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敵か?味方か?
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「あなたがそんな人だとは思いませんでした。見損ないましたよ」
目の前の男から告げられた言葉が突き刺さる。
「俺は…」
反論しようと口を開くが
「言い訳は聞きたくありません。あなたには失望しました」
そう告げられた言葉は深く俺を抉っていく。冷たい眼差しと軽蔑したと言わんばかりの顔。
「待ってくれ、俺の話を…」
話だけでも聞いてくれ、そう言いたかった。
「聞きたくありません。顔も見たくないです」
そう言い残し男は部屋を出ていった。それは最も味方だと思っていた男に見捨てられたということで、俺はこの学園のすべての人間の敵となった。
「はっ、俺にはお似合いか…」
自分で呟いた言葉が胸を抉り切り裂いていく。
「泣くものか、まだ、この場所では泣くものか」
俺は自分に言い聞かせ、目の前にある書類を片付けることに専念した。
溜まっていた仕事を片付け、俺は辞職願を書き上げ、それを持って部屋を出た。これですべてが終わる…。
目的の部屋の前に来て深呼吸をして扉をノックして返事を聞かずに扉を開ければ、部屋の中にいたヤツらが全員、俺の方を見た。
流石に圧が違いすぎる。少し怖いな。
「何の用だ?」
中央の、この部屋の長の席に座っている男が聞いてくるから、俺は無言で持って来ていた届けを男の目の前に置いた。それを見て顔色どころか表情すらも変えぬ男。
「おい、会長様は辞職してぇみてぇだぞ」
男が部屋の中にいる奴らに声をかければ
「マジっすか?」
「やったぁ!!!」
「いいっすねぇ!!」
なんて、歓喜の声が上がった。その声が余計に俺の胸に突き刺さる。
やっぱり俺はどこへ行っても嫌われ者なんだな…。味方なんて誰もいないんだ。
こんなところで泣くな自分。
俺は唇を噛み締めこの部屋から逃げようと踵を返したその瞬間、
「おい、待てや」
男が俺を引き留める。それを無視して出ていこうとすれば腕を掴まれ引き寄せられその衝撃で俺は男の腕の中に倒れこんだ。
一瞬何が起こってるのかわからなかった俺は動けずに固まっていた。
「今までご苦労さん。よく頑張ったな」
その言葉を聞きずっと我慢していた俺の涙腺が崩壊した。声を殺して泣く俺を、何も言わず自分の腕の中に抱きしめ優しい手つきで頭を撫でていく。俺は一時の気の迷いでも優しくしてくれるこの男に抱き着き大泣きをした。
ひとしきり泣いて、落ち着きを取り戻した俺は大勢の前で大泣きしたことが急に恥ずかしくなった。しかも、俺を嫌っているであろう男の腕の中で…。
「落ち着いたか?」
その言葉に小さく頷けば
「ほんじゃ、そこ座れや」
話があるから座れとソファに座らされた。そして、俺の前にドカリと座り
「おい、タオルと茶」
部屋の中にいる奴にそう声をかければ
「これを使ってください。後、熱いので気を付けて」
本当にタオルとお茶が俺の前に置かれた。意味が分からなくてポカーンって目の前の男を見てれば
「泣いてヒデェつらしてるから、取り合えずタオルで拭け」
そう言われて、俺は慌てて出してもらったタオルで顔を拭いた。そのタオルはお湯で濡らしてくれていたのかほんのり暖かくて、石鹸のいい香りがした。
顔を拭きながらマジマジと目の前の男を見れば
「多分、まぁ、色々とお前は勘違いしてると思うから訂正させてもらうが、さっきこいつらが歓喜の声を上げたのはお前を会長職から解放してやれるからだ。お前が憎くて、嫌いだからじゃねぇ。一人で、一生懸命に頑張ってるお前を解放してやれるから喜んだんだ」
さっき俺が辞職をすると聞いて喜んだのは俺がいなくなるのを喜んだわけじゃないと説明してくれる。
「嘘、だろ?」
意外な言葉に驚いた。
だって…今までお前たちは俺にかかわらなかったじゃないか…
「まぁ、驚くわな。俺たちがお前にかかわらなかったのは、まだあの男がお前の傍にいたからだ。副会長であるあの男がな。だが、結局あの男も他のヤツと同じだったわけだ」
俺にかかわらなった理由を聞いて驚く。あの男がいたから手出ししなかったと…。俺が完全に孤立したから手を出したという。
「いつから?」
そんな素振りなんて、ずっとなかったんだ。この男もだし、他のヤツらも…。
「ん?最初っからだな。俺とお前が仲が悪いと誰もが思ってるからそれを利用させてもらった。別に俺が深くかかわってないだけで、嫌いだとか思ってねぇんだけどな。てか、不良みてぇななりした俺がお前にかかわると困るだろ」
なんて、苦笑しながら言われた。俺を守るために敢えてかかわらなかったんだと…
「…っ…もぉ…信じ…らんねぇ…」
せっかく止まってた涙が溢れだす。この男がまさかこんなことを考えて行動してくれていたことに驚きが隠せれない。
「あーあ、委員長ダメじゃないですか、泣かせたら」
「そうですよぉ、委員長、普段から怖い顔つきしてんだから」
「そうだそうだ」
泣き出した俺を見て他のヤツらがそんなことを言い出す。
「うるせぇ、お前らも同罪だろうが」
呆れながらも反論してる男に小さな笑みが浮かぶ。部下とのやり取りを楽しんでるようだった。
「あー、悪い」
タオルで半分顔を隠したままで謝れば
「イヤ、大丈夫だ。で、話を続けてもいいか?」
反対に聞かれて俺は頷く。
「この辞職願は受理して、関係者たちには伝えておく。勿論、あのバカどもにもな」
俺の出した届けを見せながら説明されて俺は頷いた。
「でだ、お前は姿を隠すためにこの場所こい。寮の部屋も変えた方がいい。と思ってるんだが、お前自身どうしたい?」
それは決定ではなく相談だと言ってくれることに驚いた。
「俺がいて迷惑じゃないのか?」
俺的にはそっちの方が気がかりだった。
「イヤ、迷惑だったら最初っからこの部屋でこんな話はしねぇよ。あいつらと一緒で見捨てるぞ俺は」
あっさりと言われる。
「そうですよ会長。委員長は悪魔ですからね」
「容赦ないですよぉ」
「暴力行為を受けていようが、どうしようが、放置ですよ」
「うん、助けいねぇこの人」
なんてヒドイ言葉をポンポンと投げてくるあたり流石だな。
「お前ら全員後で〆るからな」
その言葉に部屋の中の全員の悲鳴が上がった。
「会長、委員長の言葉ではありませんが、その身を隠した方が安全です。あいつらがよからぬことを企ててる情報を掴んでるんです」
いつの間にか、委員長である男の隣に座っていた副委員長が教えてくれる。
「えっ?いつの間に?」
俺的にはそっちのが驚きだったりする。
「先ほどからずっと。泣いてらしたので気付かなかっただけですよ」
なんてにっこりと笑うけど、それ以上は追及するなという圧がすごい。
「えっと、俺が普通にここにいたらバレるんじゃないのか?」
そっちも気になった。
「ん?あぁ、大丈夫だ、ちょっとばかりお前には変装してもらうからな」
なんてにっこりと目の前の男が笑う。なんだか、身の危険が…
「えっ?マジで?」
驚いて聞き返せば
「幸やってやれ」
なんて言いながら俺を指さす。その言葉を聞き、どこから現れたのか色んな道具を持った男が現れた。
「少しだけ我慢してくれ」
一言だけ言うと、幸と呼ばれた男は俺の顔を色々といじくり始めた。
「相変わらず手際がいい。頼りがいのある男だな幸は」
「えぇ、本当に。これも会長を守るためには必要ですからね」
俺が色々といじられてる間に委員長と副委員長がなんだか談笑してる。それは俺の耳にもしっかりと聞こえてるわけで、この部屋の連中が本当に俺のことを守る気でいるんだと知った。
「これでどうだ」
そう言いながら差し出された鏡に映った自分の顔を見てびっくりした。
「誰?」
まさに誰?これ俺じゃない。髪型から何からなんか違う男が鏡に映し出されていた。
「ひゅ~♪流石だな。誰かわからねぇ」
「えぇ、本当に。その顔も似合ってますよ会長」
俺の顔を見てそんなことを言う二人と周りにいたヤツらがうんうんと頷いている。
なんだか恥ずかしんだけど…。
「毎朝、この顔になるように俺がいじってやるからな」
荷物を片付けながら言われて
「あ…お願いします」
って素直にお礼を言ってしまった。
「さて、じゃぁ、お前の部屋をどうするか考えるか」
その言葉にさっき部屋を変えた方がいいと言われたのを思い出した。
「でも、荷物を移動したらバレるんじゃ?」
俺の荷物がなかったら逃げたってバレるんじゃないだろうか?
