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第二章

第二章  二、不思議な感情

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 シェナにそういうことを教えたのはリズで、お風呂で全部話してくれた。
 リズは私の顔を見ようと部屋に来かけたところで、シャワーを浴びに大浴場に向かっていた私を見つけたらしく、ついてきたのがきっかけで。

 どうせならお湯に浸かりなさいよと誘われて、そうなると結局シャワーだけでは済まなくなって、まだ眠い体でモソモソと髪を洗う――。
 そして、女子が二人揃えばどちらかが話をする決まりでもあるかのように、リズは揚々と話しかけてきたのだ。


「だめよぉ? シェナちゃんにも色々と教えておいてあげなきゃ。あの子も候補なんだから」
「こ、候補って……まさか魔王さまの?」

「それ以外に何の候補があるっていうのよぉ」
「いやだって、次はリズだって言ってたじゃない」
 そもそも、妹だと思っているシェナに、そういう話自体をしようとは思わなかった。


「まぁねぇ。でも、シェナも側に居るのに、サラだけってのも可愛そうじゃない?」
「そ、そういう問題?」

 本人が望むならともかく。
 それに、こういう話をするのも苦手で、嫌な汗が出てくるというか体温が上がり過ぎてしまうというか、妙に心拍数が上がる。

「皆が皆、リズみたいな子じゃないと思う……」
 そう言うとリズは、目を細めて色気のある笑みを浮かべた。

「あの子、白天の王が素体でしょう? てことはぁ……発情期があるのよぉ? ね? 可哀想でしょ?」
「そ……そうなの?」


 そこまで気が回らなかった。
 でも、見た目は完全に人――魔族なのに。
 そういう特性は引き継ぐのだろうか。

 それとも……リズが適当にそう言っているだけで、ただの話のタネでしかないのかもしれない。
 けれど、それが本当なら……。

 遠慮などしなくてもいいと、それだけは言っておいてあげないとシェナが辛いだろう。
 不思議と、私には独占欲だけではなくて、魔王さまという存在は私だけの人ではないと――共有すべき……ではないけれど――私が寂しくない程度なら、構わないという気持ちがある。

 特にそれが、大切な妹や、一番の友達が相手ならば。
 何なら、そういう切り出しが苦手な私よりも、リズにそういうのを担ってもらって、私は伺われるだけという立ち位置に居られる方が嬉しい。


 ということで、その話をリズに相談して、どういうアプローチをすればいいのかなどなどを語り合った。
 ――魔族に転生して、魔王さまを囲うという現実感のない話に、どこか浮ついた気持ちのまま。

 後になって、やっぱり嫌だったらどうしよう?
 でも、今どんなに想像してみても、皆で仲良く居られるならそれでいいと、そう思えているのが不思議でもあり、当然のようにも感じている。


 人間だった頃よりも、おおらかになったというか。
 信じた人を、信頼しているその度合いが桁違いな感じで、どこか自分の一部のように思っている節がある。

 ……私が他の男の人に触れられるのは嫌だけど、魔王さまが大切な仲間と触れ合うのは、別に嫌だとは思わないらしい。

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