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指輪
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何時まで我慢すればいいのだろう?
何時まで耐えればいいのだろう?
俺は放課後、友人を待つ間、自分のクラスにいた。初めは数人の友人に宿題とか教えていたがそれも終え今は誰もいない。何もすることがなくなり時間だけが過ぎていく。
「暇・・・」
俺は呟き腕を組み机にうつ伏し寝の体勢を取る。どうせ部活が終わるまでまだ時間がある。寝てしまおう。どうせ起こすだろう。
どれだけ時間が経ったのか俺は頭を撫でられる感触に気付いた。誰かが俺の頭を撫でている。何故?まだボーっとする頭じゃわからない。目も開かない。頬に触れる感触。
キ・・・キスされてる???誰に???
「田神。仁起きた?」
不意にそんな声が聞こえる。田神?田神だって???
「いや。まだ寝てる」
その声はまさに田神本人のもの。
じゃぁ今、俺に触れていたのは田神なのか???
「仁。起きろよ」
そういって俺を起こすのは駿。俺は今起きましたとばかりにもぞもぞ動き
「ん・・・ん~・・・終わったのか??」
身体を起こすと背伸びをする。
「うん。お待たせ」
駿がそう答える。俺は立ち上がりカバンを持つ。田神の視線を感じ
「何?なんかあったのか?」
そう聞いてみる。
「いや。別に」
そういう田神の口元は笑っていた。
も・・・もしかして俺が起きてたのばれてる????
「田神がいやらしい顔のなってる。またなんか悪さしたとか?」
駿はさらっと言ってのける。はい??
「何だよその悪さって?」
俺は駿に聞いてみる。駿は
「何でもな~い。それより帰ろう。」
そういって答えてはくれない。田神自身も答えようとはしない。
をいをい。お前ら何を隠してるんだよ。
っていうか俺の気持ち気付いてるとか???
「はぁ・・・」
俺は自然と溜め息を付いていた。
「幸せ一つ消えたな」
田神がそんなことを言う。
「るっせぇ」
俺はそんな田神を睨んだ。どうせ俺の幸せは消えてるよ。お前を好きだって気付いた瞬間にな。あぁ。やってらんねぇ~。
「早く帰ろう~」
駿が痺れを切らして俺と田神に抱きついてくる。田神はそんな駿を引き剥がし
「わかった。わかった。」
ポンポンと軽く頭を叩く。
「む~。子ども扱いするなぁ~」
駿はそんな田神に文句を言っている。そんな二人のやり取りを見るだけで胸が痛い。あぁ。重症だ。
俺はどれだけ我慢をすればいい?
俺はどれだけ耐えればいい?
きっと・・・ずっと・・・耐えなきゃいけないんだろう。この関係を壊せない以上。
「仁。置いてくぞ~」
いつの間にか先に行ってしまっていた駿が叫ぶ。俺は溜め息を付き二人に追いつくために走り出した。
「何ぼさっとしてんだ?」
田神が聞いてくる。俺は
「何でもねぇよ」
そう答えた。二人は不思議そうな顔で俺を見るが俺はそんな二人から視線を逸らした。二人はそれ以上聞いてはこなかった。俺たちは何だかんだとくだらない会話をしながら学校から少し離れた場所にある寮に戻ってきた。
「じゃぁまたねぇ~」
駿はそういって自分の部屋に戻っていく。俺と田神は同室だ。田神はさっさと部屋の中へ入ってく。俺は溜め息を付き部屋に入り扉を閉める。そのまま俺は自分のベッドに倒れこむ。そんな俺に田神が近付き
「な~に。悩んでんだお前?」
聞いてくる。俺はゴロッと身体を反転させ上を向く。
「何でもねぇ・・・って何やってんだよお前!!!」
何時の間にか田神は俺の上にいて
「何ってスキンシップ」
そんなことを言いながらキスをしようとしてきた。
「わぁ~待て待て・・・ほら・・・田神バイトの時間・・・」
俺はそんな田神の口を押さえ時計を見せて言う。
「ちっ」
田神はそういって俺からどき着替え始める。俺は時計を元の場所に戻し溜め息を付く。
「幸せまた一つ減ったな」
田神がまたそんなことを言う。俺はブレザーを脱ぎ
「いいよ。どうでも・・・」
答える。多分。今の関係が一番いい関係なんだよ。だからそれ以上は望めない。
「お前さ。マジで何を悩んでるわけ?」
田神がマジマジと聞いてくる。俺はそんな田神を見て
「田神のセクハラまがいのスキンシップが無くならないかなってね」
答える。正直いって俺的には辛い。田神にとっては軽い冗談かもしれないけれど俺にとっては冗談じゃなくなるから・・・。田神が好きだと気付いた瞬間からそれは嬉しい反面、辛い出来事になった。
「ふ~ん。あっそ。判った。バイトいって来る」
田神はそう答えると部屋を出て行った。
「バカヤロー。人に気もしらねぇで・・・」
俺はいなくなった住人に呟く。
俺が田神のことを好きだと気付いたのは最近の事。始めは冗談だと思った。まさか自分が同じ男に惚れるなんてって・・・。でも考えれば考えるほどそれは冗談じゃなくて意識してるとあいつを目で追ってる自分がいた。
「ほんと・・・冗談だったらよかったのに・・・・」
俺は呟き着替えを済ませる。田神は女子にも人気で隣の女子高の生徒に何度か告白されているのを目撃したことがある。そのたびに断ってはいるみたいだけど・・・・。
俺はどれだけ我慢をすればいいのだろうか?
どれだけ耐えればいいのだろうか?
判らない。気持ちを伝えて玉砕すれば楽になれるのかもな。そんな勇気がないから有耶無耶にこんな関係が出来上がったのかもしれない。そもそも田神が俺にやってくるスキンシップの意図がわからない。
あいつに何のメリットがあるのだろうか?
判らない。
「ほんと・・・冗談きつぅ・・・」
あのキスの意味は?
あの行動の意味は?
