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魔女は結構生真面目です

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 殿下はこちらをチラリとも見ないの。さっきまでは殺気立つような視線だったのに、残念だと思ったわ。
 仮にも、妻に目も合わさないような旦那様とラブラブなんて百年経っても、とってもじゃないけれど、無理そうだと思ったわ。
 だって、言ったでしょ?
 純愛したいって。
 え、魔女に純愛は似合わない。

 そうなの。  
 気にしてるわ。
 正直、ちょっと自分のの性分と合わないともわかってる。
 魔女だからね。
 やっぱりドロドロとしたものに惹かれちゃう時もあるのよ。
 いけない、いけない。

 純愛を貫くのよ。
 やっぱりあの感覚よ。
 あの目が合うだけでドキドキしちゃって、手を繋いだりできたら、もう大変…。

 きゃー、全てが一大イベントでしょ?
 それなのに、彼氏も出来ずに、不愛想な旦那様を持ってしまったわたしなのよ。
 本当に泣けるわー。
 でも、まだ純愛を貫ける相手さえいないのよ。しかも、見つけることさえ許されない。

 ぐふっ。
 つらいわ。
 
 凹む自分が嫌になってきたのでそろそろここをお暇しようかと思ってきたわ。
 だって、彼の横にはべったりとこれまた色気たっぷりの胸がお椀のような女が張り付き始めたから。
 殿下もそれを拒んではいないようだったたし。
 なにも言わないでその女に腕を触らせているじゃない。

 不潔~。
 これが自分の旦那様だと思うと本当に幻滅なの。
 頭も身体も軽そうな方は本当にお断りしたいわ。
 もしかして、自分の妾を自慢なされているのかしら。
 何その流し目線。
 俺ってこんなにモテるぞ的な。
 でも、誰に?
 意味がわからないわ。
 自慢大会なら、本当なら、実はわたしも負けませんことよ。

 もう、こんなチビかつ、平坦な私でも一部の男性からは実はモテるのよ。
 え、本当?
 失礼ね。
 負け惜しみっぽい?
 何度もいいますけれど、私、成長期ですから!

 人気のある方からも、もてるのよ。最近なんか、若き神々の中でもイチオシにイケメンって言われいる竜神のキイ君からすっごいラブレターをもらい続けているの。実はあのお忍びで出かけた時に偶然会ってしまってからの文通よ。
 キイ君は実は幼馴染なの。
 私がこの国へ嫁ぐって聞いたら、すっごい怒ってパパとママに直談判したらしいと聞いたわ。

 かっこいいのだけれど、どうしても弟にしか見えない点が難点ね。
 ラブレターはいつも竜神の使者の鳥たちが届けてくれるの。

 『大好き、リーナ』とか『早くそんな王子なんか捨てて俺と一緒になろう!』とか、『一生君だけを愛してあげる』とかちょっとオトメ心にグッとくる言葉をくれるけど。

 ちょっといいかなーとかは思っているけど、一応、まだ私、人妻だから!!
 それにね。ちょっと竜系には気をつけているの。
 束縛が半端じゃないのって噂で聞いたから!
 だから、こちらからの返事はいつも単調よ。
 相手に気を持たせすぎ?
 え、悪女?
 違うわよ。
 わたし、魔女だから。

 でも、魔女って言うとルールに疎い感じがすると思うでしょ?
 実際は結構、厳しいんだから。 
 だからこうやって生真面目に結婚の約束を守っているじゃない。

 でもね、本当。これはないと思うの。  
 ただ今、誕生日会という名目の夜会の真っ最中よ。男女が綺麗に着かざって浮き足立っているなか、わたしだけは気分がどん底よ。

 殿下からは、いつものように無視され続けているの。それを当たり前のように周りの令嬢たちが、ヒソヒソ声とも言えないくらいの声で、嫌味をずっと言っているのよ。ただなんだかいつもより注目が増している気がするわ。横に置かれているお花の量もなんだか倍増って感じよ。 最後だから、まあ我慢してるけれど。

