会長様ははらみたい

槇瀬光琉

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21話

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 Side 三条


「先輩、ちょっと今回は覚悟しておいてほしい」
「何をかな?」
 俺の言葉に先輩は不思議そうな顔をする。

「委員長からメールが飛んできたんで覚悟してください」
 何をと内容を言わなくてもメールが来たと言えばこの人には伝わるはずなんだ。1年の時から俺たちを見てきたこの人なら…。

「あの子は一体どういうふうに見分けてるのかなぁ?」
 本当に全部背負い込みだよ。と一人呟く先輩。
「神尾委員長には俺たちにない特殊能力があるのかもしれないですね」
これは俺もずっと思ってた。

俺たちよりもずっとずっと先を見てる男。そして適材適所で指示を出す。

先輩を送り届ける俺にメールをしてきたということは、そういうことなんだろう。的確な、ちゃんとした明言はなくとも、気を付けろとだけ送って来るときは大概、何かが起こるという忠告。そのおかげで俺はある程度、回避できているので助かっている。


現に今そのメールが来たということは恭先輩の所に送り届けるまでに何かがあるかもしれないから気を付けろという忠告。あの男がメールをしてきたということはある種の予感。そしてそれは確実に当たる。

「先輩、走らなくてもいいので、少しだけ早く歩けますか?」
俺は隣の先輩に声をかける。いくら安定期といえど無理をさせるわけにはいかないのだこの人は…。
「大丈夫だよ」
理由がわかったのか小さく頷いてくれた。

「じゃぁ、行きましょう」
俺は少し早く歩いてもらうようにお願いして歩き始めた。そして、


『SOS』


とだけ神尾にメールした。それであの男に伝わるからだ。


俺たちの後ろから数人の足音が近づいてくる。
「本当に…あの子って…」
先輩が呟いてる。
「メールはしてあるので、俺たちは目的の場所まで行きましょう」
俺は愁先輩を連れて少し先にある目的の場所へと向かった。そこで合流するために…。


「なぁ、痛い目を見たくなきゃそいつを渡せよ」
後ろから声をかけられ振り返ればそこにはかつての風紀委員だった先輩たち。
「渡すとロクなことが起きないので断ります」
俺は先輩を自分の後ろに隠した。

「生意気なんだよ、オメガかベータかわかんねぇような中途半端なヤツがよぉ」
そう言いながら殴りかかってきた。

俺は先輩を庇いながらそれをかわす。次から次へと繰り出される拳。俺はそれをかわしながら先輩を目的の場所まで連れていく。
「避けてばっかじゃ助からねぇぞ」
イヤらしい笑みを浮かべながらま殴りかかってくる。が、俺はそれを避けずにわざと殴られた。

「三条くん!」
先輩の声。
「ほら、どうした。もうおしまいか?」
勝ち誇ったようにニヤニヤと笑う男たち。

「三条くんもういいよ。僕を置いて君だけでも逃げて」
先輩がそんなことを言ってくる。
「愁先輩、なんで俺が救護班の総括をしてるか知ってますか?」
そんな先輩に俺は聞いてみた。

「えっ?」
意味が分からなかったのか不思議そうな顔をする。
「お前も一緒に可愛がってやるよ」
そう言いながら振り下ろされる拳

「風紀委員救護班総括の俺を舐めるな」
その拳を受け止め反対に男を床に沈めた。
「俺は1年の時はお前たちの被害者だったが、別に弱いわけじゃない。お前たちに抗える力は持ってる」
ハッキリと目の前の男たちに言ってやる。


そう、確かに俺も神谷も1年の時はこいつらにいいように扱われていた。だけど、決して弱かったわけじゃない。ただ、己の力の使い方をわかっていなかっただけ。下手をしたらこいつらと同じむじなになるかもしれなかった。そんな俺たちを神尾が守っていたのは俺たちをこいつらと同じ人間にさせないため。力の使い方を覚えさせるため。
だから、俺も神谷も風紀の中で役職についているんだ。だからこそ、俺も神谷も神尾の代わりに聖会長を保護してるんだ。それだけ俺たちには力があるから…。


「はっ、何を今更。お前ごとき俺たちの敵じゃねぇよ」
そう言いながら俺めがけて拳を振りかざしてくるから、俺はそれを受け止めようと身構えるが男たちの拳は俺に届くことはなかった。

「俺はお前らに言ったはずだが?卒業するまで大人しくしていろと。誓約書まで書かせたはずだが、忘れたとは言わねぇよな」
普段では考えられないような低くどすの効いた声と威圧的な背中が俺の目の前にあった。
「委員長」
俺が呟けば

「殴られたのか。ご苦労だった三条総括」
俺の顔をマジマジと見て、労いの言葉を口にする。
「いえ、委員長直々の任務は失敗が許されない仕事ですので大丈夫です」
俺は小さく頭を下げた。この場にこの男が来たのなら俺はもうお役目ごめんだからな。

「なぁ、俺がやってもいいかぁ?」
そんな声が後ろから飛んできてビックリした。
りょく先輩」
俺が呟けば俺の顔を見てその顔に皺が寄る。あぁ、ヤバいって思った。この人の前でケガを見せたらマズいって。

「なぁ、神尾、いいだろ?」
静かに問う声は怒気が込められている。その声が怖くて、俺は小さく身震いした。この人が怒ると怖いんだよ。
「それを言うなら俺もやりてぇんだけど?」
とまた違う声がする。

「恭もいたんだ」
愁先輩が安堵の溜め息をつけれど少しだけ顔が引きつってる。それもそのはずだ、前期生徒会長と副会長が揃い組だからな。どちらも暴君と呼ばれていた。

「ダメに決まってるだろ」
ギロリと2人を睨むその瞳はいつになく鋭い。暴君二人をも威圧する鋭い瞳。


1年の時、すでにこの鋭く威圧的な瞳で暴走していたアルファの男を沈めた。誰も逆らえぬこの男のこの瞳は怒りが露わになると微かに赤くなる。獲物を狩る獣のように…。きっと、聖はこの男のこの瞳は知らないだろう。聖の前では見せない顔だからな。


「チッ、わかったよ」
「しょうがねぇかぁ」
暴君二人が大人しく溜息をつく。逆らえば暴君二人ですらこの男に沈められることになるからだ。


「おい、出てこいよ吉沼よしぬま先輩」
怒りが乗ったままで告げる言葉はキツイ。吉沼と呼ばれた男はかつて暴走をしていた風紀委員。のそりとその姿を現した。
「俺はちゃんとお前に監視してろと言ったはずだが?この2人を狙うなとも言ったはずだよな?」
「俺は知らねぇよ。こいつらが勝手にやったことだ。だから俺はお前に情報を渡しただろうが」
神尾の言葉に吉沼先輩が苦虫を潰した顔で告げる。流石にその言葉を聞きみんなが驚いた。


えっと、神尾…お前は一体どういう約束をしてたんだ?


って俺は真剣に思った。


この男、本当に謎が多すぎる。


本当にこの男は敵に回したらダメな男だって思った。




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