判らない。何もかも謎だらけ。あいつの考えてることが判らない。
コン・・・コンコン
躊躇いがちに扉が叩かれる。俺は立ち上がり
「はい?」
扉を開ける。そこには駿がいた。
「田神は?いる?」
駿はそう聞いてくる。
「バイトに行った」
俺はそう答える。駿は明らかにホッとした顔になる。
「ちょっといい?話しあるんだけど?」
そう聞いてくるから俺は駿を中に入れる。
「何?なんかあったとか?」
俺は駿に聞いてみる。駿は俺のベッドに腰掛け
「あのさ・・・俺さ・・・・今日さ・・・先輩に告白されたんだよ・・・」
言いにくそうにいってくる。俺は駿の隣に腰掛け
「先輩って?・・・誰だっけ?」
聞き返す。駿から出てくる先輩は多いのだ。
「山本先輩。」
その言葉に俺は
「え?えぇぇぇ!!!!」
思いっきり驚いた。
「うわぁ。じ・・・仁・・・声でかい」
駿が慌てて俺の口を押さえる。俺が驚くのも悪くない。だって山本先輩といえばサッカー部のキャプテンでこれまた人気者で駿の思い人でもあるからだ。
「嘘・・・マジで??」
俺は駿の手をどけ聞いてみる。駿は赤くなって頷く。
あぁ。どうやら本当らしい。
「でもさ・・・俺なんて答えていいのか判らなくてさ・・・」
駿はそういう。
「まさか断ったとか???」
あ~・・・。駿ならやりかねないか・・・。俺の言葉に駿が頷く。あぁ。やっぱり・・・。
「だって・・・行き成りで頭付いてこなくて・・・。どうしよう・・・」
駿が涙目で訴える。俺にどうしようって言われても・・・・
「駿はさぁ、先輩のこと好きなんだろ?」
俺は聞いてみる。駿は素直に頷く。
「だったら・・・今度は駿から告白すればいいじゃん」
俺はそういってみる。駿は俺の服を掴み
「それが出来たらここに着てないって~!!!!」
そう訴える。そりゃそうだ。
「じゃぁ。俺が付き合ってやるから行こうぜ」
俺は駿を掴み立ち上がる。
「え?えぇぇ・・・。」
駿が驚く。俺・・・自分のことは全然ダメなのに他人の事となると行動派になるらしい。
俺は駿を連れて山本先輩の部屋に来ていた。3年生は1,2年生と違って一人部屋だ。話をするなら都合がいい。
「波木と・・・八神だったけ?」
先輩は突然来た訪問者に驚いた顔で迎えてくれた。俺は
「駿がどうしても言いたいことがあるからって・・・じゃぁ駿ちゃんと言えよ」
先輩に駿を押し付けその場を離れる。
「仁の馬鹿~!!!!」
後ろで駿が叫んでるが俺は無視をした。パタンと扉の閉まる音。後は二人で話し合えばいいんだ。俺は自分の部屋に戻ると自分のベッドに倒れこんだ。
「・・・・お前はなんのために俺にあんなことをするんだよ・・・」
今はいない隣のベッドの住人に向かって呟く。
聞けたなら楽になるだろうか?
聞けたなら答えが出るだろうか?
俺はモヤモヤした気持ちのまま食事を済ませ風呂にも入り部屋の電気をつけたままベッドに潜り込んだ。田神がバイトのときはいつも部屋の電気はつけっぱなしで寝るのだ。田神が気にしなくてすむように俺は付けたままにしている。今日は中々寝付けそうにない。夕方の田神の行動が気になって仕方がない。
俺にもチャンスがあるのかなって・・・・そう思えて仕方がない。
ウトウトし始めた頃、扉の閉まる音がした。あー帰ってきたのかと・・・眠くなった頭で考える。
「・・・・寝てるよな・・・」
田神の呟く声。
??なんか用があったのかな?
あるのなら・・・・起きたほうがいいのか?
ボーっとする頭で考えを巡らせていると唇に何かが触れる感触。
え?まさか・・・・キ・・・キス・・・されてる・・・
眠かった頭が一気に目覚める。俺は信じられず片目をそっと開けてみるとやっぱり目の前に田神の顔があった。俺は訳が判らなくて
「・・・ぅん・・・」
と声を出して身体の向きを変える。
「・・・何やってんだよ俺・・・・」
田神の呟き。それはこっちが聞きたい。
まさか俺の気持ちを試してる?
おちょくってる?
「風呂入って寝るか」
田神はそういって俺のベッドから離れていった。パッタンと扉の閉まる音。俺はますます寝れなくなってしまった。
「バカヤロー・・・」
俺はそう呟き布団に潜った。
何でこんなことするんだよ。
嬉しいけど・・・夢のようだけど・・・辛い。
遊びでして欲しくない。
俺はモヤモヤとした気持ちのまま一睡も出来ぬまま朝を迎えてしまった。
俺が起きると田神はもういない。朝練で早いのだ。俺は溜め息を付く。
「バカヤロー・・・」
何度呟いただろうか?また同じ言葉を呟いていた。俺は起きると学校に行く準備を済ませる。今日は朝飯を食べる気分じゃない。そのまま俺は部屋を出て学校に向かった。
誰もいない教室。窓際の席。自分の席に座り外を見る。グラウンドが見える。朝練をしている連中が見える。その中にサッカー部の連中も。
「・・・すぐ見つけれる俺って・・・・」
サッカー部の連中の中からすぐに田神を見つけてしまう自分が怖い。それだけ俺はあいつのことを見ている証拠だ。この思いは伝えれないのに・・・・。
俺は机にうつ伏し溜め息を付く。何度考えても答えが見つからない。田神の行動がわからない。
「お前はどうしたいんだよ・・・」
呟いてみても返事は来ない。俺はそのまま寝入ってしまった。
「仁、起きろよ。仁」
駿のそんな声に起こされ俺は目を覚ます。
「ん?・・・今何時?」
俺は寝ぼけたまま聞く。
「おそよう。もう昼」
駿はそういってくる。その言葉に一気に目が覚める。
「マジ?」
俺は慌てて時計を見ると12時を回っている。どうやら本気で寝ていたらしい。
「八神にしては珍しいじゃん。」
「昨夜、夜遊びでもしてきたとか?」
そんな言葉が飛んでくる。
「実はそう。・・・んなわけあるか!!!寝不足だっただけだ」
俺は軽く冗談で答え席を立つ。
「仁?」
駿が心配げに俺を呼ぶ。俺は溜め息を付き
「散歩」
それだけ言って教室を出て行った。昨日から考えすぎで食欲もない。教室にいたら食べ物の匂いで気分が悪くなりそうだった。だから外の空気が吸いたくて屋上に来た。誰も知らない場所。俺が偶然見つけた隠れ場。
「ほんと・・・勘弁してくれよ・・・・」
俺はどれだけ耐えればいい?
俺はどれだけ我慢すればいい???