「あれよ。なんであんな小国の姫が、あの殿下の正妃なの?」
「お飾りよ。お飾り。だってヒルダ様の方がよっぽど後ろ盾がご立派じゃない?」
「本当、お似合いですわ」
「それに比べて、またあの布ごしですわね。どういうおつもりかしら」
「醜すぎて皆に見せられたものではないとか…」
「ご病気かもしれませんわ…」
「お可哀想に…オホホホッ」

 妻がいる旦那に向かって、他の女性がお似合いという貴族の心理が私にはさっぱりとわからないわ。
 しかも、魔女に醜いだなんて。
 ごめんあそばせ。
 がっかりするわ。
 この林檎って赤いですねって言っているみたいな表現よ。
 もう少し豊かな表現が欲しいところね。
 あと、貴女方も一回 、ピュアな恋愛ってモノをオススメしたいわ。
 本当に胸キュンものなんだから!
 きっと私が望んでいるものがわかるはずよ。
 でも、こんな生活ももうすぐ終わりよ。殿下にヒゲ文字でもなんでもいいから、サインを貰ってオサラバよ。

 オサラバ…。
 ああなんて美しい響き。

 でもね、彼女達の意見も少しはわかるわ。お飾りという点には同意するわ。

 あ、今思い出したわ。
 あのお椀女のことを。
 いつも手厚いプレゼントをくださる令嬢でしたわ。
 確か、ヒルダという方。
 この国の宰相の娘で、隣国の王子も気に入っていると聞いたわ。
 
 しかも、毎夜殿下がヒルダ嬢のところに通っていると、わざわざソーレが教えてくれたのよ。

『聞きたくないです、そういうこと』
とソーレに言うと、
『そうですか。でも貴方にもっと努力してもらわないと』
とも言われた。

 え?
 努力?
 もうすっごいしているんですけどっと思ったわ。
 彼は全くわかっていないわ。
 本当は自分の指一つでここから出ていけるのよ。
 魔女はとーても誘惑って言葉に弱いのよ。
 ほら、よく猫にマタタビっていうじゃない。
 魔女には誘惑よ。
 え、だれ? 呪いとか毒りんごとか言ってるひと。
 違うの。
 わたしは魔女になりたいのよ。
 今までの魔女のイメージを覆して、魔女って聞いたら…『あ、すごいピュアでしょ』とか、『ああ、天真爛漫な…』とか言われたいの。

 だから。誘惑に負けないできちーんと結婚の約束を守り、ここから逃げ出していかないのよ。

 すごいでしょ。
 もっと褒めて!

 それだけですっごい努力だと言うことをこの人たちは全く知らないのよ。
 ズンと肩の力が抜ける気がしたわ。
 ソーレは、もうKY男を通り越して、地雷男と呼び捨てしたいわと思ったわ。
 そうやって永遠に地雷を踏み続けなさいってね。
 でもね、なかなか自爆しないの、このひと
 
 あ、そう言えば、随分前に、このいけ好かない男を懲らしめてやろうと、来る時間を見計らって、死なない程度の落とし穴をこの離宮への途中につくってみたの。

 この美しく整った顔に青アザが見たくてね。

 オホホホッ。
 性悪女?
 違いますわ。
 何度も言いますけれど、
 わたし、魔女ですから。

 でもね。結果は大変残念なものに終わったわ。
 バンってドアが開いたの。
 正直、青アザの彼を見るのを楽しみにしていたわ。喜びが漏れないように、扇子まで用意して顔を隠していたのに。

 だっていつも時間重視のソーレが五分遅れたのよ。五分よ。
 期待が高まるのは仕方がないでしょ?

