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掴んだ制服
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理事長に脱走した子猫を渡して、二人で戻る間、会話なんてものがなくてそれがなんか寂しいって思った。
手を伸ばせば届くのに、それすらも出来なくて、俺は俯いた。
自分の中にある小さな蟠り、後悔、そんなものがグルグルと渦巻いている。俺が何も言わないから菊池も何も言わない。そうわかってるのに言葉が出ない。
俺も菊池もそう話す方じゃないし、外だと本当に何も言わない。
俺は自分の傍にいなかった6年の間、菊池が何をやっていたのか知らない。怪我の治療してたのは聞いた。
その後は?
なんで6年も戻ってこなかったんだ?
それを聞いたら教えてくれるんだろうか?
俺はそっと、手を伸ばし、菊池の制服の裾を掴んだ。それだけでいいって思ったんだ。
それでも、菊池からの反応はなくて、迷惑かなって思って手を放したら、放した手は菊池に捕まった。
「裾なんか掴んでねぇで手ぇ出せばいいだろうが」
なんて言いながら握られる手。時々こうやってこの男は俺を驚かせて喜ばせる。
「いや、だって、迷惑かなって…」
だから言い訳じみた言葉を口にする。
「恋人と手を繋いでなにがわりぃんだ?いいんじゃねぇの?」
それは変に遠慮するなと言っている。言葉に出して言わなくても、傍にいることも、隣に立つことも許されているのはお前だけなんだぞと伝わってくる。
空白の6年間とか、菊池に残る傷痕とか、俺には考えなきゃいけないことが山のようにあるけど、そんなの考えるなって言わんばかりに俺に優しさをくれるのは菊池だけなんだ。
相手が菊池だから、こうやって悩むし、イラ立つし、不安になるし、寂しくなるし、嬉しくなるんだ。
全部、菊池侑司が俺に係わってるから。俺だけをちゃんと見てくれるから…。
「侑司…甘えたいんだけど…」
だから俺の望みを叶えてくれ。
「部屋まで待てばな」
ギュッと握られて手に力が入る。
「ん」
だから俺も握り返して返事をした。こういう時のこいつはちゃんと俺の望みを叶えてくれるから…。
結局、俺たちは会話らしい会話もなく、寮の部屋まで帰ったんだ。
帰る途中で菊池がちゃんと先に帰るって連絡してるの俺知らなかった。
帰ってから聞いて俺は驚いた。
もしかして俺の行動バレバレなんだろうか?
Fin
手を伸ばせば届くのに、それすらも出来なくて、俺は俯いた。
自分の中にある小さな蟠り、後悔、そんなものがグルグルと渦巻いている。俺が何も言わないから菊池も何も言わない。そうわかってるのに言葉が出ない。
俺も菊池もそう話す方じゃないし、外だと本当に何も言わない。
俺は自分の傍にいなかった6年の間、菊池が何をやっていたのか知らない。怪我の治療してたのは聞いた。
その後は?
なんで6年も戻ってこなかったんだ?
それを聞いたら教えてくれるんだろうか?
俺はそっと、手を伸ばし、菊池の制服の裾を掴んだ。それだけでいいって思ったんだ。
それでも、菊池からの反応はなくて、迷惑かなって思って手を放したら、放した手は菊池に捕まった。
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なんて言いながら握られる手。時々こうやってこの男は俺を驚かせて喜ばせる。
「いや、だって、迷惑かなって…」
だから言い訳じみた言葉を口にする。
「恋人と手を繋いでなにがわりぃんだ?いいんじゃねぇの?」
それは変に遠慮するなと言っている。言葉に出して言わなくても、傍にいることも、隣に立つことも許されているのはお前だけなんだぞと伝わってくる。
空白の6年間とか、菊池に残る傷痕とか、俺には考えなきゃいけないことが山のようにあるけど、そんなの考えるなって言わんばかりに俺に優しさをくれるのは菊池だけなんだ。
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「侑司…甘えたいんだけど…」
だから俺の望みを叶えてくれ。
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ギュッと握られて手に力が入る。
「ん」
だから俺も握り返して返事をした。こういう時のこいつはちゃんと俺の望みを叶えてくれるから…。
結局、俺たちは会話らしい会話もなく、寮の部屋まで帰ったんだ。
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