考えても答えは出ない。直接本人に聞くしか方法はない。でもそれは出来ない。今の関係を壊したくない。
「俺が・・・我慢するしかねぇのかよ・・・」
ずっとこの気持ちを押し殺すしかないのか。今の関係を壊すことが出来ない以上そうするしかないよな。俺は壁に凭れ空を見上げる。気付くんじゃなった。自分の気持ちに・・・・。
チャイムが鳴っても俺は教室に戻る気がなくてそのまま5,6時限目をボイコットした。きっと誰かが文句を言うだろうけど・・・一々気にしてたらやってらねぇ。噂が好きな連中が多いのだあのクラスには・・・。グラウンドで部活の始まる音がする。俺は立ち上がるとカバンを取りに教室に戻った。
「あ・・・。八神だ」
俺を見つけた中津がいう。
「何?」
俺は自分の席に行きカバンを取る。
「今日さ超機嫌悪い?」
中津はそんなことを聞いてくる。
「寝不足なだけだけど?」
俺は言い訳を考えながら答える。いいわけなんかする必要もないのに・・・。
「そっか。あの後で結構みんなが気にしてたからさ。八神の様子が変だって」
中津はそう教えてくれる。
「あー・・・。そうなんだ」
俺はそう答える。
「中津?っと。邪魔したか?」
隣のクラスの奴が中津を呼びに着たのかそう聞いてくる。中津は
「大丈夫。じゃぁね八神」
そう答え今来た奴と帰っていった。俺は溜め息を付き教室を出た。今日はあの二人を待っている気分じゃない。俺はさっさと寮に戻ると布団に潜った。
この日を境に田神からのセクハラまがいのスキンシップはピタッと止まった。嬉しい反面、悲しく思う自分がいた。
俺たちの関係は微妙にちぐはぐになっていった気がする。
俺たちの間にすれ違いが大きくなっていった。田神が部活やバイトで部屋を開ける時間が多くなった。何処となく田神に避けられてる気がしないでもないが・・・・。
そして何よりもあいつの指に指輪が嵌っていることに気付いた。
いつからだろうか?
先週はまだ付いてなかったはず・・・・
「何考えてるんだ?」
席替えをして俺の前の席になった田神が聞いてくる。
「別に」
俺はそっけなく返した。
「ふぅん」
田神はそれ以上聞いてはこなかった。
気付かれたくなかった。
田神のことが好きだって・・・。
だからそっけない態度をとった。
田神は周りにいる奴と話し出す。俺のことなど気にする事無く・・・・。
『なぁ。俺がお前のこと好きだって言ったらお前はどうする?』
俺は心の中で問う。
何時まで我慢すればいい???
何時まで耐えればいい???
好きな奴はいないっていったくせに・・・・
なのにその指輪はなんだよ?
「おっ。田神、指輪してるじゃん。」
「あっ。本当だ。何?彼女からのプレゼント?」
誰かがそんなことを聞いている。
「そんなんじゃねぇよ」
田神はそう返事をしている。
でも・・・指輪が邪魔をする。
俺の気持ちは伝えれなくなった。
唯でさえ伝えれないのに・・・
余計に伝えれなくなった・・・・。
「じゃぁ好きな奴は居るのかよ?」
そんな言葉が飛び交う。
「おう。いるぜ」
田神のその言葉に俺の中に衝撃が走る。いないって言ったくせに・・・本当はいたんだ・・・・
「へぇ。じゃぁ誰?」
ダレガスキナノ?
「秘密」
ドウシテ?
「なんだよ。いえよ」
オシエテ・・・
「秘密なもんは秘密だって」
ドウシテ?ダレガスキナノ?
「わかった。隣の名桜の子だ」
ソウナノ
「ちげぇって。可愛いのは多いけど興味なし」
ジャァダレナノ?
「嘘だぁ。じゃぁ何だよその指輪??」
ナゼ?ソンナノハメテルノ?
「ん~。いわゆる保険」
ドウイウイミ?
「はぁ?」
「判った。やっぱり彼女いるんじゃん」
ヤッパリイルンダ・・・
「ちげぇって。まぁ。好きな奴はいるけど」
延々とそんな会話が続けられている。俺的には聞きたいような聞きたくないような・・・。
やっぱり好きな奴は居るんだ・・・・・
俺が聞いてからずいぶんと経つもんな。出来てあたり前だよな・・・。
あの指輪はきっと彼女とお揃いなんだ・・・・
「八神は大人しいのな」
「気になんねぇの?」
「そうそう」
俺は急に話を振られる。
「え?・・・別に?・・・俺・・・・関係ねぇし・・・」
本当のことなんて言えやしねぇ。
耐えるしかないんだろうか?
我慢するしかないんだろうか?
伝えられないんだろうか?
「なぁ~んだつまんねぇ」
ボソッと呟く声。
「え?」
俺は田神を見る。
「いや。なんでもねぇよ」
田神は何事もなかったような顔。
期待してもいいのだろうか?
俺にチャンスがあるのだと・・・・
俺はノートの端を破りそれに殴り書きで
『好き』
とだけ書き後ろ手になっている田神の手に誰にも気付かれないようにそっと忍び込ませる。
田神はそれを受け取ると誰にも気付かれないように見ていた。
そして
『俺も』
とだけ付け加えられて俺の手元に再び舞い戻ってきた。
俺はそれを見て思わず椅子からずり落ち派手な音を立ててこけた。
「何やってんだお前?」
「大丈夫か?」
突然こけた俺にそんな言葉が投げ掛けられる。
俺は椅子を直しながら
「お・・・おう」
バクバクと言い出した心臓の音を聞かれないように答える。
『バーカ』
田神が口だけで言っている。俺は思いっきり後ろから奴の座っている椅子を蹴ってやった。
「いってぇ」
田神が声を上げる。周りのみんなが不思議そうに田神を見る。
「何でもねよ」
田神のその一言でみんなは元に戻っていく。
叶わないと思っていたのに・・・思いがけないことで叶ってしまった。
放課後
「田神の奢りでマックに行こうぜ」
「幸せもんから福もらおうぜ」
「八神も行こうぜ」
田神や俺の意見など聞く耳持たぬといった勢いで俺たちは友人数人に連行される形でマックにいくことになった。
「で?結局さぁ。田神の好きな奴って誰?」
「そうそう。いい加減教えろよ」
また尋問が始まる。
「誰でもいいじゃねぇか」
田神は軽くあしらっている。
「いや~。よくねぇ。それってお揃いなんだろ?」
「やっぱりお揃いだよな?」
田神はやっぱり尋問にあっている。
俺はそんな田神を見ながらふと疑問に思った。
指輪は何のためにあるのか?
指輪の意味は?
保険って?
『俺も』
あの言葉を疑うわけじゃないけどやっぱり気になる。
「指輪って。誰かとお揃いなのか?」
俺はつい聞いてしまった。その言葉を口にした途端みんなの視線が一気に俺に向けられる。
「な・・・なんだよ?」
俺は焦りながら聞いてみる。
「やっぱり八神も気になってたんじゃねぇか」
「そう言えば八神って浮いた話でねぇよな?」
「ガードが固いとか?」
「それとももう彼女もち?」
等と話が違う方向に発展していく。何でそうなるかな?
