ステップアップしてみようか?

槇瀬光琉

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step1 手を繋ごう

7話

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「委員長、少しよろしいですか?」
廊下を歩いていれば後ろから声をかけられ振り返れば稲生がいた。
「どうした?あいつが何かやったか?」
稲生が傍に来るまで待って確認すれば
「あっ、いえ、会長は大人しく生徒会室にいます。そうじゃなくて個人的な話がしたかったんです」
意外な言葉が出て驚いた。


「そこの教室で話すか」
少し先に空きの教室があるのでそこでいいかと聞けば
「そうですね」
素直に返事をくれた。


2人で空いてる教室に入り適当に椅子に座り


「で?話とは?」
稲生の話を聞くことにした。


「個人的といっても結局は壬生会長のことなんですが…」
稲生は少しだけ言いずらそうに切り出す。
「だろうな、言えよ。気にしねぇから」
俺は稲生の話を最後まで聞くから話せと促す。


「あの、本当に良かったんですか?会長のしたいことを委員長が手伝うというのは…。周りに反感を買うんじゃないかと…」
その言葉の意味は聞かなくてもわかる。


あのお坊ちゃま会長はいろんな意味で有名だが、意外に人気もあり、モテたりする。そういうのを危惧してるんだろう。
そして、俺が傍にいるということは、最下層の奴らが狙うんじゃないかということも…。

「そうだな、あいつは多分、自分がモテてるっていうのは気が付いてないぞ」
「えっ?嘘でしょう?」
俺の言葉に稲生が驚く。


「気が付いてないというか、興味がないんだろう。実は自分が恋愛対象で見られてるということに…」
そう言うところは呆れる。

恋愛も誰かと体験したいと思ってはいるが、周りから自分がモテているということに気が付いていないのと、周りの人間に興味がないという矛盾した思いを抱いている男なのだ壬生大翔というやつは。


「えっと…周りに目を向ければそういう対照になるであろう人物が多いというのに気が付いてないんですかあの人!」
俺の言葉に稲生が驚く。
「あぁ、自分の興味を持ったことには積極的に行動するが、興味がないモノにはトコトン拒絶をするからなあいつ。だから周りの人間からそういう目で見られててもあの男の中で興味がわかないと無いのと同じだからな」
同じ役職持ちになって、一緒に行動することが多々あり、あいつを俺なりに観察して出た答えがこれだ。


自分の興味を持ったものに関してはすごいが、興味を持たないものは全くもってスルーする。その落差がすごすぎて
かえって面白い。


「えっと、じゃぁ、今回の件は長谷部くんの言葉に興味を持ったから喰いついたってことですか?」
稲生が頭を押さえながら聞いてくる
「それもあるが、純粋に体験してみたいという欲求が勝ったって感じだな。俺ならちゃんと相手してくれるだろうというあいつなりの確信があったんじゃねぇの」
相手が誰もよかったわけじゃないのは、話を聞いててわかった。ちゃんとそういう経験をさせてくれる人物がよかったんだ。俺なら腐っても風紀委員長だから問題はないだろという確信が。

「でも…委員長が相手だと…他の問題が…いえ、委員長のせいじゃないですよ」
稲生の言わんとすることがわかる分、笑みが浮かぶ。


「壬生の身の安全の問題だろ?」
俺が聞けばコクリと頷く。
「そっちに関しては大丈夫だ。大樹もいるし、俺のもんに手を出せばどうなるかっていうのは嫌というほどあいつらはその身に刻まれてるからな」
ニヤリと笑いながら言えば稲生の顔が青ざめる。

「校内一の悪魔の生贄になったんですね会長は…」
なんてことを言いやがった。
「まぁ、悪魔ってのは当たってるな。壬生に危害を加えねぇようには言ってあるし、俺に喧嘩を吹っ掛ければ自分たちの命がねぇっていうのは教え込んであるからな。人の忠告を無視して壬生に手を出したら明るい未来はねぇよ」
俺はそれだけ言ってやる。



最下層だけじゃなく、中堅や最上階の奴ら全員に教えて叩き込んだ。


壬生大翔に手を出せばこの学園でやっていけねぇのと、命を失う覚悟をしろと…。


「あの人は…悪魔に惚れなければいんですが…」
なんて平然と言ってくるんだから稲生もたいしたもんだ。
「さぁ、そればっかりは壬生の気持ちだからな。俺は責任持たねぇよ」
だから俺にも先のことなんかわからねぇ。

「僕からのお願いです。せめて、彼を泣かせないでください。一緒にいることで、色んなことを経験することで彼は今よりも感情豊かになるでしょう。その時、傷付いた彼を見たくない。だから…」
稲生の言うことはわからなくもねぇ
「努力はする。こればっかりは俺もわかんねぇよ。壬生を傷付けねぇようには努力する」
だから約束はできねぇ。努力はするがな。


「悪魔だけど天使の仮面をかぶってますからねあなたは…。だから騙される人が多いんですよ」
やれやれと肩を竦める。
「おい、誰も騙してねぇよ」
そこだけは訂正しておこう。
「そうでしたっけ?会長も騙されてると思うんですけどね」
なんてまだ言ってくれやがる。
「まぁ、俺が悪魔だって気が付けば壬生も離れてくんじゃねぇ?」
なんて思いながら言うが
「好奇心のが勝れば関係ないと思います」
とはっきりと言われた。これには苦笑を浮かべるしかなかった。


「委員長、壬生会長のことお願いしますね」
急にそう言って頭を下げられた。
「本当に俺でいいのかよって思う部分はあるけどな」
なんて答えれば『確かに』と笑われた。


その後は他愛もないことを話し、お互いの場所へと向かうために分かれた。



次のステップに進むための準備はしてやるかな。


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