ステップアップしてみようか?

槇瀬光琉

文字の大きさ
上 下
3 / 26
step1 手を繋ごう

2話

しおりを挟む
壬生との話を終えて部屋から出れば何か言いたげな顔をして扉を睨む稲生と目が合った。

仕方ねぇなと小さく息を吐き
「稲生ちょっと」
俺は稲生を連れて生徒会室の外に出た。
「佐久間委員長…あの…」
どう話せばいいのか悩んでるようだった。
「壬生がいた場所は最下層の近くだ。長谷部が見つけて捕獲しといてくれて最下層のやつらの餌食にはならなかった。まぁ、壬生は迷子になってあの場所に行ったらしいがな」
壬生を確保した場所を説明すれば
「どこをどうやったら迷子になるんですかあの人は…」
俺と同じことを思ったようだ。
「さぁな。長谷部んところでちょっと色々と話してて、今度から壬生が好奇心でどっかに行きたくなったら必ず俺に連絡するように約束はしたから勝手にどっか行くってことはなくなると思うぞ」
稲生の心労が少しは軽くなるだろう。
「えぇ!!どうやってあの人を説得したんですか!我々でも説得できなかったのに!!!」
あー、うん。だろうな。あいつは多分、普通に言っても説得はできないだろう。なんせ、ずっと家に縛り付けられていたお坊ちゃまだからな。
「まぁ、壬生が経験したいことを俺が手伝ってやるってことで話はつけた」
簡潔に説明をすれば
「それって…彼と付き合うってことですか?」
稲生からとんでもねぇ言葉が飛んできた。
「話が飛躍過ぎねぇか?」
いきなり付き合うとかねぇだろ?
「あっ、イヤすみません。手を繋いで戻られたのでてっきりそういうことなのかと…」
洞察力は相変わらずだな。
「付き合ってるわけじゃねぇよ。壬生が経験したいことを俺が教えていくだけだ。それが恋人に発展するかは壬生の気持ち次第だな」
ステップアップしていくうちに恋心が芽生えるかどうかなんてわからねぇし、俺じゃないヤツと恋に落ちるかもしれねぇ。だからそれまで俺はあいつに付き合ってやるだけ。俺が壬生に落ちねぇとも言えねぇしな。
「それでよかったんですか?」
稲生が心配げに聞いてくる。
「どういう意味でだ?」
俺の気持ちに対してか?壬生に対してか?
「えっと、会長もですが委員長もです」
やっぱりな言葉だな。
「壬生にはもう一度ちゃんと確認はとった。本人はそれでいいらしい。俺はいまフリーだからな。あいつが納得するまでは付き合ってやるつもりだ」
その覚悟がなけりゃ、こんな提案をしないし、約束もしない。ただ、お互いが役職についてるから時間が制限されるだろうけどな。
「わかりました。なら、会長が勝手にどっか行きそうになったら委員長に連絡したのかだけ確認します」
頭の切れる男は仕事が早い。
「わりぃな、約束を破ったら拘束するって脅してはあるから大丈夫だとは思うが、保険として頼む」
俺が頼めば稲生は頷く。
「じゃぁ、俺は戻る。またなんかあったら連絡してくれ」
稲生に断ってから俺は風紀委員室へと戻るために歩き出した。生徒会室がなんだか騒がしかったがそれを気に留めることなく俺はその場を離れた。


風紀委員室に戻る前に携帯が鳴り始め着信相手を見て溜め息をつく。
「今度は何だ?」
廊下の窓に凭れて電話に出れば
『ん~、いや、あの後本当にどうなったか気になってさ』
大樹ののんびりとした声に苛立ちを覚える。
「自分で嗾けといてなに言ってやがる」
言い出しっぺはこの男なんだ。
『いや、だって悠久が本気であの話に乗るとは思わないじゃん。お前って冷たい奴だし』
どうやら俺がこの話に乗ったのが本当にびっくりしたらしい。
「あのなぁ、お前らみたいなヤンキー相手なら非道でも構わねぇだろ?さすがにチェリーなお坊ちゃま相手にゲスなことはしねぇよ」
相手がヤンキーとかなら非道でも構わないだろう。だが、相手はあの箱入りチェリーお坊ちゃまなのだ。何もかもは初めてで自分の好奇心が抑えられないお子様なのだ。非道やゲスは流石に気の毒だし、心に傷を負わせるわけにはいかないだろう。
『わー、ヤンキーに対しての人権しんが~い。風紀委員長がひでぇ~』
等と思ってもないことを言ってくる
「どの口が言ってやがる。これっぽちも思ってねぇくせに」
俺の言葉にゲラゲラと大樹が笑う。
『ヤンキーなめんな。まぁ、その後進展あったら教えてねぇ~バイビ~』
こいつマジでヤンキーかと疑いたくなるよな軽さで電話を切られた。
「やっぱり楽しんでやがるなあいつは…」
切れた電話をポケットにしまい今度こそ本当に風紀委員室に戻るべく歩き出した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

絶対にお嫁さんにするから覚悟してろよ!!!

toki
BL
「ていうかちゃんと寝てなさい」 「すいません……」 ゆるふわ距離感バグ幼馴染の読み切りBLです♪ 一応、有馬くんが攻めのつもりで書きましたが、お好きなように解釈していただいて大丈夫です。 作中の表現ではわかりづらいですが、有馬くんはけっこう見目が良いです。でもガチで桜田くんしか眼中にないので自分が目立っている自覚はまったくありません。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/110931919)

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

チャラ男会計目指しました

岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように………… ――――――それを目指して1年3ヶ月 英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた 意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。 ※この小説はBL小説です。 苦手な方は見ないようにお願いします。 ※コメントでの誹謗中傷はお控えください。 初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。 他サイトにも掲載しています。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

総長の彼氏が俺にだけ優しい

桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、 関東で最強の暴走族の総長。 みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。 そんな日常を描いた話である。

処理中です...