何ちゃって神の望まぬ異世界生活

鳥類

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大体サラッと流される所が一番重要な気がする

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 知っているか。人間、何でも慣れるものではあるが…

 ごく普通のアラサー主婦(仮)が、慣れそこへ行き着くには、とんでもない苦労と諦観が伴う事をーーー


「…うぇっ…! ごほっ…! あ゛ー…失敗した…。ここ最近やらかしてなかったのに…」


 あれから、どのくらいの時間が経ったのか、正確には分からない。何故なら、途中で数えるのをやめたから…と言うか、やめざるを得なかったから。あちこち逃げ隠れしながら駆けずり回ってたら日にち数えるなんて無理な話だよ。






 『ここ』で目覚めて、麻袋を持っただけで森の中を彷徨った私は…割と早々に音を上げた。多分二時間も経ってない。
 でも仕方ないと思う。思った以上に動けるな…とは思ったけど、推定10歳未満の子どもの身体で道無き道を進めるかと言うと…無理だ。しかも、靴は踵のないバレエシューズではあるがいわゆる『おしゃれ革靴』で、レジャー向きとは言えない。
 その上、先程の雨で服はびしょびしょで足に張り付き歩きにくい事この上ない。
 とりあえず、疲れ切った私は、その日は手近な木の根元で麻袋をかけて寝た。そして見事に風邪を引いた。

 それから二日は高熱でのたうちまわったのだが、今思えばよく獣に食われなかったと思う。

 熱が下がってからは、今度は喉の渇きと空腹に苛まれた。
 幸い、近くに綺麗な沢を見つけ、貪るように水を飲み、これまた近くにあった木に巻きついていたアケビに似た果実を食べて腹を満たした。
 それからはその辺りを拠点に生活した訳だが…

 空腹に耐えきれず、ヤバいかなー…と思いつつ食べた木の実で体内の色々なモノを全て出し切る勢いになるほど腹を壊し、獣に追われ、魚を獲ろうとして溺れかけ、寝る時に木の上の方がいいかなと木に登って落ちて失神したり…

 あのね、引きこもり主婦はキャンプとかもほとんどした事ないんですよ。いや、子ども連れて行った事はあるけどね? 何一つ装備がない本格サバイバルなんてしたことある訳ないでしょ。某無人島脱出番組だってなんぼか装備品持っとるわ!!(怒)

 その上、大した知識も無い。

 個人的に転生・転移モノとかのラノベを読んだ事はあるけど、ああ言うのって大体いい所に生まれてたり、大自然に放り込まれてもチート能力あったりでサラッと乗り越えてるじゃん?

 無理無理無理無理!


 まず、お腹壊した時に人間としての『何か』が折れた。そりゃ見事にポッキリと。そのせいで麻袋を着てたまにパンツ無しと言う諦めの境地に辿り着いたと言えなくも無いけど、人として大切なモノを捨てる事になったと思う。
 …この時ほど身体が子どもで良かったと思った事はない。

 次に、元々見た事ない植物が沢山で…嫌な予感はしてたんだけど…ある日ついに動く植物…いや、言い方が悪かった。『歩く植物』を見て、『あ、こらあかんわ…』と、絶望した。

 ここ、地球じゃない。

 頭のどこかで分かってはいたんだろうが、この森を抜けて人里に出さえすれば、家に…家族に連絡が取れるのでは? という希望を捨てられなかった。

 交差点を渡っていく『私』を見ていたとしても。
 『私』じゃない、誰とも知らぬ子どもの姿であっても。

 ここで『私』としての『心』が折れた。バッキバキに。
 何のために、どうして『私』がこんな目に…! と思いながらも、『いつか目が覚めて…あるいは誰かに会って連絡が取れるんじゃないか』と言う『小さな希望』を抱いていた『心』が…。

 自棄になった。今まで以上に無茶苦茶に…歩き回ったり、ヤバそうなモノ食べたりした。魚も生で齧ったりした。だって火起こし出来なかったんだもの。
 でも、相変わらずお腹壊してのたうちまわりはすれど、意外とこの身体頑丈で、ボロボロな割に死なないんだよね…。
 で、そんな苦行(?)を何度繰り返したかは忘れたけど、幾度目かの脱水症状(意味深)中、完全に虚無しか無い私の目に映ったのは…

 狼に似た獣。

 大きさは大型犬くらいで黒い身体、一匹しか居ないみたいだけど…完全にロックオンされてるのだけは分かった。
 この時、もう、良いかな…って思った。そら思うわ。もう限界だったんだよ。
 …で。近づいてくる足音を聞きながら…ゆっくり目を閉じてーーー

 いや無理! 超痛い!!

 噛みつかれた痛みで脳内が真っ赤になった。

 もう後はよく覚えてないけど、辞世の句とか読んでる場合じゃ無いのだけは確か。まさに無我夢中。何がどうなったかは分からないけど、目の前には血に塗れて倒れた獣と、赤く染まった枝を持った私。
 荒い息を整える暇もなく…地面に倒れた私が思ったのは…

 何だかんだ言っても…私は結局生きたかったんだな…と言う事。

 何もかもがバッキバキになって絶望したけど、結局死にたくなかった。
 黒く塗りつぶされていく思考の中で、それが唯一残った想い。


 ーーーで。
 何日寝てたのかは知らないが、目が覚めた。驚き。
 そして…吹っ切れた。

 とりあえず、生きる。どうなるかとか分からないけど、生きる。

 アラサー主婦(仮)が、異世界(?)と向き合うまでの変遷は、数行で済ませられない葛藤があるんやで!! と誰にともなく主張しながら…本腰入れてサバイバルを開始した訳であるーーー






 そして、冒頭に戻る訳だが…

「う゛ぁー…不味いわ吐くわロクなモンじゃなかったな…。これは要注意…と。でも、いつも見たく危険な感じしなかったんだけどなー…。ま、しゃーない」

 沢で口を濯ぎ水を飲む。

「そろそろ服…と言えるかは謎だけど、麻袋コレも限界だなー。何か良いモン無いかなー。皮は鞣せんしな」

 どっかに良いモン落ちてないかな…などと言いながら…森の中を彷徨う私は…もう、この世界の住人なのかもしれないーーー


 嫌だけど(大笑)
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