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あと少し

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梅村から出た言葉に驚いたが、喜びが増した。

梅村の記憶にない記憶。それはいまだに梅村の中に眠る記憶。俺が取り戻したい記憶。


確実に梅村の記憶は戻り始めている。それこそ、本人の意図しない場所で…。


着実に、目覚めつつある記憶。


本来の梅村陽葵が呼び戻されるまで、あと少し。


「やたらと機嫌がいいな菊池」
ちょっとだけ不機嫌な顔をして俺を見上げる梅村に笑みが零れる。
「なんだ、ヤキモチか?」
その頬をつつきながら言えば

「なっ!ちっ!ちげぇし!」
なんて、不貞腐ってソッポを向くがその顔は真っ赤だ。
「説得力ねぇよ。やいてんなら、妬いてるって言っとけよ。そっちのが可愛い」
頬に唇を寄せれば

「クソッ!そーだよ!妬いてんだよ!誰のこと思ってんのか知らねぇーけど!」
ギロって睨むその目は涙目だ。
「なんだ、まだあのデタラメを気にしてんのか?」
八つ当たり気味に反論してくるから多分、あってるだろう。

「うっさい!お前は何も教えてくれないのわかってるから、俺はずっと我慢してんだよ!」
どうやら、この男は俺の気持ちを信用できてないらしい。呆れるが、それ込みで俺はこの男が好きなのだ。


俺に依存して、周りの意見に惑わされて、でも決して俺には確認せず、一人で悶々と考え込み、俺に八つ当たりを繰り返している。

「なんだ、そんなに俺は信用ねぇのか?」
ねぇって言われると、それはそれでショックだけどな。
「信用してないわけじゃない…ただ…怖いだけだ…」
目を伏せ言われる言葉。その唇も伏せた目も小さく震えている。

「ばぁーか。恋愛対象でお前以外は興味ねぇよ。そこんとこ自覚して自信持ってろ」
恋愛対象外でも他のヤツは興味ねぇけど。
「恋愛対象じゃなきゃ興味あるってことだな!やっぱり他のヤツとそういう如何わしいことしてるってことだろ!」
おいおい。こいつの思考回路はどうなってんだ?


「なんだ、如何わしいことして欲しかったのか?」
スルリと服の中に手を滑り込ませれば
「なっ、なっ、なっ、セっ、セクハラ!」
パニクりだす。おい、初めてじゃねぇだろ。

「あー、うっさい。俺が機嫌がいいのはお前がいるからだっての。いい加減にわかれバカが」
俺は騒ぎ始めた梅村の唇を少しだけ強引に奪った。


「んっ、ぁ、本当は…誰を思ってたんだ?」
唇が触れそうな位置でじっと顔を見てるときに不安げに紡がれる言葉。
「そうだな、梅村は梅村だが、お前の記憶にない記憶の中の梅村だ。もうすぐ逢えそうだったからな。早くお前の記憶が全部戻らねぇかなぁって思ってた。そしたら本当の意味で梅村陽葵ただ一人を愛してやれる」
だから、俺を信じて待ってろ。
「記憶の中の俺?…ならいいや」
自分のことだとわかったとたんにこれだ。

「まぁ、そういうことで、愛を育もうぜ」
「ぁっ、んっ、ばかぁ、痕、ん、つけるなぁ」


恋愛対象も、性的欲求もお前にしか見せてないのいい加減にわかってくれないか?


己の腕の中で安心したように眠る梅村の顔を見て小さな笑みが零れる。


幼かった頃のこいつはもういない。

それこそ、幼かった俺も。


だからこそ、本来の梅村陽葵を取り戻したい。


今なら、全ての、本来のこの男を受け止められるから…。



Fin


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