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一大事
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学園中が朝から騒がしかった。
それもこれも原因はただ一つ。
風紀委員長の神尾大我が病欠したからである。しかも、前日まで生徒会長である聖唯斗が休んでおり、彼にうつされたんだろうという噂が一気に広まった。
そして、それを決定づける出来事が朝から起きたのだ。
「こ、コウちゃんママ!!!」
そんな叫び声が校医のいる部屋の前から聞こえた。神谷率いる数人の風紀委員が聖の護衛を兼ねて校医の所についてきて、ついうっかり聖が口走った言葉を聞き叫び声をあげたのだ。
「うるさい!君たちは風紀の仕事しておいで。神谷くん、わかってると思うけど神尾くんが不在の今、君が指揮をとることになるんだけど、くれぐれも気を付けること」
校医である神田、イヤ、今はすでに神尾になっているので、神尾が副委員長である神谷に指示をする。
「はい、わかりました」
神谷は少し硬い表情で返事をする。
「今から神尾くんを見に行ってくるから心配しなくても大丈夫だから。永尾くんにヘルプ出せば大丈夫」
神尾の言葉に聖が何度も頷く。それを見て神谷はほっと息を吐いた。
「みんな行こう」
そして、神谷は他の委員たちを連れて戻っていった。
「で、ゆいちゃん…本当にテンパりすぎだからね?校内でコウちゃんママはダメでしょう?」
聖と二人っきりになってから神尾が苦笑を浮かべながら告げる。聖がテンパりすぎる理由もわかるので強く言えないのだ。
「ごめん…だって…大我が…俺どうしていいのか…」
眉を垂らしなんとも情けない顔をする。
「うん、わかってる。だから今から様子を見に行くよ」
そんな聖の頭を撫でて寮の彼の部屋へ行くよと促せばコクリと小さく頷く。神尾は聖を連れて寮へと向かった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
聖が借りてる鍵を使い鍵を開け部屋の中に入れば
「っ、げほっ、ごほっ」
激しく咳き込む声が聞こえる。
「ゆいちゃんはここで待機ね。せっかく治ったのにまたもらうわけにはいかないからね」
聖をソファに座らせ神尾が言えば
「でも…」
聖が渋る。
「ダーメ。会長と委員長がダブルでダウンなんて笑えないでしょう?」
神尾の言葉に反論できなくて聖は渋々だが頷きソファに座った。
「いいこ。少し待ってて」
神尾は小さく笑い聖の頭を撫でて、いまだに酷い咳をしてる彼の元へと向かった。
「っ、げほっ、あーっ、くそぉ」
酷く咳き込みながら悪態をついてる彼は元気そうに見える。
「大ちゃん大丈夫?」
声をかけてから部屋に入れば
「あいつは?大丈夫か?」
自分よりも聖を優先するのは彼らしい。
「朝からテンパりすぎてみんながいるところでコウちゃんママ呼びしてくれたよ」
苦笑を浮かべて答えれば
「あー、自分の風邪をうつしたって朝からテンパってたからな。看病してればうつる可能性は高いからな」
自分の状況をよくわかってるのか、あっさりとそんなことを言う。
「熱はあるの?」
横になってる彼に聞けば
「起きた時は38.5℃だったけど今は37.7℃までは下がってる。熱が下がればなんとかなるんだけどな」
既に熱が下がり始めてると訴える。
「化け物扱いされそうだね君は」
苦笑してそんなことをいう校医に
「普段から言われてるから気にしねぇ。あいつが負い目感じるからな早く治さないと…」
彼は苦笑交じりに答えた。聖が気にしすぎるのをわかっているから、早く治すんだという。
「じゃぁ、咳止めと解熱剤を置いていくよ。あと、ゆいちゃんは今日と明日は接近禁止にしておくから明後日はうんと甘やかしてあげるんだよ」
その気持ちもわかるので、神尾は彼の希望通りにさせるために薬を置いていく。
「悪い、煌太さんあいつのこと頼む」
その言葉に
「コウちゃんママですからね。子供をあやすのは得意ですよぉ」
そう返事をして神尾は部屋を出ていった。
「ゆいちゃん、ゆいちゃんは今日と明日は大ちゃんに近寄っちゃだめだよ」
聖にそう声をかければ
「なんで?」
泣きそうな顔になる。
「うん、ゆいちゃんが近寄ったらせっかく治ったのにまたうつるかもしれないでしょ?だからね、2日だけ我慢しよう。そしたら大ちゃんがうんと甘やかしてくれるからね?」
まるで幼子に言い聞かせるように言うが、ずっとテンパってる聖は幼子とあまり変わらない。最も神尾もそれを教えてもらったのは最近なんだが…。
「んっ」
聖は不満げに頷くが、その理由の意味が分かるので頷くしかなかった。本当は看病したいけど、それはダメだと言われてるので我慢するしかない。
「よし、いい子。ゆいちゃん、大ちゃんは大丈夫だから学校に戻るよ。会長が不在じゃマズいからね」
神尾の言葉に聖は頷き、学校に戻る為に立ち上がった。そして二人は学校に戻っていったのである。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「本気で2日で治すとか化け物だからね大ちゃん」
3日目の朝、聖を連れて校医の所へ行ったときに言われた言葉。
「だから、熱が下がればなんとかなるって言っただろ?だから何とかした」
平然とした顔で言う彼に聖は
「ごめん大我…俺のせいで…」
半泣きになりながら謝った。
「今回は俺の不注意でもあるから大丈夫だ」
彼のそんな言葉に聖は小さく頷いた。
風紀委員長が病気で休んだことにより『鬼の霍乱だ!』と学園中が騒がしくなったのはこれが最初で最後の話だった。