「イヤ、お前だけがいなくなるんだ。荷物はそのままだ。勿論、着替えは持ち出すけどな」
ニヤリと笑うその顔はまさに悪魔。
「そうですね、それのあの部屋はちょっと細工したいですしね」
なんて、隣の副も同じ悪魔な顔だった。
ここのトップ二人は揃って悪魔なんじゃないだろうか?
なんて思ったのは許してくれ。
「間違いじゃねぇぞ。俺もこいつも悪魔だ。敵だとみなした奴はトコトン叩きのめすぞ」
俺の心を読んだのかこの男は!
「冗談はいいとして、会長はどうしたいですか?バレるわけにはいかないので、誰かの部屋に身を隠すことになりますが…」
副委員長の言葉に悩んだ。真剣に悩んだんだ。今の俺はこの学園から敵だと思われてる男だ。そんな男を快く引き受けてくれる奴なんていないだろう。それ以前にそうやって受けてくれるような友人もいないんだが…。
「提案としては委員長の所か俺の所かそれとも他のヤツの所かになりますが…。どれを選択しますか?」
悩んでる俺に副委員長がそう提案をしてくれるがますます悩む。
「俺たちの意見はねぇ、会長。委員長の所がいいと思いま~す」
「副委員長よりも委員長の方が誰も想像しないと思う」
「会長と犬猿の仲だと思われてる委員長の所にまさかいるわけないって思うよぉ」
なんて、他のヤツらが言い出す。俺はジッと二人を見た。
「会長の好きなようにしてくれていいんですよ?」
あくまでも選択権は俺にあると言ってくれる。それでも決めかねて一人でずっと悩んでいたら
「俺のとこに来るか?」
突然そんな言葉を投げられて驚いて見たら苦笑を浮かべながら
「そこまで悩むなら俺の部屋に来るか?どうせ隣の部屋だし、荷物だって好きな時に取りに行けるからな」
提案をしてくれる。確かに委員長とは部屋が隣だから、行き来はしやすい。だから俺は小さく頷いた。
「まぁ、悪魔に喰われないように気を付けてくださいね」
なんて副委員長が笑いながらそんなことを言うもんだからビックリして俺は固まった。
「平塚、俺はそこまで節操なしじゃねぇ。あのバカどもと一緒にするな」
平然と返事をしてる委員長の言葉にも驚いた。
「話を戻すぞ、お前には悪いんだが、しばらく授業は出なくていい。これに関しては生徒会と風紀の顧問にちゃんと理由も話してあるし、許可もとってある。あいつらを全員まとめて片付けるために一芝居うつからな」
「そうですね。会長、部屋に戻ったらでいいので、汚されては困るものだけ教えてください。それだけは片づけてもらいたいので」
この2人は一体どんなことをしようとしてるんだろか?って俺は真剣に悩んだ。
「多分、そんなにないと思うけど…汚すってなんだよ」
俺はそこだけは確認したかった。
「ん?あぁ、ちょっとお前の部屋に血のりをぶちまける。部屋で自殺を図ったって見せるためにな」
なんて言われた言葉にクラリと眩暈がした。
「そこまでする必要があるのか?」
この男たちが何を考えてるのかわからないから余計にそう思った。
「あるんだよ。あいつらを追い込むためにな。正確に言うならこの学園中のやつらを追い込むためにな」
ニヤリと笑う顔は悪魔そのもの。敵に回したらダメなやつだ。
「夜中に計画を実行するからお前は一度、自分の部屋に帰れ。時間になったら連絡する」
ちゃんとした計画も教えてもらえぬまま俺は帰れと言われてしまった。
「会長、今はまだ、俺たちはあなたにかかわらない組織です。だから、今はこの部屋を普通に出ていってください。あのバカたちを欺くために」
委員長の言葉を付け足すように副委員長が告げてくる。
「わかった…」
俺はこの部屋の連中を信じようと決めて、言われたとおりに帰ることにした。味方だと思っていた男に裏切られて傷付いたままの俺を演じながら、傷心のまま部屋に戻ろう。あっ、勿論、弄られた顔は元の俺に戻ってからな。
部屋に戻って、副委員長が言っていた汚れてはダメなものを机の中やタンスの中に全部隠した。そして、着替えをカバンの中に詰め込んで、持っていきたい物も一緒にカバンに入れた。次にこの部屋をでたら、全てが終わるまで戻らないと自分の中で勝手に決め込んで…。
委員長から連絡が来たのは11時を少し回った頃だった。扉を開ければ委員長と副委員長。そして数人の委員のやつら。
「汚れても大丈夫にしてあるから好きにやってくれ。あと、全部終わるまで、この部屋に戻らないつもりだから…」
俺がハッキリと言い切ると、みんな少し驚いた顔をしたけど
「お前がそれでいいなら俺たちは止めねぇよ」
とあっさりと承諾してくれた。この男たちはあくまでも俺に選択肢があると言ってくれる。
「じゃぁ、会長は委員長の部屋に隠れてください。やるよみんな」
副会長の言葉に小さく頷いてみんなが中へ入っていく。俺は隣の部屋に押し込まれた。隠れるためになんだけどさ…。
15分ぐらいして、委員長の部屋にみんなが戻ってきた。
「取り敢えず、会長の部屋の中こんな感じね」
副委員長が何枚かの写真を見せてくれた。そこは本当にヒドイぐらいに赤く染まっていた。まるで、本当に自棄を起こして自殺を図ったって思えるぐらいには酷い状態だった。
「この惨状を見るのはいつになるのか。まぁ、見てからが楽しみだなぁ」
なんていう男の顔は笑ってるけど目が笑ってない。メッチャ怖いんですが!!
