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8話
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黙り込んでいた先輩は急に立ち上がると部屋を出て行ってしまった。
「ごめんなさい」
俺はどうしていいのかわからなくて顔を埋めたままで、何度も謝っていた。
本当はこの部屋から出ていった方がいいんだろうけど、それも出来なかったんだ。
俺はなんて意気地なしなんだろう…。
「ねぇ、立って、出かけよう」
急にそんな声がしたと思ったら、そこには立華さんの姿をした先輩がいた。立華さんの姿と言っても服装はすごくラフな格好だ。
「えっと…」
どうしていいのかわからなくて惚けていたら
「ほら、立つ。行くよ」
強引に腕を掴まれ立たされた。そのままの勢いで部屋から連れ出された。
手を掴まれたままだから逃げ出すことも出来なくて、引きずられるように立華さんについて行くだけだった。
どれだけ歩いたのか、公園に辿り着いた。
「覚えてる?」
急にそんなことを聞かれて首を振った。
「もう、どれぐらい前かな?3年?4年前かな?私が高校1年の時だから4年かな?」
立華さんは公園のとある場所を眺めて懐かしそうにいう。
4年前と言われても俺には思い当たることがなくてわからなかった。
「この公園のあの場所」
立華さんが指さしたのは公園の隅の方にある階段。
「あの場所にずっと膝を抱えて座ってる子がいたの。あの薄暗い場所で、ずっと一人で。私はそんな彼をずっと見てた。そんな彼がある日、突然姿を消したわ。次に来たときはすごくボロボロで、全てを諦めたような顔して膝を抱えて座ってた」
立華さんがポツリポツリと話す。俺はそれをずっと黙って聞いていた。
「その子はずっと、来る日も来る日もその場所で座ってた。何をするわけでもなく、ただ一人でそこに座ってたわ。そんな彼の前にある日、一人の男の子が声をかけたの。その子にとって、男の子はすごく眩しすぎて、ちゃんと見れなかったの。はじめはうるさいとか、邪魔とか、言って男の子を追っ払ってた。でも…男のはそんな言葉なんて一度も聞かずに、彼と同じように来る日も来る日も彼の前に姿を見せた」
どこか懐かしげに話す声。
「彼は知らず知らずのうちに男のが自分の前に現れるのをすごく楽しみにしてたの。自分がどんだけキツク言い放っても、めげずに自分の前に現れる男の子に会える日を楽しみにしてた。自分の中で燻っていた何かが消えてくのを感じてたの。でも…次の日から男の子は来なかった」
少しだけ悲しげな表情をする。俺は傍で話を聞くだけしかできなかった。立華さんが誰を思って、誰の話をしてるのかわからなかったから…。
「この公園で会えなくなった男の子とは意外な場所で再会をすることになった。彼が通う学校で新入生として入学してきた男の子は彼のことを覚えていなかった。彼はそれが寂しいと思ったけど、彼が勝手に期待してただけだって気が付いたの。でも、男の子の笑顔は変わってなかった。彼はそれが救いだった。彼にとって男の子の笑顔が生きていくための糧になっていたから…」
立華さんがこんな話をするなんて思わなかった。だって、挨拶をするだけで会話ってそれほどしなかったから。
「でも、彼は…今度は彼の方から男の子の前から姿を消した。二度と会えない覚悟をして…」
そこまで話してから立華さんは黙ってしまう。その顔はすごく思いつめたような顔。そんな顔が見れずに俺は視線を逸らした。
立華さんが誰の話をしていて、誰を思っているのか俺には全くわからなかった。
ただ、この公園には俺にも思い出が少しだけあった。
朧気で、ちゃんと記憶には残ってないけど、この場所で確かに楽しい時間を過ごしてて記憶はある。
それがいつの記憶で、誰と会っていたのかも思い出せないけど…。
思い出せないのは精神的なショックで無くした記憶だから…。
何が原因でショックを受けて、記憶を無くしたのかは今もわからない。
それを知ってる両親はもうこの世にはいないのだから知るすべもない。