そして、秘かにコウちゃんママが浸透していったのも内緒のことだった。
Fin
それもこれも原因はただ一つ。
風紀委員長の神尾大我が病欠したからである。しかも、前日まで生徒会長である聖唯斗が休んでおり、彼にうつされたんだろうという噂が一気に広まった。
そして、それを決定づける出来事が朝から起きたのだ。
「こ、コウちゃんママ!!!」
そんな叫び声が校医のいる部屋の前から聞こえた。神谷率いる数人の風紀委員が聖の護衛を兼ねて校医の所についてきて、ついうっかり聖が口走った言葉を聞き叫び声をあげたのだ。
「うるさい!君たちは風紀の仕事しておいで。神谷くん、わかってると思うけど神尾くんが不在の今、君が指揮をとることになるんだけど、くれぐれも気を付けること」
校医である神田、イヤ、今はすでに神尾になっているので、神尾が副委員長である神谷に指示をする。
「はい、わかりました」
神谷は少し硬い表情で返事をする。
「今から神尾くんを見に行ってくるから心配しなくても大丈夫だから。永尾くんにヘルプ出せば大丈夫」
神尾の言葉に聖が何度も頷く。それを見て神谷はほっと息を吐いた。
「みんな行こう」
そして、神谷は他の委員たちを連れて戻っていった。
「で、ゆいちゃん…本当にテンパりすぎだからね?校内でコウちゃんママはダメでしょう?」
聖と二人っきりになってから神尾が苦笑を浮かべながら告げる。聖がテンパりすぎる理由もわかるので強く言えないのだ。
「ごめん…だって…大我が…俺どうしていいのか…」
眉を垂らしなんとも情けない顔をする。
「うん、わかってる。だから今から様子を見に行くよ」
そんな聖の頭を撫でて寮の彼の部屋へ行くよと促せばコクリと小さく頷く。神尾は聖を連れて寮へと向かった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
聖が借りてる鍵を使い鍵を開け部屋の中に入れば
「っ、げほっ、ごほっ」
激しく咳き込む声が聞こえる。
「ゆいちゃんはここで待機ね。せっかく治ったのにまたもらうわけにはいかないからね」
聖をソファに座らせ神尾が言えば
「でも…」
聖が渋る。
「ダーメ。会長と委員長がダブルでダウンなんて笑えないでしょう?」
神尾の言葉に反論できなくて聖は渋々だが頷きソファに座った。
「いいこ。少し待ってて」
神尾は小さく笑い聖の頭を撫でて、いまだに酷い咳をしてる彼の元へと向かった。
「っ、げほっ、あーっ、くそぉ」
酷く咳き込みながら悪態をついてる彼は元気そうに見える。
「大ちゃん大丈夫?」
声をかけてから部屋に入れば
「あいつは?大丈夫か?」
自分よりも聖を優先するのは彼らしい。
「朝からテンパりすぎてみんながいるところでコウちゃんママ呼びしてくれたよ」
苦笑を浮かべて答えれば
「あー、自分の風邪をうつしたって朝からテンパってたからな。看病してればうつる可能性は高いからな」
自分の状況をよくわかってるのか、あっさりとそんなことを言う。
「熱はあるの?」
横になってる彼に聞けば
「起きた時は38.5℃だったけど今は37.7℃までは下がってる。熱が下がればなんとかなるんだけどな」
既に熱が下がり始めてると訴える。
「化け物扱いされそうだね君は」
苦笑してそんなことをいう校医に
「普段から言われてるから気にしねぇ。あいつが負い目感じるからな早く治さないと…」
彼は苦笑交じりに答えた。聖が気にしすぎるのをわかっているから、早く治すんだという。
「じゃぁ、咳止めと解熱剤を置いていくよ。あと、ゆいちゃんは今日と明日は接近禁止にしておくから明後日はうんと甘やかしてあげるんだよ」
その気持ちもわかるので、神尾は彼の希望通りにさせるために薬を置いていく。
「悪い、煌太さんあいつのこと頼む」
その言葉に
「コウちゃんママですからね。子供をあやすのは得意ですよぉ」
そう返事をして神尾は部屋を出ていった。
「ゆいちゃん、ゆいちゃんは今日と明日は大ちゃんに近寄っちゃだめだよ」
聖にそう声をかければ
「なんで?」
泣きそうな顔になる。
「うん、ゆいちゃんが近寄ったらせっかく治ったのにまたうつるかもしれないでしょ?だからね、2日だけ我慢しよう。そしたら大ちゃんがうんと甘やかしてくれるからね?」
まるで幼子に言い聞かせるように言うが、ずっとテンパってる聖は幼子とあまり変わらない。最も神尾もそれを教えてもらったのは最近なんだが…。
「んっ」
聖は不満げに頷くが、その理由の意味が分かるので頷くしかなかった。本当は看病したいけど、それはダメだと言われてるので我慢するしかない。
「よし、いい子。ゆいちゃん、大ちゃんは大丈夫だから学校に戻るよ。会長が不在じゃマズいからね」
神尾の言葉に聖は頷き、学校に戻る為に立ち上がった。そして二人は学校に戻っていったのである。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「本気で2日で治すとか化け物だからね大ちゃん」
3日目の朝、聖を連れて校医の所へ行ったときに言われた言葉。
「だから、熱が下がればなんとかなるって言っただろ?だから何とかした」
平然とした顔で言う彼に聖は
「ごめん大我…俺のせいで…」
半泣きになりながら謝った。
「今回は俺の不注意でもあるから大丈夫だ」
彼のそんな言葉に聖は小さく頷いた。
風紀委員長が病気で休んだことにより『鬼の霍乱だ!』と学園中が騒がしくなったのはこれが最初で最後の話だった。
そして、秘かにコウちゃんママが浸透していったのも内緒のことだった。
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