「俺のことはいんだよ。田神のこと聞いてんじゃねぇのかよ」
俺は自分のことに触れて欲しくなかったため田神を餌食にしてしまった。
「おう。そうだった」
「それぐらい教えろよ」
再び田神に質問が飛んでいく。
「うっせぇな。お揃いだよ。でもまだ渡してねぇ」
田神がそう言い切る。
「嘘!!!マジ!!!」
「何で?」
「どうして渡してねぇの?」
へぇ~お揃いなんだ・・・やっぱり・・・
あの言葉・・・俺と田神とじゃ意味が違うのかも・・・・
「わりぃ。先帰る」
俺はなんだかここにいるのが嫌になって空になったトレーをもちその場を離れた。
「ちょ・・・八神~」
後ろで誰かが呼んでる。そんな声を無視して俺は店を出た。
なんかどうでもよくなった気分だ。
田神が誰を好きでも誰と一緒にいても・・・・
誰かとお揃いの指輪を嵌めていようとも・・・・
伝えるべきじゃなかったんだ。
自分の気持ちを隠しておくべきだったんだ。
そうすればこんな辛い思いをせずにすんだのに・・・・
俺はなんて馬鹿だったんだ・・・・。
「え?・・・わっ・・・わぁぁぁ・・・」
突然、腕を引っ張られ俺は狭い路地裏に連れ込まれていた。
「誰だよ!!!」
不機嫌極まりない声で振り返るとそこにはもっと不機嫌な顔をした田神がいた。
「た・・・田神・・・どうして???」
気が付けば俺は後ろの壁に押し付けられていた。
「よくも逃げたな?」
声が完全に怒っている。俺はなんと答えようかと頭をフル回転させる。
「いや・・・だって・・・ほら・・・」
こういうときに限ってちゃんとした理由が出てこない自分が情けない。
「目ェ瞑れやおら」
ヤンキー入ってるんですけど・・・。俺は言われたとおり目を瞑る。
殴られるのを覚悟の上で・・・・。
でも痛みは襲ってこなかった。その代わりに・・・
「・・・ん・・・ちょ・・・ん・・・ふっ・・・」
襲ってきたのは必要以上に攻めたてれられるキス。
「・・・ん・・・ふぅ・・・ぁ・・・ふぅ・・・ん・・」
角度を変え何度も舌が忍び込み唇が塞がれた。
どれだけ攻め立てられていたのだろうか気が付いたら俺は地面に座り込んでいた。
「ご馳走さん」
そんな田神の声で我に返る。
「ふざけんなボケ!!!」
言葉で意気込んでも力の抜けた身体じゃぁ迫力なんてものもない。
「俺を置いていった罰だ」
そういって田神が笑う。
「別にお前なら切り抜けられるだろが!!!」
皮肉めいた言葉を言ってやる。修羅場は俺より場数踏んでんだから・・・
ん???なんだろう???
指に違和感が????
指輪???
「た・・・たが・・・田神????・・・これ・・・・」
俺は指輪を指し聞いてみる。田神は自分の指を見せ
「俺とお揃い。言ったろ?まだ渡してないって。渡したからな。失くすなよ」
そういって笑う顔は少し赤い。
「何で?・・・俺のサイズ知ってんの?・・・ってか他に好きな奴いたんじゃねの???」
あれ?どうなんてんだ??わけがわからなくなってきた。
「八神お前バカ?俺ちゃんと返事したろ?」
うん。まぁ。確かに紙にはそう返事してくれたけど・・・・
「それってマジで俺のこと?」
嘘???マジで???
「あのさ。好きでもねぇ男にキスなんかしねぇぞ俺は!!!!」
え~っと・・・
「じゃぁ何で指輪なんか?」
何で嵌めてんだよ・・・
「そりゃぁ~。虫除け。後はお前の反応が見たくてかな」
んだよそれ!!!
「人を試したのかよ!!!!」
なんかムカつく。田神の奴!!!
「だってこうでもしねぇとお前って本音いわねぇじゃん。俺はさぁ色々とアプローチしてきたつもりだけど???」
ほえ??
「もしかして・・・今までのセクハラまがいのスキンシップのことかよ???」
俺は恐る恐る聞いてみる。
「当たり」
にっこりと笑われ言われてしまう。あれが・・・そうだったのかよ・・・・
「でも・・・お前・・・いろんな奴と付き合ってじゃねぇか!!!」
俺だけが悪いわけじゃねぇ~!!!!
「ん?そうだっけ?」
かー。ムカつく。
「田神のバカヤロー!!!!」
ふざけんなバカ!!!
「よく言うぜ。俺とのキスで感じて腰砕けのくせして」
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「田神のバカヤロー!!!!!!!」
俺は思いっきり田神に向かってカバンを投げつけた。が
それは田神にぶつかる事無く受け止められてしまったのだが・・・
「なぁ。八神。マジでお前のこと好きだから俺と付き合ってくれよ。その為に色々と探してやっとお揃いの気に入るリング見つけたんだぜ?」
急に田神が俺の前にしゃがみ真面目な顔で言ってくる。俺は・・・
俺は返事の代わりに田神の首に抱きついてやった。
でもそれだけじゃ可哀相だから
「俺も田神が好きだ」
精一杯の気持ちを込めて言ってやった。そしたらギュッと抱きしめ返された。
俺たちはもう一度触れ合うだけのキスを交わした。
翌日
「仁。ついに独り身じゃなくなったんだね」
駿のその一言でみんなが俺を見る。そして目敏い奴が俺の指に嵌ってる指輪に気付き
「や・・・八神それさ・・・田神とお揃いじゃねぇ?」
そう聞いてくる。俺は
「さぁ?」
しらを切ろうとしたのだが・・・・
「お揃いだよねぇ。仁は田神のもんだから」
等と駿が言うもんだからザワッと教室中が騒がしくなる。
「駿。お前なんか恨みあるのかよ?」
俺は聞いてみる。
「ぜ~んぜん。先輩のとこに置いて行った事なんて怒ってないから」
駿はにっこり笑って答える。あぁ。根に持ってるわけね。
「はいはい。俺が悪かったよ」
俺はそういう。
「八神~!!!!!何で????何で田神なんだよ~」
「マジで田神とお揃いなのかよ???」
「なんで~???」
俺はこの後30分ぐらい質問攻めにあった。
が
田神の
「こいつは俺のもんだ!!!」
宣言によりあっけなく終結した。
あいつの付けていた指輪・・・・
それは俺への当て付けと虫除けガードだった。
もう我慢しなくてもいい
もう耐えなくてもいい
俺の思いはあいつに伝わったから・・・・・。
Fin
何時まで耐えればいいのだろう?
