166 / 180
鏡の中の自分(番外的な話)
しおりを挟む
桐渓の一件から記憶が戻った俺。でも、何かが違う。
なにが?
その何かがわからない。何が違うのかがわからない。
記憶のない記憶。音のない世界、色褪せた世界。それはどちらも俺の記憶の中にない記憶。
なんでこんなものが記憶の中にあるのか?
それすらもわからない。
菊池に聞いてもはぐらかされた。あいつはちゃんと教えてはくれない。それが余計に俺を苛立たせた。どうしようもなくて、他人に八つ当たりしそうだった。
夢の中、離れていく背中を追いかけて手を伸ばせばコツリと見えない壁に阻まれた。
目の前に映るのは自分。でも何かが違う。
夢を見るたびに鏡の中の自分と見るようになった。それと同時に記憶のない記憶が俺を蝕んでいく。一体何なんだこれはと苛立ちだけがどんどん募っていった。
そんなある日、目の前で起きてる乱闘。俺の傍には鍋谷と二村。目の前には菊池と幸永。
何かが可笑しい状況。なんで風紀委員じゃない幸永が乱闘を止めているんだろう?そう思いながらずっと見ていたら菊池の背中が赤く染まった。
それが全ての引き金だった。
『いつまで寝てんだお前』
そう告げてくる鏡の中の自分。
「何を言って?」
意味が分からない。
『あいつは俺を待ってるんだ』
あいつとは?
『早く思い出せ本当のお前を』
ニヤリと笑う自分。
「うるさい、うるさい、うるさい!」
うるさいと叫んだ瞬間、目の前の鏡が割れた。そして、鏡の破片が俺めがけて飛んでくる。
「うわぁぁぁ!!!」
飛んでくる破片を避けるように両腕で顔を隠せば、腕に突き刺さる破片。腕だけじゃなくて、腹や足にも突き刺さる。
突き刺さった破片が一個一個、色鮮やかな記憶となって自分の中に蘇ってくる。
幼かったころ、自分の周りで起きていた出来事。俺が侑司に対してふるっていた暴力。本来の自分の性格。両親のこと。桐渓に壊される前までの記憶が次々と鮮明に蘇ってくる。
あぁ、あの男は俺を蘇らせたかったのか。本来の俺を…。中途半端に目覚めた俺を覚醒させたかったのか…。
だが、色々と気にらねぇ。
俺の忘れろと言ったことも、6年も俺を置いていったことも、何もかもが気に入らねぇ。
「ご機嫌斜めか」
なんて楽しそうにいうこの男が憎らしい。
「うるせぇ」
だから手が出たのは許せ。
だがお前はこんな俺を待ってたんだろう?
周りの奴が騒いでるけど気にしねぇ。が、仕方がないから一旦、殴るのだけは止めてやる。
それでも、菊池が無言で許可をくれたから俺はあいつの腹に拳を入れた。
くそっ、腹筋がかてぇ。クソやろ、カッコよくなりやがって…。
でも…やっと、やっと本当の俺が目覚めた。
菊池侑司が好きだと言ってくれた俺が…。
凶暴な俺が…。
Fin
なにが?
その何かがわからない。何が違うのかがわからない。
記憶のない記憶。音のない世界、色褪せた世界。それはどちらも俺の記憶の中にない記憶。
なんでこんなものが記憶の中にあるのか?
それすらもわからない。
菊池に聞いてもはぐらかされた。あいつはちゃんと教えてはくれない。それが余計に俺を苛立たせた。どうしようもなくて、他人に八つ当たりしそうだった。
夢の中、離れていく背中を追いかけて手を伸ばせばコツリと見えない壁に阻まれた。
目の前に映るのは自分。でも何かが違う。
夢を見るたびに鏡の中の自分と見るようになった。それと同時に記憶のない記憶が俺を蝕んでいく。一体何なんだこれはと苛立ちだけがどんどん募っていった。
そんなある日、目の前で起きてる乱闘。俺の傍には鍋谷と二村。目の前には菊池と幸永。
何かが可笑しい状況。なんで風紀委員じゃない幸永が乱闘を止めているんだろう?そう思いながらずっと見ていたら菊池の背中が赤く染まった。
それが全ての引き金だった。
『いつまで寝てんだお前』
そう告げてくる鏡の中の自分。
「何を言って?」
意味が分からない。
『あいつは俺を待ってるんだ』
あいつとは?
『早く思い出せ本当のお前を』
ニヤリと笑う自分。
「うるさい、うるさい、うるさい!」
うるさいと叫んだ瞬間、目の前の鏡が割れた。そして、鏡の破片が俺めがけて飛んでくる。
「うわぁぁぁ!!!」
飛んでくる破片を避けるように両腕で顔を隠せば、腕に突き刺さる破片。腕だけじゃなくて、腹や足にも突き刺さる。
突き刺さった破片が一個一個、色鮮やかな記憶となって自分の中に蘇ってくる。
幼かったころ、自分の周りで起きていた出来事。俺が侑司に対してふるっていた暴力。本来の自分の性格。両親のこと。桐渓に壊される前までの記憶が次々と鮮明に蘇ってくる。
あぁ、あの男は俺を蘇らせたかったのか。本来の俺を…。中途半端に目覚めた俺を覚醒させたかったのか…。
だが、色々と気にらねぇ。
俺の忘れろと言ったことも、6年も俺を置いていったことも、何もかもが気に入らねぇ。
「ご機嫌斜めか」
なんて楽しそうにいうこの男が憎らしい。
「うるせぇ」
だから手が出たのは許せ。
だがお前はこんな俺を待ってたんだろう?
周りの奴が騒いでるけど気にしねぇ。が、仕方がないから一旦、殴るのだけは止めてやる。
それでも、菊池が無言で許可をくれたから俺はあいつの腹に拳を入れた。
くそっ、腹筋がかてぇ。クソやろ、カッコよくなりやがって…。
でも…やっと、やっと本当の俺が目覚めた。
菊池侑司が好きだと言ってくれた俺が…。
凶暴な俺が…。
Fin
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説

青少年病棟
暖
BL
性に関する診察・治療を行う病院。
小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。
※性的描写あり。
※患者・医師ともに全員男性です。
※主人公の患者は中学一年生設定。
※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。



男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる