他人の人生押し付けられたけど自由に生きます

鳥類

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間話

《成し遂げたつもりだった(前編)》

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  《ケルヴィン視点》

 カコン! という軽い音を立てて薪が真っ二つになる。保存するために倉庫へと仕舞っていると、家の前に馬車が停まるのが見えた。ここへ人が来る事はほとんど無いが…と訝しく思っていると、御者席から懐かしい男が降りてこちらへ手をあげている。

「久しいな、ケルヴィン。生きてるか?」
「あぁ。おかげさまでな」

 軽く頷いて扉へと手をかけるゲイルに、兄が来たのだろうと思い近づくと…

「…お尻が! 死にました!」
「うぉっ?!」

とんでもない内容の叫び声と共に飛び出してきた少女が突進してきた。

「な…何だ?!」

 訳もわからず飛び込んできた少女のその姿形を見て…気づいた。艶やかな黒髪。自分よりさらに濃い紺藍の瞳…この子はーーー


「あ、どーも。お初にお目にかかります。遺伝子提供者さん」


 ーーー何だろう。色々思うところがあったはずなのに全部すっ飛ぶこの挨拶は…。






 物心ついた頃から祖父が俺を見る目が怖かった。兄や父へは絶対に向けられない冷たい視線。その理由もわからずただ怯えるしか無かった。父は知っていたようだが、決して教えてはくれなかった。
 無邪気に祖父へと懐く兄を見て、同じようにしてみた事もあったが、やはりあの目を向けられると無理だった。

 どうして? どうしてぼくはおじいさまにきらわれてるの?

 何度も父に問うた。父は悲しい顔で私を抱きしめたが、決して理由を告げたり、祖父との仲を取り持とうとはしなかった。

 ごく早い段階で後継から外れた事に関しては特に思う事は無かった。兄は自分から見ても優秀だったし、何より…

 幼馴染フレイアがいずれ自分の花嫁となると信じていたからーーー



 『黒持ちは我が家系ポーラス家に相応しくない』

 この一言で、祖父の今までの態度が腑に落ちた。
 俺がどれだけ必死で頑張ろうとも、結果を出そうとも、何もかも無駄なのだ。

 『黒持ち』と言うだけで、この人が俺を受け入れる事はないのだと。俺に『ポーラス家』に准ずる何かを与える事がないのだと。


 兄と、愛した女が幸せそうに笑い合う姿を見て…それを満足げな顔で眺める祖父を見て…


 それを壊してやろうと思う事の何が悪いと言うのか。

 『俺』という人格を…人生を踏み躙った上での幸せなど、認めるものか!






 フレイアが死んだと聞いた時も、然程胸が痛まなかったのは、もう『感情こころ』自体を忘れてしまっていたのかもしれない。
 ただ、その後王命で兄が他国の王女を無理矢理娶らされ、その女を離宮へ隔離したと聞いた時…俺は無意識に笑っていた。


 これは好機だ。
 『俺』を認めず、『ポーラス家』から排除しようとした祖父へ、最高の復讐ができるこのタイミングを逃すわけにはいかない。

 幸いな事に、この元王女は頭が弱かった。俺が兄と似ているというのもよかったのだろう。簡単に身体を許した。
 俺の思惑など気付きもしない…と言うか、考える頭が無かったのかもしれないが。何が『もし男の子で、優秀な子だったら後継になれますかしら?』だ。まぁ、『青』なら可能性が無いとは言えないが…俺が欲しいのは『黒』だ。
 他国出身とはいえ…属性色で不貞がバレる事を知らないのか…? まぁどうでもいいから適当に『そうだな、男ならな』って言っといたが。
 後々、娘だったからもう一人、と言われた時に、本物のバカだったと気づいたが、それも知ったことでは無い。

 何だかんだで甘い所のある兄は、『嫁』が産んだ子どもを無碍には出来ないだろう。間違いなく引き取る。


 あの2人のどちらかが『黒』を発現すれば良い。そうすれば、俺の『復讐』は完了する。


 ーーーポーラス家へ黒を入れる青の一族へ滲みを残すと言うーーー






「それにしても、あのクソババァ、あんだけアホなのによく勃ちましたね?」

 …どうしよう。来年から学園に通うという妙齢(?)の淑女(?)からとんでもない言葉が出てきた。
 隣に座るゲイルが凄い勢いで少女の頭を叩いた。それにもビックリしたが、特に堪えてないところを見ると、日常茶飯事なのかもしれない。
 それよりもーーー

「ソレは…何だ…?」

「え? 『影鞭』ですけど?」

 どうしよう…。娘(仮)と会話ができない…
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