
そう言った美裸の顔は全然笑っていなかった。
「…ちょっと、美裸!!ここ、宿屋だからね?派手にやらないでよ?物は壊さない、他のお客さんにも迷惑掛けない。そこは守ってよ?良い?」
「うん、分かってるよ~。宿屋の中で他のお客さんがいる以上、エリスとコニーはここでは闘えない。何よりまだ食べ切ってない料理がある!!ここは性なる…いや、静なるスタ〇ド使い、美裸さまが相手をする!!」
「…また良く解らないネタが出た…」
エリスは目を閉じて眉間を押さえる。叫ぶ美裸に、一気に戦闘態勢に入るCランクPT。
美裸がスキルを発動させようとしたその時、突然ぴょんぴょんと飛び跳ねて前に出るだいふく。
一瞬、全員の目が点になった。
「…何だ?弱小のちびスライムが俺達とヤル気…」
男の言葉はそこで止まった。だいふくの身体から飛び出した、ダークサイクロップスビームが男の腹に風穴を開ける。
「…そ、そんな…ち、ちびスライ…ムに…なんで、こんな力…」
その場に、一気に崩れ落ちる男。それを見た残りの男女が顔を蒼褪めさせてたじろいだ。その瞬間、美裸がスキルを発動させた。
◇
「あははっ、コイツらわたしらを舐め過ぎだよね~(笑)。もうとっくにアンタらのレベルなんか突き放してるってばよぉっ(笑)!!」
完全停止させた範囲は宿屋全体に及んでいた。その中でだいふくがぴょんぴょん跳ねている。
「アレっ(笑)?だいふく、わたしの範囲内で動いてる(笑)?」
特に意識はしていなかったが今、考えてみれば最初からだいふくは美裸の範囲で動いていた気がする。
「従魔だからかな~。まぁ、いいか(笑)。だいふく、よくやったよ~」
美裸に褒められて嬉しそうに跳ねるだいふく。そんな中、コニーもグググッっと首を動かす。
「…みらのすきる、だんだんつよくなってる…」
「おぉっ、コニー、わたしの範囲で動けるのは、さすがだね~。さて、コイツらどうしてやろうかな~(笑)」
だいふくとコニー以外、エリスとその場にいる全員が固まった様に強制停止されていた。目の前で、驚いて後退りを始めたままのCランクPTを見て考える美裸。
こんな弱いヤツら倒しても全然得にはならないだろう。取り敢えず身ぐるみ剥がして、その後どうするかを考える。
だいふくに吸収させても良いがこんな性根の腐ったようなヤツらを吸収しても力になるどころかだいふくの育ちが悪くなるかもしれない。
そう考えた美裸は『育ち』という言葉である事を思い付いた。CランクPTをペンタブを使って範囲指定する。そして美裸はエディットモードの中に付随する効果を発動させた。
◇
宿屋のおじさんも、おばさんも、従業員も他のお客さん達もその光景に驚く。皆が囲んで見守る中に、5人の赤ちゃんが大きな声を上げて泣いていた。
「…えぇぇッ!!美裸、コレどう言う事よ…!?」
エリスに問われた美裸が答える。
「コイツら見逃すとまた被害者出るし、こんなの倒してもわたしらの特にはならないからね~。もう一度、人生やり直しをさせてあげようかなってね~(笑)」
美裸は範囲内でPT全員を指定した後、ひたすら巻き戻しをした。
「赤ちゃんなら装備もお金もいらないよね~(笑)」
そう言いつつ、美裸は周囲の人達に問い掛ける。
「さて、この赤ちゃん達、誰か預かってくれるかな~(笑)?」
暫く状況を見守っていたお客さん達の中から、壮年と思われる夫婦がおそるおそる出て来た。
「…うちは子供がいないので…一人なら預かります…」
「男の子と女の子、どちらが良いですか~?」
美裸に問われてそっと女の子を抱き上げる夫婦。抱き上げると赤ちゃんは自然に泣き止んだ。
ここの宿屋は王都内でもランキング5に入る宿屋である。貴族籍の人や、比較的裕福な商人などが出入りしていたので、すぐに赤ちゃんの引き取り先が決まった。
「じゃあ皆さん、赤ちゃんを良い子に育てて上げて下さいな~(笑)」
美裸の言葉に赤ちゃんを預かった者達がしっかりと頷く。そしてそれぞれのテーブルに戻ると、夕食を再開する。
美裸達も、改めて席に戻ると肉に嚙り付いていた。
◇
翌日から、美裸達は順調に依頼を熟していく。個人レベルとPTレベルが上がった事により受けられる依頼が増えた。
すぐに退治依頼を受ける。
まずは王都北にある鉱山の上にハーピーが住み着いたとの情報があり、エリスのレベル上げには丁度良い相手だ。
一行は鉱山の裏側にある山に上がっていく。尾根伝いにかなりの数のハーピーが飛んでいた。
「ハーピーの群れ、レベル30か。エリス、やっちゃって(笑)!!」
「はいはーい(笑)!!」
エリスは笑いながら余裕でハーピーの群れを弓で撃ち落とす。主に頭を狙いを付けて射貫いていった。ハーピー20体撃破。エリスのレベルが38まで上がる。続けて弓スキル『連射』で30体撃破。
エリス、レベル40到達。更に50体撃墜して一気にレベル45まで上げた。弓スキル『瞬動射撃』が付いた。
『瞬動射撃』は高速移動しながらの射撃である。
ハーピーの群れを100体程倒してようやく尾根の上で羽ばたくものがいなくなった。
「いや~さすがに疲れた(笑)!!」
「退治ご苦労様ナリ~(笑)。でも暫くはエリスに頑張って貰うからね~。早くレベル上げてSランクまで上がらないとね~(笑)」
「エリス、よくやった。コニーたちにはやくおいつく」
暫くの間は余程の事がない限り、美裸とコニーは手を出さないつもりだった。全てはエリスのレベルを上げる為である。まずはSランクに上がる為の最低ラインであるレベル60が目標だ。
3人が話していると尾根の向こう側から、一際大きいハーピーが現れた。美裸がすぐにステータスを確認する。
「…ハーピークィーン、レベル42か…。エリスは暫く休んで良いよ。コイツはわたしがやる…」
美裸がそう言うと、水を飲み干したエリスが前に出る。
「いや、まだ行けるよ。わたしにやらせて!!」
「良いけど危険になったら止めるからね?」
「…うん。じゃ、やってみる!!」
そう言うと弓に矢を番えたまま、走ってクィーンに接近するエリス。ハーピークィーンは翼を羽ばたかせると上空から無数のカマイタチを起こし、エリスを攻撃する。
