会長様ははらみたい

槇瀬光琉

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14話

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side 唯斗


風紀委員室から戻って仕事をしようとしたら生徒会室の扉がノックされた。

「どうぞ」
そう返事をすれば、意外な人物が入ってきた。

「三条が来るなんて珍しくないか?」
俺が驚いたまま声をかければ
「今、風紀委員長が来客中で、副委員長が不在だからな。そうなると実質No.3の俺が出向くことになる。ということで、委員長から預かってきた書類だ」
苦笑気味に書類を手渡される。

それを受け取り、確認をしながら
「後でもよかったんだが…他に問題でも起きてるのか?」
三条に聞けば
「聖会長、神尾風紀委員長直々の命により只今から聖会長を神尾校医の元へと保護させてもらう」
ハッキリとそう告げ、ことりと薬の小瓶を2つ机の上に置かれた。

「マジか…」
小さく呟いて三条を見ればその腕にはしっかりと腕章が付けられていた。
「俺は委員長直々でしか会長を保護しないので、理由はわかりますよね?」
三条の言葉に小さく頷き、置かれた小瓶をとり呑んだ。俺専用の薬。一つは抑制薬で、もう一つは補助剤。補助剤は保護されているときに万が一にも発情した場合に飲めと言われたもの。俺は補助剤をポケットの中にしまい帰る準備をして

「みんなすまない、しばらく休むから後は頼んだ」
部屋の中にいる役員たちに声をかければ
「あなたはいいですよね。会いたいときに恋人に会って慰めてもらえますものね。僕は会いたくても会えないってのに…いい気なものだ…」
永尾からの冷たい言葉。

「永尾副会長、それは聖会長への侮辱ととらえていいのか?」
俺が反応する前に三条が声をかける。
「別に。好きにとればいい」
永尾の吐き捨てるような言葉。

「そうか、わかった。委員長に報告させてもらう。会長、行こう」
三条は永尾にハッキリと言って、俺を連れて部屋を出た。


「すまない三条。嫌な気分にさせただろ?」
校医の部屋に向かう途中で三条に謝れば
「いや、大丈夫だ。あいつはまだわかってないんだなって思っただけだ」
苦笑気味に言われた。

「永尾にとって神谷はかけがえのない存在だから…しょうがないのかなって…」
俺がぽつりと言えば
「いいや、あいつはわかってない。自分のせいで、会長と委員長が学校以外で会ってないのを気が付いてなさすぎだ。自分だけが被害者ぶってる。本当は会長も辛いんだってのを知らなさすぎだ」
少しだけイラっとした声で三条が言う。

「…気が付いてたのか…俺と大我が会ってないの…」
俺的にはそっちの方が驚きだった。
「神尾が俺に会長の保護を頼む時は神尾自身が聖唯斗に直接、会えない理由があるときだ。そのタイミングで俺はいつも会長の保護に向かってるんだ。気付いてないだろ?」
なんて悪戯っ子のように言われて

「確かに…そうかも…」
三条の言ってることは正しいなって思った。大我自身が忙しかったり何かあったときは大我ではなく、大概は三条が俺の所へ来ていた。
「それだけあんたは神尾に大事にされてるし、俺はあいつに信用されてるって証拠だ」
三条の言葉に驚く。

「そう言えば、ずっと三条が俺の保護してくれてるもんな。他のヤツでもいいはずなのに…」
三条の言葉を聞いて思った。俺が生徒会長という椅子に座ってからずっと、大我が来れないときは三条が俺を保護しに来てる。他の誰かでもいいと思うのに…。

「それには一つだけ理由があるからな」
三条は苦笑を浮かべる。
「理由?あっ、俺が聞いていいことじゃなかったらすまん」
聞きかけて俺が聞いていい話じゃなかった場合は聞けないとすぐに思った。

「会長は風紀の内部崩壊の話は知ってるか?」
三条に聞かれた言葉に驚きながら頷いた。
「俺は、神谷や前期委員長と同じで被害者に当たる」
「えっ?」
三条の言葉に驚いた。まさか三条も被害にあってたなんて思わないから…

「俺はオメガに近いベータなんだ。ベータなのには変わりないんだが、1年の頃はオメガかベータかはっきりしないときがあった。そん時に風紀の中のアルファにいいようにこき使われててな。俺も神谷達同様に性的暴行の対象になりそうだったんだ」
三条の身の上を聞いてますます驚く。俺の知らないことが多すぎる。

「で、俺も神尾にはずっと助けてもらっててな。内部崩壊させた後で、今のシステムを作るときに神尾が俺を救護班総括にして、神谷を副委員長にしたってわけだ。そんな俺だから神尾は俺に会長の保護を任せてる。神谷だって、神尾の代わりに会長の保護はしてただろ?」
三条の言葉にアッて思った。確かに大我がいないとき神谷が他の委員と一緒に俺の保護にあたってくれてたのを…。
「あれでも神尾は自分が信用できる人間にしか聖のことを任せないんだぞ。気付かなかっただろ?」
「うん、知らなかった。言われてあって思った。確かにNO.2とNO.3の人間しか俺の傍に来てないやって」
三条の言葉を聞き驚くけど、納得はする。確かに大我が来れないときは三条か神谷だった。

「神尾はもしものことも考えて行動してるからな。だから俺か神谷にしか聖の元にはいかせないんだ」
あいつはそれだけあんたのことを大事にしてるんだぜ。なんて三条に笑われる。嬉しい反面恥ずかしい。
「大事にしてもらってるってのはわかってるけど、人から言われると恥ずかしいな」
他人に言われると余計に恥ずかしい。

「だけど、神尾はそれをあんたに気付かれないように自然にやってのけてるからな。あんたが気付けないのはしょうがない」
三条の言葉にうんうんと頷いてしまった。よくわかってるな三条。
「神尾大我はあんたにベタ惚れなんだよ。本当にずっとな。まぁ、今はあたんもあいつにベタ惚れみたいだけどな」
なんて言われて顔が赤くなるのがわかった。恥ずかしい。

「って、俺ってそんなにわかりやすいか?」
人に気付かれるぐらい態度に出てたんだろうか?
「二人が一緒にいるとな。入り込めない空気が流れてる。お互いに仕事をしてる時でもな」
気付いてないだろ?なんていわれて頷いた。そんなの出してるつもりはないんだ。自分では…。
「まぁ、神尾は他の奴に牽制してるからな。こいつに手を出したらただじゃすまねぇーぞって」
「えぇぇぇ!!!」
三条の言葉に驚いた。一見飄々としてる大我がそんなことしてるなんて誰が思うものか。

「それだけ聖唯斗は神尾大我に守られてて大事にされてるってことだ。羨ましいぐらいにな」
三条はそう言いながら校医の部屋の扉を開けた。


あの男は一体俺の知らないところで何をやってるんだろうか?


俺の知らないところで俺の周りが守り固められていく。ほんと、俺が全然、知らないことばかりだ…


恐るべし神尾大我…



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