「でだ、お前はしばらく変装をして、F組の境谷の元にいろ。F組の連中には訳を話してあるし、日中はあそこであいつらと一緒に授業を受けて、放課後は俺たちの所へ来い。境谷が風紀までは連れて来てくれるからな」
「会長を隠すためにF組には協力してもらうように頼んだんですよ。委員長自らがね。それだけ委員長は会長のことをちゃんと見てたってことなんですけどね」
2人の言葉に俺は何度目かわからないが、驚いた。今日は本当にこの男たちに驚かされてばかりだ。
「ほいじゃ、会長さんを休ませねぇといけねぇから今日は解散だ。また明日にでも話すぞ」
男のこの言葉で副委員長ほか数人の委員たちは何事もなかったように帰って行った。
「で、お前はベッドを使え。俺ぁ床でも大丈夫だからな。着替えも、この場所にしまって大丈夫だ」
残された俺は寝室に押し込まれ、あれよあれよと説明をされベッドの中へと押し込まれた。布団の中に横になるとあっという間に俺は微睡の中へと誘われて、男と会話をすることもなく眠ってしまったんだ。
朝、目が覚めてここが何処だか本当にわからなかった。が、シーツが自分の使っているそれと違うのを見て昨日のことを思い出した。身体を起こして部屋の中を見渡すが、この部屋の住人がいない。ベッドから降りて部屋の扉を開ければ
「おぅ、起きたか。ゆっくり眠れたか?」
なんて俺に声をかけてくるから、俺は頷いた。が、違和感でしかない。俺に声をかけてくる男の手にはフライパンがしっかりと握られていたからだ。
「飯は食えるか?」
なんて平気で聞いてくるこの男は俺の世話でもする気なんだろうか?
「いや、朝はあんまり食べたくないんだが…でも食べる」
朝はそこまで食べないんだが、食欲を誘う香りに我慢できなかったんだ。
「じゃぁ、そこ座れ。あいつらが準備しに来る前に食えよ」
といって目の前に置かれたのはワンプレート。野菜サラダにポーチドエッグ、カリカリのベーコン。ライ麦パンまで乗ってる。
まてまて、これはどこをどう突っ込んでいいんだ?男子高校生が作る料理じゃないだろ?
なんて思いながらも俺は出してもらった朝食を食べ始めた。しかも、俺が食べれるぐらいの丁度いい量だった。
「ご馳走さまでした。美味しかった」
手を合わせて言えば、ことりとコーヒーの入ったカップが置かれた。
「お前、起きるのがはえぇから時間が余ってんだ。それ飲んでのんびりしてろ。時間になればあいつらが来るからな」
驚いて見上げた俺に説明をして、食べ終えた食器を片付けに行った。
あいつ、本当に俺の世話をする気なんじゃないだろうか?
なんて、悩みながら俺は目の前に置かれたカップを取りコーヒーを一口飲んだ。口の中に広がるほろ苦い味。自然と眉間に皺が寄った。
「甘い方がよかったか?」
なんて聞かれて俺はついうっかりコクリと頷いた。
「わりぃ、お前の好みは把握してねぇからな。ほら、砂糖とクリームだ」
小さく笑いながらもすぐに差し出された砂糖とクリームに驚く。が、俺は自分が普通に飲めるぐらいの味にした。といっても砂糖2杯とクリーム少しだぞ?あ…でも甘党に分類されるか俺…
「あー、そうだ。これ、お前の弁当。F組のやつらは食堂に来ねぇからな。持ってけ」
ことりと置かれたモノに驚いた。
「えーっ、弁当まで作れるのかよ!」
本当にそれが驚きでしかない。
「あー、こんななりしてるけどな。家にいた頃は俺が飯当番だったからな。一通りできるぞ」
なんて爆弾発言にこれまたビックリした。
「そろそろ来るか」
俺が驚いてる間に、幸と呼ばれた人物と副委員長が来た。
「会長、先に顔とか洗ってきてください」
って、副委員長に言われて俺は急いで顔を洗って歯を磨いた。タオルで顔を拭きながら戻ってくればもう一人、強面な男がいた。
「誰?」
わからなくてそう呟いたのは許せ。
「あー、そういやぁ、初対面だな。昨日、言ってたF組のトップの境谷だ。しばらく、こいつと一緒に行動してくれ」
俺の呟きに委員長が教えてくれる。本当にF組の連中とは会ったことがないのだ。
「えっと、お願いします」
だから俺は境谷に向かって頭を下げた。
「なぁ、桐、お前に聞いてたよりちっせぇなぁこいつ」
俺を見て委員長である桐詠にそんなことを言う。
「ちっせぇんじゃなくて、細すぎるんだよ。だから、あんまF組で無理させんなよ」
これは怒っていいやつなんだろうか?って考えてるうちに俺は幸に捕まり顔をいじくり倒された。
「ほら、完成だ。着替えて来い」
なんて言いながら背中を押された。
「えっ?ちょ…」
なんでって思って顔だけ後ろを向いたら
「境谷と行動するんだ。俺たちとじゃねぇからな」
桐詠に言われて、あぁ、そうかって納得して素直に着替えに行った。
着替えて戻ってくれば
「弁当を忘れんなよ。放課後に風紀でな」
桐詠たちが俺を境谷と一緒に送り出してくれた。なんだかそれが恥ずかしかったけど、ちょっと嬉しかった。
side 桐詠
会長であるあいつが学校を休みだして(表向きはだが…)1週間、2週間と経ちようやく担任がホームルーム中に
「紗羽のことを知らないか?」
俺たちクラスメイトに向けて声をかけてきた。
「さぁ、いないのならいないんでしょう?」
「だって会長も辞めたらしいしぃ」
「逃げたんじゃないのぉ?」
なんて笑いながら答えるのは生徒会役員たち。あいつを陥れたやつら。
「お前たち、役員で一緒だったんだろ?何か聞いてないのか?」
担任があいつらに聞くが
「知りませんよ。我々には関係ないことです」
「そうだそうだ」
「いなくなってみんなが喜んでるんじゃない」
なんて、心ともないことを平然と言う。
「っ、桐詠お前はどうなんだ?」
今度は俺に聞いてくる。
「委員長が知ってたら怖いってぇ先生」
「彼は会長とは犬猿の仲と言われてたんですからね」
「ホント本当」
俺が答える前にバカにしたような言葉を吐く。
「わりぃな、先生。俺も知らねぇよ。普段から紗羽とは会ってねぇからいつからいねぇのか知らねぇわ」
俺は嘘をつく。本当は全部知ってはいるが、ここで言うわけにはいかねぇからな。
「そうか、わかった。桐詠、後で紗羽の部屋に行こう。お前たち役員もだ」