俺は放課後、友人を待つ間、自分のクラスにいた。初めは数人の友人に宿題とか教えていたがそれも終え今は誰もいない。何もすることがなくなり時間だけが過ぎていく。
「暇・・・」
俺は呟き腕を組み机にうつ伏し寝の体勢を取る。どうせ部活が終わるまでまだ時間がある。寝てしまおう。どうせ起こすだろう。
どれだけ時間が経ったのか俺は頭を撫でられる感触に気付いた。誰かが俺の頭を撫でている。何故?まだボーっとする頭じゃわからない。目も開かない。頬に触れる感触。
キ・・・キスされてる???誰に???
「田神。仁起きた?」
不意にそんな声が聞こえる。田神?田神だって???
「いや。まだ寝てる」
その声はまさに田神本人のもの。
じゃぁ今、俺に触れていたのは田神なのか???
「仁。起きろよ」
そういって俺を起こすのは駿。俺は今起きましたとばかりにもぞもぞ動き
「ん・・・ん~・・・終わったのか??」
身体を起こすと背伸びをする。
「うん。お待たせ」
駿がそう答える。俺は立ち上がりカバンを持つ。田神の視線を感じ
「何?なんかあったのか?」
そう聞いてみる。
「いや。別に」
そういう田神の口元は笑っていた。
も・・・もしかして俺が起きてたのばれてる????
「田神がいやらしい顔のなってる。またなんか悪さしたとか?」
駿はさらっと言ってのける。はい??
「何だよその悪さって?」
俺は駿に聞いてみる。駿は
「何でもな~い。それより帰ろう。」
そういって答えてはくれない。田神自身も答えようとはしない。
をいをい。お前ら何を隠してるんだよ。
っていうか俺の気持ち気付いてるとか???
「はぁ・・・」
俺は自然と溜め息を付いていた。
「幸せ一つ消えたな」
田神がそんなことを言う。
「るっせぇ」
俺はそんな田神を睨んだ。どうせ俺の幸せは消えてるよ。お前を好きだって気付いた瞬間にな。あぁ。やってらんねぇ~。
「早く帰ろう~」
駿が痺れを切らして俺と田神に抱きついてくる。田神はそんな駿を引き剥がし
「わかった。わかった。」
ポンポンと軽く頭を叩く。
「む~。子ども扱いするなぁ~」
駿はそんな田神に文句を言っている。そんな二人のやり取りを見るだけで胸が痛い。あぁ。重症だ。
俺はどれだけ我慢をすればいい?
俺はどれだけ耐えればいい?
きっと・・・ずっと・・・耐えなきゃいけないんだろう。この関係を壊せない以上。
「仁。置いてくぞ~」
いつの間にか先に行ってしまっていた駿が叫ぶ。俺は溜め息を付き二人に追いつくために走り出した。
「何ぼさっとしてんだ?」
田神が聞いてくる。俺は
「何でもねぇよ」
そう答えた。二人は不思議そうな顔で俺を見るが俺はそんな二人から視線を逸らした。二人はそれ以上聞いてはこなかった。俺たちは何だかんだとくだらない会話をしながら学校から少し離れた場所にある寮に戻ってきた。
「じゃぁまたねぇ~」
駿はそういって自分の部屋に戻っていく。俺と田神は同室だ。田神はさっさと部屋の中へ入ってく。俺は溜め息を付き部屋に入り扉を閉める。そのまま俺は自分のベッドに倒れこむ。そんな俺に田神が近付き
「な~に。悩んでんだお前?」
聞いてくる。俺はゴロッと身体を反転させ上を向く。
「何でもねぇ・・・って何やってんだよお前!!!」
何時の間にか田神は俺の上にいて
「何ってスキンシップ」
そんなことを言いながらキスをしようとしてきた。
「わぁ~待て待て・・・ほら・・・田神バイトの時間・・・」
俺はそんな田神の口を押さえ時計を見せて言う。
「ちっ」
田神はそういって俺からどき着替え始める。俺は時計を元の場所に戻し溜め息を付く。
「幸せまた一つ減ったな」
田神がまたそんなことを言う。俺はブレザーを脱ぎ
「いいよ。どうでも・・・」
答える。多分。今の関係が一番いい関係なんだよ。だからそれ以上は望めない。
「お前さ。マジで何を悩んでるわけ?」
田神がマジマジと聞いてくる。俺はそんな田神を見て
「田神のセクハラまがいのスキンシップが無くならないかなってね」
答える。正直いって俺的には辛い。田神にとっては軽い冗談かもしれないけれど俺にとっては冗談じゃなくなるから・・・。田神が好きだと気付いた瞬間からそれは嬉しい反面、辛い出来事になった。
「ふ~ん。あっそ。判った。バイトいって来る」
田神はそう答えると部屋を出て行った。
「バカヤロー。人に気もしらねぇで・・・」
俺はいなくなった住人に呟く。
俺が田神のことを好きだと気付いたのは最近の事。始めは冗談だと思った。まさか自分が同じ男に惚れるなんてって・・・。でも考えれば考えるほどそれは冗談じゃなくて意識してるとあいつを目で追ってる自分がいた。
「ほんと・・・冗談だったらよかったのに・・・・」
俺は呟き着替えを済ませる。田神は女子にも人気で隣の女子高の生徒に何度か告白されているのを目撃したことがある。そのたびに断ってはいるみたいだけど・・・・。
俺はどれだけ我慢をすればいいのだろうか?
どれだけ耐えればいいのだろうか?
判らない。気持ちを伝えて玉砕すれば楽になれるのかもな。そんな勇気がないから有耶無耶にこんな関係が出来上がったのかもしれない。そもそも田神が俺にやってくるスキンシップの意図がわからない。
あいつに何のメリットがあるのだろうか?
判らない。
「ほんと・・・冗談きつぅ・・・」
あのキスの意味は?
あの行動の意味は?
