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小話
《誰も知らない出来事》
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「…はい、了解しました。確認しに参ります」
転生管理課の『魂魄帰還所』からの連絡を受け、所長である私は今開いている転生情報をきちんと保存した上で席を立った。
ここは『現世』と呼ばれる数多の世界とは時間の流れが違うため、何年前、とかいう数え方は当てはめられないが、以前こちらのとんでもないミスで送り出してしまった二人のうち、元凶となった『要注意認定』の魂が戻ってきたそうだ。
「お疲れさまです。確認に参りました」
「あ、お疲れさまです。…もうこのまま放っておいても消し飛びそうな程限界値超えてそうなヤバい魂ですねぇ。すでにカタチ保ってませんし」
「わぁ…半端なくドス黒いですね…。ですが、きちんと『消滅作業』しましょう。…特にこの魂はちゃんと処理しないといけないんですよ」
これ以上ミスを重ねるわけにはいかないのでね…!
ここへ戻る時には、基本的に死ぬ直前の姿をとっている事が多い。ただ、動物だった場合は、説明を受けたり、記録媒体を持って移動したりするのに不便なので人型をとれるようになっている。
しかし、そうしたカタチを取れなくなっていると言うことは…
消滅するしか選択肢が無い、『穢れきった魂』という証拠だ。
ドス黒い『モノ』が、何か言いたげに蠢くのを視界に収めながら、私は作業を開始する。キーを差し込み、パスワードを打ち込み…『扉』を開放する。
『ドス黒い何か』の胸辺りに、銀色の細いワイヤーのようなモノが突き刺さり、そこから記録媒体を抜き取ると…
黒いモノの下…開き切った『扉』から黒い腕とも蔦とも言えそうなモノが幾本も飛び出し、『それ』をちぎり、砕き、引き摺り込んでいく。
毎回、断末魔のような声が聞こえる気がするので…この作業は結構しんどい。『所長』となってからは離れていたのだが…今回に限ってはきちんと私の手で行うべきだと思って通知を入れておいたのだ。
「…終わりましたね」
帰還所からついてきてくれた職員の言葉に頷いて、『扉』を閉じた。
「…何で…こんだけ少なくて楽に越えられそうな試練しか無いのに、こうも最悪更新出来たんですかね、あの人…」
管理課会議室の一室で、先程回収したカードの情報を目の前に…三人で頭を抱えた。
「結局…魂の持つ『本質』って…どれだけ『試練』を与えようとも変わらないんですかね…」
転生管理課ではまだ若手に入る女性職員が呟くと、窓口職員が反論する。
「いや、そうとも言えない。上手く試練が作用して格が上がる魂もあるからね」
本当に、これに関しては何とも言えない。『変わらない者』は変わらないし、『乗り越える者』はちゃんと変わっていくのだから。
「…何にしても…今回のこの魂は…何度転生しようとも、際限なく欲を広げ、手に入れるための努力はせず、他者を羨み、貶め、踏み付け、奪う事にのみに己の力を割いて…自分の手元にある『モノ』の価値を知ろうともしなかった」
結局、その『魂』に引き摺られるように『白いカード』に基づいて作り上げられた『人生』すら歪めてしまった。
少しでも『今まで』と変わろうと…奪い取った『人生』を懸命に生きようとすれば…同じ末路だろうと、もっと穏やかな『消滅』を迎えられただろうに…。
「何はともあれ…この記録媒体の、今回の生の部分のみをデリートしてきちんと保管しておいてくださいね」
「承知しました」
「所長はこれからどうされるんです?」
「通常業務に戻りますが…その前に『要注意者転生管理部』に寄ります。今回のデータをちゃんと伝えに」
あの事件後、要注意者の転生は、完全隔離となった。同じ事が起きたら目も当てられないのでね。
白い廊下を進みながら、訳もわからず、理不尽を強いてしまった方に思いを馳せる。
喚き散らしたいだろうに、グッと全てを飲み込んで転生して行ったあの人は…どんな人生を歩んでいるだろうか。
…きっと、今日消した魂とは違い、ちゃんと『カタチ』を保って…驚く程見事に試練を乗り越えて帰ってくるだろう。
…殴られる覚悟は…しておいた方が良さそうかな。
私は苦笑いを浮かべたまま、廊下を進んで行ったーーー
ーーーーーー
帝国・王族関係とか、アメリアに関してとか、パパンの暗躍についてとか、本編に書いてない部分が幾らかあります。何故なら…ノア的に『どうでもいい』事だからです(大笑)
基本が彼女の視点で物語が進むので、削りました。
後、職員ズはノアの手続きが終わり次第、新たな魂として一からやり直しになります。
その辺は、いつかサイドストーリーという形で書けたらいいなと思います。
何はともあれ、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
転生管理課の『魂魄帰還所』からの連絡を受け、所長である私は今開いている転生情報をきちんと保存した上で席を立った。
ここは『現世』と呼ばれる数多の世界とは時間の流れが違うため、何年前、とかいう数え方は当てはめられないが、以前こちらのとんでもないミスで送り出してしまった二人のうち、元凶となった『要注意認定』の魂が戻ってきたそうだ。
「お疲れさまです。確認に参りました」
「あ、お疲れさまです。…もうこのまま放っておいても消し飛びそうな程限界値超えてそうなヤバい魂ですねぇ。すでにカタチ保ってませんし」
「わぁ…半端なくドス黒いですね…。ですが、きちんと『消滅作業』しましょう。…特にこの魂はちゃんと処理しないといけないんですよ」
これ以上ミスを重ねるわけにはいかないのでね…!
