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間話

《知らなかった一面》

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  《ノルディン視点》

 カタン、という音と、揺れを感じて目を覚ました。どうやら目的地に着いたようだ。
 ケルヴィンの処遇のこともあり、よく眠れない日が続いていたため、馬車内でうたた寝してしまったらしい。
 開いた扉を潜ると、目の前に小さな屋敷が現れた。

 公爵領の端、人里からも離れた寂しい場所。
 ここが今日の目的地…私が会いに来た人が住まう場所だ。



「…お久しぶりです…大叔父殿」
「おぉ、よく来たな。えぇと…ノルディン…だったか?」
「はい。すっかりご無沙汰してしまい申し訳ありません」

 …ご無沙汰も何も…実は元々物心ついてからほとんど会ったことがない人だ。最後に会ったのは…

「兄上の葬式以来か…」

 そう。祖父の葬儀で会った。
 まともに口をきいたのはあの時が初めてかもしれない。それほどこの人はここを出ない。そもそも、とうの昔にポーラスの名を捨てている。

「今日は…貴方に聞きたいことがあって参りました」

 私は、祖父について…聞かなければならないことがあるーーー






「…祖父が…ケルヴィンを疎んじていた…?」
「…あぁ。お前は知らなかっただろうがな。どうも、ケルヴィンが『黒持ち』だったせいらしい」

 ゲイルから唐突にもたらされた告解に、戸惑うことしかできない。
 確かに『黒持ち』は忌避され、差別される。しかし、弟は『青魔法』を発動できるし、対外的に『黒持ち』である事は知られていない。

「早々に婿入りさせて家から出すつもりだったようだ」

 何故そんなことを…? 父上は何も言っていなかった…。






「兄は…怖い人だったよ。お前は知らなかっただろうがねぇ…」

 大叔父は「お前はちゃんとした『後継者』だからね」と苦く笑ってそう言った。
 父は…『黒持ち』に対する祖父の恐ろしいまでの忌避意識を知っていたようだ。だからこそ逆らわなかった。

「そもそもの始まりは…私の母…お前の曽祖母だな。彼女が嫁にきたところからだ」

 曽祖母はすぐに長男である祖父を産んだ。成長した祖父は優れた青魔法使いとして頭角を表した。祖父の誕生後、7年の歳月が経って、弟である大叔父が生まれ、その3年後に妹が生まれた。

「幸せだったよ…。優しい両親、強い兄、可愛い妹…。それが…あの日全部壊れた…」

 妹が触れた鑑定水晶は…黒一色に染まったーーー

「それを見て…母が絶叫した。そして妹に殴りかかろうとするのを父と必死で止めたよ。兄は呆然としていた。その後…母は延々と『黒』の不吉さ、許せなさを兄に刷り込んで行った。私と父は止めたが…もう、あの時には母は狂っていたんだと思う」

 母親の刷り込みはやがて兄の意見となり…早い段階で父親を隠居させて家督を継ぐと…

「真っ先に…兄は妹を放逐した。当時気力が削がれたせいか体調を崩しがちだった父を、療養先へ送って行った時だったよ。…必死で探したが…見つからなかった。そして…」

 次は母を追い出したーーー

「兄は…『黒』が母から継がれた事に気づいていたんだ。父も気付いていたんだろうが…そこまで追及しなかった。だが…兄は許さなかった」

 まぁ…そうなるよう仕向けたのは母だからなーーー

 因果応報だな、と悲しそうに笑う大叔父に、これ以上何を聞くこともできず、私は屋敷を後にしたーーー






「…ノア…君は…本当の父親に…会いたいかい…?」

 唐突な私の質問にきょとんとした顔をする幼な子。

「それは、アレですかね? ひるドラてんかいをもとめられてます?」
「ひるどらてんかい…? いや…えぇと…ただ会いたいかなぁ…と」

 お得意の黒魔法でアルノルトを高い高いしている。何度見ても不思議な光景だ。

「しょうじき、なにをおもってクソバ…じゃなかったオバさんのあいてをしたのかとか、くわしいことききたいきもしますけど…」
「もぅお前『クソババァ』で統一しろよ」

 ゲイルの一言は余計だったらしく、影の鞭が彼の足に炸裂した。そして小突かれている。仲良いな。

「とくに、きょうみないんでいいです」

 わたしの『おとうさま』は『おとうさま』ひとりですからーーー



 それと聞けば、誰もが眉を顰める忌み子黒持ち。そして誰よりそれを疎んだ祖父。


 …この子は『ポーラス家』の子として生きていかせますよ、お祖父さまーーー
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