担任の言葉に役員たちが不満気に声を上げるが、担任の強い口調であいつらは渋々といった感じで返事をした。
ニヤリと自分の口元が上がったのを感じながらも窓の外へと視線を逸らした。後ろの席で小さく肩を揺らす平塚の姿が目の端に映ったがきっと、ヤツの俺と同じとを考えてただろう。
放課後、担任を連れて俺と平塚が生徒会役員と一緒に顧問2人を同伴で紗羽の部屋へと来た。
「ほんじゃ、開けんぞ」
俺は一言声をかけて、あいつの部屋の鍵を開けた。そして、扉を開けた。部屋の中へどかどかと入っていく担任と役員たち。俺と平塚と顧問2人は部屋の外で待機していた。
「なっ、なんだこれは!!!」
「うわぁぁ!!」
「いやぁ!!」
「なにこれぇ!!」
部屋の外にまで聞こえる悲鳴が部屋の中から上がった。
「悪趣味だよなお前ら」
「本当にな」
顧問2人が俺たちに小声で言う。部屋の中の惨状を顧問2人は知っているからだ。
「あいつらを陥れるのはなぁ。トコトンやらねぇと」
「本当はもっと酷くする予定だったんですよ。後片付けのことも考えてあれで我慢したんですから」
2人でニヤリと笑って答えれば
「た、大変だ、部屋の中が…」
担任が慌てて出てくる。
「どうしたんすかぁ?」
俺がのんびり答えれば
「へ、部屋の中が、血、血だらけで、紗羽が、いないんだ」
息絶え絶えに説明してくれる。俺と平塚は顔を見合わせ部屋の中へと入る。
「こりゃぁ、ヒデェなぁ」
「もぅ、紗羽会長はこの世にいないかもしれないですねぇ」
部屋の中に入れば役員たちが青褪めて腰を抜かしていた。それに追い打ちをかけるように俺と平塚が言えば、役員どもの顔がますます青褪めていく。いや、青褪めるというよりも、蒼白になっていった。
「そんな、まさか」
「うそだよね?」
「そんなはず…」
ボソボソと呟く3人をしり目に
「この部屋の惨状が答えなんじゃねぇのか?現にあいつはどこにもいねぇんだし」
「そうですね。これは自棄を起こしてって感じですもんね」
俺たちがとどめとばかりに言えば
「委員長、副委員長、ご報告が…」
切羽詰まった感じで平委員が声をかけてくる。
「んー?どうしたぁ?」
だからのんびりと返事をすれば
「実は…学園の裏庭で…紗羽会長のご遺体が…」
役員たちに聞こえるようにわざと告げてくる。
「だそうだぞ。平塚、行くぞ」
その場に崩れ落ちた3人をそのままにして平塚と一緒に部屋を出た。
「悪趣味だな」
「本当にな」
ボソボソと顧問2人が言ってやがる。そんな2人に鼻で笑えば
「確認に行くのか?」
「お前たちだけでいいのか?」
2人が急に真面目に声をかけてくる。
「まぁ、風紀の仕事なんで、行くしかないっしょ」
「そうですね。最後の挨拶をしないと…」
俺と平塚で返事をして、その場を離れようとした瞬間に
「いやぁぁ」
「うそだぁ」
「かいちょぉぉ」
部屋の中からそんな叫び声が聞こえた。
「マジで、悪趣味だなお前ら…」
「本当によくこんなことを思いつくもんだ…」
風紀委員室でドカリと自分の机の椅子に座って部屋の隅の方で色々といじられている紗羽を見ていたら顧問2人が呆れながらそんなことを言ってくる。
「それに賛同したのはあんたたちだし。あいつはあいつで楽しんでたぜ?」
会長を除く役員たちは紗羽を陥れ、会長の椅子から引きずり下ろすために、あることないこと嘘ばかりつき、学園中の敵とさせた。副会長が最後まで残っていたのは紗羽が警戒しないため。紗羽が最後まで自分が味方だと思い込ませるため。傷つけるだけ傷付けてポイッと捨てた。用なしだと言わんばかりに…。
死体役をさせたら紗羽は生き生きとしてやる!と即答だった。まぁ、結果的に、誰にも疑われることもなく、紗羽が自殺をしたと思い込ませることができた。
信頼していた仲間から心ともない言葉を投げかけられ傷付き、自害したと見せかけてあいつらを追い込んだ。自分たちがいかに愚かなことをしたのかというのをわからせるために。
そして、役員全員と紗羽を敵だと思い込んだ学園中の連中に引導を渡してやったというわけだ。
犬猿の仲だと思われていた俺が平然とこんなことをやってのけたもんだから誰もが驚いてた。
もっとも、ちゃんと生きてるというのはあいつらの前で証明したが、それなりのダメージは喰らってたな。それが目的だったからいいんだがな。
「で、紗羽は本当に会長には戻らないんだな?」
生徒会顧問の言葉に
「みてぇだぞ。ってかそれは俺じゃなくて本人に聞けや」
俺はそう返事をしつつ傍にいる平塚に目配せすればいじられてる紗羽を呼んできた。
「なんだよ」
色々と元の顔に戻してもらってる最中だからちょっと不満げだ。
「会長に戻らねぇのかだってよ」
呼んだ理由を告げれば少しだけ困った顔になる。
「俺は…」
本当に困ってんのか。
「お前の好きな方でいんじゃね?戻りてぇな戻ればいいし、戻らねぇならそれでもいい」
あくまでも決断を下すのはお前自身だと言ってやる。
「…俺が…会長に戻ったら…お前たちは…」
そこまで言って黙ってしまった。
「なぁ、平塚。俺たちが会長にかかわらなかった理由なんだけ?」
「それを聞いちゃいますか?会長がボッチじゃなかったからぁ。仲間がいたら俺たち必要ないですもんねぇ」
俺と平塚が言えば驚いた顔で見る。
そう、俺たちが深く関わらなかったのは、この男の周りには常にいろんな奴らがいたから。いろんな奴がこの男を守るように傍にいたから。俺たちがいなくてもこの男は常に笑っていたのだ。だから、俺たちは傍に寄らなかった。この男の笑顔を俺たちが曇らせないようにするために…。俺たちの存在がこいつにとって邪魔にならないようにかかわらなかっただけ。
「お前はこの学園にとって太陽な存在だったんだよ。だから俺たちはかかわらなかった。太陽を蝕む闇はいらねぇからな。だけど、決して俺たちはお前を嫌ってたわけじゃねぇ。いつでも手助けができるようには動いてた。ただそれだけだ」
「トップ2人が揃いも揃って悪魔ってだけでも負い目ですからねぇ。いくら秩序を守る組織だとしてもね」
こんなことがなければ俺たちは決して交わることがなかった組織。生徒会は生徒会の風紀は風紀のそれぞれの役割があるからな。