 ドアから顔を出した彼を見て、肩が落ちたわ。 
 がっくりって言葉がよく似合ったわ。

 いつもの黒髪が一糸乱れず、そして、切れ長の目線も全く変わらず、ただ
「遅れて申し訳ありません。ちょっと途中でございまして…」
とだけ言ったの。

 あれ、もしかして打ち身とかをしていて、まさか落とし穴に落っこちたと恥ずかしくて言えないのかと思ったわ。

『あの、ソーレ様、何処かお具合でもお悪いのでしょうか』
 歯切れが悪い男に少し嫌味っぽく言ってみたわ。
 そうしたら、ソーレがにこりと笑ったの。正直、めちゃ怖かったわ。
 言ったでしょ。
 このひと、時々目線がめちゃくちゃ怖いのよ。

『実は、あまり姫を怖がらせたくなく、言わないでおこうかと思いましたが…』

 彼の説明には驚愕させられたわ。
 だって国家転覆を狙った集団が爆薬を持って、この離宮を襲おうとしたらしいの。
 これまた、わたしのお手製の穴ぼこに落っこちて、火薬が爆発してしまい、みんな消滅してしまったらしいと。
 爆破予告は王室に届いていたから、ソーレ達が慌てて来たらしいけど、全ては後の祭り。
 ただ今その現場状況の確認と残骸を片付けておりますっと彼はつけ加えたわ。

 はぁー。
 ため息がでたわ。
 運って意味、わたしにとっては、みんなの意味とかなり違うから。
 それを知らないソーレが続けたわ。

『流石、運命の神に守られていると謳われる姫でございますね』
とも言われたわ。

 え、もう、違うんだって。
 私のパパだから、仕方がないでしょ。
 パパに守られているんだって!

 え、ソーレの言葉がどういう意味かって?
 私が産まれたとき、パパが嬉しすぎて大盤振る舞いしちゃったのよ。
 どこの国も始まって以来の大豊作。
 奇跡が起こりまくって、その年に産まれた赤児は、みな「運命の神の庇護を受けた子」と言われるようになったのよ。
 数千年に一度の奇跡って呼ばれた年みたいよ。
 あー、もちろんママにかなり激オコされたらしいけれど。

 ソーレが去ってすぐ、パパをしたわ。

 もじもじしたパパが反省した顔でこちらを見ていたわ。
 私、追求したのよ。どうして私のこと、干渉するのって。
 だってお嫁に行ったらしないって約束したからよ。

『リーちゃん、目線が怖いぃ』

 パパが涙目よ。
 でも、だめ。
 ここでパパを助長させて困るのは自分だってわかっているから!
 
 『パパ、約束したでしょ! どうして』
 『だって、だって、僕のリーちゃんを傷つけようとする輩だよ。許せないでしょ!パパ、本当は、もっといじめたかった』

 もう私もプンプンよ。
 パパはママの前だと男らしく振る舞っているのに、なぜか怒っているわたしのまえだと、全く女っぽくなるの。

 可愛くして同情を誘うつもりらしいけれど、パパには前科があり過ぎるから、手加減しないわ。
 だってね。昔お友達とサイコロゲームをしていてね。ずーっと二つのサイコロの和が七なの。
 七が出ると相手はパスになっちゃうゲームだったのよ。
 なんとお友達、一回もプレイ出来なくて泣いて帰ったわ。

 パパの仕業だったわ。
 本当に子供の時の泣ける思い出よ。

 パパにはその後、みっちりお小言を言ったわ。がっくりしていたけれど、私が呼んだ嬉しさを隠しきれずに、ときどきニマニマしていたのを私は、きちんと見ていたのよ。

 全くの親バカね。

 しかも、このテロ未遂の日、パパも帰った後、なぜかそのあとにすぐ人参スープが用意されたのを感じたから逃げたわ。

 厄日だった一日の思い出ね。


 はぁー。
 いまのこの笑える誕生日会に意識を戻したわ。殿下の周りは知らない間にハーレム状態よ。
 あの中にはいるのは面倒だと思ったわ。 
 書類は欲しいけど、どうしたものか…。
 考えどころだったわ。
 ダミーで逃げるかここに止まるか。
 その時、もう一度お椀女が目に入ったの。

 ─ん、あっ!

 その時、気が変わったわ。
 それは最近彼女がくれた素敵な箱を思い出したからだったの。

 私は第三の選択を取ることにしたわ。
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