すぐに側転で避けたエリスは瞬動射撃を発動させる。クィーンの正面を避けて側面に周り込み、一気に矢を10数本、打込んでいく。そしてクィーンがこっちを向く前にすぐに背後に周り、射撃を続ける。常に側面から背後への射撃にクィーンが苛立ちを見せる。
クィーンは一度上昇すると、上空から鋭い足の爪でエリスに急降下攻撃を仕掛ける。エリスはすぐに腰に下げていたタガーをいつでも抜けるように掴んだ。
そしてクィーンの足の爪がエリスの頭を掴むその瞬間、瞬動で躱したエリスがタガーを抜く。タガーの『連斬』スキルで複数回斬り付けたエリスはすぐにクィーンから距離を取った。
身体を翼を斬り付けられ、怒るハーピークィーンが叫び声を上げる。
「ギイィィィィィッ!!」
しかしクィーンに威嚇されても、エリスは落ち着いていた。もう既に勝負は付いていたからだ。
怒り叫ぶクィーンは再び上空からの攻撃をしようと羽ばたく。しかし突然、クィーンの右の翼がドス黒い色に変わる。そして腐った様に機能しなくなった。
エリスは『ベノムスティンガー』を使っていた。すぐに斬り付けた傷から猛毒がクィーンを浸食する。
片方の翼を無力化されたクィーンは地上に降りて、バタバタと藻掻く。そこへエリスが弓で追撃を始めた。両脚、右眼を一気に撃ち抜いたエリスは一瞬でハーピーに接近する。
クィーンは接近してくるエリスを左翼の爪で攻撃する。その攻撃をジャンプで避けると飛び越しざま、抜いていたタガーをクィーンの首に当てる。
そしてそのまま、タガーを一気に引き切った。瞬間、クィーンの首から鮮血が噴き出し、ハーピークィーンは絶命した。
「おお~、流石ですな~、エリスさんや(笑)!!」
「自分でも信じられない位、身体が動いたよ(笑)!!」
ぺろすの上で、念の為に戦闘準備して待機していたコニーも笑っていた。
「エリスさんや~、やりますな~(笑)」
その傍でだいふくも嬉しそうにぴょんぴょん跳ねていた。
◇
翌日。王都南西にある海岸洞窟ダンジョンを完全踏破。美裸、レベル118まで上昇。スキルの強制停止範囲が前方から全方位に強化された。
エリスはダンジョンボスであるデビルキャンサー(巨大蟹)を単独討伐して一気にレベルを55まで上げた。タガースキル『瞬動連斬』が付いた。
コニーのレベル68、力、バイタル、オーラスキルが強化された。だいふくレベル40『無限悪食』獲得。ぺろすはレベル57、バイタル、火炎機能が強化された。
更に数日後、王都北にワイバーンが現れる。パニックに陥る王都。ギルドに緊急で撃退要請が入る。ギルド内のハンターがざわつく中、話を聞いた美裸達が喜び勇んでその緊急要請を受けた。
すぐにだいふくがダークサイクロップスビームを乱射してワイバーンを撃墜。
ぺろすに乗ったコニーが突進しながら、ワイバーンの頭を殴りつけて脳震盪を起こさせた後、エリスが瞬動で接近してベノムスティンガーで首元を連斬で斬り付ける。
最後に、美裸がスキル範囲の中で、ワイバーンの全ての力を抜き取り、シワシワの搾りカスにした。
エリス、レベル62到達。コニーのレベル70、だいふくレベル48、スキル『触手棘』獲得。美裸のレベル127に上昇、スキルに付随する効果『絶対強制領域』獲得。
『絶対強制領域』は自分とPT以外の全てを広範囲に渡って強制停止させるスキルである。
撃退どころか、10分掛からずワイバーンを退治してしまった美裸達のPTは一気にランクを上げ、王都中にその名を知らしめた。
そしてついに、王宮から招聘される事になった。
ついに来た。
(…あの日の恨み晴らさでおくべきか~…)
美裸はこの日を待っていたのだ。
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しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
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【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
Sランク冒険者の受付嬢
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王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。
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これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。
※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。
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少年神官系勇者―異世界から帰還する―
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幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
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この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
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この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
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クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
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