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記憶と思い

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菊池の様子をジッと窺っていた。


声をかけるわけでもなく、ただ、菊池の行動を目で追っていた。


記憶の中にいる菊池はまだ幼くて、俺も同じぐらいだ。

よく一緒に遊び、一緒にご飯も食べてた。時々兄弟?って聞かれるぐらい俺たちはずっと一緒にいた。


一緒にいるのが好きで、いつしか、子供ながらに菊池が好きだと思ったことがある。

『俺も好きだ』

半分は冗談で、半分は諦めで告白したことがあった。子供のごっご遊びじゃないけど…。

そのときあいつは好きだと言ってくれてすごく嬉しかったのを覚えてる。いや、思い出した。


その時にまた絶対に行こうと二人で約束した場所があったのを最近になって思い出した。これを言ったら菊池はどう反応するんだろうか?って思う自分と、菊池も忘れてるさと思う自分がいて結局は聞けていない。



なんで菊池を忘れてしまったのか?



ずっとそれを考えていた。いくら自分が壊れたからたと言って丸っと忘れるのはどうしてなんだろうと考えていた。


ずっと心の中に引っかかていたことを一つ思い出した。


『…俺を忘れろ…今、起きたことも…全部…忘れろ…』
あの時、あの男は桐渓の魔の手によって傷つき血を流してる状態で俺にそんなこと言ってきた。

あいつの温かい赤い血が俺の頬を濡らしていく中で、あいつはまるで呪文のように言ったのだ。まるで催眠術にかかるような感覚。俺の腕の中に崩れ落ちてくる真っ赤に染まった菊池の身体。俺はそれを受け止めながら泣き叫んだのを思い出した。

そこからぷっつりと記憶が途絶え、あの事件と菊池侑司と言う存在をすっぽりと忘れたのだ。


そんな俺がよく思い出せたなと思う。思い出したからこそ、俺はまた菊池侑司に惚れたのだ。



「な~に人を観察してやがんだ」
急にそんな声と共に菊池のドアップが出てて来て驚いて飛び跳ねたら派手に後ろに倒れた。
「いてて」
思いっきり腰打った。
「大丈夫か?」
俺を立たせながらちょっとバツの悪そうな顔をする菊池。
「俺…子供の時も言ったけど、侑司が好きだ。今も菊池を思い出してから、また侑司が好きになった」
菊池の腕を掴み俯きながら言えば
「俺を本気で惚れされるんだろ?干渉されないと物足りなくなるぐらい俺を惚れさせろ」
そんなことを言いながら額にキスされる。
「今でも干渉してる。キスなんて…お前とじゃなきゃしたくねぇよ」
ちょこっとだけ口を尖らせて言えば
「訂正しとけ、それ以上も俺以外は嫌だってな」
なんて言いながら尖らせた唇にチュッて軽い音を立ててキスをする。
「いや、そもそも侑司以外の奴に干渉されたくねぇよ」
菊池の胸に抱き着けば
「それもそうか。まぁ、それは俺の特権だからな」
そんな俺を抱きしめながら笑う菊池。


あぁ、そうか、確かに菊池侑司だけの特権だな。


なんて俺は菊池の腕の中で思った。


記憶の中の思いも、今の思いも結局は同じもの。


俺、梅村陽葵は菊池侑司に惚れてるということ。


俺は絶対にお前を本気にさせてやるからな!覚えてろよ菊池!



Fin


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