ステップアップしてみようか?

槇瀬光琉

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step2 ハグをする

4話

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風紀委員室に戻って、自分の席に座り書類作成を始めた。


どれだけ時間がたったのか、コンコンと小さなノックの音がして


「あっ、会長いらっしゃ~い」
と軽いノリで牧野が部屋の中へ招き入れていた。

「悪いな壬生。まだ少し時間がかかるからソファで座って待っててくれないか?」
そんな壬生に声をかければ小さく頷いて、ソファに座った。

「じゃぁ、会長も来たことだし、俺たちは先に帰りますよ委員長」
牧野が帰る準備をしながら聞いてくるから
「あぁ、ご苦労だったな。帰ってゆっくり休めよ」
帰っても大丈夫だと返事をすれば

「委員長も早く帰ってあげてくださいよ」
牧野が壬生の方を見て言ってくる。
「あぁ、わかってる」
俺の返事を聞いて
「じゃぁ、会長お先に失礼しますねぇ」
壬生に声をかける。
「あぁ、お疲れ様」
そんな牧野に壬生も返事をすれば、牧野は他の委員の連中と本当に帰っていった。


「今日は悪かったな壬生」
書類の最終確認をしながらさっきの出来事を謝れば
「あれは…不良たちだけじゃなくて、他の生徒たちも思ってることなんだろ?」
そんなことを言ってくる。

風紀委員室に戻る途中で牧野が話してくれた話だ。壬生の中ではそれなりにダメージを喰らってる内容だったと…。


「必ずしもそうだとは言えないぞ。不良たちの中でもちゃんとお前のことを見て評価してる奴らもいる。一般生徒たちの中にもな」
こうやって俺が言ったところでこの男の心に響くかって言われるとわからないがな。
壬生は黙って俯いたままだ。

「帰ったら俺の部屋に来るか?」
確認の終わった書類をケースの中に入れながら聞けば、驚いた顔で勢い良く俺を見る。
「こんな場所で話す内容でもないだろ?プライベートな話は部屋に戻ってからでもできるしな」
帰る準備を始めながら理由を話せば
「い、いいのか?」
本当にいいのかと聞いてくる。

「いいから言ってるんだよ。ほら、帰るぞ」
ソファに座ってる壬生にいつものように手を差し出せば、慌てて立ち上がり俺の手を握る。俺は
「壬生、カバンも」
壬生のカバンも貸せと告げれば、言われたとおりにカバンを差し出してくる。俺は壬生のカバンも持って風紀委員室の部屋を出た。


学校から寮に帰るまでの間、特に会話なんてものなかったが、少しだけ俺の手を握る壬生の手に力が入っていた。


「部屋に来るなら、自分の用事を済ませてから来い。部屋の鍵は開けといてやるから」
お互いの部屋の前で、別れる前に言ってやれば、小さく頷いて壬生は自分の部屋に入っていった。俺も自分の部屋に入り先にシャワーだけでも浴びるかって考えながら寝室へといった。


シャワーだけ浴びて、髪の毛を拭きながら出て来たら丁度、壬生が部屋に入ってきたところだった。

「晩飯は食べたのか?」
頭を拭いたままで聞けば、首を横に振った。
「なんか食うか?」
壬生の食事事情はよく分からねぇから一応、確認も込めて聞くがやっぱり首を振る。
「じゃぁ、コーヒーでも飲むか?」
食べないなら飲むかと聞けば小さく頷いた。

「じゃぁ、こっち来て座って待ってろ」
俺が指を指した場所まできて、壬生は大人しく座った。俺はそんな壬生を見ながらコーヒーを淹れるための準備をした。


コーヒーを淹れてカップ2つ持って振り返れば壬生は俯いてじっと自分の膝の上で握りしめられた手を睨むように見ていた。

俺は壬生に気付かれないように溜め息をつき、カップをテーブルの上に置き、寝室に置いてある凭れるのに最高なでっかいクッションを持ってきて、壬生の後ろに置いて、クッションと壬生の間に座った。

「で、壬生はなにをそんなに考え込んでるんだ?」
後ろからやんわりとハグをしながら声をかければ
「えっ?はっ?なに?」
あまりにも突然な俺の行動に驚いたらしい。見事に間抜け顔で俺を見た。

「ん?ハグをしてるんだが?こんなこと部屋じゃなきゃ無理だろ?」
俺の行動を説明すれば、すぐにそれを理解し頷く。

イヤ、ハグぐらい外でもできるけどな。回りが騒ぐからしないだけで。


「ここなら、お前が思ってることを話せるかなって思って呼んだんだが、どうする?」
あの部屋での出来事は壬生にとって現実を叩きつけられたことになる。

自分では頑張ってるつもりだけど、他人からすれば頑張ってないと思われてるんだと…

この男の中にあった小さな刺が深く深く突き刺さった瞬間でもあった。

全部、頑張りを無かったかのように全否定されたからな。


俺の顔を見て、小さく首を振ってまた、俯いた。


全く、あのバカは面倒なことしやがって。


俺は何も言わず、壬生を引き寄せ自分の胸に壬生の頭を押し付けるように抱き締めてやる。俺の行動に驚いて抵抗した壬生だったが、俺が頭を撫でていれば、それが引き金となって俺の服を掴んで泣き始めた。



本当に、面倒なことをしてくれやがって…



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