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求める想い
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好きだと気が付いて自分の気持ちを告げたのは何時だっただろうか?
熱で魘される中、見た夢を思い出しながらふとそんなことを思った。
あれはまだ小学生の頃で、俺の記憶が無くなるずっと前のことだったと思う。
あの頃はまだ俺が侑司にくっついて歩いてた。というか、侑司が俺を連れ出してくれてたんだ。あの両親の元から…。
俺の両親は仲がいい。子供がいようが、その子供の友達がいようが、気にしないぐらいに仲がいい。ベタベタ、イチャイチャ…。子供の前でチュッチュッとキスをしなかっただけまだましだろう。
だけど、見てるこっちが胸焼けするほどデロデロの甘々なバカップル夫婦だ。いや、侑司のとこの両親も仲は良かったが、俺の所よりはまだおとなしかった。
そんな両親の傍にいるのが嫌で、小学生だっていうのに俺は反発しまくってた。この頃にはもう既に俺は狂暴だったんだ。
それでも、侑司はそんな俺を気にすることなく傍にいてくれて、甘えさせてくれた。愚痴だって、ケンカだってしてくれた。
俺はそんな侑司に依存し始めたんだ。俺の行動をとがめるわけでもなく、普通に接してくれるし、与えてくれる優しさが俺には嬉しかったし、ずっと傍にいてほしいって思った。傍にいたいと思った。
それが恋だと気付いたのは侑司が女の子に告白されているときだった。
ダメもとで好きだって伝えた。男の友情だって思われるかもって思った。でも、侑司からの返事は違った。
『俺も好きだ』
それがどんなに嬉しかったことか。
でも…
俺はそんな気持ちも、感情も、菊池侑司本人もすべて忘れてしまっていた。
6年間。俺は菊池侑司という存在を自分の中から消してしまっていたのだ。
「こら、病人が何やってやがる」
そんな言葉と共にむにっと鼻をつままれた。
「まら、にゃにみょ、やちぇにゃい」
つままれたまま話したから変な言葉になったし。
「嘘つけ。難しい顔でずっと考え込んでやがって。また熱が上がってくるぞ」
溜め息交じりに紡がれる言葉。この男には隠せないらしい。
「夢…夢を見て…ガキの頃を思い出してた…」
ポツリと呟きのように答えれば
「そうか。あの時の想いと今の想いはきっと…いや、随分と変わったからな」
俺の頭を撫でながら答える侑司の表情は陰になっていてよく見えない。
「後悔…してるのか?」
だからつい、そんなことを聞いてしまった。
「後悔?あぁ、少しだけな」
「そっか」
その言葉にズキリと胸が痛む。
「もう少し、早く帰ってくるべきだったなってな」
その言葉に驚いて侑司の顔をマジマジと見れば
「もう少し、早く帰ってこれば陽葵をここまで不安にさせなかっただろ?」
苦笑を浮かべながら告げられる言葉にますます驚く。
「…あっ…でも…俺、記憶が…」
早く帰ってきたとしても俺の記憶は戻ってなかったはず。
「そんなの気にしねぇ。記憶がねぇお前を落とす気でいたしな」
なんてハッキリ言われてまたビックリした。
「だけど、お前…俺が相談したとき断ったじゃねぇか」
そう、ふとそれを思い出した。
「そりゃ断るだろが。俺とやってる夢見て変になってるやつの言葉なんぞ信じられるか」
あっさりと言われて何も言い返せなかった。
「…じゃぁ…今の俺は?」
今の俺の言葉は?俺の想いは信じてくれるんだろうか?