ここへ戻る時には、基本的に死ぬ直前の姿をとっている事が多い。ただ、動物だった場合は、説明を受けたり、記録媒体を持って移動したりするのに不便なので人型をとれるようになっている。
しかし、そうしたカタチを取れなくなっていると言うことは…
消滅するしか選択肢が無い、『穢れきった魂』という証拠だ。
ドス黒い『モノ』が、何か言いたげに蠢くのを視界に収めながら、私は作業を開始する。キーを差し込み、パスワードを打ち込み…『扉』を開放する。
『ドス黒い何か』の胸辺りに、銀色の細いワイヤーのようなモノが突き刺さり、そこから記録媒体を抜き取ると…
黒いモノの下…開き切った『扉』から黒い腕とも蔦とも言えそうなモノが幾本も飛び出し、『それ』をちぎり、砕き、引き摺り込んでいく。
毎回、断末魔のような声が聞こえる気がするので…この作業は結構しんどい。『所長』となってからは離れていたのだが…今回に限ってはきちんと私の手で行うべきだと思って通知を入れておいたのだ。
「…終わりましたね」
帰還所からついてきてくれた職員の言葉に頷いて、『扉』を閉じた。
「…何で…こんだけ少なくて楽に越えられそうな試練しか無いのに、こうも最悪更新出来たんですかね、あの人…」
管理課会議室の一室で、先程回収したカードの情報を目の前に…三人で頭を抱えた。
「結局…魂の持つ『本質』って…どれだけ『試練』を与えようとも変わらないんですかね…」
転生管理課ではまだ若手に入る女性職員が呟くと、窓口職員が反論する。
「いや、そうとも言えない。上手く試練が作用して格が上がる魂もあるからね」
本当に、これに関しては何とも言えない。『変わらない者』は変わらないし、『乗り越える者』はちゃんと変わっていくのだから。
「…何にしても…今回のこの魂は…何度転生しようとも、際限なく欲を広げ、手に入れるための努力はせず、他者を羨み、貶め、踏み付け、奪う事にのみに己の力を割いて…自分の手元にある『モノ』の価値を知ろうともしなかった」
結局、その『魂』に引き摺られるように『白いカード』に基づいて作り上げられた『人生』すら歪めてしまった。
少しでも『今まで』と変わろうと…奪い取った『人生』を懸命に生きようとすれば…同じ末路だろうと、もっと穏やかな『消滅』を迎えられただろうに…。
「何はともあれ…この記録媒体の、今回の生の部分のみをデリートしてきちんと保管しておいてくださいね」
「承知しました」
「所長はこれからどうされるんです?」
「通常業務に戻りますが…その前に『要注意者転生管理部』に寄ります。今回のデータをちゃんと伝えに」
あの事件後、要注意者の転生は、完全隔離となった。同じ事が起きたら目も当てられないのでね。
白い廊下を進みながら、訳もわからず、理不尽を強いてしまった方に思いを馳せる。
喚き散らしたいだろうに、グッと全てを飲み込んで転生して行ったあの人は…どんな人生を歩んでいるだろうか。
…きっと、今日消した魂とは違い、ちゃんと『カタチ』を保って…驚く程見事に試練を乗り越えて帰ってくるだろう。
…殴られる覚悟は…しておいた方が良さそうかな。
私は苦笑いを浮かべたまま、廊下を進んで行ったーーー
ーーーーーー
帝国・王族関係とか、アメリアに関してとか、パパンの暗躍についてとか、本編に書いてない部分が幾らかあります。何故なら…ノア的に『どうでもいい』事だからです(大笑)
基本が彼女の視点で物語が進むので、削りました。
後、職員ズはノアの手続きが終わり次第、新たな魂として一からやり直しになります。
その辺は、いつかサイドストーリーという形で書けたらいいなと思います。
何はともあれ、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
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