会長様ははらみたい

槇瀬光琉

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5話

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「どういうことですか!」
永尾が叫ぶ。

「言葉の意味通りだ。神谷本人による申し出で、お前には神谷に接近禁止を命令ずる」
俺はもう一度、さっきと同じことを永尾に言い放つ。
「なんの…何の権限があってあなたにその命令が出せるんですか」
納得のいかない永尾が食って掛かってくるが

「俺は風紀委員長だ。それに今回の神谷のことに関しては、第2の性に該当する。第2の性に関しての権限は生徒会でも生徒会長でもない。風紀委員と委員長であるこの俺にある。よってこれは覆すことは出来ない」
第2の性に関しての権限は俺にある。だからどんなに永尾が副会長であってもこの決定を覆すことは出来ない。

学園の風紀を守っているのが風紀委員だからこその決定権。それが例え生徒会長である聖が頼んできたとしても、俺自身は首を縦に振らない限り覆すことは出来ない。


「なんで、神谷くんがなんで僕を突き放すんですか!それに彼が何をあなたに言ったんですか!」
納得ができない永尾が怒鳴りながら聞いてくる。
「自分の胸に手を当てて聞いてみろ。神谷は嫌だったと訴えているが?」
だから、俺は徹底的にこの男の敵になろう。神谷自身が答えを出すまでの間…。

「何を言ってるんですか!僕たちはちゃんと同意だった!」
永尾の言葉に聖が顔を逸らす。本当のことを知ってるからな。本当はここに聖を連れてくるべきではない。こいつはこういうの苦手だから…。


親に捨てられた経験がある聖には酷な場面だ。


だから俺は目配せで拓輝に聖を頼む。溜め息をつきながら拓輝が聖の肩を抱き寄せる。聖は驚きながらも、拓輝のその行動が俺の指示いだとわかったのか小さく息を吐き、拓輝の方に身体の向きを変えた。


「お前だけが同意だと思ってかもしれないぞ?神谷は嫌だったと何度も言ってたからな」
神谷が拒んだのはたった一度だけ。避妊をしなかったあの瞬間だけ。それに気が付くかどうかは永尾次第。気が付かなければただのバカだ。ちゃんと周りを見ていない証拠。


普段はちゃんと冷静に判断することが出来る男だからな。ただ、今は頭に血がのぼってるし、神谷に拒絶されたことにショックを受けているから多分それも無理だ。

一人になって、冷静に考えることが出来れば、神谷からのメッセージに気が付けれはずだ。神谷からのSOSを…。2年も付き合っていたのだから…。


「嘘だ!そんなはずない!」
完全に血がのぼってるなこれは…。まぁ、気持ちはわからないでもない。数日前まで普通に一緒にいた存在が急に拒絶したらショックだし、気が可笑しくなるだろう。

何があったのか?何をやらかしたのか?どうして?

って自問自答を繰り返すだろう。こいつはずっと神谷のことを追いかけていたんだから…。


「これは決定事項だ。本日この瞬間から永尾健汰は神谷静哉への接近を禁止する」
俺はもう一度、同じ言葉を口にした。
「クソッ、なんでだよ!」
永尾はその場に膝をつき、自分の膝を何度も殴っていた。

「先生たちは何か言うことはありますか?なければこのまま俺は風紀の方に戻って他の委員の奴らにも事情を説明したいんですが?」
そんな永尾を俺は無視して、顧問二人と校医である拓輝に聞いてみる。

「俺は少し永尾と話をするよ。神谷のことは言わないから安心してくれ」
生徒会顧問である呉崎がいう。
「委員の方は神尾に任せる。俺もここに残って少し話がしたい」
風紀顧問の後藤も呉崎と同じことを言う。

「わかりました。では、お願いします」
俺は二人に永尾のことを任せた。
「俺はこのまま聖を連れて行く」
俺が聞く前に拓輝が言ったので
「任せる」
短く返事をして、俺はその場を後にした。


そのまま風紀委員室へと戻り、今回の件のことを他の委員たちに説明し、人員配置なども決め、禁止令に関する書類を作成した。


これからが大変になるなと思いながら俺は溜め息をついた。


問題なのは神谷と永尾だけじゃない。


俺と聖の問題でもある。俺たちにも同じことが起こりうるんだから…。


俺はもう一度、溜め息をつき椅子の背に深々と凭れた。


あいつを…唯斗を悲しませなきゃいいんだけどな…



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