「っ、こんのバカ!!」
そんな言葉と共に俺は紗羽に平手をされた。
「いてぇよ」
紗羽の意外な行動に部屋の中にいたヤツら全員が固まった。まぁ、俺に平手をしてる時点でみんなが青褪めるからな。俺が怒るだろうって…。紗羽がやられるって…。
「っ、んで、そんな、こと、っ」
そう言いながらだんだんと俯いていく紗羽。下手したら泣くかもなぁ、なんて暢気に思った。
「じゃぁ、お前はどうしてぇんだよ」
その返答次第では俺たちの意見は変わる。そういう意味で聞き返せば
「今更その手を振り解くのかよ!ここまで俺にしといて、今更なかったことにするのかよ!」
ギロッて睨みながら告げてくるけどその瞳には薄っすらと膜が張ってやがった。
「じゃぁ、お前はどうしてぇんだ。どうして欲しんだ?」
それを俺たちに示せ。そうすれば返事はくれてやる。
「うーっ、桐詠のバカぁ」
なんて言いながら首に抱き着いてきた。
「今度はバカかよ」
溜め息交じりにその身体を抱きしめてやれば
「桐詠も平塚も風紀もみんなバカだ。俺は…お前たちの優しさがねぇと無理だ…」
ズビズビ言いながらそんなことを告げてくる。
「おい、ヒデェいいようだな。じゃぁ、どうすんだ?」
あやす様に背中を撫でてやれば
「っ、これからも俺を守れよ、会長であるこの俺を、陰でじゃなくて、傍で守れよ…頼むから…」
最後は消え入りそうな声で告げてきた。
「だそうだぞ、お前たちはどうする?」
紗羽の言葉にどう返事をするか風紀の連中に聞けば
「俺たちの答えは委員長であるあなたの一存で決まります。ご判断をどうぞ」
平塚の言葉に部屋にいる奴らがうんうんと頷く。しょうがねぇなぁ。
「わかったよ。お前が会長に戻るって決めたんなら俺たちはお前を守る存在になってやる」
俺が返事をすればぎゅうともっと強い力で抱き着いてきた。
「まぁ、会長の場合は委員長の飯に胃袋を掴まれたって感じですかね」
なんて平塚がそんなことを言う。
「それはあるかもな」
俺もそうかもなって思った。俺の部屋にいる間ずっと俺が3食飯作って食べさせてたからな。
結局、俺に抱き着いたまま、またしても紗羽は大泣きをした。こいつもしかして以外に泣き虫なんじゃねぇのか?ってマジで思った。
「桐詠!桐詠って!話聞けよ!」
いつも通りの日常に戻ったが、気が付けば紗羽が俺の所に通うになった。
「あーあ。結局、会長は委員長に懐きましたね」
話を聞かない俺に不満を露わにしてる紗羽を見て平塚がそんなことを言う。
「お前が変わるか?」
そんな平塚に聞いてみれば
「いいえ、馬に蹴られて死にたくないのでやめておきます」
にっこりと平塚は笑う。紗羽がここに通ってる目的を知ってるからな。
「だ~か~ら~!俺の話を聞け桐詠!」
話を聞かない俺のキレ始める紗羽。しょうがねぇなぁ。
「話は部屋でゆっくり聞いてやるから今はちゃんと会長の仕事しろ紗羽」
ぽふりと頭を撫でてやれば
「絶対だからな!」
何度もそう言って部屋を出ていった。
「とんでもない人に惚れられましたね委員長」
紗羽を見送ってから平塚が溜め息交じりに言う。
「これは予定外だったんだがな…」
俺も深く溜息をついた。
Fin
~~~あとがき~~~
仕事中にちょこっとだけ浮かんだ話を書いてたらこんなに長くなりました。これでもはしょったんです。F組で遊んでる紗羽会長も書こうかなって思ったけどさすがに長くなりすぎるんで、書きたかった部分だけを書いてもこの長さだった。そして完成させるまでに3日以上はかかった。変だなぁ??
目の前の男から告げられた言葉が突き刺さる。
「俺は…」
反論しようと口を開くが
「言い訳は聞きたくありません。あなたには失望しました」
そう告げられた言葉は深く俺を抉っていく。冷たい眼差しと軽蔑したと言わんばかりの顔。
「待ってくれ、俺の話を…」
話だけでも聞いてくれ、そう言いたかった。
「聞きたくありません。顔も見たくないです」
そう言い残し男は部屋を出ていった。それは最も味方だと思っていた男に見捨てられたということで、俺はこの学園のすべての人間の敵となった。
「はっ、俺にはお似合いか…」
自分で呟いた言葉が胸を抉り切り裂いていく。
「泣くものか、まだ、この場所では泣くものか」
俺は自分に言い聞かせ、目の前にある書類を片付けることに専念した。
溜まっていた仕事を片付け、俺は辞職願を書き上げ、それを持って部屋を出た。これですべてが終わる…。
目的の部屋の前に来て深呼吸をして扉をノックして返事を聞かずに扉を開ければ、部屋の中にいたヤツらが全員、俺の方を見た。
流石に圧が違いすぎる。少し怖いな。
「何の用だ?」
中央の、この部屋の長の席に座っている男が聞いてくるから、俺は無言で持って来ていた届けを男の目の前に置いた。それを見て顔色どころか表情すらも変えぬ男。
「おい、会長様は辞職してぇみてぇだぞ」
男が部屋の中にいる奴らに声をかければ
「マジっすか?」
「やったぁ!!!」
「いいっすねぇ!!」
なんて、歓喜の声が上がった。その声が余計に俺の胸に突き刺さる。
やっぱり俺はどこへ行っても嫌われ者なんだな…。味方なんて誰もいないんだ。
こんなところで泣くな自分。
俺は唇を噛み締めこの部屋から逃げようと踵を返したその瞬間、
「おい、待てや」
男が俺を引き留める。それを無視して出ていこうとすれば腕を掴まれ引き寄せられその衝撃で俺は男の腕の中に倒れこんだ。
一瞬何が起こってるのかわからなかった俺は動けずに固まっていた。
「今までご苦労さん。よく頑張ったな」
その言葉を聞きずっと我慢していた俺の涙腺が崩壊した。声を殺して泣く俺を、何も言わず自分の腕の中に抱きしめ優しい手つきで頭を撫でていく。俺は一時の気の迷いでも優しくしてくれるこの男に抱き着き大泣きをした。
ひとしきり泣いて、落ち着きを取り戻した俺は大勢の前で大泣きしたことが急に恥ずかしくなった。しかも、俺を嫌っているであろう男の腕の中で…。
「落ち着いたか?」
その言葉に小さく頷けば
「ほんじゃ、そこ座れや」
話があるから座れとソファに座らされた。そして、俺の前にドカリと座り
