異世界召喚された地味子、王宮から追い出されたので特殊固有スキルでエロと共に暴れ回る。

サソリの尻尾

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プロローグ、ペンは剣よりも強し編

ダンジョンボス。

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「…あれは…?スライム?まさか…アレがダンジョンボスじゃないよね…(笑)?」

 そう言いつつ、エリスは美裸を見た。

「…あれはダンジョンボスじゃないと思うよ?スライムっぽいけど…怪我してるのかな?なんか赤いね…」

 赤く濁ったスライムが、必死に体を引き摺って出て来た。心なしか体も水分が抜けた様に萎んでいる。すぐに弓を構え矢を番えたエリスを美裸が慌てて止める。

「…待ってエリス!!あの子、やっぱり怪我してるよ!!」

 美裸はスキルの機能で、ちびスライムの状態が見えた。大怪我をしているようだ。状態が『瀕死』となっていた。

「美裸、その子どうするのよ…?」
「…助けてあげないと…。水はもう全部飲んだしな~、他に何かあったかな~?」

 そう言いつつ、美裸は必死にポケットの中を探した。

「助けるって言ってもどうやってスライムを回復させるの?わたし回復魔法使えないけど…」

 そんなエリスを無視したまま、ポケットの中を必死で探していた美裸が声を上げた。

「…あった!!これよ!!これ使ってみよ(笑)!!」

 美裸が取り出したのは、栄養ドリンクの様な小瓶に入ったハイポーションだった。

「それ、ハイポーションなんじゃ…。そんなモノどこで手に入れたの!?」
「CランクPTの装備弄った時に、持ってるの見付けたのさ~(笑)」
「…美裸、それ『泥棒』って言うんだけど…(笑)」

 美裸の行為を苦笑いで指摘するエリス。その目の前で、小瓶の栓を空けた美裸は迷う事無く、ハイポーションを瀕死のスライムに掛けてやる。

「…そんな高価なモノ、死に掛けのスライムに使わなくても良いんじゃない?」
「エリス、スライム最強説知ってる?色んなモノを取り込んで能力を強化して王国まで作ったスライムだっているのよ?他の従魔と一緒に無双するスライムもいるし(笑)」

 その話を聞いたエリスは、美裸の話がさっぱり分からなかったが、いつもの何かのネタなんだろうなと感じた。
その時、スライムを回復させながら話していた二人の耳に、大きく不穏な羽音が聞こえて来た。

「美裸!!たぶんダンジョンボス。来るよッ!!」

 その言葉に、美裸は残りのハイポーションを全てスライムに掛けてやると、ちびスライムを後ろの岩陰に隠す。

「アンタはここで待ってて。アンタをイジメたヤツ、わたしが倒してやるからね」

 しゃがんでそう話す美裸の前で、萎んでいたちびスライムの赤みが少しづつだが消えていた。暫くスライムを眺めていると少しづつだが細胞が復活しているようだ。

 それを確認した美裸はすぐにエリスの元に戻る。

 暗闇の奥から現れたそれは、象サイズの昆虫型キメラモンスターだった。

 軍隊蟻の頭に強靭な顎、殺人蜂の羽根と尾に毒針。そしてポイズンスパイダーの長く太い8本の棘付きの脚があった。

 見た感じ巨大な長い脚を持つ羽蟻のような姿だ。

 エリスはすぐに弓を構えて矢をつがえる。その隣で、美裸はスキルの機能でダンジョンボスであるキメラモンスターを見た。

 『キメラインセクトクイーン』レベル50、昆虫型Aランクダンジョンボス。わたしよりレベル高いのか…。

 美裸の呟くような説明を聞いたエリスが矢を番えたまま、焦った様に美裸を見る。

「…何で出来立てのダンジョンにこんな危険そうなヤツが…」

 巨大キメラモンスターを前にしてエリスは顔が蒼褪めていた。

「…美裸、アンタよりレベル高いけど…行けるよねッ!?」
「取り敢えずやってみるしかないわね。エリス!!アイツが来る前に弓で牽制してっ!!」
「解かったッ!!行くよッ!?」

 エリスの言葉と同時に、インセクトクイーンが二人に向かって高速接近して来た。美裸のスキルの強制停止範囲に入る前に、エリスの弓が蟻の目に刺さる。

 しかし、刺さったものの傷は浅くダメージが入っていない。エリスは慌てて二の矢、三の矢を放つが、レベル差があり過ぎてダメージを与える事が出来なかった。

 二人に向かって高速接近しようとしていたインセクトクイーンの動きが突然止まる。美裸の強制停止範囲に入ったようだ。

 ホッとしてダンジョンボスを見るエリス。しかし、よくよく見ると少しづつだが、インセクトクイーンが動いているように見えた。

「…美裸ッ!!アイツッ、アンタの強制停止範囲で動いてるよッ!!」
「…うん。今インフォメーションが頭の中で聞こえた…。強制停止効果、後20秒しか保てないって…」
「えェッ!?じゃどうすんのッ!?逃げるッ!?」
「…いや、逃げれないよ。アレを倒すまで帰還転移フィールドが開かないし…。やるしかないっ!!」

