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ただ抱きしめてほしい

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ただ、ただ、抱きしめてほしかったんだ。


熱に侵された身体を抱きしめてほしかったんだ。



「今度は何があった?」
額に熱さましシートを貼りながら聞いてくる言葉に小さく首を振った。何かがあったわけじゃないんだ。嫌な夢を見た。ただそれだけだった…。
「夢でも見たか?」
その言葉に驚いた。でもそれは当たっていたので小さく頷いた。
「どうしてほしい?」
頭を撫でながら紡がれる言葉に首を振りかけて気怠い腕を差し出す。抱きしめてくれと…。


自分でもどうしようもないんだ。すべてを拒絶した身体は嫌な夢を見ただけでも熱を出す。昔はこんなんじゃなかった。


ならどうして?


一人で自問自答を繰り返して出た答えは簡単だった。



【菊池侑司の存在を忘れていたから】


菊池のことを思い出す前の俺だったら拉致られたりしても、こんなふうに熱は出していなかった。だけど、菊池侑司という存在を思い出し、子供の頃の自分を取り戻したらダメだった。


それは俺が菊池侑司に依存しているから。だから拒絶をした身体は毒素を出すかの如く熱を出す。それも簡単に…。そして長く…。


「ほら、余計なことを考えてないで寝ろ。折角さがってたのにまた上がってきてんぞ」
そんなこと言いながら隣に寝るのは当たり前と言わんばかりに横になり俺の身体を抱きしめてくれる。
「ゆぅ…あり…がとぉ…」
その優しさが嬉しかった。本当は面倒だって思われても仕方がないのに…。そんな言葉一つも言わずに俺の看病をしてくれる。
「傷ついてる恋人を看病するのは俺の役目だろ。変なこと気にしてねぇで腕の中で安心して寝ろ」
シートの上からキスをしながら言われる言葉に小さく頷いた。だってそれは本当のことだから…。


菊池に抱きしめられると嘘のように安心するんだ。


だから…


抱きしめてほしかったんだ…。


熱で侵されたこの身体をただ、抱きしめてほしかった。



Fin

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