って聞いてから全然返事が返ってこなくてダメなのかって思ったら
「いっ!」
ビシって結構いい音をたてながらデコピンされた。痛い。メチャメチャ痛い。俺病人なのに…
「ほとぼりからじわりじわりと攻めて狂暴なお前を取り戻してんだぞ俺は。何のためにこんなめんどくせぇことしたと思ってやがる。全部お前だからだろうが」
呆れ顔で言われた言葉をもう一度頭の中で反芻して俺は真っ赤になった。遠回しに告げられた告白。
そう、この俺だからじわじわと身動きが取れなくなるまで周りから固めていったという。己の中にある狂暴性をも愛するがために…。
「…侑司…俺…侑司が好きだ…」
あの頃と今では同じだけど違う気持ち。あの頃よりも強く重くなった想い。
「そうか。奇遇だな。俺もお前が好きだぜ」
小さく笑いながら近づいてくる顔。そっと触れる唇を受け止めながら俺はギュッと侑司の服を掴んだ。
あの頃と変わらぬ優しさをくれる男。
あの頃と変わらぬ愛情をくれる男。
あの頃以上に重くなった想い。
あの頃よりも求める想い。
俺はこれから先もずっと菊池侑司を求めるんだ。
ずっと傍にいられるように…
Fin
熱で魘される中、見た夢を思い出しながらふとそんなことを思った。
あれはまだ小学生の頃で、俺の記憶が無くなるずっと前のことだったと思う。
あの頃はまだ俺が侑司にくっついて歩いてた。というか、侑司が俺を連れ出してくれてたんだ。あの両親の元から…。
俺の両親は仲がいい。子供がいようが、その子供の友達がいようが、気にしないぐらいに仲がいい。ベタベタ、イチャイチャ…。子供の前でチュッチュッとキスをしなかっただけまだましだろう。
だけど、見てるこっちが胸焼けするほどデロデロの甘々なバカップル夫婦だ。いや、侑司のとこの両親も仲は良かったが、俺の所よりはまだおとなしかった。
そんな両親の傍にいるのが嫌で、小学生だっていうのに俺は反発しまくってた。この頃にはもう既に俺は狂暴だったんだ。
それでも、侑司はそんな俺を気にすることなく傍にいてくれて、甘えさせてくれた。愚痴だって、ケンカだってしてくれた。
俺はそんな侑司に依存し始めたんだ。俺の行動をとがめるわけでもなく、普通に接してくれるし、与えてくれる優しさが俺には嬉しかったし、ずっと傍にいてほしいって思った。傍にいたいと思った。
それが恋だと気付いたのは侑司が女の子に告白されているときだった。
ダメもとで好きだって伝えた。男の友情だって思われるかもって思った。でも、侑司からの返事は違った。
『俺も好きだ』
それがどんなに嬉しかったことか。
でも…
俺はそんな気持ちも、感情も、菊池侑司本人もすべて忘れてしまっていた。
6年間。俺は菊池侑司という存在を自分の中から消してしまっていたのだ。
「こら、病人が何やってやがる」
そんな言葉と共にむにっと鼻をつままれた。
「まら、にゃにみょ、やちぇにゃい」
つままれたまま話したから変な言葉になったし。
「嘘つけ。難しい顔でずっと考え込んでやがって。また熱が上がってくるぞ」
溜め息交じりに紡がれる言葉。この男には隠せないらしい。
「夢…夢を見て…ガキの頃を思い出してた…」
ポツリと呟きのように答えれば
「そうか。あの時の想いと今の想いはきっと…いや、随分と変わったからな」
俺の頭を撫でながら答える侑司の表情は陰になっていてよく見えない。
「後悔…してるのか?」
だからつい、そんなことを聞いてしまった。
「後悔?あぁ、少しだけな」
「そっか」
その言葉にズキリと胸が痛む。
「もう少し、早く帰ってくるべきだったなってな」
その言葉に驚いて侑司の顔をマジマジと見れば
「もう少し、早く帰ってこれば陽葵をここまで不安にさせなかっただろ?」
苦笑を浮かべながら告げられる言葉にますます驚く。
「…あっ…でも…俺、記憶が…」
早く帰ってきたとしても俺の記憶は戻ってなかったはず。
「そんなの気にしねぇ。記憶がねぇお前を落とす気でいたしな」
なんてハッキリ言われてまたビックリした。
「だけど、お前…俺が相談したとき断ったじゃねぇか」
そう、ふとそれを思い出した。
「そりゃ断るだろが。俺とやってる夢見て変になってるやつの言葉なんぞ信じられるか」
あっさりと言われて何も言い返せなかった。
「…じゃぁ…今の俺は?」
今の俺の言葉は?俺の想いは信じてくれるんだろうか?
って聞いてから全然返事が返ってこなくてダメなのかって思ったら
「いっ!」
ビシって結構いい音をたてながらデコピンされた。痛い。メチャメチャ痛い。俺病人なのに…
「ほとぼりからじわりじわりと攻めて狂暴なお前を取り戻してんだぞ俺は。何のためにこんなめんどくせぇことしたと思ってやがる。全部お前だからだろうが」
呆れ顔で言われた言葉をもう一度頭の中で反芻して俺は真っ赤になった。遠回しに告げられた告白。
そう、この俺だからじわじわと身動きが取れなくなるまで周りから固めていったという。己の中にある狂暴性をも愛するがために…。
「…侑司…俺…侑司が好きだ…」
あの頃と今では同じだけど違う気持ち。あの頃よりも強く重くなった想い。
「そうか。奇遇だな。俺もお前が好きだぜ」
小さく笑いながら近づいてくる顔。そっと触れる唇を受け止めながら俺はギュッと侑司の服を掴んだ。
あの頃と変わらぬ優しさをくれる男。
あの頃と変わらぬ愛情をくれる男。
あの頃以上に重くなった想い。
あの頃よりも求める想い。
俺はこれから先もずっと菊池侑司を求めるんだ。
ずっと傍にいられるように…
Fin
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