 美裸はペンタブを剣を持つように持ち替える。そしてそのままインセクトクイーンを袈裟切りにする様に上から斬り付けた。

 ―瞬間。ズバッっとクイーンの頭に傷が入り、そこから緑の体液が噴き出す。しかし傷が浅く、クイーンを怒らせるだけとなった。

 インセクトクイーンの体が赤く強い光を放つ。

「…バーサークさせちゃったか…。さて、どうしようかな…」

 美裸にしては弱気な言葉にエリスが焦る。ボスモンスターと美裸のレベル差は2しかない。しかし、インセクトクイーンには浅い傷を付けただけだった。

 目の前のボスモンスターとのレベル差があり過ぎるエリスには何も出来ない。美裸の力を信じるしかなかった。

「…うーん、あと10秒か…マジでどうするかな…」

 祈る様に美裸を見ていたエリスが瞬間、ミカの言葉を思い出した。思念力が異常に跳び抜けていると…。

 美裸は今まで普通にペンタブで相手を斬り付けるだけだった。…持っている思念力を意識して感情と共にフル稼働させたら…どうなる?

 エリスに迷っている時間はなかった。あと数秒でインセクトクイーンは動き出す。その前に美裸に発破掛けないと二人とも死ぬ!!

 エリスは叫んだ。

「美裸ッ!!アンタ、こんなとこでまだ死ねないでしょッ!?この世界でエロの伝道師としてその名を轟かせるんでしょうがッ!!こんなとこで負けないでよッ!!」

 エリスの叫びに、美裸はハッとした。

 そうだ!!わたしはまだこの世界でヤル事があるっ!!まだエロ話の一つだって集めてないっ!!わたしは地球で出来なかった事をこの世界でやるんだっ!!

 強い意志で再びインセクトクイーンを見る美裸。剣のようにペンタブを振ってもダメだ。わたしは剣士じゃないしそんな技量もない。あんな巨大モンスターを一刀の元に斬り伏せるなど、達人のその先に到達しているような人じゃないと出来ない。

 でもわたしには長年培ってきた妄想力があるっ!!そしてそれがこの世界で跳び抜けた思念力になってるんだ!!あのダンジョンボスの全ステータスより、わたしの思念力の方が絶対高いっ!!負ける訳がないッ!!

 強い意志と共に、美裸は叫んだ。

「モンスター如きがわたしのエロ活動の邪魔をするなぁぁッ!!アンタなんか真っ二つにしてやるッ!!根暗の妄想族舐めんなぁぁッ!!」

 その瞬間、美裸は高速でペンタブを動かす。

 縮小処理して踏み潰してもいいがそれはやらない。わたしの化け物みたいな思念力を証明してやるッ!!

 エリスはクイーンの上に現れたモノを見て蒼褪めた。もしかしたらとてもヤバいヤツを覚醒させてしまったかもしれない…。エリスは美裸を見てそう思った。

 空中に現れたのは、厚さ5センチ、刃渡り20メートルはある巨大なギロチンだった…。

「…残り1秒。でも1秒もあれば充分よ!!わたしのエロを邪魔するヤツは誰であろうと許さないッ!!」

 美裸が叫んだ瞬間、巨大ギロチンがインセクトクイーンの首に落ちた。

 ドサッという重い音と共に、ダンジョンボスであるインセクトクイーンの首が斬り落とされた…。

 巨大ギロチンが消えた後、ボスモンスターは緑の体液を噴き出しながら断末魔の痙攣を起こしていた。

「…美裸、アンタ…やったね…」

 震える声のエリスと対照的に、自信に満ちた顔を見せる美裸。

「わたしのエロの邪魔をするヤツはどんなヤツでも殺す!!こんなとこで負けてたまるかってのよっ!!」

 そう言いつつ、インセクトクイーンの頭をガンガン踏み付ける美裸。そんな美裸にエリスは顔を引き攣らせてドン引きしていた…。

(…そうだ。この子、意外と根に持つんだったな…。絶対に敵に回したくないよね…)

