藤枝蕗は逃げている

木村木下

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ローランさま

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 誰かに頭を撫でられているような気がする。長く冷たい指が髪の間を通り、地肌にそっと触れている。心地よい刺激で深い眠りから意識が徐々に浮かび上がる。薄目を開けると、寝台の布が白く朝日を照り返していることがわかった。朝日。
 仕事! 慌てて飛び起き、体を起こす。次いで目に飛び込んできた光景に言葉を失った。
 ローラン様だ。
 朝の柔らかな日差しを受けて、長い金髪がきらきらと光っている。彼は寝台に腰かけ微笑んで俺を見ていた。青い瞳は水分を湛え、頬の薄く白い皮膚がすぐしたの血管を赤く滲ませている。
「フキ」
 深く甘い声だ。俺は返事をするのも忘れ両手を伸ばして彼に触れた。頬、額、髪、肩、いたるところに触れて目の前にいることを確かめる。ローラン様はくすぐったそうに笑って、その切れ長の瞳から涙を一粒零した。
「フキ……」
 たまらず目の前の体に飛びつき、渾身の力でしがみつく。記憶よりもずっと大きく、逞しくなった体が危なげなく俺の体重を受け止めた。背中に大きな手がぐっと押し付けられる感触がする。骨がきしむほど強く抱きしめられたが、足りないほどだった。
「ローランさま、ローランさま」
「うん、フキ」
「会いたかった、すごく、一人にしてごめんなさい」
 言いながら、がむしゃらに彼へ口づける。ローラン様の体が一瞬緊張し、息を呑む気配がしたがすぐに口づけを返される。彼は唇を大きく開き、貪るように俺の口を覆った。分厚い舌が唇も顎もお構いなしに皮膚を舐める。同じだけのものを返そうと俺は両手でローラン様の頭を掻き抱いた。指の間を絹のような金髪が流れていく。
 どちらからともなく、俺たちは自然に互いの服を脱がせあった。ローラン様の手が服の裾から素肌を撫で、俺は半ば無理やり胸元を寛げて彼の肩を露にする。ローラン様の太ももに尻を置き、乗り上げていた体を持ち上げるようにして寝台へ倒される。導かれるまま、俺は腰を上げて彼が足から衣を引き抜くのを手伝った。
 よくよく考えれば、俺は男同士で抱き合う方法などさっぱりわからない。正直、女相手にも怪しい。しかし心があまりにも逸れば体も伴うものなのかローラン様の手が性器を逆手に掴み扱き上げれば、俺は喉を逸らして快感に喘いだし、ぬめりを帯びたその手が尻のあわいに潜り、穴へと指を這わせても全く嫌ではなかった。どころか寝台に足裏をつけ、膝を大きく割り開いた格好で指を迎え入れるように腰を揺らしさえした。
 触れた肌同士から、ローラン様の鼓動が伝わってくる。彼はいま何歳なのだろうか? 十六歳の幼さはすっかりと消え、肌の陰影、髪の質感、まなざしの温度にさえ男としての魅力が満ちている。整った骨格の上に順序よくうっすら載せられた筋肉は内側から張りつめたように生き生きとし、興奮のせいか寝台に着く両腕にはところどころ太い血管が浮かび上がりさえしている。金色の下生えからのぞく性器は肌の色と比べて赤く立派に屹立していた。根元など、俺が指を回して親指と人差し指が触れ合うかどうか不安なほどに大きい。先端のくびれはぐっと開いて隆起し、恐ろしささえ感じるほどだった。
「あまり見ないで。恥ずかしいから」
 ローラン様がふ、と唇から笑い声を漏らす。俺は急に恥ずかしくなって、顔どころか肩まで赤く熱を持つのを感じた。小刻みに頷きながら目を閉じると、尻に差し入れられたローラン様の指が如実に感じられた。三本の指がそろって中の壁を削ぐように、かと思えばもみほぐすように動いている。彼に触れられていると思うと、どこもかしこも頭がおかしくなりそうなほど良かった。目頭も目尻もあふれる涙でぐしょぐしょにしながら必死にローラン様の首にすがりつく。
 どうすればもっと触れ合えるのだろうと必死に考え、両手を足の間に伸ばしローラン様の指に添えるようにして自身の指を尻へもぐりこませる。中に入れ込んだ両手の中指で、穴を左右に割り開けばぐち、と音がなり湯気が出そうなほど熱くなった内壁と銜え込んだローラン様の指との間を外気が冷やすのを感じた。