「おい、タオルと茶」
部屋の中にいる奴にそう声をかければ
「これを使ってください。後、熱いので気を付けて」
本当にタオルとお茶が俺の前に置かれた。意味が分からなくてポカーンって目の前の男を見てれば
「泣いてヒデェつらしてるから、取り合えずタオルで拭け」
そう言われて、俺は慌てて出してもらったタオルで顔を拭いた。そのタオルはお湯で濡らしてくれていたのかほんのり暖かくて、石鹸のいい香りがした。
顔を拭きながらマジマジと目の前の男を見れば
「多分、まぁ、色々とお前は勘違いしてると思うから訂正させてもらうが、さっきこいつらが歓喜の声を上げたのはお前を会長職から解放してやれるからだ。お前が憎くて、嫌いだからじゃねぇ。一人で、一生懸命に頑張ってるお前を解放してやれるから喜んだんだ」
さっき俺が辞職をすると聞いて喜んだのは俺がいなくなるのを喜んだわけじゃないと説明してくれる。
「嘘、だろ?」
意外な言葉に驚いた。
だって…今までお前たちは俺にかかわらなかったじゃないか…
「まぁ、驚くわな。俺たちがお前にかかわらなかったのは、まだあの男がお前の傍にいたからだ。副会長であるあの男がな。だが、結局あの男も他のヤツと同じだったわけだ」
俺にかかわらなった理由を聞いて驚く。あの男がいたから手出ししなかったと…。俺が完全に孤立したから手を出したという。
「いつから?」
そんな素振りなんて、ずっとなかったんだ。この男もだし、他のヤツらも…。
「ん?最初っからだな。俺とお前が仲が悪いと誰もが思ってるからそれを利用させてもらった。別に俺が深くかかわってないだけで、嫌いだとか思ってねぇんだけどな。てか、不良みてぇななりした俺がお前にかかわると困るだろ」
なんて、苦笑しながら言われた。俺を守るために敢えてかかわらなかったんだと…
「…っ…もぉ…信じ…らんねぇ…」
せっかく止まってた涙が溢れだす。この男がまさかこんなことを考えて行動してくれていたことに驚きが隠せれない。
「あーあ、委員長ダメじゃないですか、泣かせたら」
「そうですよぉ、委員長、普段から怖い顔つきしてんだから」
「そうだそうだ」
泣き出した俺を見て他のヤツらがそんなことを言い出す。
「うるせぇ、お前らも同罪だろうが」
呆れながらも反論してる男に小さな笑みが浮かぶ。部下とのやり取りを楽しんでるようだった。
「あー、悪い」
タオルで半分顔を隠したままで謝れば
「イヤ、大丈夫だ。で、話を続けてもいいか?」
反対に聞かれて俺は頷く。
「この辞職願は受理して、関係者たちには伝えておく。勿論、あのバカどもにもな」
俺の出した届けを見せながら説明されて俺は頷いた。
「でだ、お前は姿を隠すためにこの場所こい。寮の部屋も変えた方がいい。と思ってるんだが、お前自身どうしたい?」
それは決定ではなく相談だと言ってくれることに驚いた。
「俺がいて迷惑じゃないのか?」
俺的にはそっちの方が気がかりだった。
「イヤ、迷惑だったら最初っからこの部屋でこんな話はしねぇよ。あいつらと一緒で見捨てるぞ俺は」
あっさりと言われる。
「そうですよ会長。委員長は悪魔ですからね」
「容赦ないですよぉ」
「暴力行為を受けていようが、どうしようが、放置ですよ」
「うん、助けいねぇこの人」
なんてヒドイ言葉をポンポンと投げてくるあたり流石だな。
「お前ら全員後で〆るからな」
その言葉に部屋の中の全員の悲鳴が上がった。
「会長、委員長の言葉ではありませんが、その身を隠した方が安全です。あいつらがよからぬことを企ててる情報を掴んでるんです」
いつの間にか、委員長である男の隣に座っていた副委員長が教えてくれる。
「えっ?いつの間に?」
俺的にはそっちのが驚きだったりする。
「先ほどからずっと。泣いてらしたので気付かなかっただけですよ」
なんてにっこりと笑うけど、それ以上は追及するなという圧がすごい。
「えっと、俺が普通にここにいたらバレるんじゃないのか?」
そっちも気になった。
「ん?あぁ、大丈夫だ、ちょっとばかりお前には変装してもらうからな」
なんてにっこりと目の前の男が笑う。なんだか、身の危険が…
「えっ?マジで?」
驚いて聞き返せば
「幸やってやれ」
なんて言いながら俺を指さす。その言葉を聞き、どこから現れたのか色んな道具を持った男が現れた。
「少しだけ我慢してくれ」
一言だけ言うと、幸と呼ばれた男は俺の顔を色々といじくり始めた。
「相変わらず手際がいい。頼りがいのある男だな幸は」
「えぇ、本当に。これも会長を守るためには必要ですからね」
俺が色々といじられてる間に委員長と副委員長がなんだか談笑してる。それは俺の耳にもしっかりと聞こえてるわけで、この部屋の連中が本当に俺のことを守る気でいるんだと知った。
「これでどうだ」
そう言いながら差し出された鏡に映った自分の顔を見てびっくりした。
「誰?」
まさに誰?これ俺じゃない。髪型から何からなんか違う男が鏡に映し出されていた。
「ひゅ~♪流石だな。誰かわからねぇ」
「えぇ、本当に。その顔も似合ってますよ会長」
俺の顔を見てそんなことを言う二人と周りにいたヤツらがうんうんと頷いている。
なんだか恥ずかしんだけど…。
「毎朝、この顔になるように俺がいじってやるからな」
荷物を片付けながら言われて
「あ…お願いします」
って素直にお礼を言ってしまった。
「さて、じゃぁ、お前の部屋をどうするか考えるか」
その言葉にさっき部屋を変えた方がいいと言われたのを思い出した。
「でも、荷物を移動したらバレるんじゃ?」
俺の荷物がなかったら逃げたってバレるんじゃないだろうか?
「イヤ、お前だけがいなくなるんだ。荷物はそのままだ。勿論、着替えは持ち出すけどな」
ニヤリと笑うその顔はまさに悪魔。
「そうですね、それのあの部屋はちょっと細工したいですしね」
なんて、隣の副も同じ悪魔な顔だった。
ここのトップ二人は揃って悪魔なんじゃないだろうか?
なんて思ったのは許してくれ。
「間違いじゃねぇぞ。俺もこいつも悪魔だ。敵だとみなした奴はトコトン叩きのめすぞ」
俺の心を読んだのかこの男は!
