人はそれを愛と呼び、彼は迷惑だと叫ぶ。

槇瀬光琉

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温もりに包まれて

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「なぁ、侑司」
きっと断られるかもしれないけど、ある目的のために声をかけた。
「なんだよ」
俺の問いに返事をしてくれるが言葉にしていいのか戸惑う。


「あの…な…」
そこまで言って黙った俺。でも菊池からは何も言葉がない。俺が言い出さない限りこの男は言わないだろう。
「あの、な」
だけど…言葉に出して言えなくて

「病人を襲う気はねぇぞ」
俺が言葉に出せなくて、口の中でもごもごとしていたら言われた言葉に驚き菊池を見た。
「なんとなく言い出しそうなことはわかる」
溜め息交じりに言われた言葉。

「なんで!」
だからつい叫んだ。
「叫ぶな。ぶり返すからだ。折角そこまで下がったんだ、もう少し我慢しろ」
俺とは対照的に冷静な菊池。

「なんでだよ…」
菊池の言ってることもわかるけど…唇を噛み締めて菊池から視線を逸らせば
「いつになく不安定になってんのはわかんてんだけどな。噛むな、傷になる」
親指で噛み締めた唇を開かせられる。

「陽葵」
いつになく優しい音色で名を呼ばれてびっくりした。
「な、んだよ」
驚いたまま返事したら言葉が途切れた。

「もう少しだけ我慢しろ。そうしたら、ちゃんと俺の温もりで抱いてやる。その身体に刻んでやるから」
俺の頬を撫でながら紡がれる言葉は何時に優しく、それでいて漢の瞳をしていた。
「あっ、ぅん」
その瞳に吸い込まれるように素直に小さく頷いた。

「いい子だ」
二ッと小さく笑いながら塞がれる唇は何時になく熱い。

「んっ、ふぅ、ぁ、ん」
触れるだけのキスかと思ったら舌まで入ってきた。いつになく、濃厚な口付け。


ヤバい!クラクラしてきた。


「んっ、ゆぅ、ん、ぁ、」
酸素が欲しいかも…

「今はこれだけで我慢しろ。代わりにずっと傍で抱きしめててやるから」
耳元で囁かれた言葉に小さく頷き
「絶対だからな」
ギロッて菊池を睨めば
「当たり前だろうが。ほら、大人しく横になれ抱き締めててやるから」
小さく笑いながら本当に俺の隣に横になり抱きしめてくれる。


「ゆぅ、じ、ありが、とぉ」
菊池の胸に顔を埋めて呟きのようにお礼を口にした。横になって抱きしめられたら途端に眠気が襲ってきたんだ。
「あぁ、今はゆっくり治せ」
そんな言葉と共に頭に落とされる小さなキス。俺はその言葉に頷きそっと目を閉じた。


俺を包み込んでくれる侑司の温もりが泡沫の中へと誘っていく。


俺が甘えられる温もりをくれる。


乱暴な俺をありのままに受け止めてくれる温もり。


俺はもっとずっとこの温もりに包まれていたい。


菊池侑司の温もりに…


Fin


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