判らない。何もかも謎だらけ。あいつの考えてることが判らない。
コン・・・コンコン
躊躇いがちに扉が叩かれる。俺は立ち上がり
「はい?」
扉を開ける。そこには駿がいた。
「田神は?いる?」
駿はそう聞いてくる。
「バイトに行った」
俺はそう答える。駿は明らかにホッとした顔になる。
「ちょっといい?話しあるんだけど?」
そう聞いてくるから俺は駿を中に入れる。
「何?なんかあったとか?」
俺は駿に聞いてみる。駿は俺のベッドに腰掛け
「あのさ・・・俺さ・・・・今日さ・・・先輩に告白されたんだよ・・・」
言いにくそうにいってくる。俺は駿の隣に腰掛け
「先輩って?・・・誰だっけ?」
聞き返す。駿から出てくる先輩は多いのだ。
「山本先輩。」
その言葉に俺は
「え?えぇぇぇ!!!!」
思いっきり驚いた。
「うわぁ。じ・・・仁・・・声でかい」
駿が慌てて俺の口を押さえる。俺が驚くのも悪くない。だって山本先輩といえばサッカー部のキャプテンでこれまた人気者で駿の思い人でもあるからだ。
「嘘・・・マジで??」
俺は駿の手をどけ聞いてみる。駿は赤くなって頷く。
あぁ。どうやら本当らしい。
「でもさ・・・俺なんて答えていいのか判らなくてさ・・・」
駿はそういう。
「まさか断ったとか???」
あ~・・・。駿ならやりかねないか・・・。俺の言葉に駿が頷く。あぁ。やっぱり・・・。
「だって・・・行き成りで頭付いてこなくて・・・。どうしよう・・・」
駿が涙目で訴える。俺にどうしようって言われても・・・・
「駿はさぁ、先輩のこと好きなんだろ?」
俺は聞いてみる。駿は素直に頷く。
「だったら・・・今度は駿から告白すればいいじゃん」
俺はそういってみる。駿は俺の服を掴み
「それが出来たらここに着てないって~!!!!」
そう訴える。そりゃそうだ。
「じゃぁ。俺が付き合ってやるから行こうぜ」
俺は駿を掴み立ち上がる。
「え?えぇぇ・・・。」
駿が驚く。俺・・・自分のことは全然ダメなのに他人の事となると行動派になるらしい。
俺は駿を連れて山本先輩の部屋に来ていた。3年生は1,2年生と違って一人部屋だ。話をするなら都合がいい。
「波木と・・・八神だったけ?」
先輩は突然来た訪問者に驚いた顔で迎えてくれた。俺は
「駿がどうしても言いたいことがあるからって・・・じゃぁ駿ちゃんと言えよ」
先輩に駿を押し付けその場を離れる。
「仁の馬鹿~!!!!」
後ろで駿が叫んでるが俺は無視をした。パタンと扉の閉まる音。後は二人で話し合えばいいんだ。俺は自分の部屋に戻ると自分のベッドに倒れこんだ。
「・・・・お前はなんのために俺にあんなことをするんだよ・・・」
今はいない隣のベッドの住人に向かって呟く。
聞けたなら楽になるだろうか?
聞けたなら答えが出るだろうか?
俺はモヤモヤした気持ちのまま食事を済ませ風呂にも入り部屋の電気をつけたままベッドに潜り込んだ。田神がバイトのときはいつも部屋の電気はつけっぱなしで寝るのだ。田神が気にしなくてすむように俺は付けたままにしている。今日は中々寝付けそうにない。夕方の田神の行動が気になって仕方がない。
俺にもチャンスがあるのかなって・・・・そう思えて仕方がない。
ウトウトし始めた頃、扉の閉まる音がした。あー帰ってきたのかと・・・眠くなった頭で考える。
「・・・・寝てるよな・・・」
田神の呟く声。
??なんか用があったのかな?
あるのなら・・・・起きたほうがいいのか?
ボーっとする頭で考えを巡らせていると唇に何かが触れる感触。
え?まさか・・・・キ・・・キス・・・されてる・・・
眠かった頭が一気に目覚める。俺は信じられず片目をそっと開けてみるとやっぱり目の前に田神の顔があった。俺は訳が判らなくて
「・・・ぅん・・・」
と声を出して身体の向きを変える。
「・・・何やってんだよ俺・・・・」
田神の呟き。それはこっちが聞きたい。
まさか俺の気持ちを試してる?
おちょくってる?
「風呂入って寝るか」
田神はそういって俺のベッドから離れていった。パッタンと扉の閉まる音。俺はますます寝れなくなってしまった。
「バカヤロー・・・」
俺はそう呟き布団に潜った。
何でこんなことするんだよ。
嬉しいけど・・・夢のようだけど・・・辛い。
遊びでして欲しくない。
俺はモヤモヤとした気持ちのまま一睡も出来ぬまま朝を迎えてしまった。
俺が起きると田神はもういない。朝練で早いのだ。俺は溜め息を付く。
「バカヤロー・・・」
何度呟いただろうか?また同じ言葉を呟いていた。俺は起きると学校に行く準備を済ませる。今日は朝飯を食べる気分じゃない。そのまま俺は部屋を出て学校に向かった。
誰もいない教室。窓際の席。自分の席に座り外を見る。グラウンドが見える。朝練をしている連中が見える。その中にサッカー部の連中も。
「・・・すぐ見つけれる俺って・・・・」
サッカー部の連中の中からすぐに田神を見つけてしまう自分が怖い。それだけ俺はあいつのことを見ている証拠だ。この思いは伝えれないのに・・・・。
俺は机にうつ伏し溜め息を付く。何度考えても答えが見つからない。田神の行動がわからない。
「お前はどうしたいんだよ・・・」
呟いてみても返事は来ない。俺はそのまま寝入ってしまった。
「仁、起きろよ。仁」
駿のそんな声に起こされ俺は目を覚ます。
「ん?・・・今何時?」
俺は寝ぼけたまま聞く。
「おそよう。もう昼」
駿はそういってくる。その言葉に一気に目が覚める。
「マジ?」
俺は慌てて時計を見ると12時を回っている。どうやら本気で寝ていたらしい。
「八神にしては珍しいじゃん。」
「昨夜、夜遊びでもしてきたとか?」
そんな言葉が飛んでくる。
「実はそう。・・・んなわけあるか!!!寝不足だっただけだ」
俺は軽く冗談で答え席を立つ。
「仁?」
駿が心配げに俺を呼ぶ。俺は溜め息を付き
「散歩」
それだけ言って教室を出て行った。昨日から考えすぎで食欲もない。教室にいたら食べ物の匂いで気分が悪くなりそうだった。だから外の空気が吸いたくて屋上に来た。誰も知らない場所。俺が偶然見つけた隠れ場。
「ほんと・・・勘弁してくれよ・・・・」
俺はどれだけ耐えればいい?
俺はどれだけ我慢すればいい???
