他人の人生押し付けられたけど自由に生きます

鳥類

文字の大きさ
上 下
48 / 83
人生の黒歴史は大体学生時代に生産される

《タダじゃ済ませねぇ》

しおりを挟む
  《ゲイル視点》

「…ごめんなさい…ダメだ…どうしよう…わたしは…わたしはやっぱり…」

 学園から一人で戻ったかと思えば挨拶もなく自室へと駆け込んだノア。声をかけても何の応えも無い。
 痺れを切らして部屋へと入ってみれば、灯りもつけずに部屋の隅で小さくなっているノアを見て、俺もノルディンも驚きを通り越して固まった。

 こんな様子は今まで一度も見た事が無かったーーー






 ノアは、最初から変な子どもだった。

 幼児とは思えないほど達観してるわ、順番間違えて魔法を身につけるわ、属性発現させれば『忌避属性』だわと、とにかく話題に事欠かない…と言うか、おかしすぎる存在だった。
 型にハマらないどころか、枠をぶっ壊して飛び出してると言っていい。


 そんなへんてこなノアだが、同時に…臆病で優しい子だったーーー


 『黒』を発現したと知った当初、ケルヴィンの事やノアの今後の事が渦巻いてショックの余りどうすればいいかわからなくなったが、そんな俺とは裏腹に、ノアは『黒魔法』を自分で探り当てて使いこなした。

 誰もが厭い、見ないフリをしてきた魔法を、活かしたのだ。己が生きるために。

 後にその属性が『忌避される』事を教えた時も、特にショックを受けるでもなく、まるで知っていたかのように飲み込んだ。
 それでも使う事をやめなかったが、披露する時はきちんと人を見ていたように思う。

 ノアは、常に周りを観察し、適切な距離を保ちながら立ち回る。

 離宮から連れ出し、ノルディンの娘として生活させ、公爵家の暮らしにも十分馴染んでいるように見えて、俺にもノルディンにも、あと一歩と言うところで線を引いていたことに気づいたのは、あの『平民宣言』を聞いた時だ。

 あれだけ色々やらかして、その度受け止めてきたつもりだった。大丈夫だと、何があっても見捨てはしないと伝えてきたつもりだった。それなのに…

 周りが傷つくのを恐れてたった一人で出て行く事を選ぼうとしていたーーー

 本当に大バカやろうだ。ビビりのヘタレチビだ。

 どんな目にあっても泣きもせず、赦しはせずとも相手に何かを望む事は無かった。
 それは、己がそうすることで、周りに影響を与える事を恐れたからだろう。


 そんなノアが…



「どうしよう…どうしよう…私…あの子が笑ってるのを見た時…」


 殺せるって…このまま…影で貫いて…本気で殺してやろうって…考えてしまったーーー


「私の魔法は…人を殺せる…容易に傷つける事が…出来てしまう…!」

 震える手を、きつく握りしめるノア。

「お父さまも、お兄さまも、アルノルトも、ゲイルさんも、セバスチャンさんも…お邸のみんなみんな…私は傷つけてしまうかもしれない…私が誰かを殺してしまって、迷惑をかけてしまうかもしれない…人を殺してしまって…殺して…」

 身体も小刻みに震えている。そして、急に顔をあげると悲痛な声で叫んだ。

「やっぱりわたしじゃダメだった! ちゃんとがんばってきたつもりだったけど、ダメだったんだ! かえられなかったんだ! やっぱりきえちゃうんだ! こわい…こわいよっ…! わたし、ひとを…もう、しれんなんてこえられない…! だったら…だったらもう…」

 今、終わりにしてよーーー


 パニックを起こしたノアの平均より小さめなその身体をノルディンがかき抱くと、しばらく訳の分からない事を叫んでもがいていたが、そのうち声をあげて泣き始めた。

 10年以上の付き合いで…初めて見る泣き顔は…余りに悲痛で…弱々しくて…そのまま消えてしまうんじゃないかと思ったーーー






「さて…どうしてやろうかな」

 泣き疲れて眠ったノアをベッドに寝かせたノルディンは、凍えそうな笑みを浮かべてそう呟いた。

 レイノルトとアルノルトもいつの間にか側に来ており、ノアの頭をゆっくりと撫でている。

「私の可愛い娘を泣かせたんだ」

 ーーーこのまま…何も無しでいられると思ったら大間違いだよ。


 公爵家の全員が、目をギラつかせて当主の命を待っていたーーー
しおりを挟む
感想 165

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

処理中です...