他人の人生押し付けられたけど自由に生きます

鳥類

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間話

《兄弟だからこそ伝わらない》

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  《ゲイル視点》

「あ、ナイスミドルさん、どうですかこのくわさばき! しんたいきょうか、かんぺきですよ!」
「お前が普段俺をどう呼んでるのかよく分かった」

 ぷにっぷにの頬をびよんと伸ばすと、小さな手から影を鞭のように伸ばして叩いてくるこの根性、嫌いじゃ無いがどうかと思う。

 この小さな『黒持ち』は…いつも俺の中の『常識』を木っ端微塵にしてくれるーーー






「何故…こんな事をしたんだ…」

 ノルディンの声が震えている。仲が良かったかと言われたらそこまでではなかったかもしれないが、悪いようには見えなかった。いや、ケルヴィンがそう見せていただけなのだろう。

「…ふん。兄上には何を言っても無駄でしょうよ。俺の気持ちなど…分かってたまるか!」

 本邸の地下に、ケルヴィンの怒声が響き渡った。



 ノルディンとケルヴィンは一つ違いの兄弟だ。どちらも黒髪に、濃淡の差はあれど青の瞳を持つ。顔立ちはよく似ているが、体格はケルヴィンの方がいい。
 俺とこの二人との付き合いは長い。
 元々ポーラス家の領兵として従事していた俺は、先代当主に見出してもらって騎士団へと入った頃から、いずれ二人のどちらかの護衛としてつくよう言われていたからだ。

「何故だ…? 何故あいつは…」

 口を噤んで何も喋ろうとしないケルヴィンを地下に置いたまま執務室へ戻ったノルディンは椅子に崩れるように座り込んだ。

「…確証は得られていないし、アルノルトが継承する可能性はほぼ皆無にしてある。だが、簒奪を企てた事実は消せない以上、このまま無罪放免とはいかんだろう。どうするんだ?」
「…どう…すれば…いいだろうな…」

 少し一人にしてくれ…と弱々しく告げたノルディンを残し、俺は部屋を後にした。



「…セバスチャンは知っていたのか?」
「…私は親の代からこちらにお仕えしておりますゆえ…」

 俺とあの兄弟の付き合いは長いが、どちらかと言うとケルヴィンと過ごした時間の方が多い。
 ノルディンが七つになった頃に、公爵位はヤツが相続する事が決まった。そして、ケルヴィンは兄をサポートするのと同時に、軍事の責任者として立つ事になった。
 そのため、護身のための訓練に加え、戦略についての教育を受けによく訓練棟へ顔を出していた。

 だが…ポーラス家後継のサポートと言うのが実は建前だと言う事は…ノルディンは知らなかっただろう。

 あいつらの祖父に当たる先先代は、早いうちにケルヴィンを婿に出すよう打診していた。
 当時、俺はケルヴィンを婿に出す算段をつけているなんて知らなかったが、ノルディンとフレイア嬢の婚約が決まった際…当時の団長から聞いて驚いた。

 そして、その時初めてケルヴィンが『黒持ち』だと知った。

 『先代は…『黒もち』を追い出す腹積もりなんだよ…』

 団長が囁くように落とした言葉が、やけに大きく聞こえたーーー




 後日、俺は一人でケルヴィンに会いに行き…娘が『黒』を発現した事と、ノルディンが子どもを引き取る事を伝えた。

「…なぁ。お前の娘は…これから『黒持ち』として生きていかなきゃならな…」

 俺の言葉を遮るように、地下にケルヴィンの哄笑が響き渡った。

「はははははっ! 傑作だ! そうかそうか、『黒』が生まれたか! しかも引き取っただと! さすがお優しい兄上だ! ここまで上手くいくとは思わなかった!」

 狂ったように笑いながらヤツは続けた。

「これでジジィが必死こいて隠し、排除しようとした『黒』が『ポーラス家』に戻る! ザマァみろだ!」

 …最後まで、コイツは自分の事だけで、子どもたちを顧みる事は無かったーーー






「うーん、なんでこんなべんりまほうがきらわれてるんですかねぇ?」
「便利魔法にしてんのはお前だけだからだよ」

 みなさんあたまかたすぎでは? とぼやく二歳児は…実の父親の闇を知らない。

 ーーーなぁ、ケルヴィン。お前の思惑通り、ポーラス家は『黒』を抱えた。だが…

 いつかきっと…お前が捨てたこの娘が何もかもを変える。

 『黒持ち』である事を、隠すことも、排除されることも無い世界にーーー
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