「い、いれてください、ローラン様、どうか、いれて、情けをおかけください」
 あまりにも興奮しているせいか耳元で音が反響して、水の中にいるようだった。ローラン様が返事もなく性器の根元を持って切っ先を穴へと突き立てる。尻を割り開いていた指の背と爪の表面を性器が掠った感覚がして、次の瞬間、全身を水面にたたきつけられたような激しい快感が体を支配した。ローラン様の両手が腰を掴み、パンパンと乾いた音を立てて彼の腰と俺の尻がぶつかり合う。うまく呼吸ができず、俺は両手でローラン様の背中に縋った。ぐっと握りこんだ拳の間に、彼の髪を巻き込んでしまうのを感じる。
「フキ、ああ、私が、私がどんなにお前に会いたかったか、お前、ひどい、私をこんな目に合わせて、ひどいだろう」
 顔のすぐ横に両肘をついて、鼻先が触れ合ってしまいそうな位置でローラン様が俺を詰まる。腹の中を熱く滾った性器でかき回され俺はわけもわからず謝った。ごめんなさい、お願い、ゆるして、なんでもします、あなたを愛してる、ローラン様と手を繋いだまま殆ど絶叫して伝える。隣のやつは職場で寝ている頃だろうか? もし部屋にいるなら、殺人事件でも起こっているのかと思われそうな声だった。
 ひと際強く腰を打ち付けられ、ローラン様の体重で体を押しつぶされる。快感と圧迫感が襲いかかり、俺は息の仕方も忘れて喘いだ。火傷しそうなほどに熱い精液が勢いよく内側の肉に叩きつけられるのを感じる。ローラン様はちょっとの隙間もないほど性器を押し込み精を出し切ると、最後の仕上げのようにゆるゆると腰を揺らした。
 汚れた体のまま、二人で呼吸を整える。全身を覆う汗が冷え始める頃、ローラン様が性器を引き抜き、手のひらで俺の頭を撫でた。乱れていた前髪が、目にかからないよう払いのけてくれる。
 結局、その日の仕事は休んだ。昼頃に心配した上司が様子を見に来てくれたが、代わりにローラン様が顔を出すと腰を抜かしそうに驚いて去っていった。弾けるように笑いながら、ローラン様がドアを閉めて寝台へ戻ってくる。明日どんな顔をして出勤すればいいのかと考えると、思わず眉根が寄った。
「おや、怒っているの?」
 ローラン様が面白そうに聞く。彼は自分が被せてくれたシーツをひっぱって俺の肌を露にすると、咎めるように乳頭を指ではじいた。特にそこが性感帯だと感じたことはなかったはずなのに、体が馬鹿になってなにをされても気持ちいいせいでおおげさにびくついてしまう。
「お、怒ってない」
「そう? 怖い顔をしていたけど」
「怒ってません、怒ってないから」
 弾いたりつねったり、果てには親指と人差し指でしっかりと摘まみ、捻るようにして伸ばされ俺はなぜか謝りだしてしまった。ごめんなさい、ゆるして、のびちゃう、戻らなくなったら困る、もうしないから。そんな風に哀願すると、ローラン様はやっと乳首から手を放した。性器はくったりとしおれたままだが、尻の奥が小刻みに痙攣している。制御不能の涙がぼろぼろと頬を流れた。
 大の男を泣かせるほどの意地悪をしておいて、ローラン様は甲斐甲斐しく俺の世話をした。濡れた布で体を隅々まで拭き清めると、どこから持ってきたのか清潔な衣を着つけてくださる。身支度が終わると、彼は俺の腰を抱いて「私の部屋へ行こう」と言った。
「洗濯係さん、仕事は今日でおしまいにして。明日からは私の傍にいて」
 頷こうとして、現場の惨状を思い出し躊躇う。ローラン様に流行りの熱病で業務が滞っている、と伝えると彼は明るく笑った。
「なんだ。そんなの騎士にでも手伝わせればいい。大勢いるし、どうせ暇をしてるよ」
 との言葉通り、翌日からは年若の騎士たちが入れ替わりで洗濯係の業務を手伝うことになったらしいと、汚れ物を回収に来た同僚から教えてもらう。そうか。なら辞めても良いのかもしれない。部屋の奥で本を読みながら話を聞いていたローラン様がにっこりと微笑んだ。
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