「冗談はいいとして、会長はどうしたいですか?バレるわけにはいかないので、誰かの部屋に身を隠すことになりますが…」
副委員長の言葉に悩んだ。真剣に悩んだんだ。今の俺はこの学園から敵だと思われてる男だ。そんな男を快く引き受けてくれる奴なんていないだろう。それ以前にそうやって受けてくれるような友人もいないんだが…。
「提案としては委員長の所か俺の所かそれとも他のヤツの所かになりますが…。どれを選択しますか?」
悩んでる俺に副委員長がそう提案をしてくれるがますます悩む。
「俺たちの意見はねぇ、会長。委員長の所がいいと思いま~す」
「副委員長よりも委員長の方が誰も想像しないと思う」
「会長と犬猿の仲だと思われてる委員長の所にまさかいるわけないって思うよぉ」
なんて、他のヤツらが言い出す。俺はジッと二人を見た。
「会長の好きなようにしてくれていいんですよ?」
あくまでも選択権は俺にあると言ってくれる。それでも決めかねて一人でずっと悩んでいたら
「俺のとこに来るか?」
突然そんな言葉を投げられて驚いて見たら苦笑を浮かべながら
「そこまで悩むなら俺の部屋に来るか?どうせ隣の部屋だし、荷物だって好きな時に取りに行けるからな」
提案をしてくれる。確かに委員長とは部屋が隣だから、行き来はしやすい。だから俺は小さく頷いた。
「まぁ、悪魔に喰われないように気を付けてくださいね」
なんて副委員長が笑いながらそんなことを言うもんだからビックリして俺は固まった。
「平塚、俺はそこまで節操なしじゃねぇ。あのバカどもと一緒にするな」
平然と返事をしてる委員長の言葉にも驚いた。
「話を戻すぞ、お前には悪いんだが、しばらく授業は出なくていい。これに関しては生徒会と風紀の顧問にちゃんと理由も話してあるし、許可もとってある。あいつらを全員まとめて片付けるために一芝居うつからな」
「そうですね。会長、部屋に戻ったらでいいので、汚されては困るものだけ教えてください。それだけは片づけてもらいたいので」
この2人は一体どんなことをしようとしてるんだろか?って俺は真剣に悩んだ。
「多分、そんなにないと思うけど…汚すってなんだよ」
俺はそこだけは確認したかった。
「ん?あぁ、ちょっとお前の部屋に血のりをぶちまける。部屋で自殺を図ったって見せるためにな」
なんて言われた言葉にクラリと眩暈がした。
「そこまでする必要があるのか?」
この男たちが何を考えてるのかわからないから余計にそう思った。
「あるんだよ。あいつらを追い込むためにな。正確に言うならこの学園中のやつらを追い込むためにな」
ニヤリと笑う顔は悪魔そのもの。敵に回したらダメなやつだ。
「夜中に計画を実行するからお前は一度、自分の部屋に帰れ。時間になったら連絡する」
ちゃんとした計画も教えてもらえぬまま俺は帰れと言われてしまった。
「会長、今はまだ、俺たちはあなたにかかわらない組織です。だから、今はこの部屋を普通に出ていってください。あのバカたちを欺くために」
委員長の言葉を付け足すように副委員長が告げてくる。
「わかった…」
俺はこの部屋の連中を信じようと決めて、言われたとおりに帰ることにした。味方だと思っていた男に裏切られて傷付いたままの俺を演じながら、傷心のまま部屋に戻ろう。あっ、勿論、弄られた顔は元の俺に戻ってからな。
部屋に戻って、副委員長が言っていた汚れてはダメなものを机の中やタンスの中に全部隠した。そして、着替えをカバンの中に詰め込んで、持っていきたい物も一緒にカバンに入れた。次にこの部屋をでたら、全てが終わるまで戻らないと自分の中で勝手に決め込んで…。
委員長から連絡が来たのは11時を少し回った頃だった。扉を開ければ委員長と副委員長。そして数人の委員のやつら。
「汚れても大丈夫にしてあるから好きにやってくれ。あと、全部終わるまで、この部屋に戻らないつもりだから…」
俺がハッキリと言い切ると、みんな少し驚いた顔をしたけど
「お前がそれでいいなら俺たちは止めねぇよ」
とあっさりと承諾してくれた。この男たちはあくまでも俺に選択肢があると言ってくれる。
「じゃぁ、会長は委員長の部屋に隠れてください。やるよみんな」
副会長の言葉に小さく頷いてみんなが中へ入っていく。俺は隣の部屋に押し込まれた。隠れるためになんだけどさ…。
15分ぐらいして、委員長の部屋にみんなが戻ってきた。
「取り敢えず、会長の部屋の中こんな感じね」
副委員長が何枚かの写真を見せてくれた。そこは本当にヒドイぐらいに赤く染まっていた。まるで、本当に自棄を起こして自殺を図ったって思えるぐらいには酷い状態だった。
「この惨状を見るのはいつになるのか。まぁ、見てからが楽しみだなぁ」
なんていう男の顔は笑ってるけど目が笑ってない。メッチャ怖いんですが!!
「でだ、お前はしばらく変装をして、F組の境谷の元にいろ。F組の連中には訳を話してあるし、日中はあそこであいつらと一緒に授業を受けて、放課後は俺たちの所へ来い。境谷が風紀までは連れて来てくれるからな」
「会長を隠すためにF組には協力してもらうように頼んだんですよ。委員長自らがね。それだけ委員長は会長のことをちゃんと見てたってことなんですけどね」
2人の言葉に俺は何度目かわからないが、驚いた。今日は本当にこの男たちに驚かされてばかりだ。
「ほいじゃ、会長さんを休ませねぇといけねぇから今日は解散だ。また明日にでも話すぞ」
男のこの言葉で副委員長ほか数人の委員たちは何事もなかったように帰って行った。
「で、お前はベッドを使え。俺ぁ床でも大丈夫だからな。着替えも、この場所にしまって大丈夫だ」
残された俺は寝室に押し込まれ、あれよあれよと説明をされベッドの中へと押し込まれた。布団の中に横になるとあっという間に俺は微睡の中へと誘われて、男と会話をすることもなく眠ってしまったんだ。
朝、目が覚めてここが何処だか本当にわからなかった。が、シーツが自分の使っているそれと違うのを見て昨日のことを思い出した。身体を起こして部屋の中を見渡すが、この部屋の住人がいない。ベッドから降りて部屋の扉を開ければ
「おぅ、起きたか。ゆっくり眠れたか?」
なんて俺に声をかけてくるから、俺は頷いた。が、違和感でしかない。俺に声をかけてくる男の手にはフライパンがしっかりと握られていたからだ。
「飯は食えるか?」
なんて平気で聞いてくるこの男は俺の世話でもする気なんだろうか?
「いや、朝はあんまり食べたくないんだが…でも食べる」
朝はそこまで食べないんだが、食欲を誘う香りに我慢できなかったんだ。
「じゃぁ、そこ座れ。あいつらが準備しに来る前に食えよ」
といって目の前に置かれたのはワンプレート。野菜サラダにポーチドエッグ、カリカリのベーコン。ライ麦パンまで乗ってる。
まてまて、これはどこをどう突っ込んでいいんだ?男子高校生が作る料理じゃないだろ?
なんて思いながらも俺は出してもらった朝食を食べ始めた。しかも、俺が食べれるぐらいの丁度いい量だった。
「ご馳走さまでした。美味しかった」
手を合わせて言えば、ことりとコーヒーの入ったカップが置かれた。
「お前、起きるのがはえぇから時間が余ってんだ。それ飲んでのんびりしてろ。時間になればあいつらが来るからな」
驚いて見上げた俺に説明をして、食べ終えた食器を片付けに行った。
あいつ、本当に俺の世話をする気なんじゃないだろうか?