考えても答えは出ない。直接本人に聞くしか方法はない。でもそれは出来ない。今の関係を壊したくない。
「俺が・・・我慢するしかねぇのかよ・・・」
ずっとこの気持ちを押し殺すしかないのか。今の関係を壊すことが出来ない以上そうするしかないよな。俺は壁に凭れ空を見上げる。気付くんじゃなった。自分の気持ちに・・・・。
チャイムが鳴っても俺は教室に戻る気がなくてそのまま5,6時限目をボイコットした。きっと誰かが文句を言うだろうけど・・・一々気にしてたらやってらねぇ。噂が好きな連中が多いのだあのクラスには・・・。グラウンドで部活の始まる音がする。俺は立ち上がるとカバンを取りに教室に戻った。
「あ・・・。八神だ」
俺を見つけた中津がいう。
「何?」
俺は自分の席に行きカバンを取る。
「今日さ超機嫌悪い?」
中津はそんなことを聞いてくる。
「寝不足なだけだけど?」
俺は言い訳を考えながら答える。いいわけなんかする必要もないのに・・・。
「そっか。あの後で結構みんなが気にしてたからさ。八神の様子が変だって」
中津はそう教えてくれる。
「あー・・・。そうなんだ」
俺はそう答える。
「中津?っと。邪魔したか?」
隣のクラスの奴が中津を呼びに着たのかそう聞いてくる。中津は
「大丈夫。じゃぁね八神」
そう答え今来た奴と帰っていった。俺は溜め息を付き教室を出た。今日はあの二人を待っている気分じゃない。俺はさっさと寮に戻ると布団に潜った。
この日を境に田神からのセクハラまがいのスキンシップはピタッと止まった。嬉しい反面、悲しく思う自分がいた。
俺たちの関係は微妙にちぐはぐになっていった気がする。
俺たちの間にすれ違いが大きくなっていった。田神が部活やバイトで部屋を開ける時間が多くなった。何処となく田神に避けられてる気がしないでもないが・・・・。
そして何よりもあいつの指に指輪が嵌っていることに気付いた。
いつからだろうか?
先週はまだ付いてなかったはず・・・・
「何考えてるんだ?」
席替えをして俺の前の席になった田神が聞いてくる。
「別に」
俺はそっけなく返した。
「ふぅん」
田神はそれ以上聞いてはこなかった。
気付かれたくなかった。
田神のことが好きだって・・・。
だからそっけない態度をとった。
田神は周りにいる奴と話し出す。俺のことなど気にする事無く・・・・。
『なぁ。俺がお前のこと好きだって言ったらお前はどうする?』
俺は心の中で問う。
何時まで我慢すればいい???
何時まで耐えればいい???
好きな奴はいないっていったくせに・・・・
なのにその指輪はなんだよ?
「おっ。田神、指輪してるじゃん。」
「あっ。本当だ。何?彼女からのプレゼント?」
誰かがそんなことを聞いている。
「そんなんじゃねぇよ」
田神はそう返事をしている。
でも・・・指輪が邪魔をする。
俺の気持ちは伝えれなくなった。
唯でさえ伝えれないのに・・・
余計に伝えれなくなった・・・・。
「じゃぁ好きな奴は居るのかよ?」
そんな言葉が飛び交う。
「おう。いるぜ」
田神のその言葉に俺の中に衝撃が走る。いないって言ったくせに・・・本当はいたんだ・・・・
「へぇ。じゃぁ誰?」
ダレガスキナノ?
「秘密」
ドウシテ?
「なんだよ。いえよ」
オシエテ・・・
「秘密なもんは秘密だって」
ドウシテ?ダレガスキナノ?
「わかった。隣の名桜の子だ」
ソウナノ
「ちげぇって。可愛いのは多いけど興味なし」
ジャァダレナノ?
「嘘だぁ。じゃぁ何だよその指輪??」
ナゼ?ソンナノハメテルノ?
「ん~。いわゆる保険」
ドウイウイミ?
「はぁ?」
「判った。やっぱり彼女いるんじゃん」
ヤッパリイルンダ・・・
「ちげぇって。まぁ。好きな奴はいるけど」
延々とそんな会話が続けられている。俺的には聞きたいような聞きたくないような・・・。
やっぱり好きな奴は居るんだ・・・・・
俺が聞いてからずいぶんと経つもんな。出来てあたり前だよな・・・。
あの指輪はきっと彼女とお揃いなんだ・・・・
「八神は大人しいのな」
「気になんねぇの?」
「そうそう」
俺は急に話を振られる。
「え?・・・別に?・・・俺・・・・関係ねぇし・・・」
本当のことなんて言えやしねぇ。
耐えるしかないんだろうか?
我慢するしかないんだろうか?
伝えられないんだろうか?
「なぁ~んだつまんねぇ」
ボソッと呟く声。
「え?」
俺は田神を見る。
「いや。なんでもねぇよ」
田神は何事もなかったような顔。
期待してもいいのだろうか?
俺にチャンスがあるのだと・・・・
俺はノートの端を破りそれに殴り書きで
『好き』
とだけ書き後ろ手になっている田神の手に誰にも気付かれないようにそっと忍び込ませる。
田神はそれを受け取ると誰にも気付かれないように見ていた。
そして
『俺も』
とだけ付け加えられて俺の手元に再び舞い戻ってきた。
俺はそれを見て思わず椅子からずり落ち派手な音を立ててこけた。
「何やってんだお前?」
「大丈夫か?」
突然こけた俺にそんな言葉が投げ掛けられる。
俺は椅子を直しながら
「お・・・おう」
バクバクと言い出した心臓の音を聞かれないように答える。
『バーカ』
田神が口だけで言っている。俺は思いっきり後ろから奴の座っている椅子を蹴ってやった。
「いってぇ」
田神が声を上げる。周りのみんなが不思議そうに田神を見る。
「何でもねよ」
田神のその一言でみんなは元に戻っていく。
叶わないと思っていたのに・・・思いがけないことで叶ってしまった。
放課後
「田神の奢りでマックに行こうぜ」
「幸せもんから福もらおうぜ」
「八神も行こうぜ」
田神や俺の意見など聞く耳持たぬといった勢いで俺たちは友人数人に連行される形でマックにいくことになった。
「で?結局さぁ。田神の好きな奴って誰?」
「そうそう。いい加減教えろよ」
また尋問が始まる。
「誰でもいいじゃねぇか」
田神は軽くあしらっている。
「いや~。よくねぇ。それってお揃いなんだろ?」
「やっぱりお揃いだよな?」
田神はやっぱり尋問にあっている。
俺はそんな田神を見ながらふと疑問に思った。
指輪は何のためにあるのか?
指輪の意味は?
保険って?