 そう強く思う、エリスであった。

 現在、美裸レベル55。強制停止力が上がり、範囲が拡がった。エリス、レベル28。パッシブ弓スキル『貫通力』が付いた。

 予想外に強いダンジョンボスだった為に、二人とも一気にレベルが上がった。



 ボスモンスターの巨大な死骸を縮小処理しようとした美裸は、その傍に落ちているタガーに気が付いた。黒い刀身に、深い緑の装飾の付いたタガーだ。スキルの機能でそのタガーが危険でない事を確認した後、拾い上げる。

 どうやらドロップアイテムの様だ。

「…ふむ。『ベノムスティンガー』か…。わたしはタガー使わないからなぁ。エリス、これどう?いる…?」
「えぇッ!!そんなヤバそうなタガーいらないよ!!」
「大丈夫よ?呪いのアイテムじゃないし。いらないならわたし貰うけど?」
「どうぞ」

 ベノムスティンガーは猛毒効果付きの特殊タガーだった。

 エリスの承諾を得た美裸は、ベノムスティンガーを縮小してハンカチに包んでポケットに入れた。そのままポケットに入れて、毒を貰うとか笑えないからだ。

「それより美裸、さっきのスライム元気になったみたいよ?」

 エリスに言われてスライムを思い出した美裸は、慌てて後ろを見る。スライムは元気に、ぽよんぽよんと跳ねていた。美裸が近づくと嬉しそうに跳ねて寄って来た。

 そして美裸の前でプルプルッ、プルプルッと体を震わせると、透明の体を一瞬、ポッと赤くする。そしてスライムは美裸の足にぴとっとくっ付いた。

「…美裸、そのスライム危なくないの…?」
「大丈夫よ。助けてあげたからわたしに懐いちゃったみたい。状態が『親愛』になってる(笑)。体も完全に回復したみたいよ?」

 二人が話すその足元で、美裸の足にくっついたままスリスリしているスライムを見て密かにほくそ笑む美裸。

(…この子は使えそうね…(笑)。相手の装備や服だけを溶かして、キャーッ、いや~ん♡なシチュエーションにする事も出来るからね(笑)!!)

 懐いたスライムを見て黒い笑みを浮かべる美裸を見たエリスは、美裸が邪な事を考えているんだろうなと呆れていた。

「懐いてるみたいだから名前付けて上げれば?『ネームド』になると強くなるモンスターいるみたいだし…」
「…そうね。名前付けて上げようか?」

 エリスの提案に賛成した美裸は、このスライムを最初に見た時の印象そのままの名前を考えてみた。

「…どんなのが良いかな~。『肉まん』にしようかな~」
「えッ!?肉まんッ(笑)!?さすがにそれはちょっとどうかと思うけど…」
「じゃ、『おもち』が良いかな~(笑)」
「…美裸、真面目に考えてるの(笑)?」
「うん。最初に見た時のイメージで考えてるんだよね~」

 暫く考えていた美裸が閃いて声を上げた。

「あっ!!アレにしよっ!!『だいふく』!!小っちゃくて白いし、形がそっくりだからね(笑)」
「…美裸、ホントにそれで良いの?テキトー過ぎない(笑)?」

 その瞬間、スライムの体が光を放った。美裸がスライムをスキルの機能で見ると、名前が『だいふく』となっていた。

「よしっ!!今日からアンタは『だいふく』だからね。よろしく!!」

 そう言うと美裸はだいふくを手に乗せてやる。だいふくは嬉しそうに体をプルプル震わせて、ぽよんぽよんと跳ねていた。

「けどだいふくはなんでダンジョンボスの方から来たんだろうね?」
「…さぁね~。新しいダンジョン出来たから、遊びに来てたんじゃない(笑)?そしたらバッタリ、ダンジョンボスに遭遇したとか(笑)?」
「そんな事ってある~(笑)?」

 エリスと話しながら、美裸はインセクトクイーンの死骸を縮小処理してだいふくに見せる。

「ほら、アンタをイジメたヤツだよ?もう死んでるから安心して食べて良いよ?」

 そう言うと美裸は小さなインセクトクイーンの前にだいふくを下ろしてやる。だいふくはすぐにびよーんと体を伸ばすと、インセクトクイーンの体を取り込んでいった。

 ダンジョンボスの死骸を綺麗さっぱり食べてしまっただいふくの体が光る。どうやらレベルが上がったようだ。美裸が確認するとだいふくのレベルは7となっていた。

「だいふくもどんどん食べて強くなろうね~」

 そう言いつつ、美裸はだいふくを空いているポケットの方に入れてやる。そして二人と一匹はダンジョン入り口に戻る為、帰還転移フィールドの中へと入った。
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