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人生の黒歴史は大体学生時代に生産される
《タダじゃ済ませねぇ》
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《ゲイル視点》
「…ごめんなさい…ダメだ…どうしよう…わたしは…わたしはやっぱり…」
学園から一人で戻ったかと思えば挨拶もなく自室へと駆け込んだノア。声をかけても何の応えも無い。
痺れを切らして部屋へと入ってみれば、灯りもつけずに部屋の隅で小さくなっているノアを見て、俺もノルディンも驚きを通り越して固まった。
こんな様子は今まで一度も見た事が無かったーーー
ノアは、最初から変な子どもだった。
幼児とは思えないほど達観してるわ、順番間違えて魔法を身につけるわ、属性発現させれば『忌避属性』だわと、とにかく話題に事欠かない…と言うか、おかしすぎる存在だった。
型にハマらないどころか、枠をぶっ壊して飛び出してると言っていい。
そんなへんてこなノアだが、同時に…臆病で優しい子だったーーー
『黒』を発現したと知った当初、ケルヴィンの事やノアの今後の事が渦巻いてショックの余りどうすればいいかわからなくなったが、そんな俺とは裏腹に、ノアは『黒魔法』を自分で探り当てて使いこなした。
誰もが厭い、見ないフリをしてきた魔法を、活かしたのだ。己が生きるために。
後にその属性が『忌避される』事を教えた時も、特にショックを受けるでもなく、まるで知っていたかのように飲み込んだ。
それでも使う事をやめなかったが、披露する時はきちんと人を見ていたように思う。
ノアは、常に周りを観察し、適切な距離を保ちながら立ち回る。
離宮から連れ出し、ノルディンの娘として生活させ、公爵家の暮らしにも十分馴染んでいるように見えて、俺にもノルディンにも、あと一歩と言うところで線を引いていたことに気づいたのは、あの『平民宣言』を聞いた時だ。
あれだけ色々やらかして、その度受け止めてきたつもりだった。大丈夫だと、何があっても見捨てはしないと伝えてきたつもりだった。それなのに…
周りが傷つくのを恐れてたった一人で出て行く事を選ぼうとしていたーーー
本当に大バカやろうだ。ビビりのヘタレチビだ。
どんな目にあっても泣きもせず、赦しはせずとも相手に何かを望む事は無かった。
それは、己がそうすることで、周りに影響を与える事を恐れたからだろう。
そんなノアが…
「どうしよう…どうしよう…私…あの子が笑ってるのを見た時…」
殺せるって…このまま…影で貫いて…本気で殺してやろうって…考えてしまったーーー
「私の魔法は…人を殺せる…容易に傷つける事が…出来てしまう…!」
震える手を、きつく握りしめるノア。
「お父さまも、お兄さまも、アルノルトも、ゲイルさんも、セバスチャンさんも…お邸のみんなみんな…私は傷つけてしまうかもしれない…私が誰かを殺してしまって、迷惑をかけてしまうかもしれない…人を殺してしまって…殺して…」
身体も小刻みに震えている。そして、急に顔をあげると悲痛な声で叫んだ。
「やっぱりわたしじゃダメだった! ちゃんとがんばってきたつもりだったけど、ダメだったんだ! かえられなかったんだ! やっぱりきえちゃうんだ! こわい…こわいよっ…! わたし、ひとを…もう、しれんなんてこえられない…! だったら…だったらもう…」
今、終わりにしてよーーー
パニックを起こしたノアの平均より小さめなその身体をノルディンがかき抱くと、しばらく訳の分からない事を叫んでもがいていたが、そのうち声をあげて泣き始めた。
10年以上の付き合いで…初めて見る泣き顔は…余りに悲痛で…弱々しくて…そのまま消えてしまうんじゃないかと思ったーーー
「さて…どうしてやろうかな」
泣き疲れて眠ったノアをベッドに寝かせたノルディンは、凍えそうな笑みを浮かべてそう呟いた。
レイノルトとアルノルトもいつの間にか側に来ており、ノアの頭をゆっくりと撫でている。
「私の可愛い娘を泣かせたんだ」