なんて、悩みながら俺は目の前に置かれたカップを取りコーヒーを一口飲んだ。口の中に広がるほろ苦い味。自然と眉間に皺が寄った。
「甘い方がよかったか?」
なんて聞かれて俺はついうっかりコクリと頷いた。
「わりぃ、お前の好みは把握してねぇからな。ほら、砂糖とクリームだ」
小さく笑いながらもすぐに差し出された砂糖とクリームに驚く。が、俺は自分が普通に飲めるぐらいの味にした。といっても砂糖2杯とクリーム少しだぞ?あ…でも甘党に分類されるか俺…
「あー、そうだ。これ、お前の弁当。F組のやつらは食堂に来ねぇからな。持ってけ」
ことりと置かれたモノに驚いた。
「えーっ、弁当まで作れるのかよ!」
本当にそれが驚きでしかない。
「あー、こんななりしてるけどな。家にいた頃は俺が飯当番だったからな。一通りできるぞ」
なんて爆弾発言にこれまたビックリした。
「そろそろ来るか」
俺が驚いてる間に、幸と呼ばれた人物と副委員長が来た。
「会長、先に顔とか洗ってきてください」
って、副委員長に言われて俺は急いで顔を洗って歯を磨いた。タオルで顔を拭きながら戻ってくればもう一人、強面な男がいた。
「誰?」
わからなくてそう呟いたのは許せ。
「あー、そういやぁ、初対面だな。昨日、言ってたF組のトップの境谷だ。しばらく、こいつと一緒に行動してくれ」
俺の呟きに委員長が教えてくれる。本当にF組の連中とは会ったことがないのだ。
「えっと、お願いします」
だから俺は境谷に向かって頭を下げた。
「なぁ、桐、お前に聞いてたよりちっせぇなぁこいつ」
俺を見て委員長である桐詠にそんなことを言う。
「ちっせぇんじゃなくて、細すぎるんだよ。だから、あんまF組で無理させんなよ」
これは怒っていいやつなんだろうか?って考えてるうちに俺は幸に捕まり顔をいじくり倒された。
「ほら、完成だ。着替えて来い」
なんて言いながら背中を押された。
「えっ?ちょ…」
なんでって思って顔だけ後ろを向いたら
「境谷と行動するんだ。俺たちとじゃねぇからな」
桐詠に言われて、あぁ、そうかって納得して素直に着替えに行った。
着替えて戻ってくれば
「弁当を忘れんなよ。放課後に風紀でな」
桐詠たちが俺を境谷と一緒に送り出してくれた。なんだかそれが恥ずかしかったけど、ちょっと嬉しかった。
side 桐詠
会長であるあいつが学校を休みだして(表向きはだが…)1週間、2週間と経ちようやく担任がホームルーム中に
「紗羽のことを知らないか?」
俺たちクラスメイトに向けて声をかけてきた。
「さぁ、いないのならいないんでしょう?」
「だって会長も辞めたらしいしぃ」
「逃げたんじゃないのぉ?」
なんて笑いながら答えるのは生徒会役員たち。あいつを陥れたやつら。
「お前たち、役員で一緒だったんだろ?何か聞いてないのか?」
担任があいつらに聞くが
「知りませんよ。我々には関係ないことです」
「そうだそうだ」
「いなくなってみんなが喜んでるんじゃない」
なんて、心ともないことを平然と言う。
「っ、桐詠お前はどうなんだ?」
今度は俺に聞いてくる。
「委員長が知ってたら怖いってぇ先生」
「彼は会長とは犬猿の仲と言われてたんですからね」
「ホント本当」
俺が答える前にバカにしたような言葉を吐く。
「わりぃな、先生。俺も知らねぇよ。普段から紗羽とは会ってねぇからいつからいねぇのか知らねぇわ」
俺は嘘をつく。本当は全部知ってはいるが、ここで言うわけにはいかねぇからな。
「そうか、わかった。桐詠、後で紗羽の部屋に行こう。お前たち役員もだ」
担任の言葉に役員たちが不満気に声を上げるが、担任の強い口調であいつらは渋々といった感じで返事をした。
ニヤリと自分の口元が上がったのを感じながらも窓の外へと視線を逸らした。後ろの席で小さく肩を揺らす平塚の姿が目の端に映ったがきっと、ヤツの俺と同じとを考えてただろう。
放課後、担任を連れて俺と平塚が生徒会役員と一緒に顧問2人を同伴で紗羽の部屋へと来た。
「ほんじゃ、開けんぞ」
俺は一言声をかけて、あいつの部屋の鍵を開けた。そして、扉を開けた。部屋の中へどかどかと入っていく担任と役員たち。俺と平塚と顧問2人は部屋の外で待機していた。
「なっ、なんだこれは!!!」
「うわぁぁ!!」
「いやぁ!!」
「なにこれぇ!!」
部屋の外にまで聞こえる悲鳴が部屋の中から上がった。
「悪趣味だよなお前ら」
「本当にな」
顧問2人が俺たちに小声で言う。部屋の中の惨状を顧問2人は知っているからだ。
「あいつらを陥れるのはなぁ。トコトンやらねぇと」
「本当はもっと酷くする予定だったんですよ。後片付けのことも考えてあれで我慢したんですから」
2人でニヤリと笑って答えれば
「た、大変だ、部屋の中が…」
担任が慌てて出てくる。
「どうしたんすかぁ?」
俺がのんびり答えれば
「へ、部屋の中が、血、血だらけで、紗羽が、いないんだ」
息絶え絶えに説明してくれる。俺と平塚は顔を見合わせ部屋の中へと入る。
「こりゃぁ、ヒデェなぁ」
「もぅ、紗羽会長はこの世にいないかもしれないですねぇ」
部屋の中に入れば役員たちが青褪めて腰を抜かしていた。それに追い打ちをかけるように俺と平塚が言えば、役員どもの顔がますます青褪めていく。いや、青褪めるというよりも、蒼白になっていった。
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「うそだよね?」
「そんなはず…」
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役員たちに聞こえるようにわざと告げてくる。
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犬猿の仲だと思われていた俺が平然とこんなことをやってのけたもんだから誰もが驚いてた。
もっとも、ちゃんと生きてるというのはあいつらの前で証明したが、それなりのダメージは喰らってたな。それが目的だったからいいんだがな。
「で、紗羽は本当に会長には戻らないんだな?」
生徒会顧問の言葉に
「みてぇだぞ。ってかそれは俺じゃなくて本人に聞けや」
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なんて言いながら首に抱き着いてきた。
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平塚の言葉に部屋にいる奴らがうんうんと頷く。しょうがねぇなぁ。
「わかったよ。お前が会長に戻るって決めたんなら俺たちはお前を守る存在になってやる」
俺が返事をすればぎゅうともっと強い力で抱き着いてきた。
「まぁ、会長の場合は委員長の飯に胃袋を掴まれたって感じですかね」
なんて平塚がそんなことを言う。
「それはあるかもな」
俺もそうかもなって思った。俺の部屋にいる間ずっと俺が3食飯作って食べさせてたからな。
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そんな平塚に聞いてみれば
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「だ~か~ら~!俺の話を聞け桐詠!」
話を聞かない俺のキレ始める紗羽。しょうがねぇなぁ。
「話は部屋でゆっくり聞いてやるから今はちゃんと会長の仕事しろ紗羽」
ぽふりと頭を撫でてやれば
「絶対だからな!」
何度もそう言って部屋を出ていった。
「とんでもない人に惚れられましたね委員長」
紗羽を見送ってから平塚が溜め息交じりに言う。
「これは予定外だったんだがな…」
俺も深く溜息をついた。
Fin
~~~あとがき~~~
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