他人の人生押し付けられたけど自由に生きます

試練の多い人生を歩むらしい

何か他人の人生押し付けられたらしいよ

「ふざけんじゃないわよ！」

　失礼しまーす…と、小声で呟きながら扉を潜ると、いきなり怒声が飛んできて、驚いた拍子にドアノブから手を離してしまった。あ…と思う間もなく扉は閉じてしまう。

「また黒いわ！　また嫌な目に遭うに決まってる！　私は何も悪くないのに！　辛い人生なんて嫌よ！」

　私は楽に生きたいのよ！　と耳をつんざく程の大声に首をすくめ、とにかく逃げねばと扉を開けようとするもどうやっても開かない。うっそだろ…と思いつつ恐る恐る声の発生源へと目を向けると…

　若い女性が職員であろう黒いスーツを着た女性を締め上げていた。

　えぇぇぇどうしよう…！　とおたおたしていると急に女性の首がぐるんっ！っとこっちを向いた。その形相に思わず「ひぇっ？！」っと言った私は悪くない。
　般若かと見まごう様相でこちらを向いた女性の視線が、ふと私の手元で止まったかと思うと…次の瞬間…にたぁ…と、今度は悪意のこもった笑顔へと変貌した。

　…チビりそうになったのは仕方ない事だと思う…。

　小動物のようにぷるぷる震える私に、締め上げていた職員さんを突き飛ばした女性が突進してくる。もちろん動くことなんて出来ない。
　女性は私の手からカードをひったくると、自分の持っていた黒いカードを押し付けた。

「あははは！　白い！　これならきっと大丈夫に決まってるわ！」

　そう高笑いをしながら職員さんの物であろうデスクへと走り寄り、阻止しようと立ちはだかる職員さんを再び突き飛ばし、そこへ設置されているノートパソコン横のカードスキャナーらしき物に私のカードを差し込んだ。
　そして…

「次こそ！　次こそ幸せになってみせるわ！」

　途端、彼女の足元から白い光が噴き出し、その姿を飲み込んだ。

　光がおさまった後には…よろよろと立ち上がる職員さんと…黒いカードを手に、呆然と立ち尽くす私だけが残されていたーーー






「…あー…その…えっと…とりあえず座りませんかね…？」

　現在、先程締め上げられていた女性職員さんと、2番窓口にいた職員さん、そしてこの転生管理課の管理所長という3人の方が私の足元に土下座している。
　何だこれ。どんな状況だ…？

「この度は…！　お詫びのしようもございません…！」

　さっきからこの調子である。ほんとどうしよう…。
　とにもかくにもこのままでは話にならないので応接室的なところへと移動し、何とか対面で座ってもらう事に成功した。
　さてこっからまたどうしよう…と思っていると、憔悴しきった3人のうちの所長さんが、やっとのことで話をきりだしてくれた。

「…確かあなたは…今回が初ご臨終の方でしたね…。…あのカードは、各個人の魂の記録媒体なのです…」

　ここへきてすぐ転生について聞いたが、あのカードはその人生において魂の格や質を決めるために課された試練をどのように対処して来たか…と言うのが記録されているらしい。その内容を精査して、次の転生先とその際の器を形成するそうだ。
　この時、前回までより魂の格や質が少しでも上がるように試練が組まれるという。要は元々課される試練に、悪い事して格が下がった魂の救済措置のための試練が追加され、次の転生が前よりハードになる仕組みのようだ。

「…ここへ戻ってくると、いわゆる現世うつしよとの繋がり切れて、魂のみとなりますので…繰り返して来た生の記憶も戻るのです」

　応接台の上に置かれた黒いカードを四対の目が見つめていた。