『俺も』
あの言葉を疑うわけじゃないけどやっぱり気になる。
「指輪って。誰かとお揃いなのか?」
俺はつい聞いてしまった。その言葉を口にした途端みんなの視線が一気に俺に向けられる。
「な・・・なんだよ?」
俺は焦りながら聞いてみる。
「やっぱり八神も気になってたんじゃねぇか」
「そう言えば八神って浮いた話でねぇよな?」
「ガードが固いとか?」
「それとももう彼女もち?」
等と話が違う方向に発展していく。何でそうなるかな?
「俺のことはいんだよ。田神のこと聞いてんじゃねぇのかよ」
俺は自分のことに触れて欲しくなかったため田神を餌食にしてしまった。
「おう。そうだった」
「それぐらい教えろよ」
再び田神に質問が飛んでいく。
「うっせぇな。お揃いだよ。でもまだ渡してねぇ」
田神がそう言い切る。
「嘘!!!マジ!!!」
「何で?」
「どうして渡してねぇの?」
へぇ~お揃いなんだ・・・やっぱり・・・
あの言葉・・・俺と田神とじゃ意味が違うのかも・・・・
「わりぃ。先帰る」
俺はなんだかここにいるのが嫌になって空になったトレーをもちその場を離れた。
「ちょ・・・八神~」
後ろで誰かが呼んでる。そんな声を無視して俺は店を出た。
なんかどうでもよくなった気分だ。
田神が誰を好きでも誰と一緒にいても・・・・
誰かとお揃いの指輪を嵌めていようとも・・・・
伝えるべきじゃなかったんだ。
自分の気持ちを隠しておくべきだったんだ。
そうすればこんな辛い思いをせずにすんだのに・・・・
俺はなんて馬鹿だったんだ・・・・。
「え?・・・わっ・・・わぁぁぁ・・・」
突然、腕を引っ張られ俺は狭い路地裏に連れ込まれていた。
「誰だよ!!!」
不機嫌極まりない声で振り返るとそこにはもっと不機嫌な顔をした田神がいた。
「た・・・田神・・・どうして???」
気が付けば俺は後ろの壁に押し付けられていた。
「よくも逃げたな?」
声が完全に怒っている。俺はなんと答えようかと頭をフル回転させる。
「いや・・・だって・・・ほら・・・」
こういうときに限ってちゃんとした理由が出てこない自分が情けない。
「目ェ瞑れやおら」
ヤンキー入ってるんですけど・・・。俺は言われたとおり目を瞑る。
殴られるのを覚悟の上で・・・・。
でも痛みは襲ってこなかった。その代わりに・・・
「・・・ん・・・ちょ・・・ん・・・ふっ・・・」
襲ってきたのは必要以上に攻めたてれられるキス。
「・・・ん・・・ふぅ・・・ぁ・・・ふぅ・・・ん・・」
角度を変え何度も舌が忍び込み唇が塞がれた。
どれだけ攻め立てられていたのだろうか気が付いたら俺は地面に座り込んでいた。
「ご馳走さん」
そんな田神の声で我に返る。
「ふざけんなボケ!!!」
言葉で意気込んでも力の抜けた身体じゃぁ迫力なんてものもない。
「俺を置いていった罰だ」
そういって田神が笑う。
「別にお前なら切り抜けられるだろが!!!」
皮肉めいた言葉を言ってやる。修羅場は俺より場数踏んでんだから・・・
ん???なんだろう???
指に違和感が????
指輪???
「た・・・たが・・・田神????・・・これ・・・・」
俺は指輪を指し聞いてみる。田神は自分の指を見せ
「俺とお揃い。言ったろ?まだ渡してないって。渡したからな。失くすなよ」
そういって笑う顔は少し赤い。
「何で?・・・俺のサイズ知ってんの?・・・ってか他に好きな奴いたんじゃねの???」
あれ?どうなんてんだ??わけがわからなくなってきた。
「八神お前バカ?俺ちゃんと返事したろ?」
うん。まぁ。確かに紙にはそう返事してくれたけど・・・・
「それってマジで俺のこと?」
嘘???マジで???
「あのさ。好きでもねぇ男にキスなんかしねぇぞ俺は!!!!」
え~っと・・・
「じゃぁ何で指輪なんか?」
何で嵌めてんだよ・・・
「そりゃぁ~。虫除け。後はお前の反応が見たくてかな」
んだよそれ!!!
「人を試したのかよ!!!!」
なんかムカつく。田神の奴!!!
「だってこうでもしねぇとお前って本音いわねぇじゃん。俺はさぁ色々とアプローチしてきたつもりだけど???」
ほえ??
「もしかして・・・今までのセクハラまがいのスキンシップのことかよ???」
俺は恐る恐る聞いてみる。
「当たり」
にっこりと笑われ言われてしまう。あれが・・・そうだったのかよ・・・・
「でも・・・お前・・・いろんな奴と付き合ってじゃねぇか!!!」
俺だけが悪いわけじゃねぇ~!!!!
「ん?そうだっけ?」
かー。ムカつく。
「田神のバカヤロー!!!!」
ふざけんなバカ!!!
「よく言うぜ。俺とのキスで感じて腰砕けのくせして」
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「田神のバカヤロー!!!!!!!」
俺は思いっきり田神に向かってカバンを投げつけた。が
それは田神にぶつかる事無く受け止められてしまったのだが・・・
「なぁ。八神。マジでお前のこと好きだから俺と付き合ってくれよ。その為に色々と探してやっとお揃いの気に入るリング見つけたんだぜ?」
急に田神が俺の前にしゃがみ真面目な顔で言ってくる。俺は・・・
俺は返事の代わりに田神の首に抱きついてやった。
でもそれだけじゃ可哀相だから
「俺も田神が好きだ」
精一杯の気持ちを込めて言ってやった。そしたらギュッと抱きしめ返された。
俺たちはもう一度触れ合うだけのキスを交わした。
翌日
「仁。ついに独り身じゃなくなったんだね」
駿のその一言でみんなが俺を見る。そして目敏い奴が俺の指に嵌ってる指輪に気付き
「や・・・八神それさ・・・田神とお揃いじゃねぇ?」
そう聞いてくる。俺は
「さぁ?」
しらを切ろうとしたのだが・・・・
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俺は聞いてみる。
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俺はそういう。
「八神~!!!!!何で????何で田神なんだよ~」
「マジで田神とお揃いなのかよ???」
「なんで~???」
俺はこの後30分ぐらい質問攻めにあった。
が
田神の
「こいつは俺のもんだ!!!」
宣言によりあっけなく終結した。
あいつの付けていた指輪・・・・
それは俺への当て付けと虫除けガードだった。
もう我慢しなくてもいい
もう耐えなくてもいい
俺の思いはあいつに伝わったから・・・・・。
Fin
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