ーーーこのまま…何も無しでいられると思ったら大間違いだよ。
公爵家の全員が、目をギラつかせて当主の命を待っていたーーー
「…ごめんなさい…ダメだ…どうしよう…わたしは…わたしはやっぱり…」
学園から一人で戻ったかと思えば挨拶もなく自室へと駆け込んだノア。声をかけても何の応えも無い。
痺れを切らして部屋へと入ってみれば、灯りもつけずに部屋の隅で小さくなっているノアを見て、俺もノルディンも驚きを通り越して固まった。
こんな様子は今まで一度も見た事が無かったーーー
ノアは、最初から変な子どもだった。
幼児とは思えないほど達観してるわ、順番間違えて魔法を身につけるわ、属性発現させれば『忌避属性』だわと、とにかく話題に事欠かない…と言うか、おかしすぎる存在だった。
型にハマらないどころか、枠をぶっ壊して飛び出してると言っていい。
そんなへんてこなノアだが、同時に…臆病で優しい子だったーーー
『黒』を発現したと知った当初、ケルヴィンの事やノアの今後の事が渦巻いてショックの余りどうすればいいかわからなくなったが、そんな俺とは裏腹に、ノアは『黒魔法』を自分で探り当てて使いこなした。
誰もが厭い、見ないフリをしてきた魔法を、活かしたのだ。己が生きるために。
後にその属性が『忌避される』事を教えた時も、特にショックを受けるでもなく、まるで知っていたかのように飲み込んだ。
それでも使う事をやめなかったが、披露する時はきちんと人を見ていたように思う。
ノアは、常に周りを観察し、適切な距離を保ちながら立ち回る。
離宮から連れ出し、ノルディンの娘として生活させ、公爵家の暮らしにも十分馴染んでいるように見えて、俺にもノルディンにも、あと一歩と言うところで線を引いていたことに気づいたのは、あの『平民宣言』を聞いた時だ。
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周りが傷つくのを恐れてたった一人で出て行く事を選ぼうとしていたーーー
本当に大バカやろうだ。ビビりのヘタレチビだ。
どんな目にあっても泣きもせず、赦しはせずとも相手に何かを望む事は無かった。
それは、己がそうすることで、周りに影響を与える事を恐れたからだろう。
そんなノアが…
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「私の魔法は…人を殺せる…容易に傷つける事が…出来てしまう…!」
震える手を、きつく握りしめるノア。
「お父さまも、お兄さまも、アルノルトも、ゲイルさんも、セバスチャンさんも…お邸のみんなみんな…私は傷つけてしまうかもしれない…私が誰かを殺してしまって、迷惑をかけてしまうかもしれない…人を殺してしまって…殺して…」
身体も小刻みに震えている。そして、急に顔をあげると悲痛な声で叫んだ。
「やっぱりわたしじゃダメだった! ちゃんとがんばってきたつもりだったけど、ダメだったんだ! かえられなかったんだ! やっぱりきえちゃうんだ! こわい…こわいよっ…! わたし、ひとを…もう、しれんなんてこえられない…! だったら…だったらもう…」
今、終わりにしてよーーー
パニックを起こしたノアの平均より小さめなその身体をノルディンがかき抱くと、しばらく訳の分からない事を叫んでもがいていたが、そのうち声をあげて泣き始めた。
10年以上の付き合いで…初めて見る泣き顔は…余りに悲痛で…弱々しくて…そのまま消えてしまうんじゃないかと思ったーーー
「さて…どうしてやろうかな」
泣き疲れて眠ったノアをベッドに寝かせたノルディンは、凍えそうな笑みを浮かべてそう呟いた。
レイノルトとアルノルトもいつの間にか側に来ており、ノアの頭をゆっくりと撫でている。
「私の可愛い娘を泣かせたんだ」
ーーーこのまま…何も無しでいられると思ったら大間違いだよ。
公爵家の全員が、目をギラつかせて当主の命を待っていたーーー
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