俺は立華さんから完全に視線を逸らし俯いて地面を見つめた。
お互いを沈黙が包み込んだ…。
「ごめんなさい」
俺はどうしていいのかわからなくて顔を埋めたままで、何度も謝っていた。
本当はこの部屋から出ていった方がいいんだろうけど、それも出来なかったんだ。
俺はなんて意気地なしなんだろう…。
「ねぇ、立って、出かけよう」
急にそんな声がしたと思ったら、そこには立華さんの姿をした先輩がいた。立華さんの姿と言っても服装はすごくラフな格好だ。
「えっと…」
どうしていいのかわからなくて惚けていたら
「ほら、立つ。行くよ」
強引に腕を掴まれ立たされた。そのままの勢いで部屋から連れ出された。
手を掴まれたままだから逃げ出すことも出来なくて、引きずられるように立華さんについて行くだけだった。
どれだけ歩いたのか、公園に辿り着いた。
「覚えてる?」
急にそんなことを聞かれて首を振った。
「もう、どれぐらい前かな?3年?4年前かな?私が高校1年の時だから4年かな?」
立華さんは公園のとある場所を眺めて懐かしそうにいう。
4年前と言われても俺には思い当たることがなくてわからなかった。
「この公園のあの場所」
立華さんが指さしたのは公園の隅の方にある階段。
「あの場所にずっと膝を抱えて座ってる子がいたの。あの薄暗い場所で、ずっと一人で。私はそんな彼をずっと見てた。そんな彼がある日、突然姿を消したわ。次に来たときはすごくボロボロで、全てを諦めたような顔して膝を抱えて座ってた」
立華さんがポツリポツリと話す。俺はそれをずっと黙って聞いていた。
「その子はずっと、来る日も来る日もその場所で座ってた。何をするわけでもなく、ただ一人でそこに座ってたわ。そんな彼の前にある日、一人の男の子が声をかけたの。その子にとって、男の子はすごく眩しすぎて、ちゃんと見れなかったの。はじめはうるさいとか、邪魔とか、言って男の子を追っ払ってた。でも…男のはそんな言葉なんて一度も聞かずに、彼と同じように来る日も来る日も彼の前に姿を見せた」
どこか懐かしげに話す声。
「彼は知らず知らずのうちに男のが自分の前に現れるのをすごく楽しみにしてたの。自分がどんだけキツク言い放っても、めげずに自分の前に現れる男の子に会える日を楽しみにしてた。自分の中で燻っていた何かが消えてくのを感じてたの。でも…次の日から男の子は来なかった」
少しだけ悲しげな表情をする。俺は傍で話を聞くだけしかできなかった。立華さんが誰を思って、誰の話をしてるのかわからなかったから…。
「この公園で会えなくなった男の子とは意外な場所で再会をすることになった。彼が通う学校で新入生として入学してきた男の子は彼のことを覚えていなかった。彼はそれが寂しいと思ったけど、彼が勝手に期待してただけだって気が付いたの。でも、男の子の笑顔は変わってなかった。彼はそれが救いだった。彼にとって男の子の笑顔が生きていくための糧になっていたから…」
立華さんがこんな話をするなんて思わなかった。だって、挨拶をするだけで会話ってそれほどしなかったから。
「でも、彼は…今度は彼の方から男の子の前から姿を消した。二度と会えない覚悟をして…」
そこまで話してから立華さんは黙ってしまう。その顔はすごく思いつめたような顔。そんな顔が見れずに俺は視線を逸らした。
立華さんが誰の話をしていて、誰を思っているのか俺には全くわからなかった。
ただ、この公園には俺にも思い出が少しだけあった。
朧気で、ちゃんと記憶には残ってないけど、この場所で確かに楽しい時間を過ごしてて記憶はある。
それがいつの記憶で、誰と会っていたのかも思い出せないけど…。
思い出せないのは精神的なショックで無くした記憶だから…。
何が原因でショックを受けて、記憶を無くしたのかは今もわからない。
それを知ってる両親はもうこの世にはいないのだから知るすべもない。
俺は立華さんから完全に視線を逸らし俯いて地面を見つめた。
お互いを沈黙が包み込んだ…。
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