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間話

《成し遂げたつもりだった(後編)》

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  《ケルヴィン視点》

「…んん…? 影…? 鞭…?」

 黒い鞭をヒュンヒュンと操りながらゲイルを攻撃する少女がこてん、と首を傾げる。
 いや…何一つわからないからな? ゲイルの方へ目を向けたが、奴は攻撃を躱しつつさりげなく少女をしばくのに忙しいらしい。

「こらノア! いい加減ちゃんと話しろ! お前が会いたいっつーから連れてきてやったんだぞ!」

 もはや何にツッコめばいいのかわからないが、シュルシュルと彼女の影へと消えていく鞭から目が離せない。


 これは…この魔法はもしかして…


「あの、種の供給者さん」
「お前本当相手に対して遠慮無いよな」
「ナイスミドルは黙って」

 固まる俺の事など歯牙にもかけず少女は口を開く。


「私に、『黒』を与えてくれて、ありがとうございます」


 この子は…俺の思惑復讐すら打ち砕いてしまうんだなーーー






「…あれは…いや、あれが…『黒魔法』なのか?」
「そうらしい。まぁ、ノアしかまともに使えないから何とも言えんがな」

 身体強化で薪を割ったかと思えば、『影』を使ってまとめる少女。


「…あんなに…すごい魔法だったんだな…」


 『黒持ち』と言うだけで祖父から排除対象とされた自分。『青魔法』が使えたにも関わらず…『青』の一族と認めてもらえなかった自分。

 『黒』を…憎むしか出来なかった自分ーーー

 自分を憐れむ余り…同じ苦しみを何も知らない子どもに押し付けてしまった事に今更気付いた。
 遅すぎるが、後悔の念が押し寄せる。

 名を捨て、ここに送られ…大叔父に祖父の話を聞いた。
 数年で彼は俺に祖父の仕打ちを謝りながら…終生見つけられなかった彼の妹と母親へ懺悔しながら逝った。

 彼のおかげで…納得はできずとも、黒い思いは断ち切る事ができたが…俺ではきっと…


「兄上が…引き取ってくださってよかった…。そうでなかったらあの子はあんなに楽しそうに…生きていけなかっただろうから…」


「……ノアは…一人で生きていたよ」


 ゲイルから聞かされた話に…俺は己の罪深さを思い知ったーーー






「…はー、なるほどなるほど、つまりジジコン拗らせた結果の犯行という事ですね?」
「いや、全然違うと思うし、ジジコンって何だよ」
「もー、相変わらずナイスミドルさんは口うるさいですねぇ。ちなみにジジコンは祖父ジジィコンプレックスの略です」

 目の前でまた始まったじゃれあいケンカに、どうしたらいいのか慌てるしか無い。しばらくしたら落ち着いたのか二人してお茶を飲み始める。本当に日常茶飯の事らしい。

「…さっき…ゲイルから聞いた。食事すらまともに出来ない程の環境に居たと…。言い訳にしかならないと思うが…ずっと、離宮で生活していると思っていたんだ。訪ねた時に小さな女の子を見たことがあって…」

「あ、そいつクソ乳母の娘ですよ。あいつらマジでアルの世話係になってたのか…」

 離宮で幼子と会った時、私はその子が自分の娘だと思った。今、彼女を見た後では似ても似つかない子だったとわかる。
 そして、もう一つ思い出した。

「乳母…そういえば…赤子の世話係と言っていたな…」

 生まれた赤子が男の子だったと聞いて見に行った時に会った女…

「俺を兄上と思ったらしく…色目使ってきて気持ち悪かったから首を通告して叩き出したが…アレの娘だったのか…」
「ダニエラを放り出しに行った時に見なかったのはそのせいか…」

 目の前の二人が渋い顔をしているのがちょっと面白い。


「ま…まぁ、あんなクソどもの事はどうでもいいんですよ。とりあえず属性供与者さんにお礼もできましたし、そろそろ帰りますかねー」

 ではではおさらばです! と言いながら立ち去ろうとする彼女を止める術を俺は持たない。
 ここから出る事を許されない俺は、もう二度と会う事はないだろう娘の背中を見送る。


「…今度来た時は、もっとすごい『技』で度肝抜いたげますから、心臓鍛えといてくださいね」


 振り返ることなく扉の向こうへ消えた彼女の背を追うこともなく、俺はソファーに腰を下ろしたまま窓の外へと視線を送る。



 もう、枯れ果てたと思っていた涙が頬を伝うのを感じたーーー



ーーー
『平民になります事件』からしばらくしたくらいの時間軸。そういや血縁上の父はどうしたんだ?って聞いたら会いにいくか?って言われたんで、とりあえず理由くらい聞きにいくか、と思って来てみた。
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